第170話 水の神の助言


水の神、ビシャは考える。




他の神より、未熟とはいえ、私はそれなりに『長く』生きた。

そして、これまで、何人もの『勇者』を見てきた。




$$$




「ちょっとこっちへ来なさい」



龍炎熱氣陣の中にいる半裸のユシアをビシャは草むらに引っ張っていく。


「え、何何」


突然の呼び出しにユシアは戸惑う。ビシャはユシアの耳元で何かを囁く。女の子に近づかれる事で、ユシアの心拍数は跳ね上がる。




「勇者の貴方に、言っておく事があるわ」




話を聞くと、彼女は『水の神』で俺に水の神の力を授けてくれたらしい。

(・・・そっち関係の人か・・・)

(どうして、そんなに残念そうなんだろう?)



ビシャは、少し後ろ暗そうな顔を見せた後、言葉を吐く。




「これから、きっとどんどん厳しい戦いになっていく・・・もしこの先、命が危ないと感じたら・・・」




・・・その時は、逃げなさい。




ユシアは聞き違いかと思ったが、彼女はユシアにハッキリと言い直す。



彼女曰く、

歴代の勇者は全員が魔王討伐に成功した訳では無い。

道半ばで死んだ者、魔王に殺された者だって居るらしい。



「勇者が逃げたら、この世界はどうなるのよ!」



後ろからフェリが現れ、ビシャに突っかかる。


・・・ふ。


ビシャはその心配そうな言葉を鼻で笑う。


「支配者が変わるだけで大袈裟な、今の人間の支配者と大差無いわ・・・そもそも突然選ばれて、どうして人間達を守る責任を負わなきゃならないのよ?意味がわからない・・・木の女神の宗教に毒され過ぎじゃないの?」


「なにおー!!」


フェリは大激怒しているが、

ユシアは口に出さなかった不満を代弁してくれてちょっとスッキリした気持ちになる。



ユシアは思い出す。



トールツリーの村で林業に従事していた時、それはそれはブラック職場だった。


村長の無茶振りスケジュールに、上司から、なぜか俺しか木が斬れないと言われ、「こんなノルマ無理です」なんて言った日には・・・



「できない理由を考えるのでは無く!!」



できる方法を考えるのがあなたの仕事とか言われたっけ。



・・・理解ある上司!



ぐぐ

今まで、頑張らなくて良いよなんて、言ってくれる上司居なかったし、優しい言葉かけてくれるだけで・・・ちょっと頑張りたくなっちゃう。


「ちょっと、貴方、話聞いてるの?」


ユシアは目頭を押さえながら、涙を堪える。




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