第154話 覚醒するユシア
同刻、
ドゥモ魔術学園、
『大きな蜘蛛の魔獣』の来襲を告げる警報の鐘の音が敷地内を駆け巡る。
「アゲアゲ、テンアゲ、チョモランマ!!・・・ぐわぁ!!」
魔術学園の生徒達が応戦するが、まるで歯が立たない。
「なぜだ、呪文を唱えきる前に距離を詰められてしまう!」
(そりゃ、そうだろうよ)
マジョは傍目で見ながらツッコむ。
「マジョ!ユシアを呼び戻さなくていいの?」
「・・・まぁあんな精神状態じゃあ、呼ばない方がマシじゃない?」
通常、戦闘とは、心身共に万全の状態でおこなうものだ。メンタルにダメージを負った状態ではポカをやらかして、最悪死ぬ可能性だってある。
特に、戦闘慣れしていないユシアは、その時の機嫌によって戦闘の調子の波が大きい。
ただ、この時のマジョの予測は外れていた。
今日のユシアの調子は、絶好調・・・いや、アヤシとの一件を経て、『絶好調の上限の、そのタガ自体が、外れた状態』にあった。
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ユシアは静かに周りを見渡す。
「コレ・・・ドウイウ状況ゥ?」
とても人間が放っているとは思えない異様な殺気に、その声は歪んで聞こえる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい・・・
ククモの直勘と全神経が、全力でここから『逃避しろ』と警鐘を鳴らす。
・・・馬鹿な!!
奴は、出来の悪いエイユの息子だぞ、そんな雑魚に遅れをとる事など、万が一にもあり得ない!
ククモは、自分の中の恐怖を振り払う様に、ユシアに攻撃を繰り出す。
口からの『毒針』、高速で発射され四散するコレは避けられまい!
ユシアは木の影に隠れて、それを避ける。
(この起伏が激しいこの森で・・・動きが素早い)
なら!
『糸』で罠を張って動きを制限していけば・・・
ククモは、糸を周囲に張り巡らせる。ユシアはそれを見た瞬間、
ズンッ!!!
鈍い音と共に、目の前の大樹が斬り落とされる。メキメキと大きな音を立てて倒れると同時に、張った『糸』も大樹の重みに耐えかねて、ぱらぱらと切れて散って行く。
「くっ」
ククモは糸で自分を吊り上げて、木の高い位置に登り、木から木へ飛び移り、距離を取る。
(奴の近接攻撃の威力は異常・・・しかし、近づかなければ、問題無い)
ユシアは・・・木を切る。
切った瞬間、斧の上に乗っている樹木を、全身の筋力でぶん投げる。
投げられた木は、その速度と質量を保ったまま、真っ直ぐククモ目掛けて飛んで、いく。
「・・・は?」
ククモは目を疑う。
だが、すぐにそれは現実であると悟る。
樹木の先端が自身の頬を掠めて通り過ぎていく。直撃すれば、頭だって潰れかねない。
ククモは更に距離を取る。
(冷静に・・・冷静になれ!・・・あんなやぶれかぶれの遠距離攻撃、そう何度も繰り出せる物ではない!)
そう必死に自分に言い聞かせるククモの眼に、『何本もの樹木』が、凄い速度で飛来してくる光景が・・・映った。
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