暗殺者でも俺は高校生です
はっぱ先輩
第1話「入学」
一ヶ月前
イタリアのあるレストランに午後九時二十五分にターゲットが入店する。
ターゲットは一人で入店し、ピザを頼んだようだ。
ピザとワインで夜を一人で満喫している。 羨ましい限りだ。
だがそれも最後の晩餐だと思えばまぁいいかと思える。
軽く酒が入った所で頭を撃ち抜け……と言った依頼だ。
ターゲットの名前は『
依頼者によると家庭内でのDVで六歳の息子や妻(依頼者)に多大なストレス、怪我等の行為にもう耐えきれないから今度の海外出張の時狙撃して欲しい。 と言う内容だ。
基本的にそう言った依頼は受けないが今回は報酬がかなりでかい。
日本円で七千万出すと依頼者に言われたからだ。
七千万の報酬で男一人の頭を撃ち抜く、なんて最高なミッションじゃないか。
「にしても……夜の屋上はかなり風がきついな。 結構寒くなってきた」
俺はコートに腕を通して既にセットしているスナイパーライフルを置いている所に戻った。
「そろそろかな」
俺はスコープを覗き、ターゲットがまだ酔いが回っていない様子だ。
「ちっ。 早く酒に酔えよ……こっちは寒いんだよォ」
俺は事前に用意していたカイロが風でどこかに飛ばされてしまうと言う不運に見舞われている。
正直この不運のせいで今回失敗するのではないかと思っている。
いや違う違う! 失敗した時は己の腕がまだまだな証拠だ! 成功も失敗も運任せだとは思いたくないね。
あと寒さも何とかなるかも。
「……そう思っても結局寒さは変わらず。 なんだよなぁ」
俺は内ポケットからスマホを取り出して時刻を確認した。
現在時刻はイタリアの標準時刻で二十時四十分か。
俺は時間を確認してスマホを再び内ポケットにしまい、酔いが回ったかどうかを確認する為にスコープを覗いた。
すると丁度いいくらいに酔いが回っている姿を確認できた。
俺はこの寒さからやっと抜け出せると思うと少し口が緩んでしまいそうだ。
「じゃあ酒飲んで楽しんでるとこ悪いが、この世にお別れだ。 この弾丸の味が人生の〆の一品だ」
そして俺はトリガーを引いた。
その翌日依頼者から報酬の七千万を受け取り日本に帰国した。
俺は日本に到着して空港のターミナルに知っている顔の人がいた。
「おかえりなさい、シン君」
「あぁ、帰ったぜマスター」
笑顔で俺を迎えに来てくれたのはいつも俺が通っている喫茶店のマスターだ。
マスターは俺が殺し屋として日本中、世界中を飛んでいることを知っていて、マスターが若い頃は世界でも名が轟く程有名な暗殺者だった。
だがある時をきっかけに暗殺業から手を引いたらしい。 その手を引いた理由を聞こうとしても『秘密だよ』と言われて終わりだ。
何度聞いても同じように答えるから今ではもう手を引いた理由を聞き出そうとは思わない。
そして今は俺が暗殺業をしているがマスターのサポートで何度も助けられたこともあるくらい凄い人だ。
「そうだシン君。 来月から高校生だろ?」
「あぁ。 それがどうした?」
「いい物をあげよう。 これだ」
マスターから袋を渡され中を確認すると何かが包まれていた。
「なぁマスターこれ一体なんだ?」
「ふっふっふ、それは秘密だよ。 それは帰ってから確認するんだね」
「わかった」
「じゃあ車で帰ろうか」
「りょーかいっ!」
俺とマスターはマスターの娘さんの『ヒナタ』さんが車の運転席でスマホを弄りながら待っていた。
ヒナタさんは昔父であるマスターに暗殺業を教わろうとしたらしいがマスターはそれを反対し、絶対に暗殺業を教えようとしたり継がせようとはしなかったそうだ。
そしてヒナタさんは諦めて今は大学に通っている。
空港を出て五分程度経ったくらいに疲れのせいで毎回車の中で寝てしまうのだ。 そして今回もまた、眠気に襲われて意識は夢の中に飛んでしまった。
雨が降る夜。
あの日の夜のことは忘れられない。
「シン……逃げて」
「姉さんダメだよ、こんな所で見捨てられないよ!」
またこの夢だ。
思い出したくない。 でも忘れてはいけない出来事。
あれから六年が経った今、姉さんの仇を討てぬままヤツを見つけることは出来ていない。
両親の居ない俺には家族と呼べる人は姉さんしかいなかった。
そんな姉さんを失った俺は血の繋がりのある家族は誰一人もいない。
姉さんを殺したヤツを見つけるその日まで俺はきっと引き金を引き続けるだろう。
だがたまに思う。
『もし俺がヤツを見つけて殺したらその後はどうする?』
今まで通り暗殺業を続ける?
それか暗殺業から手を引いて普通……と言うよりまともな生活を求めるのか。
それが今の俺にはどうすればいいのかが分からない。 ただ今は今の暗殺業をただ頑張って続ける以外は無い。
「おいシン起きろ。 おいもう着いたぞシン」
体を揺らされながら俺を起こしに来たのは喫茶店の店員の『ケン』さんだ。
ケンさんは刃物を基本とした暗殺流を主としている。
その暗殺流から『現代のジャックザリッパー』と言う異名を持っているが本人は聞いた事はあるだろうが本人はそれが自分だと気付いていないらしい。
「あ……あぁ、ケンさん起こしてくれたんですか? ありがとうございます」
「礼はいいからさっさと降りろ」
そう言われ急いで車から降りた。
車から降りてすぐに目に入った光景が喫茶店『ひまわり』の看板と今日のおすすめメニューだ。
このひまわりはお客さんは多いとは言えないが来る人は毎回笑顔で満足するように帰る。 まるで実家に久しぶりに帰省した子供のように。
「おっ、シン君おかえりかい?」
右側からいつもの常連さんのおじさんが軽く声をかけて手を振って来た。
「あっ! どうも、今帰ってきました」
このおじさんは聞く話によるともうこのひまわりに十五年近く通っているかなりの常連さんだ。
そして俺達が暗殺業をしていると言う事も知っているがそれでも警察にも言わず表情も変えずにいつも来てくれる。
「そうかそうか、長旅ご苦労さま。 じゃあ俺は先に入ってるから後でコーヒーお願いね」
「了解です!」
「ばーか、お前はまだすることあるだろ。 それからだお前が働くのは」
ケンさんがそう横から俺の頭を軽く叩いて言った。
「す、すいません」
「ほらさっさと荷物片付けてこい」
そしてケンさんから軽るく背中を押されて俺は驚いて転んだ。
二週間前
俺はマスターから借りた部屋で勉強をしていた。
マスターは俺の両親が居ないことを知って急いで部屋を貸してくれて本当にお世話になっている。
だから俺は報酬の三分の一をマスターに分け、あとの三分の二はひまわりの金と自分の金にしている。
そして俺は二週間後に高校に入学する日を迎える。
だが俺は海外での仕事が多く、勉強が途中やっている所があったりなかったりする。
そこで
「そう言えばマスターから貰ったやつまだ開けてねぇな」
俺はマスターのプレゼントを突然思い出し引き出しの中に入れた袋を取り出し中の包みを開けるとノートが十五冊シャーペンが三本、色んな文房具が入っていた。
きっとマスターが俺の入学に合わせて買ってくれたのだろう。 どこまで優しいんだあの人は。
俺はノートや文房具をまとめて入学予定の学校のカバンに詰めて勉強を再開した。
今日
この一ヶ月間特に依頼もなく勉強に集中出来て高校生には丁度いいと言えるレベルまで学力を上げることが出来た。
マスターもケンさんも「これなら余裕だ」と笑顔で言ってくれたおかげで気持ち的にもとても安心だ。
後クラスメイトに対するコミュニケーションはひまわりで接客をしているからこれと言って心配はしていない。
だが……学校に行くのは小学校卒業して以来ほとんど行っていなかったから久しぶりの学校と言う場所に行くのに少し緊張する。
俺は少し緊張を抑える為に軽く二回程深呼吸をして自室から出た。
朝食は既にトーストと目玉焼きと野菜ジュースを食べて腹は満たされた状態だが朝はやっぱりマスターの入れる珈琲が無いとダメだ。
俺は三階から階段で降りて一階のひまわりの裏扉から入りカウンターに座った。
「マスター珈琲一杯お願い」
「わかった、君達もいるかい?」
マスターが笑顔でケンさんとヒナタさんに聞いた。
「俺も頼む」
「私も〜」
そう言い二人は俺が座っている左右の隣の席に座った。
「おいシン。 しっかり学校で勉強してこいよ。 もし授業で寝てたりして成績落として俺に助けを求めても助けたりしないからな」
ケンさんは俺が高校に入るために勉強を教えてくれたり手伝ってくれた。
「そんなことはしませんよ」
「まあまあ! シンちゃんももう高校生かぁ早いねえ」
「ああ。 ホントそうだね。 ……さあどうぞ」
マスターが前から三人分の珈琲をティーカップに入れて出してくれた。
「ありがとうマスター!じゃあ早速……」
俺はゆっくりと熱い珈琲を口に流し込み香りを口の中で感じながら楽しんで静かに喉の奥に流した。
「ふぅ。 やっぱりマスターの珈琲が無いと朝は始まらないよ」
「わかる」
「だよねぇ」
マスターは俺達三人の姿を見てニコニコと笑いながら見守っている。
俺はその姿を見た後また一口、二口と飲み気付けばカップの中は空になっていた。
「はあ。 美味しかったよマスター! じゃあ行ってきます!」
「いってらー」
「行ってらっしゃい」
「頑張れよー」
三人が見送り扉が閉まりきったところで俺は学校に向かって歩き出した。
辺りを見渡すといつもはただの視界の端に映る背景としか思っていた木々や花達を歩きながら見ると、視界の端に映る背景としか見てなかったのがとても勿体なく思えた。
だがこの景色をこれからはしばらくの間飽きる程見れること少し嬉しく思える。
そして俺は周りの景色に集中しすぎたせいか
あれから五分程度歩いた所で学校が見えてきた。
学校前の坂を登っていると俺と同じ新入生の姿が多く見えた。
すると後ろから誰かが近ずいてくる気配を感じて後ろを振り向いた。
「うおっ!」
そこには見覚えの無い多分新入生の男子が一人背中を軽く押そうとしたのか右手の手のひらが俺に向いていた。
「何か用か?」
俺は軽めな感じで問いかけた。
「あぁいや。 お前俺と同じくこの高校の新入生ぽいし。 ちょっと話しかけてみようかと思ってな」
その男子は笑顔でそう答えた。
「なるほど、そういう事か。 悪い驚かせたな」
「あぁ別にいいよそのくらい。
「俺は
「了解シン! よろしくな!」
優は笑顔で手を出して握手を求めた。
「あぁ。 よろしくな優」
俺はそれに答えるように手を握った。
入学式のプログラムが終わり、外にクラス番号が張り出されて一年の何組何番かを探し、俺は一年二組の一番だった。
「なぁシンお前何組だ?」
後ろから優が話しかけてきた。
「俺は一組だ」
優と同じクラスだったらいいなと思いながらそう答えた。
出来たてほやほやの友達とまさかクラスが離れるなんてことは出来ればあって欲しくはない。
「おっ!マジ? 俺も一組だぜ」
「マジか! やったぜ。 同じクラスでもよろしくな!」
「おう!」
俺達は今日初めて出会ったとは思えないくらい友情が深まったと俺は感じた。
そしてその後それぞれの各クラスに移動し明日の時間割。 この学校での校則や色んなプリント類等を配ったりして昼過ぎ下校となった。
帰りの挨拶の後優がこっちに向かってき来た。
「なあなあシン。 この後暇?」
優から遊びに誘われてしまった。
正直とても嬉しい。 ……だが。
「すまん今日バイトなんだわ」
今日はひまわりのシフトが入っているのだ。
つまり今日はオフではない日なのだ。
「マジかお前高校初日でバイト始めんのか?!」
「いやいや。 前から喫茶店で手伝い的なバイトしてんだよ」
「あぁなるほどね」
優は納得した表情で落ち着いた様子だ。
「なら今日はこの辺で解散だな。 じゃあなまた明日な!」
「おう!」
優は教室から軽く走るスピードで出て下校した。
さて俺も帰るとするか。
俺はカバンを手に取り軽く首を回しゴキゴキっ!と言う鈍い音に少し驚いた。
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