第30話 亡者の中に潜む者
俺達は門をこじ開けて中に入る。
そこにいた敵は────
ゾンビ、スケルトン、グール、ゴースト、リッチなどのアンデット系の魔物が俺達を見据えている。
正直帰りたい。アナの所でも訓練で倒してたけど、正直、臭いし、見た目的にキツい。
俺は見渡すと気になる所で凝視する。
ん?? あの奥にいるリッチ共……あれって──
「なぁ……」
「前族長達だね……見た事ある……死んで、此処に囚われてるんだね……」
やっぱり、そうだよな。フローラとそんなに変わらない身長のリッチなんかそれ以外考えられない。
さて、どうするか……。
「フローラはどうしたい?」
「リッチにまでなって生きているのは辛いはず。少なくともここに200年はいる事になる。せめて……安らかな死を」
そういえばアナも寂しそうにしてたな……。何百年もいるのは辛いだろう。
安らかに眠ってもらおう。
ただ、ここにいる妖精族のリッチって精鋭と言っていたはず……相当強い可能性があるな。
「さっきと同じで行く。フローラ、辛いなら俺が変わる。見物しておいてもかまわないぞ?」
「大丈夫。同族を弔う!!! きっとあの中に……」
最後らへんは聞き取れなかったが、やる事に変わりはない。
「なら殲滅するぞっ! まずは周りの雑魚共からだ! ハクマとフローラは広域殲滅魔法を撃ちまくれ!!!」
その言葉と共に開戦する。
「消え去れっ!」
まず、フローラの空間断裂により、ゾンビやグールさなどの実体の伴った魔物は切断され──
『じゃあ、僕はゴースト系を……ダイヤモンドダスト【聖】』
その後にハクマの氷魔法でダイヤモンドダストを作り出し散布する。ただの氷魔法ではなく、聖属性との混合魔法で放っているため、ゴースト系の魔物は叫びながら天に召される。
ゴースト系は普通の魔法では効果が薄い。確実に仕留めるには聖属性魔法しかない。
そして、混合魔法はかなり技術がいるはずなのに──さすがハクマだ、ただのマスコットじゃないな!
そして俺はというと……。
「よっ、ほっ、よっこらしょっ!」
2人に比べて俺は実に目立たない立ち回りだ。撃ち漏らしを仕留めて、2人の護衛に当たっているだけである。
しばらく、その調子で攻撃していると、大量にいた比較的
残るは────フローラの身内のみか……。
しかし、なぜ攻撃して来ない?
ゆらゆらとその場から動かない妖精族のリッチ。
リッチになった為か、髪の毛の色は黒くなっており、カラフルな明るい感じはない。微笑を浮かべている姿はドーラやフローラ達と違った印象を受ける。
話が通じるか話してみるか。
「なぜ攻撃しない?」
「同族がいますからね」
話が通じる!?
「貴方達は此処で散った妖精族か?」
「左様。私は昔、此処に来た妖精族の長、シーラといいます。此処から
シーラは溜息混じりにフローラを見据えて、そう言い放つ。
気不味そうなフローラの代わりに俺が答える。
「俺はレオン。試練の遺跡とは知らず、地竜から逃げた結果ここに来ました。フローラは成り行きで来てしまったようなものです」
「はぁ、どうせ着いて来たのでしょう。サラと変わりませんね」
サラ? 誰だ?
「お母さんいるの!?」
フローラは間髪入れずに反応する。
母親の名前か?
「私の直ぐ後ろにいますよ。ただ、私以外は自我がありません。サラ来なさい」
シーラさんは自我が何で残っているんだ?
疑問を問いかけたい所だが、後ろからフローラに良く似た顔立ちの妖精が出てきた。
生きている時はきっとフローラと同じで綺麗な銀髪だったんだろう。
だが今は真っ黒の髪、目は虚、表情も乏しい……。
「お母さんっ! 私フローラだよっ!」
フローラ勢い良く飛び出し抱きつく。
「あぅあぁぁぁ」
「ねぇ、お母さん! 私大きくなったんだよっ! お母さんみたいに空間魔法も使えるようになったんだっ! ねぇ……お母さん! うぅ……久しぶりに会えたのに……」
「あぁぁぁ……うぁぁぁぁぁぁ」
「お母さんっ! 返事してよっ! 昔みたいに私の名前呼んでよぉぉぉぉっ!!!」
必死にフローラは母親に語りかけるが、会話にならない。
涙を流し、悲痛なフローラの声が木霊する。
そんな親子の対面を見ていた俺の頬に涙が流れる。
その行き場の無い感情は凄くわかる。俺もこの間経験したばかりだ。
俺は母さんの死に目に会えたがフローラは会えていない。きっと話したい事がいっぱいあるだろう……。
せめて会話ぐらいはなんどかしてやれないだろうか?
「シーラさん……なんとかなりませんか?」
「すみません。こればっかりは無理です。私に出来るのは皆を静止するぐらいです。それに私の自我があるのは恩恵【初志貫徹】のおかげですので」
自我あるのは恩恵のお陰か……。
なぜ恩恵は日本語の言葉なんだ?
言葉からして、心に決めた志を最後まで貫き通す事なのは分かるが、問題は効果だ。
「ちなみに効果は?」
「思った事を実現するまで死にませんし、能力が底上げされます」
いや、死なないわりにリッチになってるじゃないか……。
まさかっ!?
まさか、体は死んでも魂が死なないだけ!?
それは恩恵というか、もはや呪いじゃないか……。
「ちなみに貴方の願いは?」
「皆の此処からの解放です。今となっては既に遅いですが……せめて、この状態から解放したい……しかし、私の都合で集まってもらった同胞を殺す事は出来ません。すみませんが、こんな事を関係のない貴方に願うのは心苦しいのですが、頼めますか?」
私の都合ね……何か理由があるんだろうな。
「……わかりました」
短く返事した俺は
いつも無邪気なフローラに涙なんか似合わない。それしか手がないのであれば────
────俺が解放するっ!!!
俺は鎖を一本にし、聖属性の魔力を込め始めると白く眩い光が波紋状になり、鎖から放出され始める。
「ありがとうございます」
俺は首を横に振る。
お礼を言う必要なんてない。所詮は俺の自己満足だ。今を生きているフローラがこの先少しでも笑えるように俺が手を下そう。
これから行うのは異世界式の葬儀だ。
全力で聖属性を込め続けた鎖は白光し、先程より輝いている。
「お兄ちゃん! 何するの!? お母さんきっと元に戻るよね!? 攻撃しないよね?!」
フローラの必死さが俺の胸を掻き回す。
「フローラ……俺にはこれしか出来そうにない……すまない。後で俺を気が済むまで攻撃してくれていい。だからそこをどいてくれ」
「やだっ! ハクマも何とか言ってよっ!」
『フローラ、もうお母さんは亡くなっている。さっき安らかに逝かせてあげるって言ってたんじゃなかったの?』
「だってっ! だって……お母さんと……やっと会えたのに……ずっと会いたかったんだよ? 一緒にいたいよぉ……」
その場でうずくまるフローラ。
「すまない──俺にはこれしか出来そうにない……」
俺は鎖を円柱状のサークルにして妖精族を囲む。
「お兄ちゃんっ!!!」
それに気付いたフローラは俺に向かい叫ぶ。
「光輪」
その一言で聖属性の結界が出来上がり、円柱状に光が立ち昇る。
フローラは視線を俺から母親に変える。
「お母さんっ!!!」
「「「「「「うあぁぁーあ……あぁぁ……」」」」」」
俺の全力の浄化だ。アナには気持ちが良い程度と言われたぐらいだから、効くかどうかわからなかったが、どうやら効いているようだ。
初めは呻き声だったのが、段々と落ち着いた声音に変わっていく。
「お母さんっ!」
サラはフローラに笑顔を向けていた。
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