第8話

 動く泥がカレハに絡みついていき染みて行くように境界を無くしていく。髪と肌、服にミミズのような模様が動きながら浮かび上がる。サクマがつけているような眼帯の模様が。


 あれは本当にカレハなのだろか…いつもと全く違う…少し成長したような…だが、身長が大きくなったとかそんなことではなく落ち着いた大人のようなそんな雰囲気。そしてカレハを見ていると頭の中を埋め尽くしていた真っ黒なものがどんどん取り除かれ白くなっていく。それにつれて楽に感じる分怖くもなる。何なのだろうかこれは…。


 シィーは気を失っているのか動きを感じない。今この場で意識があるのは俺とカレハ、そして目の前にいる八十メートルはありそうなカエルの化物。そんな圧倒的に巨大な化物がこんなにも小さなカレハに警戒している。


「う~ん、流石に素手だけじゃ無理そうだなぁ~」


 カレハはサクマの方を向いてしゃがみ腰の部分に手を突っ込み漁る。


「な、何…して…」


「ん~?これ借りるよ。おかあさん」


 カレハが取り出したのはメメに傷も付けることもできなかった小さな果物ナイフだった。


「そんなもので…なにを…」


「も~いいから眠ってなよ~早く寝て体と脳を回復させなきゃ」


 やっぱりカレハじゃない気がする。いつものような幼い喋り方ではなく少し成長した子供のような喋り方になっている。でも、姿はカレハその者だ…二重人格というやつなのか…。


「お、お前は…誰なんだ」


「また、そんなこというの?おかあさん。カレハ悲しいよ…」


「い、いや…だが…」


「まあ、残念だけど。落ち着いて話せるのはここまでみたいだね」


 聞いた瞬間意味が分からなかったが、それがどういうことかそれを見て理解する。警戒していたカエルだが隙だらけのカレハを見てその三十メートルはありそうな巨大な足を踏み落とそうとしていた。その巨大さゆえか動きは少し遅く見えるがきっと見た目の速度で落ちてきているのだろう。

 体が動かせない俺達はもう無理だが…。


「カレハ…お前だけでも…逃げろ」


「心配しなくていいよ、おかあさん」


「心配ない…?何を言って…」


 そう俺の忠告など気にせずにカレハは、右手にナイフを握りしめて立上りカエルの方に振り向き歩いて行く。

 カエルの足が迫ってくると空を踏み押しているのか風の圧力が生まれ体が重くなっていき骨がミシミシと悲鳴を上げる。徐々に体が地面に沈みゆく。とうてい身動きなんてできないと思う重力の中、カレハはなおカエルに向かって足が地面に埋まりながらも歩き続ける。

 カレハの肌、髪、服に浮かび上がった動く不気味な模様がナイフを持った右腕に流れるように動いていく。そして空に細い触手のように伸びナイフの刃を覆っていく。


「…ぁ、借りるよ」


 最初の方は小さくて聞こえなかったがカレハはそう言ってナイフで空を斬るように横に大きく見える速度で振る。すると風圧を斬ったのか重く感じていたのが無くなった。それだけで終わらず巨大な足を両断していた。切り飛ぶその巨大な足は巨大な音を立てカエルの顔面に当たりカエルはひるんだのか後退りする。


 切り離されたことが意外だったのかカエルは困惑したがすぐに落ち着きを取り戻しその足を喰らい再生させていく。そして大きくい息を吸い咆哮を鳴き放つ。鼓膜が破れそうなそんな大きな音と再びつぶされそうな圧力。そしてカエルは鳴き止み。怒っているのか肌を赤黒く変色させていき、そして尻尾の方から十二本の巨大な触手を生やす。


「いいね♪いいね♪そうこなっくちゃ!」


 陽気なその喋りにカエルの触手が一気に動き出すのと同時に迎え撃つようにカレハが笑い走っていく。不気味な模様が動き出し手と足に真っ黒なモヤを作り覆いまるで獣のような鉤爪のついた手袋をしているように見える。


 避けられても次の触手がそれを狙えるように間隔を開き突撃する触手なのだがカレハはまるで猫のように避け触手の上を四足歩行で走っていく。ただ走るだけでなく真っ黒に覆われた手足がカエルの肉をえぐりながら走る。あんな小さな傷すぐ治るそう思っていたが不思議なことに再生する様子がない。


「あはは、足りな〜い♪足りな〜い♪そんな数じゃ足りないよ」


 まるでカエルを煽るように声を上げて触手から体に飛び乗りその上を走り昇っていく。カエルはドタバタと地震をおこし暴れカレハを振り落とそうとするがカレハはそんなのお構い無しに安定して走り続ける。真っ黒な鉤爪がしっかりと肉を刺して安定させているのだろうか。そんな事は俺には良くは理解できないがそう思うことしか出来ない。


 カエルは振りほどくのを諦めたのか暴れるのを辞める。すると体がほ沸騰しているかのようぼこぼこと肉が動き数十本と新たな触手を生み出す。その触手は先に出ていたメメやロロのような触手とは全く違い人間の腕、手をはっきりと模した飢餓鬼のように鬱血したものだった。人並みの細さだが異様に伸びてカレハを襲いかかる。

 先程のような巨大でない為大きな隙間が無く避けるならば大きく回るように避けなければならないだろう。が、カレハは避ける気配なく突っ込む。


 カレハは迫り来る無数の手を蹴りや殴りナイフで切り刻むなどを行い全て弾いていき我が道を進んでいく。


「あは♪ もっと、もっと。私を楽しませてよ」


 カレハは弾くことに飽きたのか腕をつかみ回してねじ切るなど手間を増やす。それは戦闘狂のように戦いを楽しんでいる。俺が知っているカレハとは全く違う。いや、カレハをしっかりとは知ってはいないだろう。何を知った気でいたんだ俺は…。


 そう考えていると自身の体が軽いことに気づく。サクマは起き上がり自身の体を見渡すと全ての傷が消えて無くなっていた。疲労感も無くなっていた。まるで先までのことが無かったように。そして気がかりだった事を思い出す。それはゴブリンに襲われた時のことだ。あの時もヴィジャスは傷など無かったと言っていた。


 それに最後に見たオーガもいなかったと。そうして一つの説が生まれる。俺が気絶したあとカレハがオーガを倒したのではないかと。だがまだ理解できないそれはなぜ傷が治っているのか。カレハが実は強くてオーガたちを倒しましたならまだ分かる。だが倒せると治せるは全く違う。現にカレハは俺を治療したような仕草などしていない。シィー達を見るが彼女らが回復する様子も無い。何も分からないな…。


 回復したからと言ってカレハのあの戦いについていける訳もなく参戦しても足を引っ張るだけだろう。ならどうするか…俺にできること。とりあえずシィー達を少し離れたところに運んで水を飲ましたりだろうか…。そうと決まればシィー達を運ぼうと二人の方を振り向くと、知らない子供が二人を背に胡座をかいて座っていた。


「だ、誰だお前!」


 咄嗟に後ろに下がりメイスを構えその子供に問いかける。


「落ち着けい、なんもせんから。それにサクマ、お主とは昨日話したばかりじゃのうて」


 見た目とは違う年寄りのような喋り方をする子供はこれまた長い青紫の髪の毛で長すぎるのか顔の真ん中でクロスさせ反対の耳にかけるような変な髪型をさせている。瞳はオッドアイというものだろうか、右目は緋色の目、左は黄金のような金色の瞳をしている。左目の上に角も生えている。肌は褐色よりで、服装はセキ達のような着物というより祭りとかの法被はっぴだろうか、その柄はカレハやサクマの眼帯のような気味の悪い模様をしている。そして人とは思えない異様な雰囲気と言うよりオーラを出しているような気がする。この感じ確かに覚えがある…。


 昨日話した…?ユリとベア以外に子供なんていなかったと思うが…それにあの集落の人達は集落から離れられないはず…となると。


「理解が遅いのう、ヴィジャス達とこいつらが神と称えておる、実際は神じゃない存在じゃのう」


「神じゃないならお前は結局何なんだ」


「まぁ、答えは言えんが名前くらいは教えとかんと話し辛いかの?ワシの名はゴラクじゃ」

「何で出てきたんだ。俺には姿を見られたくないとかそんな感じでヴィジャスを通じて話したんじゃなかったのか」


「まぁそうなんじゃが、色々と問題が起きての。仕方なく姿を出したってとこじゃ」


「問題っていうのは前言ってた、のっぺらぼうって奴か?」


「そう、あのカエルはそ奴のお節介が招いた事だ。詳しくは前も言った通り話せんが、どうやらそいつがお前に用があるらしいから結局は会うことになるかの」


「で、お前は何しに来たんだ?加勢って訳じゃないんだろ。ここでのんびりとくつろいでるってことは」


「まぁ、そうだの。今は観戦ってとこかな。こいつらの治療も終えたしの」


 治療?そうゴラクの後ろを覗くと傷が完治したシィーとセキが落ち着いた様子で眠っていた。


「とりあえず今のお主にできることは今は無い。大人しくカレハの戦いを見守っちょれ」


「あ、ああ…そうだな」


「そう、悔しがるな。今は弱くてもいい。これから守れるよう強くなっていけばいい。その強さは力強さもそうだが危機を逃れるための逃げの強さ。そしてお前たちは二人で動いているんだなら片方が足りないものを補える強さを持てばいい。後は自分で考えていけの」


「カレハにあって俺に足りないもの…」


 今見ているとカレハは俺と天と地の差の戦闘能力、あんな化物とやりあえる力がある。だがそれはいつでも出せる力なのだろうか。負担はないのだろうか。代償のようなものはないのだろうか。もしそんなものがあるのであればカレハに力を頼ることなんてできないだろう。ならどうする…。まだ分からないが、一つ決まったことはある。それはカレハに頼らず守る力を手に入れること。そう決心しカレハの戦いを見守る。


 カレハとカエルの戦いは接戦に見えるが実際はカレハの劣勢だろう。一見カレハがカエルの攻撃を全てを弾き腕の触手を千切り取っていてカエルはそれを再生出来ないでいるから優勢に見えるのだが。カレハも人間で俺の前では疲労などを見せてたんだ。あといくつあるか分からないその触手が尽きる前にカレハの体力が尽きる可能性の方が圧倒的に高い。


「う〜キリがないなぁ。それに腕が痛くなってきた」


 カレハがいくつもの触手を流しちぎっているとカレハの真下から触手が飛び出し足を掴む。


「むっ痛いなぁ」


 カレハはすぐに飛ぶように足を強く蹴りあげその触手をちぎったが足の皮が大きく剥けて赤い皮膚をさらけ出し血流す。そこからカレハは体勢を崩しカエルの触手の攻撃を避けれなくなる。カエルは既ににいくつもの触手を自分の体の中に貫通させ潜ませており、今見えている触手が囮となって下からの攻撃を防げないようにカエルが誘導しているのだ。


「カレハ…」


 本当に今は見ていることしかできないのか…身体強化できそうだが俺が行っても…いや、行かなくてもいい。俺が今ここでできること試す価値はある。

 サクマはカレハに手のひらを向ける。


「ほ〜う、付与魔法か、面白いこと思いついたな」


「俺に身体強化かけても意味ないならカレハに今はかける」


 が、カレハに身体強化をかけられている気配がない。


「どうして…」


「そんな簡単に付与魔法ができてたまるか」


「そんな…」


「発想はいい、だがお前さんはまだ未熟だ。今はとりあえず見守っておけ。そして後でシィーから付与魔法をしっかり学べ。それがお前さんにできることだろうの」


「あ、あぁ」


 やっぱり今は何も出来ないのか…頑張ってくれ…カレハ…。



「う〜もう怒った!」


 触手に足止めされていたカレハが急にカエルの頭の方へ進めるようになった。それは急に強くなったとかではなく捨て身の特攻だろうか。カレハから触手への攻撃を一切やめて、できるだけ大きな傷はおわないように急所を避け傷つきながら進んでいく。


 カレハは再び果物ナイフを取り出しオーラのようなものをナイフの刃に集める。いくつもある触手を全部処理するより多少傷ついてでも相手の頭を攻撃するのは確かにその方がいいだろう。


 カエルその行動を察知して更に触手を増やし壁を作るように隙間をなくしてカレハに迫る。


「そんなもの飛び越えれるよ」


 カレハの足に黒いオーラが流れ大きく飛びその壁を超えて触手の上を走る。カレハとカエルの頭部まであと少し。カエルは更に尻尾の巨大な触手を混ぜ阻止しようとするがカレハはそれさえも上手くくぐり抜け頭部を目前にナイフを振りかぶり走り飛ぶ。


「ふむ、サクマ。身体強化してカレハを迎えに行って離脱の準備をしろ」


「あ、ああ。わかった」


 カレハが飛び込んでからカエルは悪あがきかその後ろを触手が迫る。


「残念だけど、これで終わり」


 そうカレハがナイフを振ろうとした時。

 もごもごとしていたカエルの口が小さく開き勢いよく紫の煙が出た。カレハはもろにその煙を浴びる。カレハの攻撃が起こらないどうしたのかとサクマはカレハ元へ走っていた。


「非常に残念だが、カレハお主の負けじゃよ」


 ゴラクはいつの間にかカエルのすぐ下に立っておりカレハを抱えていた。それに遅れてサクマがゴラクに近寄る。


「ほれ、受け取れ」


「ちょっ、おま」


 ゴラクがカレハを放り投げサクマがカレハをお姫様抱っこでキャッチする。


「近くに行こうとしてるんだから普通に渡せよ」


「いいから、さっさと連れて下がっちょれ」


「わ、分かったよ」


 サクマはゴラクに言われるがままカレハを抱えてシィー達が眠っているところに戻る。カレハは既に意識を失っていた。


「どうした?あ奴が苦しまないのがおかしく見えたかの。そりゃ当然のことよロメ=メロよ。いや、なりそこないか。お前さんはちゃんとした変態を行えてないのだからの」


  カエルはゴラクを前にカレハを見た時以上に警戒をして唸り声を上げている。


「ワシを前にしても逃げぬか。カレハを倒して調子に乗っておるのか。既に恐怖心を失っているのか。それとも既に意識が改変され逃げることが許されてないのか。どれかのう」


 カエルは鳴き声と言う咆哮を上げ地面を大きく抉り踏み込み体全体を直上に体を飛びあがらせる。それは体が三分の一くらいまで小さくなっていくまで。


「やはり逃げぬか、まぁよい…再び世界の泥にかえれ」


 ゴラクは両手を合わす。すると等間隔にメトロノームのような音が響くそれは一秒に一回なり五回目に鐘の音が鳴る。


「ふむ、あの大きさでこの距離なら三回で行けるかの。はぁ…人間相手なら面白いのだが」


 ため息をつきつまらなそうな顔でそう言うと手を二回叩き両手をフックする。


 それを終えると再びメトロノームと鐘の音が鳴る。


拍拍溜はくはくりゅう


 再び手を二回叩きフックさせる。同じように鳴る。


「お主もわしに迷惑かけたんじゃ」


 三度目の同じアクションと音。


「わしもお主の邪魔をさせてもらうの」


 今度は二度叩いたあと右腕をカエルに向ける。右手は黒い炎のオーラに包まれており、向けてた瞬間カエルの輪郭をなぞるように黒い線が浮き出る。そして硬いものを捻るように腕を動かし何かに抵抗されている手を力強く握りつぶす。


 カエルが地面に落ちる間際、次元が歪む音と共にぱっとカエルの姿が跡形もなく消えてしまった。


「どう考えてもお前、神様の部類だろ。…ゴラク」


 あまりの事に動揺しつつもゴラクが敵でなかった事に安堵せざるをえない。



 カエルとの戦いを終えてゴラクに案内され数十分くらい三人を抱えて歩き湖に着く。

 その湖は最初に訪れた泉の様にきれいな水があり底の方から神秘的な光を放っている。何かがあるのだろうか。俺たちがここに来る前にクロマメが眠っていた。ここまで吹っ飛ばされていたのだろうか。


「ここら辺でいいじゃろ」


「ここは?」


「なぁ~に、何の変哲もないただの湖よ。飲み水を補給しとくもよし、今飲むのも良い。ここでしばらく休んでここからまた進めばよい。わしはもう帰るからの」


「ああ、分かった。その、助けてくれてありがとう」


「ふっ、よいよい、感謝など。私の気まぐれにすぎん。まあ、二つ言うなら。私がここに来たことを二人に言うな。私は子奴らに会うことは本来あってはならないのだから」


「わかった。もう一つは?」


「これは気まぐれの助言じゃ。本当は教えたくは無かったが仕方ない」


 ゴラクは懐から何かを取出しサクマに投げ渡す。渡されたそれは毒々しい紫と緑の柔らかい何かだった。気味悪く生きているのか鼓動をうつ心臓のように動いている。


「負を背負い自身を犠牲にしてでも強くなりたいという覚悟があるならば化物どもを殺して食え。さすれば強くはなれるであろうの」


「強く…これは?」


「それはお前さんとセキが倒したはずだったカエルの肉片だ。それはお前さんのものよ。このことも二人には話すな。そして食うのであれば一人になって食うことをおすすめするの」


「わかった。言わない」


「じゃ、わしは帰る。二人には上手く話しておけ。シィーはカレハが戦う姿を少し見ているからたぶん大丈夫じゃろう」


「ああ、わかった。本当にゴラクありがとう」


「ん」


 ゴラクは森の方を向いたまま右腕を上げ手を振り返事して森の方へ歩いていき真っ暗中闇の中へ姿を消していった。本当に不思議な存在だった。なぜあれほどの力がありながら神ということを否定するのだろうか。なぜ、悲しそうな雰囲気を出すのだろうか。


 サクマはゴラクを見送った後言われた通りにカレハ達から離れ森の中に一人になる。懐にしまっていたゴラクに渡されたカエルの肉片を見る。その毒毒しい物をこれから食うのかと息を吞む。まだ少し覚悟ができずに【分析者】を使いその肉を調べるもメメの情報が流れてくるだけだった。


 メメ

 体長約40m強

 ロメ=メロの卵から生まれるロロが成長した存在。

 巨大な体からは無数の触手を生やすことができる。頬の二つの袋からは体から生成してしまう雲のようなものを生み出しそれを吐き出すことにより 浮遊するポポロ を生み出す。巨大すぎる体に運動機能が追い付けていないため自由に足を動かすことができない。移動を行うには一時間以上の準備が必要でありそれを行うことで長距離の跳躍移動をすることができる。次の変態を行うにはメメを約3三百以上かそれと同等の捕食を行うこと。


 つまりゴラクが倒したあれはメメ三百以上の塊の存在ということか…だけどあいつはなりそこないと言っていた。じゃあ、あれはロメ=メロではないのか。一体どんな化物なんだよ。と理解などできない事ばかり考えその肉を食べる事を現実逃避する。だけどこの世界を進むと決めてしまった。昨日をう逃げられないを選択をしたのだ。ほんとちっぽけな覚悟だったな…。だがこれからは違う…今回のことを…しっかり今度こそ覚悟を決めろ。おれはカレハを守ってこの世界を生き残ってやる。


 そうしてサクマは肉片を強く潰すように握りしめ頬張る。それはひどいものだった。噛むたびに口の中が溶けているのではないかと感じる焼く様な痛みと痙攣する痺れ、血と生ゴミの匂いが混ざったような匂いが広がる。それを我慢し無理やり噛み飲み込む。肉が触れ通る全てに激痛が走る。胃の中に落ち消化を終えるのを地面にうち伏せ悶えながら待つ。


 サクマは落ちていた。真っ暗で光のない世界を、しばらく落ちてどぽんと何か当たりながらも更に落ちていく。水いや、泥なのだろうかそれは分からないがなお落ちた行く。すると声が…音が聞こえる。それはカレハやセキ達でない全く知らない声で何を言っているかも分からない。それも一つの声だけではない、どんどん増えていく。その一つ一つに意思、感情のようなものを感じさせる。好き、お腹すいた、暗い、痛い、辛い、怖い、嫌い、死にたい、死にたくない、殺したい…色んなものが混ざった混沌としたものでその一つ一つが確実にサクマを苦しめる。目を閉じ頭を抑え必死に耐えようとする。


 しばらく落ち続けると何かを感じ目を開く。すると落ちているその先の方に何かがいた。それはカレハに似た何かなのだがカレハではないとよくわからない確信をサクマに与える。そのカレハに似た何かがゆっくりと口を開き何かを言い終えると、ゆっくり透けていき消えていった。


 サクマは現実に戻される。痛みや不快感はすでに消えていた。再び沢山の謎が生まれるがどう考えても今の自分では理解できないだろうと考えるのをやめ。自身から湧き出る力に一旦満足しカレハ達の元へ戻り、カレハのそばに腰を落とし皆と同じように体を休めるべく眠りにつく。

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