Act.1-5 一体~Resonance~

神聖戦士ヘラクレス

Act.1-5 一体〜Resonance〜

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「ヘラクレスパワーメタモルフォーゼッ!!!」


勇輝が叫ぶとヒーローストーンの白い光に包まれ、ソルジャーヘラクレスへと変身した。


「輝く勇気の戦士、ソルジャーヘラクレス!!勇気の力で勧善懲悪さ!!!」


ヘラクレスはミマスを指差し勝負を挑んだ。その姿を見たミマスは、ニヤリと笑みを浮かべ戦いができることへの喜びを示した。


「へへっ、やっとその気になったか、まとめて掛かって来な!!!」


ミマスは挑発するようにチョイチョイと手招きした。ヘラクレスはミマスを目掛けて走った。間合いを詰めて連続パンチで攻撃した。が、しかし、ミマスは余裕そうに目を瞑りながら全ての攻撃を無駄なく躱していく。


(くそっ、コイツ俺のこと完全に舐めきってる・・・)


ヘラクレスは攻撃が全く当たらないことに徐々に焦りと苛立ちを覚え始めた。一発でも当てようと攻撃のスピードを上げようとしたが、それに反比例してパンチはどんどん乱れたものになっていく。


「くそっ、これでも喰らえ!!」


ヘラクレスは右拳で全力のパンチを繰り出した。しかし、ミマスはアクロバティックな動きでそれをも難なく躱して距離をとった。渾身の力を込めたヘラクレスの攻撃は衝撃波となって壁に激突し、余程の威力から壁は衝撃波に沿ってガラガラと崩れていった。


「はあ、はあ・・・」


敵に傷一つ付けられていないにも関わらず、ヘラクレスは攻撃に力を使い果たしてしまい、何度も大きな深呼吸をした。


「おー、怖い怖い・・・」


ミマスは崩れた壁の瓦礫を見てそう呟いた。しかし、その口調からは全く恐れなど感じられず、むしろヘラクレスが滑稽だと言うように軽々しいものだった。


「じゃあ、今度は・・・俺様の番だなっ!!!」


そう言うや否や、今度はミマスがヘラクレスに攻撃を仕掛けてきた。連続パンチとキックの雨がヘラクレスに降り注ぐ。


(っ!速い・・・)


ミマスの攻撃は今まで戦ってきたモンスター達を遥かに凌駕するスピードと的確さだった。ヘラクレスは何とかしてそのスピードに追いついて反撃しようと試みたが、素早い攻撃の数々を防ぐので精一杯だった。


「オラオラ、どうした?防いでばっかりじゃ俺は倒せないぜ!!」


苦しい表情を浮かべるヘラクレスとは対照的に、ミマスは凄まじい攻撃を繰り返しても全く息切れしていなかった。そして、ヘラクレスが疲労で動きが鈍ったところで、ミマスの拳がヘラクレスの腹部に命中した。


「ぐっ・・・」


ヘラクレスは腹部の強い衝撃に何とか耐えて倒れはしなかった。しかし、ヘラクレスの防御の構えは完全に崩れてしまい、ミマスはここぞとばかりに身体のあらゆる場所にパンチやキックを喰らわせた。無抵抗で攻撃を受け続けるヘラクレスは、完全にミマスのサンドバックになっていた。攻撃に夢中なミマスの背後から大きな声が響いた。


「相手はヘラクレスだけではないぞ!」


戦士のピンチを前にミネルヴァが黙っているはずもなく、持っていた杖をかざした。すると、ミネルヴァの周りに白く光る無数の羽根が発生し、それは鋭く尖ってミマスの方向を向いた。


「フェザーアローッ!!!」


ミネルヴァの掛け声と共に、鋭い刃となった羽根がミマスに襲いかかる。


「チッ・・・」


ヘラクレスへの攻撃を楽しんでいたミマスだったが、邪魔が入ったことで不機嫌そうに舌打ちをし、ヘラクレスから離れてミネルヴァの攻撃を躱していった。

やっと攻撃の嵐から解放されたヘラクレスは、顔を俯かせ、両手両膝を床につけて噎せ返った。いくらか呼吸が落ち着くと、ヨロッと立ち上がりミマスを睨みつけた。


「これならどうだ!」


全身に傷を負いすでに疲労し切っていたヘラクレスであったが、このまま倒されては戦士としての面目が立たないと思った。両手を引いて構え、光のエネルギーを溜め始める。


「ブレイヴバーストッ!!!」


ヘラクレスは残っていた力を振り絞り、巨大な光線を放った。自分へ向かって放たれた光線を見たミマスの顔は、何故か笑っていた。


「ほう、面白いじゃねえか。俺もできるぜ!」


そう言うと、ミマスもヘラクレスと同じように両手を引いて構えた。両手の中心には炎の玉が現れ、それはますます大きさを増していく。そして両手を前に突き出すと、炎の玉は波動弾となって放たれた。


「タイタンブレイズッ!!!」


ミマスが放った炎の玉がヘラクレスの光線に向かって突き進んでいき衝突した。ぶつかった直後はお互いの技が拮抗していたが、次第に炎が光線を飲み込みヘラクレスへ向かっていく。


「なっ・・・!?」


今までモンスター達を倒してきた必殺技が、あっさりと打ち消されてしまった。あまりの衝撃に足が竦んでしまい、そのままヘラクレスも炎の玉に飲み込まれた。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


炎の玉が爆発し、ヘラクレスはそのまま遠くへ吹き飛ばされて床に突っ伏してしまった。ミネルヴァが叫ぶ。


「ヘラクレス!!」


「おっと、よそ見はいけねえなお嬢ちゃん!」


声がした方に振り向くと、先ほどまでヘラクレスの相手をしていたミマスがすでにミネルヴァのすぐ側まで間合いを詰めていた。そして今度はミネルヴァに向けて攻撃の数々を繰り出し始めた。


「ぐっ・・・」


素早さに自信のあるミネルヴァは、瞬時にミマスの攻撃を判断して華麗に躱していく。しかし、それでもヘラクレスと同じで反撃はできなかった。魔法で攻撃する以上、発動するまでの時間を稼ぐために距離を取らなければならない。それに加え、ミネルヴァは肉弾戦は得意ではなく、このまま躱し続けられるのは時間の問題だった。


(何とかして距離を取らなければ・・・、このままでは二人共コイツのいいようにされるだけだ)


ミネルヴァは焦りと悔しさに表情を歪ませ、望み薄なミマスの隙をひたすら窺うしかった。







日はとっくに沈み夜になっていた。ほとんどの生徒達が下校して静まり返った附属中だったが、外灯に照らされた校門に続く道をぞろぞろと歩く数人の集団があった。着ているジャージの背には「サッカー部」の文字がある。皆額や頬に汗を滴らせており、その集団の真ん中には譲治の姿があった。


「あー、今日はいつも以上に疲れたなあ。試合が近いとはいえ、いつもよりキツくなかったか?」


「練習メニュー見ても、アレは本気だな。中総体の前だし、頑張っていい結果出そうぜ」


厳しい練習の疲れから、ため息をしながら愚痴をこぼす部員の一人に、譲治は同情を示しながらもその部員の背中をポンと軽く叩いて励ました。すると、


「さっすが焔村センセッ!シュート期待してますよ!!」


横にいた別の部員が譲治の背後から腕を回してきた。譲治は何をされるかわかると急に青ざめた顔をし、その部員の腕を両手で掴んで解いた。


「ちょっ、よせっ!前勇輝にこれヤられて窒息寸前になったんだからなっ!!」


「あっ、ごめん。それはトラウマになるわな・・・」


ちょっとした悪ふざけをしながらガヤガヤと盛り上がりながら歩くと校門まで来た。譲治は他の部員とは帰り道が違うために集団から離れて一人だけ別の歩き始める。


「じゃあな焔村、また明日!」


「おう、じゃあな!」


校門前で別れの挨拶を済ませて一人寂しく歩いていると、背後から人が近く気配がした。譲治が気になって振り返ると、そこには手を振って近づいてくる碧の姿があった。


「焔村さん、お疲れ様です!今日はいつもより遅いんじゃないですか?」


「おお、水無月か。まあ、試合が近いからな。そういうアンタもだいぶ遅くまで学校にいたみたいだな」


「はい。私達文芸部もコンクールに向けて準備中なんですよ」


譲治と碧の家の方向は同じだったようで、二人は何気なく会話をしながら一緒に歩いた。


ブーッ、ブーッ、ブーッ


しかし、しばらくすると譲治のズボンのポケットから音が聞こえ、譲治がそのポケットの中に手を突っ込んで取り出すと、それがスマートフォンの音だとわかった。譲治は表示された電話の相手の名前を見て呟いた。


「・・・珍しいな、幸恵さんからか」


「・・・幸恵さん?」


碧は聞いたことのない名前を聞いてキョトンとしながら聞き返した。


「勇輝のお袋さんのこと」


不思議そうにしている碧に譲治は淡々と答えると、画面を操作して通話を開始した。


「もしもし?」


『もしもし、譲治君?突然申し訳ないんだけど、今勇輝と一緒にいたりする?』


「いや、今日は一緒じゃないんです。何かあったんですか?」


『帰りが遅いから本人に連絡してみようとしても繋がらないし、譲治君何か知らないかなって思って・・・』


「うーん。俺は部活動が長引いて今帰っているんですけど、勇輝も部活で遅いんじゃないですか?」


『それも考えて純君にも連絡してみたんだけど、部活はとっくに終わってみんな帰ったって言ってたし・・・。全くあの子ったらどこにいるのやら・・・』


「通知に気付いてないだけかもしれないですし、俺からも連絡してみますよ」


『ありがとう、お願いね』


譲治が幸恵との通話を終えて今度は勇輝に電話をかけようと再び画面を操作し始めると、隣でやりとりを聞いていた碧が心配そうに譲治に聞いた。


「大空さん、もうこんな暗いのにまだ家に帰ってないんですか!?まさか、誘拐!?・・・」


「うーん、それはまずあり得ないな」


「・・・?」


碧の心配とは対照的に、譲治はサラッと誘拐の可能性を否定した。碧は予想外の反応にちんぷんかんぷんだったが、譲治が苦笑いしながら続けて話した。


「アイツ小学生の時の不審者訓練で誘拐される子供役やったんだけど、馬鹿力で暴れまくったせいで不審者役が怪我したくらいだったからなあ。あー、懐かし。今なら、多分襲ってきたヤツ返り討ちだな」


「は、はあ・・・」


「まあ確率はゼロじゃないしな・・・。幸恵さんも心配してるし、早く連絡しないと」


そういうと譲治は勇輝へ向けて電話をかけた。しかし、しばらくしても勇輝が電話に出る気配はなく、仕方なく譲治は電話を切った。


「・・・ダメだ。全然連絡つかねえ、あいつ割と早く出るのになあ」


溜め息混じりに譲治がそう呟くと、二人の間に一瞬の沈黙が走った。


「・・・焔村さん。もしかしたら、一人でモンスターと戦ってるんじゃ・・・」


最初に口を開いたのは碧の方だった。譲治が見ると、普段は穏やかな碧だったが、今回はタダ事ではないと珍しく動揺を見せていた。


「・・・今俺もそう考えた。でも、そうだとしても場所がわからないな・・・」


譲治も碧と同じ考えだったが、周囲でモンスターが出現したなどという情報はない。ましてや何の騒動も・・・。確かめようにも動けない状況の中、帰路の向こうから聴き慣れた声が聞こえてきた。


「おーい、譲治、碧!!ちょうどよかった!!」


二人はその声の主を見た。ルカだった。ルカは速度を上げて二人に近づくと、よっぽど疲れたのかゼエゼエと深呼吸した。


「ルカ!!どうしたんだよ、こんな時間に・・・?」


意外な人物に譲治は驚いた。ルカに事情を聞こうとすると、俯いていたルカの顔が瞬時に上がり、その事情を喋り出した。


「ミ、ミネルヴァ様がパルテノンにまだ帰って来てないんだよ!!夕方には帰るって言ってたのにもう外真っ暗なんだもん、心配で飛び出して来たんだよ!!」


相当焦っているのか、かなりの早口だった。


「ミネルヴァ様が?どこに行ったのかわかんないのか?」


「譲治達と同じ中学校だよ。朝、碧が着てるのと同じ服着てたもん」


二人はルカの言葉を聞いて一瞬固まった。今なんて・・・?ミネルヴァ様が・・・学校!?


「えっ、ミネルヴァ様が学校に来てたんですか!?」


「・・・」


碧はミネルヴァが学校に来ていたということに驚いた。フクロウであるミネルヴァが街中の学校にいたら絶対に騒ぎにはなるだろうに・・・。そう思う碧だったが、譲治は違った。


(・・・フクロウが、制服を・・・)


ミネルヴァが学校に来ていたことよりも、フクロウが人間の服を着て歩き回っている姿を想像してしまった。


(・・・何考えてるんだろ俺)


しばらく黙り込んでいたが、変な想像は止そうと首を振った。


「あれ?そういえば、勇輝は今日一緒じゃないの?」


二人の反応をよそに、ルカが不意にそう尋ねた。今大変な状況であることを思い出した譲治は、ルカの質問で我に返って話し始めた。


「実は、俺達も今勇輝と全然連絡つかないところなんだ。もしかしたら、モンスターと戦ってるんじゃないか・・・と思ってたんだけど、それにしても手がかりが全然なくてな」


勇輝もミネルヴァと同じで行方不明であることを伝えると、ルカの不吉な予感が働いてルカは青ざめて悲鳴をあげた。


「・・・もしかしたら、ミネルヴァ様も一緒に・・・どうしよう!」


最悪の事態を想像してどうしたらいいかわからずにただ騒いでばかりのルカに、何か思いついた碧が声をかけた。


「なら、普段大空さんが通ってる道を辿ってみるのはどうですか?もし何かあったのなら、そこに手がかりがあるかもしれませんし・・・」


碧の言葉を聞いて、ルカはピタッと騒ぐのを止めた。すると、隣で聞いていた譲治も頷いて碧の意見に同調した。どうしようかとずっと騒いでいるよりも、手当たり次第可能性に賭ける方がずっとマシだと考えたのだ。


「・・・そうだな。よしっ、そうなればすぐ行こう!こっちだ!」


「あっ、譲治待ってよ〜!!」


譲治は勇輝と幼い頃からの親友、勇輝の通学路くらい知っている。譲治は急いで碧とルカを誘導し、電柱のライトがポツポツと照らす薄暗い住宅街の道を走って辿り始めた。

しばらく走っていると十字路が見えてきた。先導していた譲治は十字路に差し掛かるにつれて違和感を感じ、走る速度を落としてその十字路の真ん中で止まった。後からついて来た二人もその違和感に気付いて止まった。


「・・・なんか、ここら辺だけ空気が重いな・・・」


周囲とは異なる雰囲気を感じて譲治は辺りを見回したが、それ以外は何もなかった。ダメだったか、そう落胆しかけた時、碧が突然声を上げた。


「見て、焔村さん!ヒーローストーンが・・・」


碧が手首を見ると、ブレスレットをに嵌め込まれたヒーローストーンが水色の光を放っていた。それを見た譲治も自分の制服の左袖を巻くってみると、やはりヒーローストーンが赤色の光を放っていた。


「ヒーローストーンが光ってる・・・、じゃあやっぱりここで・・・」


鮮やかに光を放つヒーローストーンを前に、譲治と碧はこの場所で勇輝とミネルヴァに何かがあったに違いないと確信した。しかし、肝心の勇輝達と敵の姿はない。


「でも、勇輝もミネルヴァ様も、モンスターの姿もないよ!これじゃあ助けようにも助けられない・・・」


「くそっ、どうしたら・・・」


この場所に勇輝達がいると言わんばかりにその輝きを増すヒーローストーン。しかし、三人は成す術もなくただ悔しさを顔に滲ませ、噛み締めるしかなかった。







「おいおい、そんな調子じゃあの坊主と同じだぜ!」


「・・・っ」


攻撃の数々を躱していたミネルヴァだったが、次第に追い込まれ顔には疲れが現れ始めていた。その一方で、ミマスはまだまだ余裕を見せており、攻撃は衰えるどころか勢いを増しているようにも思えた。劣勢なこの状況を変えたいミネルヴァの頭の中で、何かが閃いた。


(・・・そうだ、怯ませられれば・・・)


すると、ミネルヴァは持っていた杖を攻撃に夢中なミマスに見えないように片手で構え、ミマス目掛けで振り下ろした。


「!」


突然の攻撃にミマスは咄嗟に身を引いた。チャンスと思ったミネルヴァは、そのまま杖を構え直しながら自分も距離を取るために身を引こうとした。しかし、ミマスはお見通しだった。


「させるかっ!」


ミマスは右足を高く蹴り上げた。ミネルヴァはこれを躱した・・・と思ったが、ミマスの狙いはミネルヴァではなかった。蹴りはギリギリのところで杖の柄に的中し、杖は蹴りの勢いでミネルヴァの手から離れて上に投げ出され、地面に転がってしまった。


「!?、しまった!・・・」


武器である杖を手放してしまい、拾いに行こうと杖の方に目をやった。


「だ〜か〜ら〜、よそ見はダメだって!」


ミマスは視線を逸らしたミネルヴァの隙をつき、体勢を低くして足払いした。ミネルヴァは足元を攻撃されたことで転んでしまいそうになる。体勢を崩したところで、ミマスがさらに畳み掛ける。


「タイタンブレイズッ!!!」


杖もなく、まともに受け身もできないミネルヴァにミマスの炎が玉が襲い掛かった。


「ぐわっ・・・」


ミネルヴァは吹き飛ばされ、その勢いのせいで床に身体を思いっきり引き摺らせてしまった。身体中に痛みが走る。


「くっ・・・」


ミネルヴァはすぐに立とうとしたが、すぐに体勢が崩れてしまいまた倒れてしまった。ミネルヴァが自分の足首を見ると、足払いの時についたのであろう、そこには大きな内出血の痕があった。炎攻撃もまともに受けたことで、身体中にも無数の傷があった。立てないでいるミネルヴァに、ミマスは不敵な笑みを浮かべながら歩いて近づいてきた。ミネルヴァはせめてもの抵抗でミマスを睨んだ。


「おいおい、そんな目するなよ〜。楽に死なせてやるからよ・・・」


そう言うと、ミマスは右の人差し指をミネルヴァに向けた。すると、人差し指の先が黒いオーラを帯び始める。


(!?、マズい、ミネルヴァ様がやられちゃう・・・)


遠くからその光景を見ていたヘラクレスは、何とかしてミネルヴァ助けなければと焦った。しかし、近づいて攻撃しに行くにも距離が離れすぎており、両手から光線を放つブレイヴバーストをしようにもパワーを溜める時間もない。悔しさがこみ上げ、右手を強く握りしめた。

とその瞬間、あることを思い出した。自分のパンチの衝撃波が走って壁が崩れた・・・。ヘラクレスは自分の右拳を見つめ、ある決心をした。


(一か八かだ、やるしかない・・・)


「バイバイ、お嬢ちゃん」


(くそっ・・・)


ミマスはオーラを集め終え、今まさにミネルヴァを消滅しようとしていた。ミネルヴァが諦めかけたその時、ヘラクレスの声が聞こえた。


「ミネルヴァ様から離れろ!!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


ヘラクレスは賭けに出た。右拳で床を思い切り殴りつけた。すると地面から大きな衝撃波が走り、それはミマスに向かって一直線に進んだ。


「うおっ!?」


突然のヘラクレスの攻撃にミマスはすぐに防御に入ろうとしたが、衝撃波の威力は凄まじく、防ぎ切れずにそのまま吹き飛ばされて背中から壁に激突し、その壁まで崩れ落ちて瓦礫が散乱した。


「ミネルヴァ様!」


ヘラクレスはミマスが吹き飛ばされた隙を見計らい、倒れていたミネルヴァのもとへ駆けつけた。手を差し伸べて立たせようとしたが、ミネルヴァの足首がかなり傷ついているのを見て止め、代わりに片膝立ちして側に寄った。ミネルヴァがヘラクレスの顔見つめる。


「すまないな、助かった」


ヘラクレスはミネルヴァに間近で見つめられ、一瞬照れ臭そうな表情で視線を逸らした。そして、自身もミネルヴァに顔を向け直すと、自分の胸の内を明かした。


「・・・ミネルヴァ様。俺、何となく答えが出ました。あなたが言っていた、自分の・・・戦い方。だから、後は俺に任せて下さい!!」


ヘラクレスの眼差しは、いつにも増して真剣だった。口元を見れば、自信に満ち溢れていると言わんばかりに笑っていた。ミネルヴァはヘラクレスの表情を見て少し驚いたが、すぐにフッと笑みを零した。


「・・・そうか、なら存分に発揮せよ!任せたぞ!」


「はい!」


ミネルヴァからの激励に、ヘラクレスは笑顔で応えた。


「・・・フフッ、やるじゃねえか・・・」


遠くから小さい瓦礫が転がる音と共に、声を押し殺した囁きが聞こえた。二人が見ると、吹き飛ばされた衝撃でしばらく動けなかったミマスがよろよろと起き上がっていた。


「何ゴチャゴチャ話してんだか知らねえが・・・」


顔は俯き、微かに見える口元は上がっていたが、声は明らかに先ほどの調子のよいトーンとはかけ離れていた。


「一回当てたくらいで・・・」


ミマスの顔が上がった。その瞳は、燃え盛る炎のような憤りの念が宿っていた。


「調子乗ってんじゃねえよっ!!」


怒りの表情を露わにしたミマスが、ヘラクレス目掛けて突進してきた。


(来る・・・)


ヘラクレスはミマスの攻撃を両腕で防ぎ、その反動でミマスを跳ね返した。ミマスは驚いたが、すぐに体勢を立て直してもう一度ヘラクレスに攻撃を仕掛けに行った。ミマスの連続パンチやキックがヘラクレスを襲うが、ヘラクレスは瞬時に見極めて次々と躱していく。ミマスは攻撃を躱されるたびにますます苛立ちを募らせ、その攻撃はどんどんがむしゃらなものへと変わっていく。


(さっきは相手のスピードに追いつこうとばかり考えてムキになってたけど、違う・・・。俺は俺なりの戦い方・・・)


ヘラクレスには、ミマスが怒りに飲み込まれて冷静さを徐々に失っているのがわかった。そして、ヘラクレスは突然ミマスの拳を左手で受け止めて捕まえた。


「何っ!?」


ミマスは予想もしなかったことに怯んでしまった。


(技一つ一つのパワーで戦えばいいんだ!!!)


ヘラクレスはその一瞬の隙を見逃さなかった。


「これが俺の力だ!!!」


ヘラクレスがそう叫んだ途端、右手のブレスレットのヒーローストーンが眩い白い光を放った。







「何だ!?光がどんどん大きくなってるぞ!?」


時を同じくして、譲治と碧のヒーローストーンの光が増していた。その光はその場にいる三人を包み込む。


「「!!!」」


三人はあまりの眩しさに目を閉じてしまった。ようやく光が治まり、目を開けると譲治と碧はすでにテセウスとペルセウスに変身していた。それだけではなく、周囲の景色は先ほどまでいた十字路ではなく知らない暗い空間だった。


「もしかしたら、ヒーローストーンが反応して大空さんがいる場所にテレポートしたんじゃ・・・」


辺りを見回すと、少し離れたところにヘラクレスがいた。そのヘラクレスは、右拳で攻撃に夢中でガラ空きになっていたミマスの腹部目掛けて強烈なパンチを喰らわせていた。


「ぐあっ・・・」


ミマスは成す術もなくヘラクレスの全力のパンチを諸に受けてしまい、再び倒れ込んでしまった。


「ヘラクレス・・・」


テセウスとペルセウスは敵が明らかにヘラクレスに苦戦していることはわかったたが、ヘラクレスも身体中に無数の傷を負っていた。今回の敵はかなりの強敵であることを悟る。


「あっ、ミネルヴァ様!大丈夫ですか!?」


ルカがそう叫んだので、テセウスとペルセウスはルカと同じ方向を見る。視線の先には苦しそうな表情で座り込んでいるの白髪の少女、ミネルヴァの姿があった。


「「あの人が、ミネルヴァ様!?」」


「そのことについては後で話すから、来て二人共!」


テセウスとペルセウスはミネルヴァが人間の姿になっていることに驚いたが、今はそれどころではないと、ミネルヴァのもとへ向かった。近づいてみると、ミネルヴァが足首を痛めて立てないでいることがわかった。


「ちょっと待ってて下さい、応急処置をします。ヒーリング!」


ペルセウスがそう言ってミネルヴァの足首に手をかざした。すると足首の内出血がみるみるうちに消えていき、完全に痕がなくなると、ミネルヴァは何とか立てるようになった。


「・・・すまない、心配をかけた」


ミネルヴァは三人に向かって礼を言った。


「いいんですよ。それよりも、あの敵は・・・」


テセウスは、怒りの形相でヘラクレスを睨みつけながら立ち上がるミマスに視線をやる。


「アイツはタイタン族のミマスだ。私としたことが、ミマスのいいようにされてしまった・・・」


「タイタン族・・・、やっぱりモンスター族とは違うって訳か」


テセウスが唇を噛み締める。すると、隣にいたペルセウスがヘラクレスの異変に気付いた。


「見て下さい!ヘラクレスのヒーローストーンが・・・」


ペルセウスの言う通り、ヘラクレスのヒーローストーンはまだ白い光を放っていた。すると突然、その光はヒーローストーンから離れてヘラクレスの前である形を成した。ヘラクレスが両手を光の前に出す。


「・・・あれは、まさか・・・」


ミネルヴァがそう呟くと光は剣となり、ヘラクレスはそれを受け止めた。鋭い刃は白銀に輝き、鍔の真ん中には星型の白い宝石が飾られている。


「なっ、あれは古代戦士の剣!・・・」


起き上がったミマスも、目の前の光景に思わず目を丸くしていた。すると、遠くから見ていたミネルヴァがヘラクレスに向かって咄嗟に叫ぶ。


「ヘラクレス、それは古代戦士と一体となった証『ハーキュリーズソード』!その力を使え!!!」


ヘラクレスはミネルヴァと目を合わせていなかったが、コクッと大きく頷き、その剣ハーキュリーズソードを両手で持ち直して構えた。


「勇気の剣ハーキュリーズソードよ、俺に力を!!」


ヘラクレスがそう叫ぶと、いくつもの光が鍔の宝石に集まり、ハーキュリーズソードの刃が白い光を纏い始めた。輝く刃は次第に大きくなっていき、ヘラクレスは上に大きく振りかぶった。


「勇気の光よ、闇を切り裂け!!ハーキュリーズバスターッ!!!」


ヘラクレスが剣を振り、巨大な刃が地面を一直線に駆け抜ける。ミマスは何とかして躱そうと試みたが、深傷を負った身体が言うことを聞かない。


「・・・くそっ!」


ここまでか・・・。ミマスがそう思った時だった。







ミマス、迎えに来たよ・・・







「!?、あっ、待て!!」


ヘラクレスが気づいた時には遅かった。ヘラクレスが放った衝撃波が当たる前に、ミマスは姿を消してしまった。







「・・・はあ」


時刻は夜の8時半を過ぎていた。リビングの椅子にただ一人座っていた幸恵は、テーブルに両肘をついて目の前にある一人分の食事をボーッと見つめている。少し前に夫の晃と娘の知奈美に先に夕食を済まさせたところでようやく息子の方からメールが来て、幸恵は「後は自分に任せて」と二人を自室に行かせ、一人寂しく勇輝を待っていたのだ。

しばらくすると、カチャッと玄関のドアが開く音が聞こえ、幸恵は小走りに玄関へ向かうと、勇輝がポツリと立っていた。


「・・・勇輝!!」


「た、ただいま・・・」


申し訳なさそうに勇輝が苦笑いしていると、幸恵の顔は今まで見たことのないような鬼の形相へと変化し、大声で勇輝を叱りつけた。


「今までどこほっつき歩いていたの!電話しても全然出ないし、もう少しで警察呼ぶところだったのよ!!」


「・・・」


世界を破壊しようとしている奴らと戦ってて帰りが遅くなった・・・、なんて言い訳できるはずがなかった。ごまかしで嘘を使うのも億劫に思えた勇輝は、ただ黙って一方的に叱られるしかなかった。


「この前の背中の怪我の時もそうだけど、アンタ最近他人に心配ばかりかけさせて!もう中二なんだから、少しは周りのことも考えなさいよ!!」


みんなを守るためにやっていることなのに・・・。いくつもの傷を受けながら必死に戦った結果は、感謝などではなく戒めだった。戦士の使命とはいえ、自分の行いのせいで咎められ言い訳すらできない理不尽さに、勇輝は思わず涙が零れそうになる。


「・・・ごめんなさ」


泣きそうなのを押し殺し、枯れた声でポツリと謝ろうとした、その時、


「すみません!私のせいなんです!!」


突然後ろから声が聞こえ、振り向くとペコペコと必死に謝るミネルヴァ、いや制服姿のさやかがいた。


「!?、あなたは・・・」


「さ、さやか!?なんでここに!?」


さやかはミマスとの戦いの後、譲治や碧、ルカと一緒に勇輝とは別れたはずだった。まさか付いて来ているなんて、今まで気づかなくて勇輝は驚いたが、それよりも何のためにさやかが自分の家まで来たのかがわからなかった。すると、さやかは顔を上げて幸恵に訳を話し始めた。


「私、神山区に引っ越して来たばかりで全然この地区のこと知らなくて・・・。それで部活が一緒の勇輝君に頼んで案内してもらったら、こんな時間まで付き合わせちゃったんです。だから、勇輝君を責めないでください!!」


もちろんこれはごまかしの嘘であったが、それにしても普段は見せないその必死な話し方から、さやかが本気で訳を話してくれているのだとわかった。


(・・・ミネルヴァ様、俺を庇うために・・・)


勇輝はさやかが自分のことを庇うために付いて来てくれたと気づき、ドキッとして思わず顔を赤らめた。

さやかが訳を話し終わると、黙って聞いていた幸恵の顔は和らいで元通りになった。ふうっと溜め息をついて一呼吸置くと、改めてさやかの方を向いた。


「・・・そうなの。さやかちゃん、勇輝を庇いたい気持ちはわかったわ。でも、これは私と勇輝の問題だから」


そう言うと、再び勇輝の方に視線をやった。


「勇輝」


また怒られる・・・。そう思った勇輝は、目を瞑って再び責め立てられる覚悟をした。しかし、幸恵はただ勇輝の肩を軽くポンッと叩くだけだった。不思議に思って勇輝が目を開けると、幸恵は微笑んでいた。


「お帰りなさい、無事でよかったわ」


「・・・母さん」


「無事でよかった」、こんな言葉母親から言われるのは何年ぶりだろうか。思わずはにかんでしまう。


「これからは遅くなるならちゃんと連絡しなさいよ、わかったわね」


「・・・気をつけるよ」


勇輝と幸恵は笑顔だった。もう先程の重い雰囲気が嘘だったかのように、そこは親子の愛と絆で満ち溢れていた。


(・・・いい母親を持ったな)


勇輝には、我が子のことを心から心配し、そして愛してくれる母親がいることを間近で知ったさやかも、安心して思わず笑みが零れた。


「それから、さやかちゃん」


「は、はい!」


このままひっそりと帰ろうとしたさやかだったが、いきなり名前を呼ばれてびっくりして返事をした。何を言われるのだろうと不思議に思うさやかに、幸恵はニコッとしながら語りかける。


「剣道部に入部したって言ってたわよね?勇輝おっちょこちょいだから、これから仲良くしてやって、よろしくね!」


仲良くしてねという思わぬ幸恵からの言葉に、あまり他人とは馴れ合わないタイプのさやかは少々照れ臭くなったが、


「・・・はい!」


顔を上げて満面の笑みで応えた。


「さあ、もう暗いからさやかちゃん家も心配してるでしょう。もう帰りなさい」


「ええ、それでは失礼しました」


さやかは別れの挨拶を済ませると、一瞬勇輝の方を見た。勇輝がさやかからの視線に気づいて振り向くと、


「じゃあ、また明日」


さやかは微笑みながらそういって去っていった。勇輝はしばらくさやかの後を目で追っていたが、姿が完全に夜の闇の中へ消えていったのを確認したと同時に、背後から幸恵に頭をわしゃわしゃと荒く撫でられた。


「ほら、勇輝もお腹減ったでしょ?早く手洗いとうがいしてきて」


そう言うと幸恵は先にリビングの方へ戻っていってしまった。


「・・・うん」


一人残された勇輝は、そっと靴を脱いで洗面所へと向かっていった。




To be continued…

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