第68話 夜のセンシ
アイダ村は小高い丘の上にある。
地形の起伏を嫌うバジリスクは本来ならここまで村人を襲えるはずが無い。
結論、誰かが村人をバジリスクのいる場所まで運んだって事だ。村に近づいてから感じる監視の目と黒い羽の痕跡、犯人は明らかだ。
そして、今夜そいつらが夜襲をかけてくる。・・・ならば、やるべき事はひとつだ。
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「なぁ若い女の獲物は俺にくれよ!たっぷり悲鳴をあげさせていたぶりたいんだよぉ」
若い鴉達は興奮して声を漏らす。油断しきっている彼らを諌めながらも内心同調していた。どんな奴も夜は視界が鈍る。夜目がききしかも空から急襲出来る自分たちはどう考えても無敵だ。
隊長が合図を出すと部隊は4つに分かれて宿の付近に待機して一斉に飛びかかる指示を待つ。
一匹が指示を待ちながらふと思い出す。
「そういえば、あの黒髪の男、影魔術のセンシじゃないか?」
「人間の中じゃ腕が立つって聞くぞ」
「だが昼間の戦いを見たろ?」
「全然弱そうだったな」
「所詮人間なんてその程度って事なんだよ、魔王軍に蹂躙されるだけ、玩具にされるだけの哀れな愚物って事だ」
「クク、違いねぇ」
お喋りをしながら過ぎていく時間、シンと音が無く月の無い夜・・・一向に来ない襲撃の合図
・・・
「遅いな」
「何をもたついているんだ?」
焦れて、他の仲間の様子を見に行こうとした頃
ギャアああああああ!!!
甲高い悲鳴が辺りに響く。
「・・・なんだ?」
「悲鳴だ」
その悲鳴の直後、
辺りは再びシンと静まり返る。
静かな闇、内心違和感を覚えながらも必死にそれを否定する。
「はは、なんだよ。先に強襲してたのか、俺たち出遅れちまったなぁ!」
冷汗をかきながら、草むらから飛び出る鴉達、
「ごぷ」という声が後ろから聞こえて振り返ると仲間が血を流して、倒れている。
「は?」
次の瞬間、背後に強烈な気配と共に冷たい剣を突きつけられたような痛みが走る。
「振り向けば、殺す」
その絶対的な殺意に身動きが取れず固まる。「あ・・・あ・・・」と情けない声しか出ない。震えながらも我が身助かりたい一心で問われた質問に正直に答えていく。
「い・・・命だけは助けて・・・ください」
ダラダラと流れる涙と鼻水、
少し間を置いて、
「そういう戯言は、俺以外に言え」
最後に聞こえたその声は、どこまでも冷たかった。
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