第9話 旅立ちの夜の後片付け




「くくく・・・ギャハハハハ!!」





勇者やるやらないで壮絶な言い争いをしていたユシアとフェリは

あさっての方向から聞こえる第三者の笑い声にはっと我に帰る。



家の外



丸太が・・・喋っている?・・・




「え・・・これ・・・もしかして人面樹の丸太?」


フェリはびっくりしてユシアの方を向く。





「あー・・・珍しいから高値で売れるかと思って」






「売れないわよ!こんなキモい丸太!」


「誰がキモいだ、コノヤロー!」





「くっくくくくくがはははは!・・・そんな呑気な事を言っていられるのも今の内だぜ!」





なぜならば!!

帰らない俺を心配して、今晩には俺の兄弟たちがこの村を襲うはずだからな!!



ぎゃははは

不意打ちされて、取り乱すお前らの顔が目に浮かぶぜぇ!!








$$$









丸太の話をまとめると

今夜、人面樹十数体がこの村を襲撃するらしい。


夜半過ぎ・・・

ユシアは斧を担ぎながら、小高い丘の上から森を見渡す。



赤い光がいくつもこちらに向かってくるのが見える。




(あれがそうか・・・)





フェリは真っ青な顔で、

弱弱しく飛んできて、こちらに話しかける。





「いいの? 相手の魔獣は今対処できるレベルじゃないわ、それにあの数・・・」





「私が上手く逃げれなかったせいでもあるから、無責任に聞こえるかもしれないけど・・・今は逃げるべきよ・・・本当に世界の事を考えるなら」



ユシアは取り乱すフェリの顔を見て、ふーっと長く息を漏らす。





「正直、気は進まないが、まぁ・・・乗りかかった舟だ、今回は手を貸してやるよ」





あくまで今回だけだ。

あと、手貸すのは、英雄願望的な動機じゃないからな・・・

勇者なんてまっぴらごめんだ。




「そうじゃなくて、私は!」




ユシアはフェリの頭にそっと指を置く。




「大丈夫だ、任せろ」





「木こりが木に敗けるはずないだろ?」

(・・・その人面樹に対してだけ みなぎる自信は なんなんだろう・・・)




フェリは涙をぬぐう。

ユシアなりに なぐさめてくれていたのだろう、なんだか恥ずかしい。




正直、フェリ自身

まだユシアが勇者であることを

どこか信じ切れない部分があった。


でも、今、目の前に居る、

魔獣討伐に向かうその背中に、確かに、勇者の姿を見たのだった。




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