Act.1-2 情熱~Theseus~
神聖戦士ヘラクレス
Act.1-2 情熱〜Theseus〜
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「あーあ、今日から普通の学校生活が始まるのか……」
ハアッとそう呟きながら、勇輝は通学路をトボトボと歩いていた。
昨日は始業式と新入生の入学式であったため午前中で授業が終了したが、今日からは午後まで授業はみっちり。さらにいえば、勇輝の所属する部活は今日から活動を始める。
「まあ、いつもの日常が始まるだけだし?また今日から一日頑張り———」
「おーい、勇輝!何処行くの?」
“いつもの日常”なんて呑気に独り言を言っていると、そんな言葉とは対照的な存在———ルカがニコニコしながら飛んできた。
「ル、ルカ!?どうしてここに……?」
勇輝は最初ルカがいきなり現れたことに軽く驚いたが、それと同時に心の底から別の感情が沸々と湧き上がってくるのが分かった。その感情に遂に耐えられなくなった勇輝は、思い切り胸の内を吐き出す———
「ルカ!あのな〜、何で昨日いきなりいなくなるんだよ!?『話は後で』なんて言っといてどっか行っちゃうし、起こったことの整理がつかなくて大変だったんだぞ!!」
勇輝は少し不満げな表情で横に並ぶルカに迫った。
ルカは勇輝の顔を見てハハハと苦笑いしつつ、両手を合わせてペコペコと軽く謝る。
「あー、ごめんごめん……ちょっと急用ができちゃってね」
「ったくも〜……」
勇輝はルカの呑気っぷりに不満から呆れた表情に変化する。
「で、昨日の怪物とか俺の変身とか……一体何だったんだよ?」
勇輝はルカにそう聞くと、ルカは一瞬黙り込んでしまう。ルカの様子を勇輝は不思議そうに見つめたが、ちょっとしてルカの口が開いた。
「……あんまり詳しくは分からない、僕は『戦士』を探せってしか言われてないから……」
「分からない?」
勇輝はルカの意外な返答に思わず聞き返すと、ルカは言葉を続けた。
「怪物に関しては、あの怪物の名前が『セイレーン』だってことくらい。真の敵が何なのかは全然知らない。戦士のことは……」
ルカは肩にかけたバッグを軽く叩きながら言う。
「この『ヒーローストーン』に反応して覚醒した人間が戦士に変身できるんだ。でも、誰が戦士になれるのか、いつ覚醒するのかは分からない。全くアテがないんだよ。だから、勇輝を見つけ出したのは本当に奇跡だったんだ……」
「…………」
勇輝は詳しい話が聞けなくて疑念は完全には解けなかったが、ルカが真剣に、そして少し困惑した表情で話すのを見て、ルカが本当に一部しか知らないのだと悟った。勇輝はこれ以上聞き出す気がなくなってしまった。
すると、今度はルカが勇輝に迫ってきた。
「だからさ、なるべく狭い範囲でたくさんの人がいるところに行きたいんだ!勇輝、どっかいいとこない?」
いきなりルカが目と鼻の先まで迫ってきて勇輝は一瞬驚いたが、ルカが至って真面目な様子で聞いているのが分かると少し考え込んだ。
「んー、うちの学校でよければ連れて行こうか?年齢層偏るけど、結構人はいると思うよ」
「本当に!?そこに行く、案内して!!」
ルカは期待に目をキラキラ光らせた。勇輝の方もルカが行く気満々なのを悟ると、人差し指でチョイチョイと背負った通学カバンのファスナーを指した。
「じゃあ、早々見つかっちゃマズいから俺のカバンの中に入って。そこにファスナーあるだろ?」
「はいは〜い!」
ルカは勇輝に誘導されてカバンに近づき、ファスナーを開けてその中に入ろうとした。
「……ん?」
ルカがカバンに入ろうとしている間、勇輝がふと顔を上げると、少し前方に同じ制服を着た赤毛の少年が歩いていた。
(あれは、もしかして……)
勇輝はニヤッと笑みを浮かべると、その少年の方へ向かって走り出した。
「ちょっ、待って勇輝!まだカバンの中に入ってないって!」
カバンにまだ入っていないルカは勇輝が急に走り出したために驚き、置いて行かれないように必死になってカバンの口を掴みながら風に煽られていた。
勇輝は一気にその少年の背後まで近づくと、自分の片腕を少年の肩、と言うよりは首に回して自分の方にくいっと引き寄せた。
「譲治!!おっはよ〜!!!」
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「あー、譲治。ごめんって。そんな強くしたつもりないんだけど……」
謝る勇輝の視線の先には先程の赤毛の少年、焔村譲治の姿があった。譲治は勇輝のおふざけにしては余りにも強い力で首を締め付けられたために、電柱に手をつけ、下を向いて盛大にむせていた。
「ゲホッ、ゲホッ……はあ、窒息するところだった。ったく、とんでもない怪力だよお前は」
「ハハハハ……」
咳が落ち着きまともに呼吸ができるようになると、譲治が勇輝の方に振り向き少しキツい表情で睨む。勇輝はその本気の表情が苦笑いをしたが、ちょっとピリピリした空気を変えるために話題を切り替える。
「あっ、そうだ!譲治、昨日学校にいなかったよね?何かあったの?」
昨日は始業式であったが、同じクラスにいるはずの譲治の姿がなかった。勇輝はそれを思い出して譲治に聞いたのだ。
「ああ、そうそう。本当は出席できるはずだったんだけど、サッカーの試合が天気悪くなって延期になってさ……。一日遅くなったんだ」
譲治は中学校のサッカー部に所属している。ちなみにポジションはFWで、背番号10を貰っているほどのエースストライカーである。
「へえ、始業前まで試合入ってるとか大変だね。じゃあ、今日は部活休みとか?」
「いや。今回の試合は都の選抜メンバーで出た試合だから部活と関係ないんだ。だから、今日はグラウンドで普通に練習だ」
「ふええ、お疲れ様だなあ……」
「そう言うお前こそ、今日部活だろ?」
「まあね」
そんなこんなあった二人であったが、その表情はもう友人と過ごす楽しさで明るくなっていた。たわいもない会話を楽しみながら、勇輝と譲治の二人は学校へ向かって歩みを進めていった。
「……勇輝、僕のこと忘れてない、よね……?」
一方、勇輝のカバンの中にやっとの事で入ったルカは、こんなことを呟きながらカバンの中で仰向けになって目を回していた。
譲治、ちょっと先教室行ってて!俺ちょっと寄りたい場所あるからさ!」
学校に着くと勇輝はそそくさと譲治と別れた。そして、人気のない場所に移動し適当な空き教室を見つけると、そこに入ってカバンを開けた。
「勇輝、着いたの?出て大丈夫?」
ルカがカバンからひょこっと顔を出して辺りを見回す。勇輝以外誰もいないことを確認すると、ルカは羽を使ってふわふわと浮き始める。勇輝はルカがこちらを見たタイミングでそっと念を押し始めた。
「いいか、ルカ。戦士を探すのはいいけど、あからさまに人前に出るなよ〜。特に虫嫌いな女子の前とか……、見つかったら学校中大騒ぎになるからな……」
「分かってるよ、っていうか僕は虫じゃない!」
勇輝の忠告を肝に銘じたものの”虫”という言葉にちょっと苛立ったルカは、頬を膨らませて不満そうに応えた。
少しのやり取りを終えると、そろそろだと勇輝が合図し空き教室の窓を開ける。それに応じ、ルカは窓の外へ出た。
「じゃあ俺昼休みに屋上に出るから、12時半くらいになったら一旦集合な」
「了解、じゃあまた後で!」
ルカはわざとらしくビシッと敬礼し、校舎の上空をめがけて飛んで行った。
勇輝はルカを見送るとさっさと窓を閉め、床に置いていたカバンのファスナーを閉めると自分の肩に担いだ。
「よしっ!ルカも大変そうだし、俺も俺で授業頑張るか……」
勇輝がそう呟いたその時だった。空き教室の前の廊下から一瞬カタッという物音がしたのだ。勇輝は驚いて廊下の方を振り向いたが、音の正体を捕らえることはできなかった。
(……ここあんまり人が来る場所じゃないし、気のせいか!)
少し気になったものの気のせいだと割り切った勇輝は、さっさと空き教室を後にした。
「…………」
自身の教室に戻ろうと廊下を歩く勇輝、その後ろ姿を廊下の影から覗く人物がいた。
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現在時刻は11時50分。お昼休み前の最後の授業、4時間目の最中である。勇輝達のクラスの4時間目は体育で、今は体力測定の種目の一つである握力を測るために勇輝は純とペアを組んでいた。
「ええっと、純ちゃんの左握力は35.0キロ。よし、じゃあ今度は俺の番!」
純の記録を測り終わった勇輝は、今度は自分の番だと意気込んで握力計を握ろうとした。しかし、勇輝の動きに気づいた純が慌てて制止する。
「待って勇輝!勇輝は別ってさっき言われたでしょ!!」
「あ、そっか……。あはは、流れでやりそうになっちゃったよ」
勇輝は純のかなり焦った表情を見て苦笑いした。
「でも勇輝、別で測るのは去年握力計のキャパオーバーでエラー出したからでしょ?何キロあったの?」
「ええっと、確か95キロくらい……だったかな?」
「95キロ!?どんなトレーニングしてんの!?」
「いやぁ。よくわかんないけど、生まれつき握力とか腕力が異様に強いんだよね……」
勇輝は運動部に所属しているため、大抵の運動種目は平均よりは上のまあまあ良い成績を出す。しかし、握力だけは別。勇輝は幼い頃から腕の力が異常に強くコントロールもあまり上手くいかないため、ある種のコンプレックスとして勇輝の悩みのタネとなっていた。今は友人達がそれを長所として褒めてくれるために、以前よりも悩むことは少なくなったのだが……。
(あーあ、この調子じゃ来年もまた測り直しだろうなあ……)
そう思いながら、勇輝は結果を記録できないまま自分の体力測定表を眺めていた。
キーンコーンカーンコーン
4時間目終了のチャイムがなり授業の挨拶が終わると、生徒達は体育館から一斉に飛び出す。5時間目が始まるまで皆は昼食をとったり部活の昼練に行ったりと各々昼休みを過ごす。
「じゃあ僕生徒会の仕事があるから、また後で」
「オッケー、頑張って!」
勇輝はいつもならこの時間純と弁当を食べるが、今日は純は生徒会の仕事で忙しいらしく珍しくフリーになった。
(純ちゃんには悪いけど、今日に関してはラッキー!)
勇輝は弁当を持って、ルカとの待ち合わせ場所である屋上テラスに向かった。
今日は風が少し冷たいためか、いつも数人の生徒はいる屋上テラスも誰もいなかった。しかし、勇輝にとってそれは好都合であるし、このことを見越して勇輝はこの場所を選んでいたのだ。
「よかった。予想通り誰もいない」
勇輝はホッとするとテラスのベンチに腰掛け、ルカが来るまでの間と弁当を広げて食べ始めた。
しばらくすると、約束通りルカが帰ってきた。
「勇輝……」
「ああ、ルカおかえ……りっ!?ちょっと、どうしたの!?」
勇輝はルカの方を向いたと同時に驚いた。ルカは両目を見開きながらぜえぜえと息を切らし、まるで何か怖い目にあったような姿をしていたのだ。
「はあ、はあ……この学校広すぎでしょ……。こんなに疲れたのは久しぶりだよ」
ルカは苦しい息の中でそう呟いた。背中の羽も元気なさそうにヘナヘナと萎れていて、本人が言う通り相当疲れていることが容易に分かる。
ルカは勇輝の隣に座ったと思ったら、ため息をつきながらバタンと仰向けになって倒れた。
「ほらルカ、お茶でも飲んで落ち着いたら?」
勇輝は水筒のカップ状の蓋にお茶を注いでルカに渡すと、ルカは自分の体に対しては大きすぎるそのカップをヒョイっと難なく持って一気にお茶を飲み干した。
少ししてルカが落ち着いたのを見ると、勇輝が話を始めた。
「ルカ、なんか進展でもあった?『覚醒』だかなんだかって……」
「いや、全然。というか、年齢層偏るとは聞いてたけど、僕が探した場所勇輝より年下そうな人達ばっかりだよ!!」
ルカの発言に一瞬キョトンとした勇輝であったが、ある程度推測がついてルカに聞いてみた。
「……ルカ、もしかして附属小の方しか探索してないの?」
「”ふぞくしょう”?何それ?」
知らない単語を聞いたルカは、キョトンとした目で勇輝を見る。
「ここの敷地には小学校と中学校の二つの建物があるんだ。今いるのは中学校の方だけど、ルカが探索したのは俺らより年下の子達が通う学校だよ。昔、俺もあそこに通ってたんだ」
勇輝が通う学校は都内にある「公立神山大学」の附属中学校で、附属小学校と同じ敷地内に設立されている。勇輝と譲治、純は以前附属小に通っていた身であり、勇輝の妹の知奈美も現在附属小の5年生である。
「ええ、もう一つ探さないといけないの?あそこ結構広いし人も多かったのに……」
「ちなみに、附属中にも外部からの入学試験がある関係上、附属中の方が生徒の数多いから!頑張って!!」
困り顔のルカに、勇輝が悪戯に少しニヤニヤしながら囁いた。その時だった———
「おい」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
まさか人が来るとは思わなかった勇輝は、驚いてビクッと跳ね上がった。そして、ゆっくりと振り返ってその声の主の姿を確かめた。
「じょ、譲治!?」
勇輝は思わず裏返った声が出た。
そして、驚いているのは勇輝だけではなかった。
(ゲッ……!?隠れなきゃ!)
他の人間の存在に気づいたルカも、見つからないように瞬時にベンチの下に隠れた。
譲治は勇輝の方へとゆっくり近づき、そしてそのまま勇輝の隣に腰掛けた。予想外の人物に勇輝は少々パニックになり、慌てて会話をしようと試みる。
「譲治、この時間に屋上来るなんて珍しいね。サッカーの昼練は今日休み?ご飯もう食べた?ええっと、あとあと……」
勇輝は適当に話す間にどうにかして落ち着こうとしたが、言葉を切らさないように話題を次々に出そうとした結果ますます頭がこんがらがってしまった。一方で、譲治はというと勇輝の話に乗る様子もなく、ただ無言のまま勇輝をジーッと見つめているだけであった。
(もう!譲治のヤツ、少しは会話してくれよ〜!!)
勇輝は一方的に只管喋っている自分が恥ずかしく、段々と顔が赤くなっていく。すると、その様子を見兼ねたのか、ずっと閉ざされていた譲治の口が開いた。
「……勇輝」
「あっ、何?」
「お前、なんか隠してる?」
「……えっ?」
いきなり図星を突かれてしまい、拍子抜けた声が出たのを最後に勇輝の口が止まってしまった。そしてそれに代わり、今度は譲治が勇輝に一方的に話し始める。
「お前、今朝空き教室で誰と話してたんだ?俺には全然相手の姿が見えなかったんだが……。それに、『見つかったら大騒ぎ』とか一体何があったんだよ?」
((やっば、今朝の会話聞かれてたのかよ……))
直接言われている勇輝も、ベンチの下で聞いているルカも、今朝の話を盗み聞きされていたことを知って冷や汗をかき始めた。
「なっ、何のことかなあ……」
勇輝は目を少し逸らしながら咄嗟にトボけたが、その様子から図星であることを悟った譲治はさらに勇輝に詰め寄る。
「お前独り言はよく言うけど、それならあんな場所でコソコソやる必要ないし、聞く限りあれは明らかに会話だった。隠しても無駄だぞ」
「えっ、あっ……」
勇輝は譲治の真剣な表情を目の前に、もう誤魔化すことはできなかった。
「おい、なんか言えよ」
完全に言葉が詰まってしまった。もうダメだ……勇輝がそう思った、その時だった。
キーンコーンカーンコーン
午後の始業5分前のチャイムが鳴った。勇輝はそれを聞き逃さなかった。
「あっ、もう5分前だ!譲治教室戻らなきゃ、先行ってるよ!」
譲治から逃げる糸口を見つけた勇輝は慌てて弁当を片付けると、教室に戻ろうと猛スピードで走り出した。
「あっ、待てよ!」
譲治は逃げる勇輝を捕まえようと思ったが、あまりにも勇輝の走るスピードが早かったためにすぐに諦めた。そして、呆れたように深い溜息を吐くと、譲治は歩いて屋上を去っていった。
「勇輝は勇輝で大変なんだなあ……」
ルカはベンチの下に隠れながら、慌てて走り去る勇輝を見送った。
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結局午後の授業が全て終わってからも勇輝は譲治を上手くかわし、再び問い詰められることはなかった。授業の後は放課後の部活動が始まる。二人の部活動は別々なので顔を合わすタイミングがない。勇輝はとりあえず今日1日凌いだだけでもよかったとホッとし、活動場所である武道館へ向かった。
「「……面!面!面!」」
勇輝は剣道部に所属している。小学生の頃から始めていて、附属中剣道部の中では実力がある方で一軍のメンバーに先輩に混じっている。ちなみに、純も剣道部員で、附属小時代からのチームメイトである。
今は準備運動の一環である素振りの練習中で、武道館には剣道部員達の気合の入った掛け声が響き渡る。素振りをはじめ全ての準備運動が終了すると、部員達は学年順に正座して自分の防具をつけ始める。
(そういや、ルカと待ち合わせ場所決め損ねたなあ……。一人じゃまだ不安だし、今日に限って怪物出なきゃいいけど)
勇輝が防具を身につけながらふとそう思った、その時———
ズッドーンッ!
いきなり大きな振動が起こり、それに伴い武道館もグラグラと大きく揺れた。
「何だ?地震か?」
部員達は口々にそう言いながら防具を着用する手を止めた。しばらくすると振動が治ったので再び防具に手をかけようとしたが……、
ズッドーンッ!
再度不可解な振動が起こった。それと同時に外の方から生徒達の複数の悲鳴とドタバタと走る足音が聞こえてきて、武道館の扉が勢いよく開かれた。
「おい、大変だ!校庭に斧持ったデカい牛みたいなのが出て地震起こしてるんだよ!」
剣道部員達は扉の方を見ると、いつもは外で活動をしているはずの野球部員の一人が焦った表情で立っていた。
「牛みたいなの……?冗談言うなよ、確かに揺れはあったけどさ……」
「大体、牛が斧持てる訳ないじゃん!」
現場を見ていない剣道部員達は、その野球部員の言葉があまりにも現実離れしていたために到底信じることができなかった。焦る野球部員とは対照的に、その発言を小馬鹿にするような口調で余裕そうな態度を取ったままであった。
しかし、勇輝は違った。
(それって、まさか……)
勇輝は恐れていたこと、敵が襲来したのだと理解したと同時に、ある感情が込み上げてきた。
勇輝は昨日のように戦えるかどうか不安だった。つい昨日自分の力のことや敵のこと、その他様々なことも十分理解できないまま、勇輝はソルジャーヘラクレス、つまり世界を守る戦士となってしまったのだから。
しかし、世界の平和を脅かす敵と戦うのが自分の役目、そして、まだ戦士が自分しかいない以上すぐに行かなければならない……。そう心に聞かせ、勇輝は覚悟を決めて立ち上がった。
「先輩、ちょっと外見てきます!」
そう言いながら勇輝は野球部員の横を通って猛ダッシュし、武道館を飛び出た。
「ちょっと、勇輝!?」
「おっ、おい!大空待て!」
純や他の部員達は勇輝の咄嗟の行動に驚き止めようとしたが、気付いた時にはもう姿はなかった。
「「緊急事態発生、緊急事態発生。生徒達は全員校庭から離れ、近くの教員の指示に従って避難しなさい……」」
異変を察知した学校は、緊急用の放送で生徒達の避難を促していた。それに反応して、生徒達は各々校庭から離れるように避難していた。
「チッ、一体何が起きてんだよ……」
外でサッカー部の活動をしていた譲治も、生徒の波に飲まれながら避難のため校舎に向かおうとしていた。突然のこと、というよりは現実的にあり得ない現象に脳内の整理がつかず、譲治は舌打ちをし少し戸惑いを見せていた。
その時、一人の影が譲治の横を勢いよく通り過ぎていった。その影は放送の注意があるにも関わらず校庭の方角へと向かっている。譲治が驚いて振り返ってみると、胴などの防具を着けたままの、紺色の剣道着を着た見覚えのある生徒が周りのことなど御構い無しに走っていた。
「……勇輝?」
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「ねえ。校庭の方、なんか突然地震みたいなの起きてヤバいらしいよ」
「そうそう。校庭の運動部で怪我してる人も出てるらしいし、ウチら文化部は不幸中の幸いね」
主に校舎内で活動している吹奏楽部や美術部などの文化部の生徒達も緊急放送で避難を促され、運動部の生徒達よりも一足先に各々帰路に向かおうとしていた。
「今日はやけに騒がしいなあ……」
緊急事態で動揺している生徒達の中に、青みがかった黒髪をなびかせ、呑気に本を読みながら校門に向かって歩く少女がいた。騒がしい周囲なんて気にせずに本に没頭し、あっという間に読み終えて顔を上げた瞬間———
「やっば、勇輝待ってて!」
小さい影が校舎側へ向かって少女の横を勢いよく通り過ぎていった。明らかに人間の大きさでないものが喋ったような気がした……そう思って少女が振り返ると、すぐにその正体は視界から消えたが一瞬だけ姿を捉えることができた。
「……今のは?」
少女の目には異様なものが映った。
見た目は顔と同じ大きさの人間であるが、その背中には確かに昆虫のような羽が生えていた。そして、その羽が帯びていた淡い虹色の、何とも形容し難い美しい光沢が彼女の脳裏に焼き付いていた。
「……妖精だ」
目に映ったものを思い返した彼女はそっと呟いた。彼女は自分が思い浮かべ咄嗟に口にした言葉を疑うことなく、その興味は完全にあの光沢に囚われてしまった。
「あっちの方に何かあるのかな……?」
そう呟きながら、先程の”異様なもの”が行ったであろう方向に導かれるように、そしてもう捉えられないはずの羽の光沢を追いかけるように足を進め始めた。
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「ククク、ここら辺から妖精のニオイがプンプンするなあ……。テルクシノエはヘマしたが、俺様は戦士もろとも捻り潰してやる!」
校庭には、勢いよく地面を踏みつけて振動を起こす牛の頭を持った巨体の怪物の姿があった。怯え騒ぎながら逃げていく生徒達を追いかける気配はなく、自分の前に現れるであろう戦士を待ち構えていたのだった。
生徒達も消え地響きだけが響き渡る校庭であったが、その時一つの声が高らかに響き渡った。
「ヘラクレスパワーメタモルフォーゼ!!!」
その声に怪物は直様反応し、ニヤッと笑みを浮かべた。
「おっ、やっとお目当てが来たか……」
怪物が声のした方向を見ると、白いマントを翻した一人の戦士、ソルジャーヘラクレスが立っていた。
「輝く勇気の戦士、ソルジャーヘラクレス!!学校を襲ってみんなの部活動の邪魔をするなんて許さない、勇気の力で勧善懲悪さ!!!」
ヘラクレスは怪物に挑むように叫ぶと、それに応えるように怪物は不敵な笑みを浮かべた。
「ソルジャーヘラクレス。お前か、テルクシノエを倒したってのは?だが、モンスター1の力を持つこのミノタウロス様に敵うかな?」
ミノタウロスはヘラクレスを挑発する。
「お前を倒し、平和な時間を取り戻す!いくぞ!!」
ヘラクレスはミノタウロスに挑むべく間合いを詰めに行き、両者は激しい攻防戦を始めた。
「あわわ、あれはモンスター族屈指の力持ちのミノタウロス……。ヘラクレス、まともに肉弾戦なんてしたら危ないよ……」
ルカは校庭の付近に到着すると、近くの茂みからヘラクレスの戦いを見ていた。
怪物にある程度知識のあるルカは、ミノタウロスが誇る力の恐ろしさを知っていた。ヘラクレスの力も十分強いことは分かっていながらも、その身を案じてハラハラしながら戦いを注視していた。
しかし、その時だった。戦いに集中していたルカの背後から、突然服を引っ張られたのだ。
「うわっ、離せ離せ!ヒーローストーンは渡さないぞ!!」
ルカはミノタウロスの仲間に捕まってしまったと思い、なんとか逃げようとジタバタと身体全体を使って暴れた。しかし、そんな様子のルカにかけられたのは予想外の言葉だった。
「落ち着け、俺は敵じゃない」
「へ?」
聞き覚えのある声にルカは暴れるのをやめて振り返った。そこには、ほんの数時間前に見た赤毛の少年、譲治がいた。
「うわっ!?アンタ、屋上に来た人間!!」
敵ではないと分かったものの、ルカは盗み聞きからここまで嗅ぎ回った譲治に驚いてしまった。しかし、譲治の方はルカに敵意がないことだけ示すと、直様摘んでいたルカの服を離した。そして、あくまで冷静な態度でルカに詰め寄った。
「やっぱり、アンタ達隠してたんだな。どういう事情なのか説明してくれ。格好はさておき、なんで勇輝があんなデカいやつと戦ってるんだ?」
譲治の質問に、ルカは一瞬戸惑って黙り込んだ。
秘密がバレてしまったとはいえ譲治は関係のない人物、変にこの状況に巻き込んでしまうのはいけないと思った。しかし、今までの言動を見聞きされたこと、そして何より譲治のあまりにも真剣な目を見ているうちにもう隠せないと確信し、ルカは閉ざしていた口を開いた。
「……今、モンスター達が人間世界を襲おうとしているんだ。勇輝は、そんなモンスターと戦う戦士に選ばれ、ソルジャーヘラクレスとして戦っているんだよ」
「何だよ、それ……?訳わかんねえよ」
「モンスターと戦う」とか「戦士に選ばれた」とか、まるでおとぎ話の世界の話が今まさに現実に起こっているということを、譲治は信じきれていなかった。
しかしそんなことよりも、譲治はよりによって自分の友達である勇輝が危険な戦いを強いられていることに驚きが隠せなかった。
「なあ、勇輝一人だけであんな怪物と戦うってのか?」
「そうじゃないよ、他にも戦士がいる!いる、はずなんだ……」
ルカは自分のバッグを悔しそうに握り込んだ。そのバッグの中には、戦士となる人物を覚醒させ力を与える宝石ヒーローストーンが入っている。
「僕も懸命に探してるさ……。でも、膨大な数の集団の中から戦士になれる人を見つけ出すのは、絶望的な確率なんだ。勇輝と出会ったのも、本当に奇跡的だったんだよ……」
「……………」
譲治は悔しげなルカにかける言葉がなく、その表情を黙って見つめるしかなかった。
(くっ、強い……。正面からまともに戦うと、自分の体力を消耗するだけだ……)
一方で、ヘラクレスはミノタウロスに苦戦を強いられていた。相手自身もルカも言う通り、ミノタウロスの力は凄まじく強く、攻撃の一つ一つがヘラクレスに重くのしかかってくるのだ。
「どうした〜、坊主?まさか、この程度で疲れてんのかあ〜??」
体力がほぼ一方的に削れていくヘラクレスの様子を察すると、それとは対照的に疲れた素ぶりを全く見せないミノタウロスは笑みを浮かべながらヘラクレスを挑発した。
「くっ、まだだ!!」
ヘラクレスはミノタウロスの正面へ向かっていく。
「小癪な!」
ミノタウルスはヘラクレスを叩き潰そうと拳を振り下ろした。その衝撃で土煙が発生し一瞬ミノタウロスの視界を遮ったが、視界が晴れるとそこにはヘラクレスの姿はなかった。
ミノタウロスはそのことに気づくと同時に、背後からの気配を感じ取った。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
正面攻撃は難しいと判断したヘラクレスは土煙を利用してミノタウロスの背後に回り、後ろから渾身の跳び蹴りで攻撃しようとした。
(よしっ、この一撃で……)
ヘラクレスは背後からのこの攻撃をミノタウルスはまともに喰(くら)うだろうと思った。
「……甘いぞ、坊主」
が、ミノタウロスの方が一瞬早かった。ミノタウロスはヘラクレスが突き出した左脚を蹴られる前に掴んだ。ヘラクレスは予想もしなかったことに驚いた。
「何っ!?」
「後ろから攻撃しようとしたのはいい判断だ。だが、気配がダダ漏れなんだよ!!」
「うわっ!?」
ミノタウロスは掴んだ腕でヘラクレスを振り回し始めた。そして、勢いよく校庭にあったサッカー用のゴールポストの柱部分へと投げ飛ばした。投げ出された勢いに抵抗できないヘラクレスは衝突を回避することができず、背中から身体を叩きつけられてしまった。
「ぐはっ……!?」
強い衝撃のせいでヘラクレスの体力は限界に達し、そのままゴールポストにもたれかかったまま動かなくなってしまった。
「ヘラクレス!!」
ルカはヘラクレスの悲惨な姿を見て顔を青くして叫んだ。ヘラクレスの方へ駆け寄ろうとする前に、こうなってはここにいる譲治も危なくなると思って譲治に逃げるように促そうとした。
しかし、ルカの隣に譲治の姿はなかった。
「はん。戦士と聞いてどんなものかと思ったが、こんなひ弱なヤツだったとはな……」
「はあ、はあ……」
ミノタウロスは倒れたヘラクレスの方へ歩みを進めていた。ヘラクレスは逃げるどころか動くことすらもままならず、荒い呼吸を繰り返すので精一杯だった。
ミノタウロスはヘラクレスの前で立ち止まると、背負っていた斧を右手で掴んだ。顔を上げたヘラクレスはその斧の大きさに驚いて目を見開き、そして恐怖に怯え目の奥が揺れた。
「まあ、今回は俺様を少しでも楽しませてくれたしな……特別に、楽に殺してやるよ!!!」
「ヘラクレス、逃げて!!!」
(くそっ、ここまでか……)
ルカが叫び、ヘラクレスは目を閉じ顔を逸らす。もうダメだ……、誰もがそう思ったその瞬間だった。
「俺のダチに手出すなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然、怒りに満ちた声が校庭全体に響き渡った。そして次の瞬間、ミノタウロスの後頭部に勢いよく何かがぶつかった。
「ぐおっ!?」
ミノタウロスは突然の強い衝撃に一瞬怯んでしまった。痛みのあまり後頭部を押さえ込んでいると、背後からトントンと丸い物体が跳ね転がってきた。
「何だこれ、ただのボールじゃねえか!」
「そうだよ、ただのサッカーボールさ」
背後から声が聞こえミノタウロスは振り返った。そこには部活のユニフォーム姿の譲治が見たこともないような怒りの形相をして立っていた。
「ああっ、譲治!!普通の人がモンスターに挑んだらダメだって!!!」
せめて譲治だけは巻き込まないようにしようと考えていたのに、まさか自分から立ち向かってしまうとは思わず、ルカは悲鳴をあげた。
「ぐう……。さっきのはお前か、意外と痛かったぜ。まあ、わざわざ殺されに来るのは大したもんだ」
ミノタウロスは不意を突かれたこと、ましてや戦士でもない普通の人間の攻撃を食らってしまったことに少々苛立っていた。ミノタウロスは標的を譲治に変え睨みつけた。
譲治はミノタウロスの威圧に屈することなく立ち向かい、そしてゆっくりと語り出す。
「俺は勇輝みたいに変身できないし、アンタみたいに力がめっぽう強いわけでもない。まして、斧なんて大層な武器も持ち合わせていない。だが運よく、恐れず立ち向かう心だけは俺の中にあったみたいだ」
「譲治……」
「こんな無謀な状況でも、俺は友達を見捨てることはできない。このボールを、自分の拳を使ってでも……」
譲治は大きく息を吸って力一杯に叫んだ。
「俺は、勇輝を助け出すんだ!!!」
その時だった、突然ルカのバッグが赤く光り始めた。その光はバッグの隙間から溢れ、ルカのいる場所全体を赤く染め上げた。
「……!?ヒーローストーンが反応してる……」
ルカが急いでバッグの口を開けると、赤いヒーローストーンが輝きを放ちながら譲治の方へと向かっていった。そして、その光は譲治の左手首に止まった。
「!、これは……」
譲治は驚いて自分の左手首を見ると光が消え始め、そこにはヘラクレスとは色違いのブレスレットがはめられていた。
その光景を見て”何か"を確信したルカは全力で叫んだ。
「譲治、そのブレスレットをかざして『テセウスパワーメタモルフォーゼ』って叫んで!!!」
ルカの呼びかけに応じて譲治は頷き、赤いヒーローストーンがはめられたそのブレスレットをかざして叫んだ———
「テセウスパワーメタモルフォーゼ!!!」
「なっ、何だあ!?」
突然赤い光が譲治を包み込み、ミノタウロスは驚きとその眩しさのあまり怯んで目をつぶった。
「……っ、譲治!」
倒れ込んでいたヘラクレスも赤い光によって朦朧としていた意識を取り戻し、譲治が自分と同じ戦士として変身している姿を目の当たりにした。
譲治を包んでいた光が消えると、赤い服を身につけ白いマントを翻した譲治が現れた。
「燃え盛る情熱の戦士、ソルジャーテセウス!!情熱の炎に燃え尽きな!!!」
二人目の戦士ソルジャーテセウスが今、覚醒したのだ———
「譲治、いやソルジャーテセウス……」
「やったあ!!二人目の戦士が現れた!!!」
ヘラクレスとルカからは驚きと喜びが溢れ出た。
一方で、ミノタウロスは邪魔者が増えたことに怒りが爆発した。
「生意気な口を叩いたと思えばさらに生意気なことを……。ええい、お前も捻り潰してやるわ!!!」
ミノタウロスはテセウスに持っていた斧で襲い掛かった。ミノタウロスは怒り任せに斧を振り回したが、テセウスは冷静に全てかわし距離を取った。そして……、
「パッションストリーム!!!」
テセウスは掛け声と共に巨大な炎の渦を発生させ、その渦でミノタウロスを囲んで身動きを封じた。ミノタウロスは動きが止まったと同時に、燃え盛る灼熱の炎に苦しみ始めた。
「ぬわぁ、熱い!!熱い!!」
ミノタウロスの様子に油断せず警戒を続けていたテセウスに、ふと背後から声をかけられた。
「テセウス!!後は俺に任せて!!!」
テセウスが振り返るとヘラクレスが立ち上がっていた。あんな怪我を負っていたのに難なく立っているヘラクレスの姿を見てテセウスは驚いた。
「勇輝、お前立って大丈夫なのか?」
「譲治が変身してた時の光を浴びたら、力が湧いてきたんだ。後、俺は『勇輝』じゃない。勇気の戦士『ソルジャーヘラクレス』さ!」
ヘラクレスは笑顔で応えた。
「……ああ、頼むぜヘラクレス!」
テセウスは見違えるほどに回復したヘラクレスにフッと笑みを溢し、後を託した。
テセウスからバトンタッチしたヘラクレスはキリッと表情を変え、身動きが取れないミノタウロスに向かって両手を構えた。
「さっきの借り、返してやるぜ!!ブレイヴバースト!!!」
ヘラクレスの両手から放たれた青白い光線がミノタウロスへ直撃した。
「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
炎に包まれて体力を消耗していたミノタウロスは光線の威力に耐えきれず、悲鳴を上げながら消滅してしまった。
————————————————————————————————————
「勇輝!譲治!一時はどうなるかと思ったけど、良かった良かった!!」
ルカは変身を解いた二人の方へ飛んでいき、勇輝の胸元に飛び込んだ。勇輝はルカをなだめようとしたが、突然苦い顔をした。
「ん?勇輝どうしたの?」
「痛たた、背中が……。おかしいな、さっき治ったと思ったのに……」
勇輝は座り込んで自分の背中をさすり始めた。どうやらゴールポストに打ち付けた時の痛みがまだ完全には取れていなかったようだ。
「おい、手貸せよ。保健室で湿布でも貼れば少しは良くなるだろうし」
勇輝の身を案じた譲治は勇輝に手を差し伸べ、勇輝の腕を肩に回して立ち上がらせた。そして、2人並んで保健室へとゆっくり向かい始めた。
歩き始めて少しすると、勇輝がふと口を開いた。
「驚いたよ、譲治が二人目の戦士だなんて……。ありがとう、本当に助かったよ」
勇輝は譲治に向かってニコッと笑みを浮かべた。
「い、いいんだよ。なんか、アンタを助けるのに必死だったから」
譲治は突然お礼を言われ、少し照れ臭そうに返した。そして、譲治は考え込むように一瞬口を紡いだ後、再び口を開いた。
「勇輝。俺はまだ事実の整理がついてないけど……、これから頑張ろうぜ、俺たちで!」
「……ああ!」
勇輝と譲治は目と目を合わせ、友人として、そして戦士の使命を果たす仲間としての絆を確かめ合った。
そんな二人の様子を見て空気になりそうだと察したルカが、会話に混じりたげにムーっとした顔で迫った。
「ねえねえ、僕のことも褒めてよ!今日一日こんな広い場所を飛び回ったんだから!」
「おっ、そうだな。お疲れさん、俺の近くにいた譲治が”正解”だったから、さぞかし大変だったんだろうなあ」
「まだ”戦士”っているんだろ?ルカ、アンタも結構大変だなあ……」
勇輝と譲治は息ぴったりに、冗談混じりの言葉を言った。
「もう!二人ともからかってんの!」
ルカがプンスカと怒ると二人は笑い始めた。最初は不貞腐(ふてくさ)れていたルカも仲良く笑う二人の姿を見るうちに、安心して笑いを共にした。
————————————————————————————————————
「ソルジャーヘラクレスに、ソルジャーテセウス……。あの人たちは一体……」
校庭を歩く二人とその周りを飛ぶ妖精の姿を、木に隠れて遠くから眺める人影があった。その人は青みがかった黒髪をなびかせ、不思議そうに、そして興味深そうに三人を見つめていた。
To be continued…
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