第17話 成長

 俺の腹痛事件から5年が経ち、俺は12歳になっている。


 体格は細身で以前とそう変わらない。背は160cmぐらいにはなったと思う。


 5年間は何をしていたのかというと────ずっと訓練に時間を費やしていた。


 主に訓練では、アナとの模擬戦以外にも魔法訓練、近接戦闘訓練、魔物との戦闘訓練も行った。


 鎖魔法のバリエーションも増やして、使える属性も増えたし、威力もそこそこだと思っている。


 近接戦闘に関しては主に前世で、怖いおっさん共から習ったり、爺ちゃんから護身術を教えてもらった内容を自主訓練していた。空いた時間でアナと近接戦闘だけの模擬戦を行うと、成長したお陰もあるのか引き分けぐらいにはなれるようになった。


 アナは戦闘スタイルが魔法寄りでどらぐらい強いのかわからないが、少しは男の株を維持出来たと思いたい。


 魔物との戦闘訓練では。


 最初の部屋にいたリザードマンで多対1の訓練。


 今住んでいる2つ目の部屋にいるミノタウロスで近接戦闘訓練。


 その次の部屋では空を飛ぶガーゴイルという、石(普通の石より大分硬い)で出来たゴーレムの魔物が大量におり、空中戦と攻撃力向上の訓練。


 更にその次の部屋ではアンデットやゴーストなどの死霊系が大量にいて、主に物理と魔法を使い分ける訓練。


 などを行った。この試練の洞窟はステップを踏んで強くなるように出来てはいるみたいだが、それにしては魔物の数が多すぎて難易度が半端なく高いように思う。


 これ以上先には俺の力では無理と、アナに判断されたので行ってはいない。


 そして、アナとの関係もそこまで進展していない……。


 最近やっと俺に精通が起こり、それを知ったアナは大層喜んでベットに連れ込まれたのだが。


 肝心の俺が激しい動悸に襲われて、事に至ってない……。正直、ここまで自分が重症だとは思ってもいなかった。


 アナは気にするなと声をかけてくれるが、俺が気にする。


 そして、それ以降のアナはというと────



「レオ〜」


「はいはい、どうした?」


「さっきから考え事してて、構ってくれないのは寂しいのぉ?」


 と甘い声を出しながら俺を現在進行形で抱きしめている。これぐらいは慣れたので発作は起こらないのだが、事に至れなかった後から凄く甘えてくるようになった。


 彼女なりに俺を元気付けてくれようとしているだけに、自分の情けなさを痛感している。


 ちなみに、腹痛事件の後、泣きそうな顔でひたすら謝られたのが堪えたので料理は俺が作っている。


 アナは食べなくても大丈夫らしいけど、味覚はあるし、食べれない事もないそうだ。というか、普通に食べている。


 ただ、食事は肉ばかりだ。だって、食べられる魔物がミノタウロスしかいないんだよ。


 それでも、ちゃんと成長しているので、きっと大丈夫なのだろう……。


 ただ、これだけは言える────野菜が恋しい。


 そんな事より、最近よく思うのは────


「アナ、俺はどれぐらい強いんだ?」


 甘々な感じは抜け去り、真剣に答えるアナ。


「うむ、レオはもうミノタウロスレベルなら群れでも討伐可能だの」


「そうか」


 最近ではミノタウロスなんかは片手間で狩るぐらいだし、俺の強さはもしかしたら────討伐ランクSに届くかもしれないな。


 ミノタウロスこと、ミノさんは毎日の日課だ……。


 遠い目をしている俺にアナが。


「まぁ、ミノタウロス如き群れで苦戦するなど我が許さんがな」


「…………」


 いや、アナさんや……スパルタ過ぎません? 普通、ミノさんが群れで来たら小さい街ぐらい壊滅ですよ?


 そんな事思っていると。


「黙るでないっ! そもそも、俗世を離れておる我が何と比べるのだっ!」


 ごもっともです。


「でも、強さが把握出来てないと自信が持てないぞ?」


「む〜っ」


 ほっぺを膨らませて可愛くなっても、気になるものは気になる。


「実際、ハクマと同じぐらいだの」


 いや、それわかりにくいっす。


 ハクマと戦った事ないしっ! 何より、ハクマの戦った所も見た事ないっ!


 それに、何よりっ!


『洞窟の中に呼ぶの飽きたっていうか? 雑魚の相手もマジ怠いっていうか? 出来ればお断り?』


 とか言いやがるから、ここ最近は召喚していない。


「ハクマなぁ……あいつ此処に呼んでも勝手に帰るじゃないか……」


 呼んでも帰るなら、呼ぶだけ無駄じゃないか? それに呼んでも、基本的に飯だけ食って帰るからマスコット的な位置にいる。


「あれには、我もビックリしたの。普通は送還せんと帰れんはずなんだがの……」


 ハクマ普通じゃなかったのか……。でも一応幻獣だしな。


 あいつ、普段何してるんだろ?


「むっ」


 アナの目が鋭くなり、考える素振りを見せる。


「どうしたんだ?」


「……うむ。どうやら、2人ほど試練の洞窟にお客さんのようだの」


「へぇ〜、こんな所に人が来るなんて初めてだな」


 少なくとも俺が此処に来てからの5年間は1度も人が来た事がない。


 そもそも、こんなに人が来ない所を薬師の婆さんがよく知ってたな……年取ってるからかな?


「それで、リザードマン相手にどうなんだ?」


「善戦しておるようだぞ? どんどん数が減っておるな」


 あそこのリザードマン、リポップすると千体は出てくるから非常に面倒臭いんだよな。そして、回収しなかったら霧散する仕様のようで、気が付いたら残骸がなくなっている。


「ちなみに此処には人が来るのどれぐらい振り?」


「レオを含まなければ────50年振りぐらいかの? その時は見に行く前にリザードマンの群れにやられおったな。レオが来た時はミノタウロスの群れを倒す者が気になって、ガーゴイル共を殲滅してから待っておったのだ」


 そういえば、元々アナは俺の行った事がない部屋に住んでいたんだったな。聞くに聞けないでいた今更な事実も聞けたな。


「なら見に行く? 俺的に他人の戦闘にも興味あるしな」


「見に行く前に終わりそうだの。既に8割は倒しておる」


 マジか!?


「なら、此処で待ってようか? ミノタウロスもノルマで全滅させてるし、奥に行きたそうにしてたら行かしてあげたらいいんじゃない?」


「レオがそう言うならそれでいいかの。ミノタウロスと良い勝負が出来るぐらいの強さだから帰るように言ってやる方がいいのう」


 いや、ミノタウロスと良い勝負が出来るなら結構強いと思うぞ?


「レオっ、来たぞ」


 えっ、もう来たの?


 しばらくすると、前から2人の人影が見えた。段々と近付いて来ると顔が見えてくる。


 ん? ────何か見た事があるような?


「レオンいたーっ! 何その隣の超美人っ!」


「レオンっ! 会いに来たよ!」


 その声の主達は順にアリスとミアだった。


「レオよ、嫁仲間のアリスとミアかの?」


 嫁仲間って何!?


 なんで、こんな所にこの2人がいるんだ??? と混乱していると、アナからも声をかけられる。


「おっ、おぉ、久しぶりだな2人とも」


 俺は戸惑いながらも2人に返事をする。


 アリスとミアは5年前と違って、2人とも背は俺と同じぐらいだ。成長してるのだから当たり前なのだが。


 まず、アリスは────印象が大分変わった。何故か髪の色が金色になって、ロングの髪を赤い紐でポニーテールにしていた。つり目のせいか、目つきが少しキツい感じだが、将来は綺麗になるだろうと予想出来る。


 体型は成長途中ではあるが、スレンダーだ。そして恩恵通り剣を使っているようだ。短剣2本を腰にぶら下げていた。


 何故金髪になっている!?


 ミアは────明るい茶色の髪の毛、ショートボブで可愛らしい感じになっていた。目つきは垂れ目でおっとりした雰囲気だ。


 何より俺の目を引くのは────胸である。まだ12歳なのに、既にDカップはあるんじゃなかろうか?


 というか手ぶらで来たのか??


 まぁ将来凄く(一部分が)楽しみです!


 まぁもちろん、俺の視線はミアの胸に行くわけでして。


「ミアの胸ばっかり見てないで、私も見てよーっ!」


「えっ!? レオンのエッチ」


 そう言われる事は予想していたさ!


「それは誤解だな。ミアはショートボブが良く似合ってるし、アリスもポニーテールが似合ってる。それよりも、なんで金髪になってるの?」


「へへへっ、格好良いでしょ!?」


 いや、それ答えになってないですよアリスさん。


「アリスは元々、金髪だよ?」


 ミアが答える。


 それマジ?!


 俺の記憶では茶髪ぐらいだったんだけど?


「まぁまぁいいじゃないかぁっ!!! 気にしない気にしないっ!」


「それで何でなの?」


 気になるので話を戻す。


「ちゃんと洗ってなかったからかな? 何年か前に川で洗ったら色変わった……」


 ミアの言う理由に絶句する。


 マジか!? どんだけ汚れてたんだよお前!?


「えへへっ、今は綺麗だもんっ!」


 そこ、胸張るんじゃなくて恥ずかしがれよっ!


「ぼちぼち自己紹介してくれんかの?」


 久しぶりに会った、アリスとミアと話していて、置いてけぼりをくらっていたアナが催促してきた。


「すまんすまん、こっちの金髪なのがアリスで、こっちの子がアナから薬を貰って助ける事が出来たミアだ」


「ふむふむ、我はアナスタシアという。同じ嫁仲間だの。仲良くしようぞ」


 だから、その嫁仲間って何よ!?


「へぇ、アナスタシアさんかなり強いね。アリスだよっ! よろしくねっ! そしてレオンの紹介が雑っ! やり直しを要求する!」


「5年前は助かりました。ありがとうございました。ミアと言います、よろしくお願いします。此処にはレオンと会いたくて来ました」


 俺は2人の紹介をすると、アリスから抗議を受けた。確かに雑過ぎたかもしれん、でも金髪になった理由の衝撃が大きかったんだ……すまん。


 でも、俺に会うために出てくるなんて嬉しい事を言ってくれる。


「すまんすまん、アリスはちゃんと剣を使ってるんだな。大分強くなったみたいで良かったよ。ミアは何で手ぶらなの??」


「聞いて驚けっ! ミアは恵の聖女になったのだっ!」


 いや、なんでそこでアリスが胸張って言うんだよ!? しかも恵の聖女って言われてるって事はミアの恩恵バレてるんじゃないか??


 そんな、驚愕な表情をしていた俺にミアが話しかける。


「それは、アリスが言ってるだけでしょ? 私が手ぶらなのは、練習を頑張った植物成長の恩恵が戦闘でも使えたからなの。そもそも武器使えないもん。恩恵はバレないように村の畑で使う事はあっても、村の人には言ってないよっ! アリスのせいで誤解されてるじゃないっ!」


 そのアリスの表情は浮かないな……。


「バレて、村の人達に担ぎ上げられてるのかと思ったよ。でも、意外だったよ……植物成長って戦闘で使えるんだな」


 そんな事を思っているとミアが植物成長を披露してくれる。


「うん、こんな感じだよ?」


 地面にある雑草が一気に成長し、ミアの意志の元に動いていた。


「凄いじゃないか!? そんなに自在に操れて育てられるようになってるなんて!」


「えへへ」


 照れてるミアも可愛らしいな。


 ここで疑問が出てくるんだが、この洞窟って雑草しかないのにそれで倒せるのか??


「よく雑草でリザードマン倒せたな」


「基本的に足止めしかしてないし、絡めとったらアリスが切り刻んでの繰り返しだったよ。なんか、魔力の込め方で強度が変わるっぽいかな?」


「そうなんだな。便利でいいじゃないか! アリスも強くなったみたいだし、いつか模擬戦してみたいな」



「バッチ来いっ!!!」


 いやいや、今はやらないからっ! 剣抜くなよっ!


「うおっ!?」


 アリスは発言後に突発的に斬りかかって来たので、鎖で簀巻きにしておいた。


 扱いが酷いとは自分でも思うが、いきなり襲われた俺は悪くないと思う。


 地獄にいるかもしれない爺ちゃんも俺を肯定してくれるはず。


 ────いや、あのエロ爺はきっとアリスを援護するな。


 それより、植物成長って攻撃向けではないけど、何事も使い方次第だよな。


 鎖も攻撃向けか? と問われると正直微妙な所だ……。大分、改良はしたけど。


 それと、アリスと近接のみの戦闘をしたら勝てるのだろうか? さっきの踏み込みもギリギリ避けれたレベルなんだが……。


 発言が脳筋っぽくなって、アリスの将来が心配になってきたぞ……。


 なんやかんやで女の子3人で女子トークが始まったので、俺は1人訓練を開始した────



 しばらくして────異変が起こる。


 絆の指輪が光り出した────

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