Act.1-8 神速~Ace~

神聖戦士ヘラクレス

Act.1-8 神速〜Ace〜

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女神アテナと交信してから数日が経った。未だにエースの消息は掴めていない。

さらに言えば、アスカが戦士として加わった戦いの日からずっと敵の目立った襲撃もなかった。勇輝ら戦士達はその間、学校で勉強や部活に励んだり、休日になれば友人達と遊んだり趣味に没頭したりと、今までは『当たり前』だった普段通りの生活を送っていた。


それはミネルヴァとて例外ではない。彼女は本来はフクロウではあるが、外の世界では女子中学生「峰元 さやか」として人間と同様の生活を送っている。地上界に来てすぐの頃は慣れないことも少なくなかったが、勇輝達の助けもあって今はすっかり新しい生活環境に溶け込み日々を過ごしている。


「ただいま、帰ったわよ」


「あ、ミネルヴァ様。お帰りなさい!」


ある日の夕方、人間姿のミネルヴァがいつも通り学業と部活動を終えて帰宅すると広間にいたルカが反応した。ミネルヴァはそのまま広間のテーブルまで来ると通学用バッグをどさっと置くと、何やら横から視線を感じた。チラッとその先を見ると、ルカが隣でミネルヴァの顔をまじまじと見ていた。


「ルカ、どうかした?」


ルカはミネルヴァの顔を覗いていたのを気づかれ慌てて視線を逸らしたが、少しして観念したのか顔を赤らめながら応える。


「あっ、その。ミネルヴァ様、笑顔でいることが多くて毎日楽しそうだなあって・・・」


「えっ?」


ルカの予想外な返答にミネルヴァはキョトンとする。


「それに、人間の姿のときは何処にいても優しい口調で話すようになりましたし、きっとこっちの生活にも慣れて楽しんでるんだなあってちょっと思って・・・」


「・・・」


ルカにそう指摘されてミネルヴァは少し考える。

確かにミネルヴァに心当たりはあった。自分で言うのもなんであったが、地上界で暮らし始めてから少し丸くなったような気がする。最初は人間関係が上手くいくようにという目的で始めた女性らしい口調にもすっかり慣れてしまい、その影響もあってか自然と普段の態度も穏やかなものとなっていた。


それに加え、勇輝達と同じ神山大学附属中に通い始めてから、以前は仕事柄あまりいなかった打ち解けられる友人が増えた。共に学校生活を送ったり、たまに一緒に遊んだりという交流を繰り返しているうちに「友人の大切さ」を実感するようになり、その生活は充実したものとなっていた。


「そう、ね。そう言われてみればそうかも・・・」


ミネルヴァは今までの生活を思い返し、自分の変わりぶりにふと笑みを溢した。

そんなミネルヴァの表情をジーッと見つめていたルカだったが、ふと何か思い出しポンッと手を叩いた。


「・・・あっ。そういえば、オリュンポスから届け物が来てましたよ!」


「ありがとう。一回身の回り整理するから、そこのテーブルに置いておいてくれる?」


そういうとミネルヴァはバッグを持って一度広間から退出した。

数分後、制服姿から普段着姿になったミネルヴァが広間に戻ってきた。もうこの時にはルカは何処かに行ってしまい姿は見当たらなかったが、テーブルの上には少し厚めの大きな封筒が置かれていた。きっとこれがルカが言っていた届け物なのであろう。ミネルヴァがその封を切ると、中には文章がずらっと並んだ紙が何枚もあった。早速、内容を確認する。


「何々?例の件の途中報告、か・・・」


ミネルヴァは座るのを忘れてその場に立ったまま、その厚い資料をじっくり読み始めた。







翌日の朝になった。

今はまだホームルームの開始時間までは40分以上もあるが、部活の朝練や自主学習をする生徒達は続々と登校している時間帯だ。勇輝も大体はこの時間帯に登校しており、自分の席に荷物を置いて一通り片付けると親友の純の席へ向かう。


「純ちゃん、おっはよー!相変わらず早いねえ・・・」


「おはよう。いやー、学校の方が自主が進むからね」


純の机の上にはノートや参考書がずらりと並んでおり、純は例の如く朝の自主学習に励んでいた。

勇輝と純が所属する剣道部は朝練がない。そのため、生徒会の仕事がある場合を除き純は基本的に朝は自由で、時間を有効活用しようと朝早く登校してはこうして自習しているのだ。

勇輝も登校は早い方であるが、一度として純に勝ったことはない。そして親友としてずっとみている限り、誰かとの会話が始まらないかしなければ純はずっと勉強している。勇輝は純の生真面目さに、感心と呆れ混じりにはあっと息を漏らす。


「もー、そんな勉強ばっかりしないで話でもしようよ。昨日さ・・・」


勇輝が話題を振ろうとしたその時だった。


「失礼します。あっ、いたいた」


突然、教室の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ってみると、そこにはさやかが立っていた。


「ミネル・・・、違った。さやか、どうしたの?」


勇輝は動揺した。さやかが学校で直接勇輝を呼び出すことはほとんどと言っていいほどないからである。

勇輝はさやかとクラスが違うため、校舎内で会うと言ってもすれ違い様に軽く声がけするくらいであるし、部活動も同じではあるが男女で別々に練習するためそこでも会話は起こらない。

わざわざ自分を呼びに来るなんて何かあったのだろうか?そう思っていた勇輝の目の前まで、さやかは早足で向かってきた。


「話があるの。成田君、ちょっと勇輝借りていくわね!」


そう言うや否や、さやかは勇輝の腕を強引に引っ張りズカズカと教室から連れ出そうとした。


「えっ、ちょっ!?ちゃんと行くから引っ張んないでって!!」


勇輝は突然腕を持っていかれてバランスを崩し、まるで引き摺られているような体勢になった。


「いってらっしゃ〜い。何となくだけど頑張って〜」


純は勇輝とさやかが親しいことを知っている。二人の様子を見た純は仲良しなのだなと微笑ましく思い、穏やかに笑いながら二人を見送った。




さやかは勇輝を人気のない廊下まで連れて行くと、そこで今までがっしり掴んでいた勇輝の腕をいきなり離した。離された拍子に勇輝はよろけてバランスを崩す。


「うわっ!?さ、さやか?ど、どうしたんだよいきなり?」


「ごめん、ちょっと話したいことがあって・・・」


さやかは改まって勇輝の方を向く。学校ではあまり見せないキリッとしたその表情に、勇輝もただならぬ雰囲気を感じ少したじろぐ。


「話したいこと?何?」


勇輝が尋ねると、さやかは廊下の壁に寄り掛かって腕組み少し低めのトーンで話し始める。


「昨日、パルテノンにオリュンポスの本部から調査の途中報告が来たの。例のモンスター達の件のね」


「ああ。何か重要な手掛かりが見つかったとか・・・?」


例の件とは、モンスター達が次々に姿を消しているという謎のことである。つい数日前に聞かされた話であったし自分でもずっと気にはなっていたため、勇輝は何のことなのかすぐに理解できた。


「ええ。核心に迫るものではないけど、やっぱり神々やその従者、そして戦士達が倒した数を考えてもモンスター達の減少が不自然なのよ。天災とかの自然現象の可能性も含めて調べたみたいなんだけど、こっちも否定されたわ・・・」


「つまりは、人為的な原因である可能性が高いってことか・・・」


さやかの報告を聞いて勇輝は少し参ったような表情になった。原因の方向性を絞り込めたことに変わりはないが、人為的となると足取りを掴めない限りはますます謎が深まってしまう。


「で、その原因についてなんだけど、報告書にはタイタン族が関係してるんじゃないかって書いてたわ」


「タイタン族が?」


勇輝は馴染みのあるその言葉に思わず聞き返した。


「多くのモンスター達はタイタン族による私達への攻撃に同調し、その『駒』として人間達を襲っていた。一時的な主従関係ではあるけど、接点がある以上は無関係ではないだろう・・・ってことよ」


さやかの説明を聞いて勇輝は考え込む。

さやかの言う通り、モンスター達はタイタン族が表に現れる前までは手先となって地上界の人間達を襲っていた。「主従関係」という根強い関係に加え、タイタン族の方が歴然と力は上であることを考えればそう疑っても全くおかしくはない。しかし、勇輝には少し引っかかるところがあった。


「・・・でもさ、仮にそうだったとしても殺す理由が分からないけどなあ。八つ当たり、とか?」


勇輝にはタイタン族がモンスター達を手に掛ける理由が分からなかった。

タイタン族と多くのモンスター族の者達は、種族や力が違えど「地上界や人間に不和を齎す」という信念で繋がっている、いわば「仲間」と言うべき関係だった。ならば、仮に手下として使えなくなったとしてもそう簡単には殺さないはず・・・、勇輝はそう思っていた。


「私もそれについては色々考えてみたわ、私もタイタン族が何かしら関係があるとは睨んでいたからね」


さやかはふうっと溜め息を吐く。


「タイタン族は好戦的な性格ではあるけど、理由もなく当たり散らすほどの蛮族ではないわ。モンスター達を手に掛けていたとしても、単なる八つ当たりはないでしょうね・・・」


あっさり八つ当たりの可能性は否定された。勇輝は改めて考え直す。


「うーん。理由なく殺さないなら・・・、ハッ!」


じっくり考えた末に何か閃いたようで、勇輝は咄嗟に答えた。


「じゃあ、食べられちゃってるんじゃない?なーんて・・・」


「・・・はあ?」


冗談めかしに笑っていた勇輝に、さやかの鋭い視線が向けられる。


(あっ、ヤッバ・・・)


さやかの目は笑っていなかった。いや、完全にふざけたことに怒っている。さやかのただならぬ雰囲気に身の危険を感じ、勇輝は慌てて弁明する。


「あ、いや。だってさあ、タイタン族って巨人なんでしょ?なんかこう、何でも食べちゃいそうなイメージあるし。ほら、一応エネルギーにはなるじゃん?」


必死に弁明する勇輝の目はあたふたとしていて焦点が合わない。しばらくしてさやかはその様子を見兼ねたのか、大きく溜め息を吐いた。勇輝は静かながらも響き渡る吐息の音にビックリして固まる。


「・・・何とも斬新ね。確かに糧にはなるかもしれないけど・・・、!?」


呆れたように話していたさやかが、突然その口を止める。


「・・・糧?」


「・・・さやか?」


さやかが深刻そうな顔で何か呟くのが聞こえた。勇輝にはそれがはっきり聞こえず、不思議に思って聞き返そうとした。が、その時・・・


キーンコーン、カーンコーンッ・・・


校内のチャイムが沈黙の中に鳴り響いた。


「やっば!?もう朝のホームルームの時間じゃん!!」


「えっ、ああ。付き合わせちゃったわね。じゃあ、また後で・・・」


そう言うと、さやかと勇輝は別れてそれぞれの教室へと戻って行く。勇輝は大慌てして駆け足で教室に向かうが、さやかはふとその足を止めた。


「まさか、ね・・・」







「ひいっ!?やめて下さい!!次こそは、貴方方のお役に立ちますから・・・」


「そうです!!まだまだ俺達地上界を荒らしまくれますよ!!だから、命だけは・・・」


暗闇の中で何者かが怯える声が聞こえる。その声は一つだけでなく、複数の叫びが何重にもなって響き渡る。


「・・・」


そして、その様子を冷酷な目つきでじっと見つめる者がいる。暗闇の中でもなお鋭い光を放つその瞳に、追い込まれた者達はすっかり萎縮し硬直してしまっている。

しばらく無言のままだったその人物が、フッと静かに笑って囁く。


「・・・心配せずとも、死にはしないさ」


その瞬間、鋭い目がカッと見開かれた。


「あのお方の中で生き続けるのだからなっ!!!」


「「ギャアアアアアァァァァァッッッ!!!」」


これ以上にない大きな悲鳴が黒く澱む大穴に飲み込まれていく様子を、ディオーネは不適な笑みを浮かべながら見つめていた。







「あーあ、また落っこちまったな。これで何体目だあ?」


「さあ?数えたことなかったな・・・」


遠くから今までの様子をミマスとエンケラドスは見ていた。側から見れば悲惨な光景にも思われるこの状況を見ても、二人はいつものことの様に平然としていた。

少しの沈黙が続いた後、ミマスがまたエンケラドスに話しかける。


「てか、いいのかこれで?今まで通り、アイツらモンスターに各地をバラバラに襲撃させる手法の方がいいような気もするが・・・」


「今のモンスター達ではオリュンポスの連中はおろか、もはやあの戦士達相手にも歯が立たないも同然だ。まともな襲撃ができずに無駄死にするよりも、こちらの方が効率的だからな。それは分かっているだろう?私も其方も・・・」


エンケラドスはそう言うと意味深にミマスの方をチラッと見る。ミマスはこの言葉の意味をすぐに理解し、チッと舌打ちが零れた。ミマスもエンケラドスも、戦士達には苦汁を飲まされていた立場だった。


「はいはい、アイツらが強いのはよーく分かってますよ!」


エンケラドスの発言にムッときたミマスは、素振りは素っ気なくとも明らかに苛立ちが混じった大声で応えた。


「しっかし、はっきりした数は覚えてねえがもう随分落ちてったぜ。そろそろモンスター達も抵抗してくるかもな」


「なあに、奴らが束になったところで・・・」


「まっ、そうだな」


二人がケラケラと笑ってそんな話をしていると、誰かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。足音がした方向を見ると、遠くの闇の中から焦った表情のテティスが荒い吐息を立てながら現れた。


「ディオーネ、大変!モンスター達が檻を破って逃げ出したの!!それもかなりの数・・・」


「何?」


モンスター達を大穴に突き落としてから今まで黙っていたディオーネも、テティスの言葉を聞いて眉を潜める。


「アイツら、私達が見てないタイミング見計らって檻をこじ開けたみたい。私、アイツら探しに行く!!」


テティスはその顔に悔しさと怒りを滲ませていた。感情のせいでテティスはかなり興奮しており、早速モンスター達を捕まえに行こうとその場を立ち去ろうとしていた。


「いや、私が行こう。エンケラドス、後は任せたぞ」


ディオーネの冷たい声が不意に空間に響き渡り、いきり立っていたテティスはその足を止めた。


「・・・わざわざ捕まえに行くとはな。其方にしては珍しいじゃないか」


エンケラドスがその場から離れようと歩き出すディオーネに向かってそう呟く。ディオーネはエンケラドスの方を振り向き意味深な笑みを浮かべる。


「『ご挨拶』のついでだ。じゃあ、行ってくるよ」


そう言い残し、ディオーネは目の前から消えていった。







放課後になった。いつもは部活動をやっている時間であるが、今日は教員達総出の重要な会議があるため部活動は全て休みとなり、特にやることのない勇輝は一人帰路についていた。


「おーい、勇輝!!」


一人で静かに道を歩いていると、向かい側からルカが飛んで来た。


「おお、ルカ!どうした?今日はパルテノンで留守番じゃないのか?」


「さっきミネルヴァ様がパルテノンに帰ってきたんだけどさ、大量の古い資料漁ったり分厚い本と睨めっこしたままだったりで・・・。手伝おうと思ったんだけど、難しくてお手上げだったからこっちに来ちゃった!」


「へえ、調べ物かあ・・・。何について?」


ミネルヴァはあらゆるところで几帳面であるから全然おかしいことではなかったが、知識豊富な彼女が調べ物なんて珍しい。勇輝は少しその内容が気になった。


「タイタン族のこと。あっ、でも僕が覗いたときは『サターン』についてのページを開いてたよ」


「サターンって・・・」


随分前に聞いた言葉だ。うっすらではあるが、勇輝はその言葉を覚えていた。

サターン、忌まわしき敵タイタン族の祖先であり魔王。世界を破滅へと導こうと画策していたといわれる脅威の存在であったが、今はオリュンポスの神々の長であるゼウスによって奈落に封印されている。

勇輝はミネルヴァから聞かされたことを思い出した。最初は懐かしいという程度に感じていたが、よくよく思い返してみるとサターンについてそんなに知っていない様な気がする。ふとそう思った勇輝は思い切ってルカに訊いてみる。


「なあ、ルカってサターンについてどのくらい知ってる?」


「えっ、どうしたの急に?」


「いや、俺も前サターンについての話は聞いたけどそこまで多くは知らないからさ。あんなに強いタイタン族の魔王だし、もっとこう、どんな感じだったのか気になったんだ」


初めは唐突な質問にキョトンとしていたルカだったが、勇輝の言葉に自分でも記憶にあるサターンの情報を思い出してみる。


「うーん、僕は昔話みたいに小さい頃からよく聞かされてたよ。えっとね・・・」




サターンは巨人って言われてる通りもの凄く大きいんだ。頭のてっぺんが雲に届くくらいだし、腕を伸ばしたら雲なんて突き抜けちゃうんだ。身体は何も見えないくらい真っ黒で『身体が闇でできている』ってよく言ってたなあ。


魔力も『魔王』って言うくらいだから凄まじくて、国の二つや三つは簡単に滅ぼしちゃうんだって。ゼウス様がサターンを封印する時もすごい数の犠牲が出たって聞いた。

あっ、でも一番恐れられていたのは『殺戮とか破壊が大好きなこと』だよ、他人がやってるのを見ても大喜びするくらい。封印される前は、災害とか紛争が起こる度にサターンが元気付いて暴れ出してたらしいよ・・・




ルカは知っている限りのことを一通り話し終えた。


「へえ、意外と知ってるんだな・・・」


ルカは予想以上にサターンのことを知っていた。勇輝は驚きと感心で思わず溜め息を溢す。


「うん。ミネルヴァ様もそうだけど、これくらいはオリュンポスのみんな知ってると思うよ!」


ルカはニコニコしながらそう応えた。

どうやらオリュンポスの住人にとってはこれくらいの情報は「常識」らしい。昔話として何度も聞いているなら尚更だ。そういえば「昔話はよく教訓として語られるものもある」ということをどこかで聞いたことがある。それと同じであるならよっぽど恐れられている存在なのであろう、と勇輝は思った。

すると、その横にいたルカがまた何か思い出したようで続けるように話す。


「あっ、そうだ。よく悪いことすると言われてたこともあった!『悪いことするとサターンに食べられちゃうよ』って。まあ、よくある戒めってヤツ!」


物思いに耽っていた勇輝はルカの言葉にハッと我に返り、胸を張って話すルカの方を振り向く。


「食べられちゃう?なんか、変わった言い回しだな」


「そう言われてみればそうかも!何でなんだろうね?」


二人はその言い回しを単純に滑稽に思い、声を揃えて面白おかしく笑っていた。

しかし、そんな笑い声の中に別の音が混じってきた。それは勇輝のズボンのポケットに入っていた携帯電話の着信音だった。勇輝は慌てて携帯電話を取り出して画面を見ると、相手は譲治だった。すぐに通話を開始する。


「もしもし?譲治、どうし・・・」


勇輝が用件を聞こうとした途端、電話越しから喰い気味の大声が聞こえてきた。


『勇輝、大変だ!モンスター達がセンター街で暴れ始めてるんだよ!!』


「えっ、モンスター!?」


譲治の大声もそうだが、勇輝はその内容に驚きを隠せなかった。

最近妙に姿を見せていなかったモンスターがいきなり現れた・・・。全く予想だにしていなかったことが起こった衝撃で、勇輝の返事も上擦っていた。


『ああ、それもかなりの数だ。今、水無月とアスカがこっちに向かってる。だから、勇輝も急いでくれ!!』


「分かった!それまで頼むよ!!」


それを最後に勇輝は電話を切った。

通話の一部始終を横から聞いていたルカは、緊迫した顔をした勇輝に恐る恐る尋ねる。


「勇輝、モンスターが出たって本当なの!?」


「ああ。しかも何体もいるみたいだから急がないと・・・」


勇輝はルカと共にモンスターが現れた街の方向へ走り出そうとした。と、その時・・・、


「勇輝!!」


背後から誰かに呼び止められた。勇輝は慌てて足を止めて振り返ると、制服姿のさやかがこちらへ走って来ていた。勇輝達の目の前まで来ると、さやかは冷静ながらも緊迫感のある声で言う。


「碧から話は聞いたわ。私も行きましょう!!」


「ああ!!」


さやかも事情は心得ているようだった。

二人はお互いに頷き合うと、ルカと共に急いで走り出した。







空を見上げる、生憎の曇天だ。

濃い灰色に染まった空とじめっとした湿気を含んだ空気が、光のない夜とはまた違う不穏感を醸し出していた。

よく見てみると、街の上空には巨大な雲の渦が発生しており、渦の中心部からは街に向かって大量の何かが降り注いでいた。


「あれ見て!モンスター達がどんどん出てきてる!!」


「タイタン族から逃げ出した連中か。あんな派手に暴れていたら、アイツらから逃げた意味がないじゃないか・・・」


街から遠く離れた高い建物の屋上、そこからこの様子を傍観している者がいた。黒い衣装を身に纏ったその者は、モンスター達が大量に現れるその様子を呆れたように頭をかきながら眺めていた。すると、横にいたピンク色の髪をした妖精が心配そうに話しかける。


「ねえ、行かないの?タイタンが来る前に・・・」


「何とかしなきゃね、分かってるよ!!」


そう言うや否や、その者は身に付けた黒いマントを翻した。


「さあ、急ぐよ!!!」


「うん!!!」


二人は視界に映る高層ビルの数々を飛び移りながら駆け抜け、巨大な渦の方向へと猛スピードで向かって行った。







「テセウスバーンショットッ!!!」


「ペルセウスウェーブッ!!!」


「オデュッセウスサイクロンッ!!!」


「「ギャアアアアアァァァァァッッッッッ!!!」」


先に到着していたテセウス、ペルセウス、そしてオデュッセウスの三人は、各々の必殺技を駆使して現れたモンスター達を次々になぎ倒していた。三人は戦いを積み重ねたことで以前にも増して格段に強くなっており、モンスター達のほとんどは三人に成す術もなく倒れていく。

力の差はもはや歴然のように思われた。しかし、


「くそっ、どんだけ出てくるんだアイツら!」


三人がどんどん倒しても、それを上回る勢いでモンスター達が次々と上空から現れてくるのだ。それも一つの種族だけでなく、様々な姿形のモンスター達が総出で襲いかかってきていた。

確かにモンスター達を倒しているのに周りはモンスターで溢れかえっており、全くもって倒した感覚がない。この状況が続けばいずれこちらにも体力の限界が来てしまう。

三人に焦りが募り始めたその時・・・、


「ヘラクレスバーストッ!!!」


「フェザーアローッ!!!」


放たれた技と共に、聞き覚えのある二つの声が響き渡る。振り返ると、既に変身していたヘラクレスとミネルヴァが立っていた。


「お待たせみんな!!」


「ヘラクレス!!ミネルヴァ様も!!」


頼れる加勢が来たことで、三人の顔が少しの疲れを見せながらも明るくなった。

放った技で発生した煙幕を見て、ヘラクレスとミネルヴァは再び構えて戦闘態勢に入る。それを見た三人も同じ方向へと向き直る。


「へっ、流石は地上を守る戦士。中々やるじゃねえか・・・」


すると、その煙幕の中から一体のモンスターが戦士達の前に立ちはだかるように現れた。その姿は上半身は肉付きの良い男の身体だが、下半身は馬の四肢という異様なものであった。


「ケンタウロスか、また厄介なヤツが・・・」


現れたその姿を見て、ミネルヴァは厳しい表情で呟く。どうやら、ミネルヴァはこのモンスター「ケンタウロス」を厄介者と思っているらしい。

現れたケンタウロスは、戦士達を見るとフッと不敵な笑みを浮かべる。


「俺様は『ネッソス』、まあ一応この集団のリーダーって言やいいかな?」


そのケンタウロス、ネッソスが自らを名乗り終えると同時に、その身をを包んでいた煙幕が晴れる。煙幕で隠れ見えなかったネッソスの背後には、十数体のケンタウロスの集団が戦意を剥き出しにして立っていた。


「他のモンスターはあっさりやられたみたいだが、俺達ケンタウロスはそうはいかねえぜ。お前ら、全力でいくぞっ!!!」


ネッソスの掛け声と共に大勢のケンタウロス達が一斉に襲いかかってきた。

戦士達は先程のように真正面から各々の必殺技を放つ。しかし、ケンタウロス達は先程のモンスター達とは違いあまり傷を負ってはおらず、そのまま突進してくる。


「其方達、此奴らは正面からぶつかり合って勝てる相手ではない!避けろ!!」


ミネルヴァの言葉に咄嗟に反応し、戦士達は攻撃を止めて突進をギリギリのところで躱した。

ケンタウロス達の突進の勢いは躱して距離を取ってもなお風や地鳴りで伝わってくる。戦士達は直様、ミネルヴァがケンタウロス達を厄介に思っているのはこの固さとパワーのせいであることを理解した。


「オラオラッ!!まだやるぞ!!!」


ケンタウロス達は直様方向転換しまた突進を始める。


「「はあっ!!!」」


ヘラクレス達は突進を上手く躱しながら攻撃を放つが、それでも倒れたのは攻撃が集中したほんの2、3体だけである。

躱しながら攻撃するばかりでヘラクレス達の体力は次第に削られていき息が上がるが、当のケンタウロス達はかなり攻撃を加えたにも関わらずあまり疲れを見せていない。

相手が疲労する姿を見て好機と思ったネッソスは深く笑う。


「そろそろ、仕舞いにするか・・・」


次の瞬間、ネッソスは背後から隠し持っていた弓矢を取り出し勢いよく矢を放った。ヘラクレス達は放たれた矢を辛うじて躱し、矢が射抜いたのは足元の影であった。しかし・・・


「何だこれ!?足が・・・」


影を縫い付けたその矢は、ヘラクレス達の足の自由を奪っていた。そう、その矢の狙いは本体ではなく地面に伸びる影の方であったのだ。

ヘラクレス達は身の危険を感じて身体を捩るが、その縛から解放されることはない。


「トドメだっ!!!」


ネッソスの合図で再びケンタウロス達が突進を始める。何体ものケンタウロスが束となり、十分に身動きの取れないヘラクレス達へと迫っていく。

地を揺るがす程のパワーを持ったケンタウロス達に、それも何体も真正面からぶつかられたらただで済むはずがない。当たり所が悪ければ骨折、最悪失神までするかもしれない。

絶体絶命に思われた、その時だった。




「ソニックサンダーッ!!!」




突如として眩い光を放った雷撃がヘラクレス達の目の前を走った。


「「ギャアアアアアァァァァァッッッッッ!!!」」


その雷撃をまともに喰らったケンタウロス達はあまりの電圧に悲鳴を上げ、気付けばその光と共に消滅していた。


「・・・今の雷撃一発で!?一体誰が・・・」


自分達の技を耐えていたケンタウロス達がこうも一撃で倒すとは・・・。

衝撃を隠せないヘラクレス達が雷撃が走った方向を見ると、風に黒いマントを靡かせた一人の人間がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。顔は黒のハットで隠れていてよく見えない。

ヘラクレスはその謎の人物の正体が分からず姿をはっきり見ようと目を細くするが、自分の横から驚きを隠せない震え声が聞こえてきた。


「あれは、まさか・・・」


その人物の姿を見たオデュッセウスは信じられないとばかりに目を大きく見開いた。


「なっ、アンタ何者だ!!」


突然のことに驚いたのはネッソスも同じだ。力自慢の仲間達を一撃で蹴散らしたその人物を睨みつける。

その人物は歩いていた足を止めると、周囲を包む不穏な風をその身に浴びながらふうっと深呼吸をする。そして、覚悟を決めたように黒いマントを後ろへ払い俯かせていた顔を上げた。




「私の名前はエース。閃光の如く現る、神速の戦士だ!!!」




「・・・あれが、エース!?」


灰色の世界でも鮮やかに光る金色のショートヘア。仮面から垣間見える煌めく琥珀色の双眸。そして、曇天に轟く力強い女性の声。

目の前にいる彼女こそが、自分達が探していた謎の戦士エースであった。

エースは視線の先にいるネッソスを鋭い瞳で見据える。ネッソスはその様子を見て身構えるが、エースはじっと見つめるだけで全く動く気配がない。


「ちっ、戦士がまた増えやがったな。俺が相手だっ!!」


エースの挑むような態度に、ネッソスは遂に痺れを切らした。先程まで狙っていたヘラクレス達から視線を逸らし、新たな標的エースに向かって猛突進していく。

エースに殴り掛かろうとネッソスは拳を上げながら迫っていくが、それでもなおエースはその場から動こうとする素振りを見せない。


「危ないエースッ!!」


ネッソスが目の前まで間合いを詰め、今にもエースに拳を振ろうとした瞬間・・・


「なっ、消えた!?」


視界からはエースの姿がすっかり消えていた。

ネッソスは急ブレーキをかけて突進を止め、エースの行方を追おうとキョロキョロと辺りを見回す。すると・・・


「こっちこっち」


「!!!」


頭のすぐ上から声が聞こえた。僅かな重みながらも、何か頭上に乗っている感じがする。ネッソスはまさかと思い頭上へと視線を向けた。

その予想は的中した。エースはいつの間にかネッソスの頭上に逆立ちで乗っていた。

エースは逆立ちした勢いでそのままバク転し、ネッソスと再び距離を取る。


「こっ、この・・・!!」


まるで自分を小馬鹿にするようなエースの身の熟しに、ネッソスは憤りを感じられずにはいられなかった。冷静さを忘れ、怒り任せに再びエースへ襲い掛かりに行く。

ネッソスは物凄い勢いで攻撃の数々を繰り出していく。しかし、エースはまるで猫のようなしなやかでアクロバティックな動きでそれらを全て華麗に避けてしまう。

攻撃しては躱されるを繰り返すうちに、ネッソスの頭にふとある疑問が浮かんだ。ネッソスは攻撃の手を止め、自分から少し離れた位置に立つエースに尋ねる。


「おい、お前?何故、俺に攻撃しない?・・・」


そう、エースには攻撃を躱した後にネッソスに反撃できる猶予があったにも関わらず、ただただ避け続けるばかりで自分から攻撃を仕掛ける様子が全く見られなかったのだ。

お互いの間に少しの沈黙が続く。そして、エースの口がやっと開いたと思えば、開口一番出てきたのは意外な言葉だった。


「・・・あのさ、アンタらいいの?ここで戦ってると、タイタンに捕まっちゃうんじゃない?」


「なっ・・・。お前、知ってるのか?」


「まあね。それよりも、早く見つかんないように隠れた方がいいと思うんだけど?」


自分達の事情を知られていたことに焦りを見せるネッソスとは対照的に、エースは至って冷静な表情を崩さずに忠告する。


「・・・隠れる、だ?へへっ、何言ってやがる。タイタン族の奴らは魔力に敏感だ、たとえ逃げ隠れたとしてもすぐに俺達のことなんざ察知しちまうさ・・・」


エースの忠告に対し、ネッソスは低く不気味な笑い声を上げる。諦めにも似た、悔しさを滲ませた小さな自嘲の声だった。

しかし、その笑いは徐々に大きくなっていき、最後には狂ったように高らかな笑い声を上げ始めていた。ネッソスは再びエースを鋭い目で睨みつける。


「それにな、俺たちゃ誇り高きモンスターさ!最後まで、てめえら人間と神々の『脅威』にならなきゃならねえ!!」


辺りにネッソスの大声がこだまする。どうやらネッソスはこの場から立ち去る気は微塵もないようだ。


「はあ、こりゃあ何言っても退く気はないみたいだなあ・・・。分かった、こっちも戦士である以上容赦しないよ!!!」


エースは呆れたように大きな溜め息をつき、対峙するネッソスに見せつけるように攻撃の構えを取る。ネッソスもそれに応じるように両手でバキボキと音を鳴らし、戦いの意志をを示す。


「上等だ・・・。あんなヤツに喰われて仕舞いになるよりも、暗闇の中で無様に息絶えるよりも・・・」


ネッソスの双眸が今、カッと見開かれた。


「真っ当に戦って死んだ方がマシだあああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!ウオオオオオォォォォォッッッッッ!!!」


ネッソスの叫びを合図に二人は走り出し、お互いの距離をどんどん詰めていく。


「「エースッ!!!」」


今、エースとネッソスが互いの拳をぶつけ合おうとする。

ネッソスと真正面からぶつかり合おうとするとは・・・。あまりにも危険極まりない勝負を挑むエースをヘラクレス達は援護しようとするが、縛のせいで身動きが取れない。

エースまでもがやられたらマズい・・・。最悪の事態を想像し、二人がぶつかり合う直前に目を瞑った。

その瞬間だった。




ドッシャーンッッッッッ!!!




突然大きな轟音と共に、目を瞑っていても眩しいくらいの強い光が周囲を包んだ。


「!?」


あまりの光の強さに目が焼けてしまいそうだった。咄嗟に両腕で目元を覆い隠す。

しばらくしてその光は消え、何が起こったのか訳が分からないヘラクレス達は恐る恐る目を開けた。いつの間にかネッソスの縛は消えており辺りを見回して見ると、目の前に映っていたのはあまりにも無惨な光景だった。


「・・・嘘だろ」


エースの目の前にいたネッソスが、原型を留めないほど黒く焼け焦げていたのだった。


「・・・」


ネッソスの息はもうなかった。プスプスと独特の肉の焼ける異臭を持った煙を出しながらドサっと横に倒れ、そのまま黒い灰となって風に飛ばされてしまった。

ヘラクレス達がそのあまりにもグロテスクな光景に思わず恐怖で怯えていると、突然空の高い場所から別の声が聞こえてきた。


「おやおや。生け捕りのつもりだったが、加減を間違ってしまったようだな・・・」


声の方向は高いビルの上からだった。そこに視線を向けると、そこにはエースと同じ金髪だが腰の丈以上のロングヘアを風に靡かせた女性が立っていた。


「アイツは・・・?」


ヘラクレスがそう呟くと、その女性は恭しくもどこか威圧感のある声で名乗る。


「我が名はディオーネ。タイタンズ4のリーダー、及びタイタン族の首領だ」


「タイタン族の・・・、首領!?」


遂に姿を現したタイタン族の頭。

その場にいたヘラクレスら戦士達は、何とも言えぬその迫力に圧倒され身体が固まってしまう。しかし、ミネルヴァとエースは違った。

ミネルヴァはディオーネの威圧感に屈さず、挑むようにその姿を睨みつける。そして、エースはディオーネの方を見上げると、意外にも陽気な口調で話しかける。


「やれやれ、リーダー様のご登場って訳か。ディオーネ、アンタ随分酷な事するじゃん?モンスター達、結構まともにアンタらタイタン族に従ってたみたいなのにね・・・」


「はあ、酷な事?さあ、一体何のことやら・・・」


「惚けるな、ディオーネッ!!!」


エースの言葉に知らん顔をするディオーネに対し、ミネルヴァは怒号を浴びせる。ディオーネはミネルヴァの方を睨むと、ミネルヴァがとんでもないことを暴露した。


「貴様ら、モンスター達を生贄にしてサターンを復活させるつもりなのだろう?始めはサターンへのエネルギーを集めるために操り、役目を終えた途端に殺していたんだな!!!」


「サターンの、復活だって!?」


ヘラクレスは一瞬その言葉が信じられず聞き返してしまう。

ミネルヴァに問い詰められたディオーネはしばらく黙っていたが、やがて諦めて認めたのかフッと笑みを浮かべる。


「なるほど、あのフクロウも感づいていたみたいだな。流石は切れ者というべきか・・・」


改めてミネルヴァの方を向くと、ディオーネの顔から笑みが消え一気に冷酷な表情となる。


「其方達相手に、もはやモンスター共は『破滅のオーラ』をまともに収集することができないからな。奴らの魔力をそのままあの方に差し上げたという訳だよ・・・」


(破滅のオーラ・・・?)


「邪魔をしたな。では、其方達と本気でやり合えるその時まで・・・」


ディオーネはその言葉を最後に、黒い渦に包まれてその姿を消した。







「「エースッ!!」」


縛から解放されたヘラクレス達は、消えたディオーネの方向を見続けるエースの元へと駆け寄った。それに気づいたエースは無言で振り向く。


「ありがとうございます、助かりました!」


「ああ、別に。戦士として当然のことやったまでだし」


ペルセウスの感謝の言葉に、エースはかなり素っ気なく応えた。その態度にペルセウスはちょっと気まずくなりもじもじしてしまう。

ペルセウスの様子を見兼ねたテセウスが、次にエースに話しかける。


「俺達、ずっとアンタのこと探していたんだ。なあ、俺達と一緒に戦ってくれないか?アンタがいれば心強く・・・」


「ごめん。今は、無理」


「なっ!?」


テセウスの懇願は一言でバッサリと切り捨てられた。こうもすぐに断るとは、予想外の返答だった。これにどう返していいか困っていると・・・、


「エースはもう少し調べたいことがあるんだって!」


いつの間にかエースの背後からピンク色の髪の少女が現れていた。その姿は掌サイズの背丈に美しい透けた羽を持つ、ルカと同じ妖精だった。

ヘラクレスの横にいたルカは驚いた表情でその少女を見た。


「ああっ、ダフネ!いつの間に・・・」


「ヤッホー!久しぶりだね、ルカ!!」


その妖精、ダフネはルカを見てニッコリと笑う。

ヘラクレス達はその名前を聞き思い出した、この妖精がルカからヒーローストーンを一個預かっていた子なのだと。エースの左手首を見ると、確かに黄色いベルトの自分達と同じ形のブレスレットが嵌められていた。


「それに、君も戦士になるなんて驚いちゃった!!」


そう言うダフネの視線はオデュッセウスに向けられていた。突然話しかけられたアスカはビックリし、恥ずかしそうに笑いながら視線を逸らす。

ダフネはどうやら社交的な女の子のようだ。そんなダフネを横目に微笑みを浮かべると、エースはまたヘラクレス達に向き直りこう語る。


「私は生憎、直接戦うよりも『情報戦』の方が得意なもんでね。まだまだ知らなきゃならないことがたくさんあるのさ。それに・・・」


ミネルヴァと目を合わせる。


「もうサターンのことは、大方ミネルヴァさんが知ってるようだしね。アンタの方から話しといてよ」


「・・・」


初めて会ってお互いのことを知らないとはいえ、エースの上から目線の言動にミネルヴァは少し驚いていた。


「ちょっ!?ミネルヴァ様にアンタ呼ばわりなんて・・・」


それを聞いていたルカは、ミネルヴァの機嫌が悪くなると思いエースに注意しようとする。しかし、エースはそれを完全に無視してヘラクレス達に背中を向けた。


「それじゃ、バイバイ。また会えるの楽しみにしてるよ・・・」


そう言うや否や、エースは背中の黒いマントで身体を覆い始める。


「えっ!?あっ、ちょっと!!」


ヘラクレスはエースを呼び止めようとしたが遅かった。

気づいた時には、エースは己を包んだ黒い布と共にスッと消え去っていた。




To be continued…

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