しかし回り込まれてしまった
「ねぇ、パンツ頂戴」
俺は脱衣所にて、空咲にパンツをせがまれている。
「な、なんで?」
「トランクス買ってくれるまでのあいだ、パンツをもらおうと思って」
「なんで俺がおごる感じなんだ。金は出せよ? ……俺の部屋から勝手に取れ」
「んー。おにいちゃんが穿いてるのがいいなぁって思って」
「なんで!?」
「デザイン的に? 今日は青白ボーダーのトランクスでしょ?」
それはお前のしまパンだ。
空咲はニヤリと笑った。その目は俺をまっすぐに見据えていて迷いがない。
こんな自信満々に迫ってくるなんて、何かあったとしか思えない。
「穿いてるでしょ。私のしまパン」
「いや……」
「あっ、目が泳いだ。――ね、言っちゃえばスッキリするよ」
……いや、まだバレてないはず。
「俺は、パンツ泥棒じゃない」
「ミシェルが全部知ってたって」
「えっ?」
「だから、ミシェルは私たちがお互い盗み合ってること知ってたの。もうおにいちゃんを刺そうとしないよって言ったら話してくれたよ」
あー、だからか。なるほどね。
「だからね。しまパン泥棒さん。パンツ頂戴」
つんだわ。
「……病院に行くことを察した犬みたいに怯えてないで、さっさと脱げ!」
「わ、わかったわかったから! あっち向いててくれ!」
「なんで? ……あ、バカ! おにいちゃんのパンツでいいの! 私のパンツはいらないの! 全部脱ごうとすんな! ヘンタイ!」
「えっ? な、なんで?」
「しまパンより、そっちを穿きたいから」
「えぇ……」
「さっさと!」
「はい」
俺は俺のパンツだけを脱いで空咲に差し出した。
空咲はそれを奪い取ると、そそくさと脱衣所から出ていった。
「はぁぁ! やっぱりサイコーだよ! キモチィィィィ!」
廊下から空咲の叫び声とはしゃぐ様な足音が聞こえて、そして遠ざかっていった。
そんな空咲と入れ替わるように、ミシェルが脱衣所に入ってきた。
その手には脱ぎたての空咲のパンツが握られている。
「……大丈夫、でしたね」
「あー、うん。空咲もはじめから本気で刺そうとは思ってなかったと思う」
「そうでしょうか?」
「……多分。――今日はありがとな」
「いえ。仕事をしたまでです」
そう言ってミシェルは洗濯機の中にパンツを放り込んだ。
「それも仕事?」
「いえ。これは、なんとなく」
「だよな。……」
「……」
「……」
しばし沈黙が流れた。
「その、ミ、ミシェル? そこに居られるとパンツ脱げないんだけど」
「……その、しまパンを、頂けないでしょうか?」
「なんで!?」
「まだ空咲様のパンツを穿いていないので……許可は得ています」
「人の穿いたパンツを穿こうとするなよ!? 空咲もミシェルもおかしいよ!」
「そっちのが、興奮するのです。空咲様もそうおっしゃってました。――あ、ハチダイメはタンスからも盗むそうですよ」
「知らねーよ!」
なんなんだこの家は。パンツ狂いのヘンタイだらけじゃないか!
「……くれませんか?」
「うっ、……わかったわかったから。とりあえず出てって。俺が風呂入ってる間に、洗濯機の中から勝手に盗んでいってくれ」
「まぁ!! そこまでして頂けるのですか! ありがとうございます! さすがです!」
目にキラキラと輝きを映し、ミシェルは軽い足取りで脱衣所から出ていった。
それを背中に感じながら、俺は風呂へ向かう。
アンドロイドは道具だ。
けれど彼女たちは間違いなく心を持っている。
特に我が家のメイドたちは強烈で、人のパンツを盗むくらいに人間的だった。
俺たち兄妹とやってることが変わらない。
それでも彼女たちは道具だ。この事実は決して揺らがない。
でも、俺にとってはそんな事どうでも良くて、
「みんな大切な、家族なんだ」
湯舟の中、俺はそう呟いてスッキリした。
次はメイドたちのパンツを盗んでやろうかな。
アンドロイドはパンツの夢を見るか? 幸 石木 @miyuki-sekiboku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます