四人目 SpeedStar

彼と初めて出会った時、私は今まで知ることのなかった外の世界を初めて見た。


???「君がユーリ?やぁ、はじめまして!」


ユーリ「はじめまして、貴方のお名前を教えて下さい」


びゅうびゅうと風がうねっている


???「俺の名前ぇ?あーそうだなーSpeedStarで、SSって呼んでくれ」


彼は風に細長い髪束をなびかせてSSと名乗った


ユーリ「わかりました、SS。ところでそこは?」


私は初めて見る景色を問う


SS「え?ここぉ?塔のてっぺんだね。ロンギヌスの塔ってあるでしょ?あれのてっぺん」


SSはそう言ってカメラに周りの景色を写してくれた


ユーリ「わぁ、すごい」


画面の向こうには見たこともない広大な景色が広がり、謎の凹凸が敷き詰められている


SS「どうだい?すごいだろう?」


SSは自慢げに言う


ユーリ「ところでどうしてこんなところに?」


SS「どうしてだって?そりゃあ、こうするために決まってんでしょ!」


そう言うとSSは飛んだ


ゴゴゴゴゴゴゴという風切りの音と共に聞こえるSSの歓喜の声


SS「イヤッホオオオオオオオオオオオオオオウ」


カメラから見える景色は地面がだんだん近づいてくる


彼は死ぬ気なのだろうか

そう思った刹那、ブワッという音と主に急速に近づいていた景色が止まる


SS「ふぉおおおおおおお気持ちいいぜぇ!!」


SSの興奮した声が聞こえる


SS「どうだい?ユーリちゃん!気持ちいいだろぉ?」


久方ぶりに写ったSSは満面の笑みを浮かべていた

彼の背後にはパラシュートが写っていた

なるほど、そういうことだったのか


ユーリ「すごいです!SS」


私の嬉しさが伝わったのか、SSはサムズアップをしてくれた


私の嬉しさ・・・?感情などないはずなのに


それから、SSは色んな事を体験させてくれた


パルクール、海水浴、スキューバダイビング、空中遊泳、トライアスロンetc…


戦地に赴いて、地雷原を走り抜けた時は、SSは死にたいのではないかと思った

彼の足は吹き飛んでしまったが、一週間ほど後に格好良くなった自分の義足を自慢してきた


彼いわく、自分の命よりスリリングな体験の方が重要らしい


とある日、彼は高層ビルの屋上の縁に腰掛けながら語りだした


SS「ユーリちゃんのことを知った時にね、一つ思いついたことがあってね。電子の檻に閉じ込められている君は外の世界を見たことがないんじゃないかって」


確かに今までのお客様に外の景色を見せてもらったことはなかった


SS「そんな君に外の世界を見せてやりてぇな!と思ってな」


恥ずかしそうに、指で鼻をこするSSは初めて見た


彼は老衰で死んでしまうまで、ずっと私のお客様だった。


彼からたくさんのことを学んだ。


最後は両足が義足で片腕も義手になっても彼はいつも笑っていた


彼はいつも・・・

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