第50話 魔術師×、武道家〇




魔術師を狩るのは簡単だ。






魔獣であれ人間であれ、魔術を行使する際には、『魔力の溜め』が起こる。

コンマ数秒の『隙』、


それを逃さず、鞭で叩きつければ、

弾ける風船のように簡単に殺せる・・・



ギヤルは目の前の人間をじっと観察する。




魔力はゆらがず、静かなままだ。

逆に、静か過ぎて、違和感を覚えるほどだ、まるで、波風ひとつ立たない凪の海の様な・・・





「・・・来ないの?」





マジョは、ちょいちょいと指を動かして挑発する。

ギヤルはその舐めた態度にキレる。


うらあああ!!



鞭を全力でマジョに撃ちつける・・・が、手ごたえがない・・・

何度も何度も撃ちつける。

目では確かに当たっているはずなのに

まるで手ごたえがない。

どうやって躱している?



なんだ?魔術か?




なら、どうして魔力がゆらがない?

内心の焦りを必死に隠しながら、

ギヤルは呪文を唱えて奥の手の準備をする。



「これなら、どうだ!!!」



ギヤルが鞭をふるった瞬間、それが幾重にも分身して何十もの軌道の鞭が対象に襲い掛かる。




バシッ




ギヤルはふるった鞭に手ごたえを感じる。

ニヤリと笑った表情は対象を見た瞬間、戦慄に変わる。


マジョは鞭を右手で掴んで受け止めている。


(あり得ない、魔人の力で振った音速の鞭だぞ?)





「幻覚魔術・・・さっきの鞭は幾重にも分裂して見えるけれど、実態は一つ、あなたの体の動作から容易に見切れる」





奥の手も看破され

ギヤルの怒りはいよいよ絶頂を超える。





「糞が!!!人間ごときが舐めるなよッ!!!」





魔術師の弱点はもうひとつ、それは『接近戦に極端に弱い』という点だ。




ギヤルは鞭を捨てて

マジョの体に飛び込んでいく。


爪と牙をむき出しにして襲い掛かるがあっさりと躱される。

カウンターとばかりに彼女から繰り出される拳


ギヤルは笑う。

魔人の自分相手に、素手の人間がダメージを与えられる訳がない。





我は水なり・・・

功の型・・・『岩穿ち』・・・






喰らった瞬間

全身に走る衝撃

口から、色々な場所から、血が噴き出て止まらない。


は?


ギヤルは、そのままばたりと倒れて、沈む。







$$$







マジョは、塔の下層に向かってゆっくりと歩を進める。


魔王軍の幹部クラスの魔獣は、あと一体

おそらくこっちの方が厄介だ。



足取りは重く、ふらついて、ついにバタリと倒れてしまう。



マジョは魔術師で有名な都市の出身でありながら、周囲からつまはじきにされていたため

魔術を学ぶ機会が無く、自ら書籍を読んで独学で強くなった。

それがたまたま『魔術の本』ではなく『武術の本』だったために、武道家みたいな戦闘スタイルになってしまった。



人間離れした速度で動き、人間離れした力で敵を粉砕する。




だが、彼女には決定的な弱点があった。

それは『スタミナが極端に無い事』である。



速度◎

力◎

賢さ◎


スタミナ×



(ああ、ホント、ステ振り ミスったなぁ・・・)



彼女はため息をつきつつ、仰向けになり、塔の天上を見上げる。



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