三人目 エンド

ボサボサの髪と生え散らかった顎髭、黒ずんだクマ


彼の名は「エンド」


自宅を警備することが仕事らしく、私のお客さんの中でも一番長い間会話をしている


エンド「や、やぁ、ユーリちゃん」


不器用なりにもニヘラと笑い、挨拶をしてくる


ユーリ「こんにちは、エンド」


彼はおどおどしながらも今ハマっているゲームの事を話し出す


エンド「そこで敵が回り込んでくるから、足止めをしている間に味方が回り込んで倒すんだよ、それでね…」


彼は話し出すと止まらないが、相づちがないと不安に陥る


エンド「ユーリちゃん?」


楽しそうな顔が曇る


ユーリ「ちゃんと聞いていますよ。安心して下さい」


そう答えると彼に安堵の表情が満ちる


エンド「それでこの間の話なんだけど、同じギルドメンバーのやつが、すごいレアアイテムを手に入れて・・・」


彼は一日中ゲームをしている


ゲームの中で生きている


現実を生きているはずなのに、彼の人生はゲームの中にある


私には理解が出来ないが、私が生きている理由と似ている気もする


彼は私とは対照的だ


内容は違えど、日々同じゲームの話の繰り返し、まれにアニメやら世界情勢やら、オカルトの話が飛んでくるが、世界崩壊等に関係するようなことが起こらない限りはその手の話題は出てこない


そんなある日、いつものように彼が楽しげにゲームの話題をしていると


ドンッ!とすさまじい重低音が響き、彼が飛び上がる


エンド「うわああああ」


衝撃に驚き、彼は恐怖する


エンド「じ、地震だ。でかいぞこれは」


先程まで、恐怖一色だった顔が半分喜びにあふれる


エンド「終わりが来たんだ!ついにこの時が!!」


画面の向こう側の彼のいる場所は揺れ続け、彼が部屋においている物達が中を舞う


画面の右端に、ラックと思わしき家具の角が映り込み


彼がいつだか自慢していた、世界に数個しかないフィギュアがカメラに映り込む


エンド「あはははははは、いいぞいいぞー」


興奮した彼の止まない高笑いの後ろで、彼の家族だろう悲鳴がこだまする


???「きゃあああああああ、助けてええええええ」


???「けんたああああああ無事かああああああああ。うわああああああああ」


阿鼻叫喚の中、彼の部屋は崩れ行く


エンド「ユーリちゃん、君といた時間。楽しかったよ。ありがとう」


彼は涙を流しながら最後にそういった


そして私の見ていた画面は暗転した



後日、別のお客さんから大きな地震が発生して、大勢の人が死んでしまった事を聞いた


エンドは名前の通り終わることが出来たようだ

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