第8話 異世界の迷い子

~~五年前、モルト山~~



暖かな日差しを身体で感じ、深い闇から意識が浮上してくる。

聞こえてくる小鳥のさえずり…?


「ぐぎゃああああおぉ!」


「さえずってねぇ!」


俺は眼をかっ開き体を転がしながら四つん這いになると、叫び声の方に顔を向けた。


遥か上空にとてつもなくデカイ鳥…だが羽毛は見えない。まるでトカゲのような表皮が光を反射している。


視線を地面に戻し周りを見回すと木や岩に囲まれている。人の気配はない。

でも違う生物の気配はそこら中から感じる。


「ここは…どこだ…」


取り敢えず近くの岩場に身を隠し今の状況を確認する。


「俺の名前は【佐久間 健治】二十二才独

身、大学卒業して実家に帰る為夜行バスに

乗って…」


その時、脳裏に眩しい光が突っ込んで来る光景がうかんできた。


「…事故…か…」


バスにトラックが突っ込んできた…俺めがけて…


「ん?何で生きてるんだ?」


不思議に思い自分の手を広げて見る。


また頭にハテナが浮かぶ。


「手…小さい?!足も?!体も?」


自分の体の変化に混乱しその場でゴロゴロと転がり回る。そして空を見上げ大の字に寝転んだ。


「なんか…俺…違う世界に生まれ変わったみ

たいだな…」


手を空にかざし小さくなった傷一つない手を見てため息をつく。


「結構真剣に格闘技やってたからそこそこア

ツい拳してたんだけど…」


近くにある木の棒を掴んで力を込める。


「ふん!ぬぅ~~はぁはぁ」


木の棒は折れもまがりもしない


はぁとため息をつき手でつかんだ棒を見ると手に持っていた筈の棒が消えていた。代わりに手のひらの上に黒い歪みが見えた。


「何だ?これ」


まるで空中に穴が開いたような現象。

「ゴクリ」唾を飲み、足元にある石を投げ入れてみると穴に吸い込まれて行った。


腕を組み首をかしげると黒い歪みがその場から消えた。


「今のは俺がだしたのか?」


また手のひらを広げ、黒い歪みを思い受かべると同じように発現する。


そして中の状態が頭にうかんできた。


木の棒


小石


「………?」


「この空間は物入れか?」


健治は木の棒を思い浮かべると手の中に木の棒が現れた。


収納、取り出し、収納、取り出し…


「状況を確認したところで整理すると…

俺は死んで違う世界の山の中に子供として

甦り変な物入れ能力を身につけて今に至る

と…」


手にした木の棒を後ろに放り投げ、手を腰にあて肩を落とし、ため息をつく健治。


「グルル…」


全身が震え汗が一気に出る。


暑いわけではない。むしろ凍りついたかのような感覚…獣臭が鼻をぬける。


「うなり…声?」


ゴクリと唾を飲み、後ろにゆっくりと視線を向ける。


そこには体長2m程の猫化のような大きな獣が目を血走らせ牙を剥き迫ってきていた。


「ヤバいな…」


生き返り一時間もしないうちに死を覚悟する健治だった。



















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