第18話 危機&行動

「アナっ!」


 指輪が青く光っているので、アナを呼ぶ。


「むっ、それは!? アリスが嵌めておる赤の宝石、ミアが嵌めておる緑の宝石は光っておらんから当然危機は及んでいない……その光は青だの。確かもう一つは────レオの妹ではなかったか?」


「やっぱ、そうだよな。アナすまないが、妹を助けに行ってくるよ! また戻るから安心してくれ!」


 此処はもう俺の居場所だっ! 妹を助けて必ず戻る。


「そんな心配はしておらん。待っておるからな。いつまでもな……ちなみに我が嵌めておる指輪の宝石は黒だの。ちゃんと我がピンチになっても助けに来るのだぞぉ?」


 そんな事────


「当たり前だろ? また必ず戻るからなっ! アリスとミアはどうする?」


「「行くっ!!!」」


 2人揃って勢い良く返事をする。


「なら、後から来いっ!」


 そして、俺は全力で走り出す────


 アリスとミアには悪いが先に行かせてもらう。


 ただ、アリスの顔色が悪いのが気掛かりだ────




 ◆◇◆◇◆




 〜エリク(レオンの父)視点〜



(なんで、こんなにうじゃうじゃと魔物がいやがるっ!)


 自警団である俺は村に襲い掛かった魔物を遠距離で倒している。内心は家にいる嫁のマリ、娘のアイリスが心配だ


(このままだと、やられる────)


 魔物の数は100を超えており、開拓村程度では対応出来る範囲を超えている。


 魔物は狼系ばかりで、統率がしっかりとれていることから、上位種がいる可能性が高い。


 普通の狼系の魔物は1匹1匹は大した事はないが、複数になると話は変わってくる。


 連携による攻撃を仕掛けて来る為、素人では対処出来ない事が多い。


 仮に村の男が総出で対応に当たっていても全滅するだろう。


 俺は村では一番の強者で元は冒険者という職に就いていたが、それでも討伐ランクBがせいぜいだった。村の窮地という事で、内緒にしていた固有魔法を発動させてはいるが────


 ────それでも1人では厳しい状況だ。


 30分ぐらいは善戦していたが、やがて戦線は数の暴力で案の定押され始める。 


 遠距離で比較的安全圏から攻撃していたが────乱戦になってきた故に近接戦闘に切り替えている。所々傷だらけだ。


 更に追い討ちをかけるように、追加の狼の魔物が現れ始める。


 そして────


 四肢を狼共に噛み付かれ身動きが取れなくなり、1匹がエリクの喉笛に噛み付こうとした────


 ────その時。


 四肢に噛み付く狼と、今まさに喉笛に襲い掛かろうとしていた狼の頭部が爆散し────四肢に噛み付いていた狼も次々と骸にかわる。


「うぅ……いったい何が? ……うおっ!?」


 訳も分からず、体にはが巻かれる。


「くさ……り?」


 考える程の余力などないが、鎖など思い当たる節など一つしかない。


 ────我が自慢の息子だ。きっと、助けに来てくれたに違いない。


 すると、俺の体はみるみる回復していった。


 顔を上げて、前を見ると狼共がどんどん凄まじいスピードでなぎ倒されていっていた。


 やがて、人影が見える。



「父さんっ! 無事かっ!?」


 ほら、やっぱり息子だ。大きくなったが面影がちゃんと残っている。


 どうやったのかわからないが、傷が治ったのもきっと息子がやってくれたのだろう。


 俺は必死に問いかけてくる息子に精一杯の笑顔で答える。


「お前のお陰で無事だ。身長もそうだが、実力も成長したな。自慢の息子だ」


 照れながら頬をかいてはにかむ、久しぶりの息子を見て自然と笑顔になる。


 とりあえず、ひと段落だ。帰って、俺だけに魔物を押し付けた奴らをとっちめてやるか。





 〜レオン視点〜



 俺は全力で走り、やっと村の近くまでやって来た。


 その目に映った光景は、父さんが今まさに狼共に殺される所だった。


 俺はすかさず、鎖を最大速度で射出し、狼の頭を爆散させた。近くにうじゃうじゃといるので、まだ安心できない。


 直ぐに、父さんに鎖を巻きつけ、聖属性を付与した【癒しの鎖】を発動して回復させる。


 俺の離れた人を回復する手段で、この5年間の集大成の一つだ。


 これで、しばらくは大丈夫だろう。父さんが狼に何度も遅れをとるとは思えないし、俺の近くにいる方をなんとかしないと……。


 そして、俺は八岐の舞を両手に展開し、合計16本の鎖で殲滅行動をとる。


 次々と狼の頭を潰していく。


 これぐらいならリザードマンの方がキツい。楽な作業だ。


 しばらくして、目に見える範囲は全滅させた後に父さんの近くに寄ると声をかけられる。


「お前のお陰で無事だ。身長もそうだが、実力も成長したな。自慢の息子だ」


 俺は父さんを助けれた事に安心した。そして、その言葉に嬉しさが込み上げて恥ずかしくなる。


 前世では肉親に褒められたのは爺ちゃんだけだったので慣れないが、どう反応したらいいかわからないので笑顔で返す事にした。


 父さんも笑ってくれたから正解だと思いたい。


 それより────指輪はまだ点滅している。


 アイリスが危険なのは変わりがないのか?


 魔物は関係ない?


 俺は魔物を全滅させれば、アイリスは無事になると思い込んでいたが、指輪の点滅は変わらない。


 魔物とアイリスは別件なのか?


 そもそも父さん1人で防衛しているのも謎だ……。


 情報が足りなくて────この襲撃が突発的か人為的に起こされたのかわからない。


 だか、アイリスに危険が迫っているのは確実だ。 

 

 しかも、何か急速に近付く気配がある────


 時間がないっ!


「ハクマっ!」


 俺は直ぐに召喚魔法でハクマを呼んだ。


『ん〜主、どうした? 辛気臭い洞窟でまだ訓練してんのかぁ? って此処外じゃん!?』


 洞窟じゃない場所での召喚で驚くハクマ。


 父さんも驚いた表情をしていた。


「レオン────これってカーバンクルか?」


「そうだよ父さん、俺の使い魔だ。ハクマっ! これから父さんと一緒に妹を助けに行ってくれっ!」


『なんか周りの死体とか見てると、ふざけてる感じじゃなさそうだね〜。了解〜』


 そしてアイリスの所へ向かおうとした時、俺達の前に見える範囲に魔物が物凄いスピードで近寄って来た。


 あっという間に目の前に現れたのは、双頭の狼で背中には蛇が蠢いていた。大きさは3mぐらいだろうか。


 オルトロスとかいう奴だろう。


「グルルルルゥゥゥ」


「父さんっ! アイリスが危険だっ! 直ぐに行ってくれっ!!! ここは俺がやるっ!」


「馬鹿野郎っ! オルトロスは討伐ランクSだぞっ! 家にいるアイリスより、危険な場所にいる息子を置いて行けるわけないだろっ!」


 俺は襲いかかろうとしているオルトロスに向けて最大速度で鎖を放ち、束縛する。


「グルゥッ!?」


氷柱舞つららまい


 俺は鎖に氷属性を付与する。


「キャインッ!?」


 この鎖は、氷の刺がびっしりと張り巡らせたような状態だ。オルトロスに巻きつけた状態から氷の刺を鎖一つ一つから出して刺している。


 苦悶の鳴き声をあげるが、所詮足止めにしかならないだろう。だが、それよりも父さんに早くアイリスの元へ行ってほしい。


「余裕だから任せてよっ! アイリスに付けてる指輪が危険を知らせてくれる魔道具なんだ。母さんとアイリスが襲われてる可能性があるから行ってっ!」


「────っ!? わかった! 絶対に死ぬなよっ!」


 驚いた表情をしていたが、わかってくれたようだ。


「ハクマっ! 頼んだぞっ!」


『はいよ〜、そっちこそ死ぬなよ〜』


 父さんとハクマはそう言い残し、家の方向に向かって行った。


 相変わらず────ハクマは口調が軽いな……。




「グルゥゥゥッ!!!」


 その鳴き声と共に、俺の鎖は引きちぎられる。


 俺の力は討伐ランクSに届くのだろうか?


 普通に鎖が千切られたんだが……。


 どう考えても接近戦はないな。あの巨大でかなりのスピードだったし、一撃もらったら即死だろう。俺も痛いから好んで死にたくない。

 

 とりあえず────様子見だなっ!


 穿通鎖せんつうさ


「グガァァァァァッ」


 最大速度で射出した鎖は片方の頭を貫通する。


 それでも死なないのは、さすがSランクといった所だろう。


 そこから鎖を首に何層も巻き付け、コンボ攻撃を行う。


 爆鎖ばくさ


「グギャァァア!?」


 火属性を付与し爆発させる。片方の頭は火傷と鎖に貫かれ、大分酷い姿になった。もう片方の頭も体も爆鎖の影響で焦げている。


 昔より威力はかなり上がっているので十分に効果はあるな……致命傷とまではいかないようだが。


 巻きつけている鎖が引っ張り寄せられる前に解除し、身体強化を行う。


「グァァァァァアッ!!!」


 それと同時にオルトロスは一瞬で間合いを詰めて、上段から爪で引き裂きにかかってきた。


 ヅゥゥゥゥンッ


 これは……やはり一発貰うとアウトだな。地面が抉れている。


 俺はギリギリ回避し、その場を離脱するが、そのまま逃がさないように間合いを詰めてきた。


 オルトロスは先程から距離を取らせてくれない。離れるとさっきの攻撃が来る事を察しているのだろう。


 もう遠距離からの攻撃はさせてくれなさそうだな。


蛇腹鎖じゃばらじょう


 俺が考えた中で近接用の鎖魔法で、基本的な形状は剣、ショートソードの長さと同じで、俺が使いやすい70cmぐらいに調整している。蛇腹剣のように動かして翻弄する事も出来るし、鞭状にして中距離での攻撃も可能だ。それに魔力を纏っているため、通常の剣より遥かに切れると思う。


 なんせ、アナが「レオは武器いらんのぉ、まぁ予備は持っておいた方がいいがの」と言ってたぐらいだからな。


 俺は蛇腹鎖を片手で持って構える。


 ドガンッ


「グルゥゥゥ」


 オルトロスも地団駄を踏んで、殺る気満々のようだ。


 さて、第二ラウンドが開始だ。





 〜レオンが走り去った後〜

 〜アリス視点〜


 私とミアの2人はレオンを追いかけ、外に出ようとアナスタシアの前から去ったが、リザードマンと戦闘していた場所で私はミアを攻撃している────


「アリスっ! あなた何してるかわかってるの?!」


「わかってるよ〜っと!」


 既にミアは何度か斬り────全身が傷だらけ。そこに私はミアに向けて更に剣を振り下ろす。


 シュッ


 それをミアは草を伸ばして絡めとる。


「アリスっ! 何で攻撃されるかわからないっ!」


「私はさぁ〜自分の起こした行動の後始末ぐらいは私が始末したいんだよ……」


「アリス、さっきからそれしか言ってないじゃない! 意味がわからないわ!」


「わからなくていいよ。今────アイリスちゃん達は危機に陥っているんだ。その理由は────ミアだ」


「────!? なんで!?」


「なんでって────だって村絡みっていうか、この国絡みでレオンの家族襲ってるからさ。私の親も含めて、襲う計画してたし、私も協力しろって言われたもん」


 おちゃらけた感じでは無く、真剣に答える────


 そう、ミアの恩恵はいつからか村の皆にバレていた。


 私にも協力するように言われたけど────友達を売りたくなかった。


 だからこそ、レオンの元に連れて来た。


 けど────今はきっと、村総出でレオンの家に押し掛けてるに違いない。じゃないとアイリスちゃんの指輪が光る理由にならない。


 せめて、短絡な私の行動の尻拭いぐらいはしたい。


「何でそんな事を!?」


「それはね、ミアがほしいからだよ。その植物成長の力がバレていたんだ……だから私はミアを事が起こる前に村から連れ出した。レオンなら守ってくれるって思ってね。だけど、短絡だった……ミアがいない事に気付いた連中は諦めると思ってたんだけど……この指輪が反応したって事は、居場所を探るためにレオンの家族を襲ってるんだと思う。幸い、此処にはアナさんがいるからミアは此処に置いていけ────」


「私も行くっ!」


 ミアが私の言葉を遮ると沈黙が支配する。


 もちろん私の答えは────


「ダメだよ。ミアは足手まといだし、そもそも狙われてる人がのこのこ行ったらダメでしょ」


「だって! 私のせいなんでしょ!? 私が行けば丸く収まるじゃない!」


「行った所で、ミアが拐われて終わりだよ……きっと、レオンは悲しむ。それに国が動いているんだよ? もう、手遅れだよ……だからね?」


 一瞬で、ミアの背後に周り、剣の持ち手で後頸部を殴打し気絶させる。


「ごめんね。必ず助けるから許してね……」



「ふむ、では────ミアは預かっておけば良いのかの?」


 背後から声をかけられる────


「────っ!? ありゃっ、アナさん何で此処にいるのかなぁ? 今からミアを送り届けようと思ったのになぁ〜」


「我の探知を甘く見るでない。最初から見ておったわ。殺気もなかった故、見守っておったのだ」


「ありがとね〜! さすがにアナさん相手に勝てる気がしないから助かったよっ!」


「行くのか?」


「……うん。ミアが目覚めたら伝えといてほしい。ミアは戦闘向きじゃないから連れて行けない。ごめんって」


「ふむ、了承した。我はミアを逃がさんようにしておく。レオを頼んだぞ?」


「うんっ! 任せといてっ!」


「後その短剣ボロだから────これを持って行くが良い。ほれっ────」


「おっと!? これ貰っていいの?? かなり高そうだけど!?」


 アナさんから二本の短剣を渡される。


「ミスリル製だの。そんな、なまくらでは勝てるもんも勝てんからの」


「ファンタジー素材だっ! 助かるっ! ありがとねっ!」


 そして、私は────駆け始める────


 たとえ、自分が犠牲になろうとも────


 愛するレオンを悲しませたくないと────


 そう誓いながら向かう────

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