第135話 魔王、過去の記憶



ちょうど200年前の事




当代の魔王の我は、強く聡明だった。


特に『魔術』に関しては、全てを理解し、発動する事ができた。


全ての理を知る我と、知らない愚民ども、いっそ自分以外の者が哀れに思うほどだった。



そんな折、



『勇者』という存在が我の部下を倒したという報告を受ける。



「はっ、その程度の些細な出来事、報告にあげるまでもない・・・所詮矮小な人間のやる事・・・気にする必要すらありはしない」



その当時の我は・・・完全にこの『勇者』という存在をナメきっていた。



その日を境に勇者という存在は破竹の勢いで、我が部下を蹴散らし、ついに我の前に現れる。




「くくく・・・矮小な人間如きが、よくぞ我が前まで辿り着いた・・・褒めてつかわす!」



魔王城の謁見の間、勇者とその仲間達と向き合う。




「さぁ、我が至高の魔術、地獄の業火に焼かれるがよい!」



我の発動させた広間いっぱいを包む黒炎を・・・奴は・・・



パリィン!!!



意図も容易く、打ち消した。



・・

・・・

・・・・え、何それ?我、知らない




『勇者』の魔術は、我を上回っていた。



(は?は?は?は?はぁああ?)



正直、そこで気が動転して、冷静さを失ってしまったのも良くなかった。



そして我は完膚なきまでに勇者に叩き潰され、封印される事になる。


そして、骨の髄まで理解する。勇者という存在は『めっちゃ危険』だと・・・





$$$





ピンハーネ一味を八つ裂きにした後、魔王は空を見上げる。


一人、感慨にふけっていた。



「魔王様!こんな所でたった一人でお戯れを!もし御身に何かあればと思うと心配でなりません!」


部下の一人が駆けつけてきた様だ。



「かまわん・・・最強で至高の存在である我が・・・遅れを取るとでも?」


「・・・ッ!!・・・いいえ、滅相も御座いません」



ああ、そうだ。


木の女神を滅ぼし、勇者という存在を根こそぎ抹消した我に、すでに敵は居ない。


計画が『完璧』に進みすぎて、拍子抜けですらある。



くく・・・



「魔都に兵を集めろ、王都を攻め滅ぼす余興の前に、『決起会』をおこなう」


「は!仰せのままに」



勇者を滅ぼした後の余興・・・

せいぜい楽しむとしよう。


たくさんの人間共の、血と悲鳴を肴に酒でも飲むとするか・・・



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