第2話「久々の依頼と休日のお出かけ(上)」
高校生活が始まって早一週間を過ぎた。
俺は優が紹介してくれた友達や自分でいつの間にか仲が良くなった友達等、友人を増やしながらこの高校生活のスタートを切った。
勉強面は元々予習もしていたおかげもあって余裕で今習う所は理解し問題も解けている。
ひまわりでの接客も高校に行き始めたせいか少し前より元気に接客をしていると、マスターやケンさんに褒めれた。
「ん〜やっぱこのマスターの入れるコーヒーは美味しいねぇ」
いつもの常連さんが今日もマスターのコーヒーを飲みに来てくれた。
「それは良かったですね。 俺も早く飲みたいですよ」
「アホ言うな。 お前はまだまだ仕事中だ」
俺の後ろからケンさんがテーブルを拭きながらそう言った。
「言われてるよぉ? シンくん早く仕事が終わるまでこのコーヒーはおあずけだ」
「チェッ」
俺は布巾を取り空いてる席を軽く拭くために軽く布巾を水に濡らして絞った。
「そういやシンくん。 学校はどうだい?」
マスターが横で笑顔で俺に聞いてきた。
「あぁ。 かなりいい調子だと思うよ。
友人だって何人ができたし」
そう言うとマスターは安心したような顔をして「そうか」と返した。
とある高層ビルの屋上
「た、助けてくれ。 か、金なら──」
「いやそんなセリフドラマとかで聞き飽きたからありきたりすぎ」
夜のビルの屋上は風が吹きそして暗く地面が見えにくい。
そんな中一人の男、ケンが依頼を実行していた。
依頼内容は『社長を殺して欲しい』と社長の女秘書からの依頼だ。
依頼者は社長にセクハラや無理やり性行為をされ、精神的にも肉体的にも苦痛で社長は何も考えず、ただ依頼者の体で遊ぶことしか考えていなかったらしい。
報酬は一億未満ならいくらでもいいと言われもちろん一億!とは行かずその半分の五千万で依頼を受けた。
「な、なら! 何をすれば助けてくれる? 私ができる範囲ならなんでも出来るぞ?!」
「ほう? この状況で交渉をするつもりか?」
今の状況は社長の顔を蹴り押せば一瞬で三十階建てのビルの屋上から落とせる場所まで追い詰めた。
「……ッ! こ、こんなことをしてなんだ! 目的はなんだ!」
「目的? 仕事の都合上詳しくは言えないが、簡単に言えばあんたを殺すことだ」
一歩、そしてまた一歩社長に近寄る。
「わかった! その仕事よりもっといい金を出そう! だから私を見逃して──」
ケンは社長に歩み寄り、愛用のナイフを首元に当てた。
「金じゃねぇんだよ。 今俺はお前のこの首を切って殺すことしか求めてねぇんだよ」
「……そ、それ以外ではどう──」
「それ以外は俺は求めていないんだよ。 だから……死んでくれや」
そしてナイフを首に突き刺し切り開いた。
切り開いた首の傷口から血が吹き出て顔にかかった。
「チッ……汚ぇ」
ケンは顔にかかった血を手で拭った。
「……今日の夜は少し冷えるな」
翌日の日曜日の朝ケンさんが俺を部屋に呼び出した。
俺は部屋のインターホンを押した。
「シンか?」
「はい、呼ばれた通りちゃんと来ましたよ?」
「……よし中に入れ。 鍵は開けてある」
なんか少し喋り方に違和感を感じたが……まぁ大丈夫だろう。
そう思い俺は玄関扉を開けて中に入った。
「ようシン。 とりあえず入れ」
「じゃあお邪魔します」
俺は適当に座り話を聞くことにした。
「それで、話ってなんですか?」
「いや、お前と買い物行こうかと思って」
?????????
買い物?
今この人はそう言ったのか?
「か、買い物ですか。 スーパーとかにですか?」
一応スーパーかもしれないし一応聞いておかなくちゃね。
「いや、そのぉあのだな。 ……ショッピングモール的な所にな服とか……そういうものをだな」
待て。
落ち着け俺、冷静になろう。
あのショッピングに全く興味のなかったあのケンさんがショッピングモール等に行こうなどと、一体どういう事だ?
「えっとその。 行く目的はなんですか?」
するとケンさんは少し目線を俺から外した。
「実はだな。 俺……彼女が出来たんだ」
カノジョ?
カノジョってあの彼女だよな?
その彼女がケンさんに出来た?
あの彼女いない歴=年齢のあのケンさんに?
「……マジすか?」
「……あぁ、マジだ」
「……レンタル彼女とかじゃないんですよね?」
「んなわけあるか!失礼だな! ちゃんとした彼女だ! 金も何も払わず、俺の気持ちをしっかりと受け止めてくれた一人のしっかりとした正式な彼女だッ!」
「そ、それはすいませんでした……でも一体出会いはどこで?」
「ふっ、そう聞くと思ったぜ。 じゃーん! この出会い系サイト? って言うやつで見つけて仲良くなりましたッ!」
あっ……(察し)
「しかもこの子アイコン自分の顔にしてるらしいし。 そのアイコン見たら俺のタイプだし」
あ、あぁ……。
出会い系サイトで出会った人と仲良くなってチャットで告白したら成功した……と言った感じだろうか。
なんだろう……とてつもなく真実を言いずらい。 あえてこのまま夢を見せてあげておこう。
「そ、そうですか! それは良かったですね!」
「そして今度この人とデートすることになったんだぜ? そりゃもちろん一回下見しなくちゃな。 昨日依頼も終わって金も入った事だし、金には余裕があるぜ」
「なるほど……それでその下見に一人じゃ少し寂しいかなんか思って俺を選んだわけですかそうですか」
するとケンさんはすごい笑顔で「正解だぜ」と親指を立てて答えた。
「はぁ……わかりました。 じゃあ準備しますので下で待っててください」
俺は立ち上がって再びため息をついた。
「おお!助かるぜ」
このケンさんの一言にとてつもなくイラッとしたが一応このイラつきを抑えて我慢した。
俺とケンさんは近くのバス停からバスに乗り、駅前でバスを降りた。
「よしシン! 早速そこのショッピングモールに入るぞ!」
「謎にテンション高いですね……相手は狙った子じゃなくて俺ですよ?」
俺は少し口をニヤケさせて言った。
「相手がお前だろうとこういう所に来るとテンションが上がるんだよ」
「そんなものですかねぇ」
「あぁ、そんなもんだ」
俺はこの貴重な休日を友人と遊ぼうかと思っていたが、一人の男によって休日を出会い系サイトで出会った女性とデートをするための下見に付き合わされていることに深く、深くため息をついた。
ショッピングモールと言うだけ中はとても広く見渡す限りカップルや友人で来るものや夫婦等々、色んな人が買い物を楽しみに来ていた。
流石デートや遊びに来るところの鉄板的な場所だ。 人が多いのも納得が行く。
「それで、まず最初はどこに行くんですか?」
そう聞くと慌てたようにポケットからスマホを取り出して急いで何かを見始めた。
「えっとだな……最初は映画にでも行こうと思っているんだが……どう思う?」
「あのケンさん。 スマホのメモを見る前にちゃんとどこにどういう順番で行くか覚えておいてください」
「なんでお前俺がメモを見ているとわかった?!」
この人実はアホなのか?
なんだかそんな気がしてきた。
「まぁいいですよ……で、なんの映画を見るんですか?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた!」
なんかいちいち面倒臭いなこの人。
「あえて王道の恋愛モノを見てもいいが……あえて、あえて!ヒーロー物を見ようと思うんだがどう思う?」
「あの普通に恋愛モノの方がいいと思います」
「えぇ?! そうかぁ?」
当たり前だろ!
なんでヒーロー物にするんだよ!
何が「あえて」だよ!
何をどう考えたらそうなるんだよ!
「……なんだか今日はかなり疲れそうな気がします」
「……? まぁ、お前の言うように恋愛モノにするか」
良かった……素直な人で本当に良かった。
「じゃあ映画館まで行くか」
「了解です」
客足が少し落ち着いた喫茶ひまわりにて二人の親子がコーヒーを飲み休憩をしていた。
「ねぇ、お父さん」
「ん?どうしたヒナタ」
コーヒーを啜りながら話し合う二人。
「ケンのことなんだけど……あいつ大丈夫だと思う?」
「まぁ……私の目からして少し不安なところはいくつかあるね」
「やっぱりそう思う? 正直シン君連れて行っても少しはマシになりそうだけど……本番失敗しそう」
「……まぁ、それは私も否定はしないな」
その親子は一人の男の恋を応援はしていながら、内心失敗に終わるのではないかと不安に思いつつあった。
「だがまぁ、まだ本番は迎えてはいない。 だからまだ可能性はあると思おうじゃないか」
「ふっ、そうね。 そう思いましょう」
そして二人の親子はカップに入ったコーヒーを飲み終えた。
約二時間後
二人は映画を見終え、映画館の入口付近のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
「なぁシン」
「なんですかケンさん」
「恋愛モノって……結構いいな」
「……わかります」
二人は缶コーヒーを一口飲みながら観た映画の余韻に浸りながら感想を話し合っていた。
「あのラストは泣かせに来たよな」
「えぇ、あれは泣かせに来てますよ。 だって観に来てた人の大半が泣いてましたしね」
「そのうちの二人が俺達だがな」
二人は缶コーヒーを飲み終え缶を潰してゴミ箱に捨てた。
「じゃあ次はどこに行くんですか?」
するとまたポケットからスマホを取り出してメモを確認し始めた。 もう面倒臭いから言うのはやめよう。
「次は……昼飯だな」
「じゃあどこで食べますか? フードコートとか行きます?」
「いや、もうマルドナルドでハンバーガーでも買ってベンチで座って食べようと思ってるんだが、どうだ?」
えっ、待って急にマトモなやつ出して俺凄いびっくり!
それに今は一時半と少し昼時を過ぎるから列は少し短いと思う。 良い時間帯だ。
「え、あぁ。 それでいいと思いますよ?」
「おっ、マジ? じゃあ早速買いに行くか」
マルドナルド……懐かしいな。
最後に行ったのは姉さんが殺される前の二日前だっけな。
この味が好きな人は世界でも多いはずだ。
ただ好きな人、特別な意味も含め好きな人、色んな人がいるだろう。
俺はその中でも特別、それもたった一人の家族の最後の思い出の味。
それゆえに食べることを躊躇していた思い出のハンバーガー。
久しぶりに食べると思うと少し緊張する。
だがそれもまたいい経験だろう。
「じゃあいただきます」
一口かじり深く一噛。
そして口の中で広がる懐かしい味。
「やっぱシン美味いよなこれ」
「えぇ、とても美味しいですね」
だが、姉さんともう一度一緒に食べたらもっと美味しかっただろう。
そう思うと少し泣きそうになった。
それは決して叶わぬ夢だとしても、もう一回姉さんとまた食べてみたいものだ。
「ふぅ、ハンバーガーって食べ終わるまでが結構早いけど、結構腹に来るよな」
「まぁそこがこれのいい所ですよ」
「……じゃあ次は服屋にでも行くか」
「あぁ、いいんじゃないですか?」
「じゃあ早速決まりだ! 行こうぜシン」
「わかりましたッ!」
俺はベンチから立ち上がりケンさんと一緒に服屋に向かって行った。
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