ほころび
それは縞々のトランクスだった。
俺が昨日穿いていたパンツだ。
「「「危険行為です。お止めください」」」
マメ、ホテル、ハチダイメの言葉がどこか遠く聞こえる。
取り押さえられた空咲も、今は暴れることもなく大人しい。
ミシェルは何事もなかったかのように立ち上がり、黙って俺を見た。
「それは、なんだ?」
「言えません」
「!?」
――まさか。ほんとに?
ミシェルは壊れてしまったかもしれない。もしくは、三原則がちゃんと刻まれていない、危険な不良品なのかもしれない。
冷や汗が滲む。
なぜ、言う事を聞かない。
命令に従わないロボットは、従えないロボットは廃棄処分しなければならない。
これは人類を守るためで、人が従うべき世界のルール。
命令を拒否できるロボットなんて許されていないのだ。
空咲は俺以上にショックなようで、ミシェルに顔を向けることすらできないでいる。
俺が聞くしかない。
「ミシェル、最初に手を上げなかったな」
「はい。それも、言えません」
勘弁してくれ。
「いつとった?」
「言えません」
話してくれ。
「どこからとった?」
「言えません」
じゃないと、お前を廃棄するしかなくなっちまう。
「なぜとった?」
「私、お二人がうらやましくて」
「……」
予想外の返答に息が詰まった。
アンドロイドの心なんて、回路で作られた似せ物だと人は言うけれど、こうして長い間彼女たちに触れあっている俺は全然そんなこと思ってなくて。
きっとミシェルは、自由な人間になりたいんだ。
それがすごくうれしいのに。
「ミシェル……」
「えーと、それでみんなもパンツ泥棒してると聞いて、やっちゃったんです」
「へっ?」
「前々から点検の際に聞いていたんです。くうこう様と空咲様のパンツを盗んでいる、と。それで、いいなって思って、その、買い物から帰ってきてすぐ、盗みました。私、パンツを盗んでみたくて、ずっとどんな感じなんだろうって憧れだったんです。それはもう、コイルが焼けそうなほど」
「え、え、つまり?」
「はい、私が盗んだのは好奇心ゆえです。あっ、忠心もあります。少し行き過ぎたかもしれませんが」
「……はぁ」
まるでハチダイメみたいな理由で気が抜けた。
一人で盛り上がってたみたいで恥ずかしい。
そして脱力すると今まで見えなかったものが見えてくるようになるもので、俺は気づいてしまった。
「あー! そうか、言えません、か。――第二条、『ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない』だったな」
「はい」
「『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない』
『ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない』
これが第一条と第三条。合わせてロボット三原則だ」
俺はさっきからだんまりを決め込んでいるパンツ泥棒に向けて告げた。
「……空咲。どうしておにいちゃんのパンツを盗んだ。いいなさい」
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