第164話 すがりつく人々
その頃、王都では、
何も変わらぬ日々が続く。
だが、確実に、『不穏の足音』がひたりひたりと近づいて来る。
特に、王都の権力者達は、その不安を強く感じていた。
「なぁ、この国ヤバくないか?」
近衞の兵士がポツリと呟く。
もう一人の男は、周りに誰も居ない事をよくよく確認してそに言葉に答える。
「ヤバいに決まってる」
先日の事、
王宮で『勇者のお披露目式』が開かれた。王侯貴族が注目する中、ついに姿を現した勇者の姿はある意味、衝撃的だった。
煌びやかな鎧に包まれた勇者から、はらりはらりと何かが落ちていく。
それは、勇者の毛髪であり、その頭皮は、とても薄く禿げ上がっていた。酷く憔悴した顔をしながら、何かをぶつぶつ呟いている。
(なんか・・・『宗派』が違くない?)
その姿は、異様ではあれど、そういうものなのかもしれない。大昔の勇者の事など、伝承でしか知らない訳だし・・・
その淡い希望も、勇者が魔法を見せた次の瞬間瓦解する。
「ふぁいや!・・・」
長い詠唱のあと、放たれた温かい空気っぽい物はその場をふわふわ漂う。
その場の空気が凍る。
貴族や王族でさえ、誰も言葉を発する事なく、一時静まり返る。
・・・
長い沈黙の後、
王様は、パチパチと手を叩く。
「素晴らしい・・・」
王がそう述べた瞬間、
周りの者達も立ち上がって拍手し、惜しみない賞賛を送るのだった。
$$$
200年の平和
守られてきた秩序
成り上がる為に必要なのは、いかに権力者に媚びを売り、自分の権益にしがみつくかだった。
権力争いで、聖女の一族を追放してなお、勇者の威光にすがりつく彼らに、あの勇者を否定する事はできない。
そんな事をしてしまえば、自分の存在価値さえもハリボテであるとバレてしまう。
では、誰が、迫り来る『魔王という脅威』を跳ね返す事ができるのか?
魔王を抱き込む?
いや、ダメだ。
ピンハーネという王都随一の豪商人の一団でさえ、交渉の余地さえ無く、惨殺されている。
ある貴族は、王都からの逃亡を試みた。だが、彼らの一団も、国境戦付近で無惨な姿で見つかる。現場に魔王軍が残したとおぼしきメッセージが残されていた。
『おとなしく処罰の時を待て』
そう血で書かれていた。
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