第169話 ザーコの後悔
村に『勇者の証』を持つ者が現れるという予言
それを聞いたザーコは、喜んだ。「それはまさに『俺こそが』勇者である」という啓示に違いない!
だが、一向に勇者の証は現れない。仕方がないので、自らインクで描く事にした。
おお・・・
うっとりとそれを眺める。
やはり、俺が勇者に違いなかったのだ。この村への予言、俺という存在・・・
全てが運命ッ
そして、王都の神官達の前で勇者として名乗り出る。
バレたら不味い、そんな不安も当時の自分には、全く存在しない。
この世は、強欲な者だけが利益を得る。
謙虚な者、正義にこだわる者、そんな奴は必ず落ちぶれる。現にエイユとかいう正義ズラの男は死んで罪人として処罰され、強欲な俺の親父は、村一番の権力者になった。
この俺が、勇者となり、魔王を討ち滅ぼし、そして、世界の覇者となるのだ・・・
くくく・・・ははは、はっははははははは!!!
$$$
ザーコは鏡を見ながら、頭皮を触る。とても寂しくなったソコは、今なお、寂しくなり続けている。
「・・・ああ」
ギゼンシヤにビビり散らして・・・髪が、抜け落ちた・・・そのあたりから、徐々に気持ちが冷めて、冷静になっていった。
自身を勇者だと偽り、名乗りを上げた事を、今では・・・
すごく、すごく、すごくすごくすごく・・・
『後悔』している!
幼い頃から、権力者である父親のおかげで、欲しい物は、何でも手に入った。
だから、勇者の地位も簡単に手に入ると勘違いした。あの時は、『運命が俺を選んだ、ふひひ』とか、自分で信じ込ませて、自分で手に勇者の証を描いた。
自分の事を今では、『ただの強欲なクズ人間』だと反省できるが、
この王都・・・
自分なんかを遥かに上回る屑人間が跋扈し、鍋で煮詰めた様に凝縮されていた。
まず、聖教会の奴ら、
「貴方は寄付をしなければ、なりません!でなければ、先祖の霊に呪い殺されるでしょう!!キエー!!」
完全に詐欺紛いな発言で不安を煽って、市民から金を巻き上げている。
王城の大臣や王様だって負けていない。
「増税!増税!増税!増税!!」
議会のたびに増税を決議する議員達・・・
「市民から、減税の声が上がっていますが?」
・・・
「それについては・・・検討に検討を重ね検討を加速し、適切な時期に検討します!」
「おい・・・検討するのも良いが・・・」
その様子を見ていた王が険しい顔を向ける。
「その検討は加速するように!」
そう述べる。
「はい、検討を加速!」
「はい、検討を加速!」
結局、何もする気は無いらしい。噂では、自身の褒賞については即決するらしい。
そもそも、俺を本物の勇者だと崇めている周囲の連中がもう異常以外の何者でも無い。
あと勇者の鎧、あれ紙でできてたんだが、なんであれで攻撃防げると思ったの?
怖い、もう怖いよ
こんな化け物だらけの場所早く帰りたい。
そして、『極め付け』があの出来事だ。
マゼンダ総司祭と同行している時、
は、は、ぶえっくしょん!!
マゼンダがくしゃみをした瞬間、ぽろりと人間では無い、魔族の様な姿が現れた。すぐに魔術をかけて取り繕う。俺が見ていた事に気づいてぽんと肩に手を置く。
「何も見えなかった、よな?」
真っ青な顔になり、必死に子犬の様に首を縦に振ることしかできなかった。
$$$
今日も魔族の手下っぽいメイドに囲まれて、食事をとる。生きた心地もしないし、味なんてしない。
魔王軍の王都侵攻が始まり、後数週間でここは火の海になるらしい。
俺は魔王軍の景気付けの『血の花火』要因としてギリギリ生かされている。
「このパン、高級そうだな、せめてこれをトールツリーの故郷の親父に食べさせてあげたい」
そんな事を呟いたら、横のメイドはその言葉を鼻で笑う。
「貴方の故郷は既に存在しませんよ?人面樹達の攻撃で、皆殺しにされたはずなので・・・」
・・・
その言葉を聞いて、声の出ない悲鳴を上げるしか出来なかった。
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