第7話
完全に霧が晴れ姿を表すその化物。焦げ茶色の肌をしていくつものの水膨れのようなイボがある。インドウシガエルのように膨らんだり縮んだりする黒紫の二つの袋、ツノガエルのように目の上が尖っている。唇は分厚く舌が二股に別れていて舐め回すようにして口の中に閉じる。巨大な二本の触手が蛇のように襲うタイミングを今か今かとゆらゆら揺らいでいる。
サクマは自身に身体強化をかけて一時の方向に遠心力を使うように回り降りるように走る。カエルの化け物はサクマ目線だけ動かし追う。そしてサクマが真横当たりを通る瞬間巨大な触手が正面から口を開き地面をえぐりながら突っ込んでくる。
「デカすぎんだろッ」
メイスに強化の魔力の層を作り盾のように使い受け流そうとするが予想以上に力が強く内側に弾き飛ばされてしまう。その勢いに受身が取れず地面に叩きつけられるように転がっていく。身体強化をしているためかさほど痛くはなくダメージは無いが少し体が痺れる。が化け物に触れたことにより【分析者】の力が働き二つの情報が流れてきた。
ロロ
体長1~10m
※※※※※の卵から生まれる幼生であり一つの卵から約百のロロが生まれる。
二本の触手を伸ばしている。何かを喰らうことで成長していく。それはほかの生物でもあり共食いでもある。同種族を五百くらい喰らうことで次の変態を行う。
メメ
体長約40m強
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
つまりこいつは、あのオタマジャクシどもが成長した姿だっていうのか…どう見たって怪獣だろもう。
衝撃の痺れで動けない俺をカエルは絶好の狙うのチャンスなのだが追撃がない。
「ゲロゲゲ」
舌を舐め回すように動かし嘲笑うように響く大きな鳴き声をする。
「見下して遊んでくれてんのか…そのまま見逃してくれたらありがたいのだがなぁ」
体勢を立て直し再びカエル後ろに回るように走り出す。どこかにゲームみたいな弱点の核や突起物は無いかと注意をしながら見る。が、そんなもの見当たることなく見当たるのは柔らかそうなイボだけ。としっぽの付け根を見るとオタマジャクシの化け物の尻尾に着いていた尾びれのようなものが残っていた。まさか本当にこいつこの大きさでまだ成虫(大人)じゃないのか!?
サクマは足に力を集中させカエル背中に飛ぶ、通常より高くは飛んだが約二倍程度そんなに高く飛べたわけではない。が、その勢いを使いメイスに再び力を込めカエル体に打ち落とす。ダメージを与えたという感覚は無くメイスは肉の中に沈み力を消していく。勢いを全身に逃がしているため人間が蚊に噛まれる程度いやそれ以下のダメージしか与えられないように思える。
「打撃じゃダメージは無理だな。なら」
サクマはズボンの方に仕舞っていた果物ナイフのようなものを取り出し、魔力を込め何度か斬り掛かる。
「げっげっげっげろげっげ」
がやはり果物ナイフでは、全く切れないそれどころかカエルがこそばゆいのか笑い始めたぞ。
「さき貰ったメイスは役に立たないし、ナイフ手持ちのナイフも切る事が出来ない…こんなやつどうやって倒すんだよ」
絶望すぎて立ち伏せていると、遠くから近づくように声が聞こえてくる。
「ぅぅぉぉぉおおらぁ!」
それはサクマの横を瞬時に上空から降り注ぐようにカエルの背中を巨大な大剣が振り下ろされる。その勢いの風圧に砂煙がたち視界を少し悪くする。
「どうしたサクマもう、諦めたのか?」
「なんだ復活かなり早かったなまだ五分も経ってないだろう」
「シィーは回復のスペシャリストだからな命さえ動いてたら完治させるのは早いよ。だが魔力枯渇してシィーが変わりに瀕死に近い。今は木の影に隠れているよ」
「そうか、それより俺の手持ちじゃダメージを与えられないようだ。お前の持ってる大剣みたいな斬る系の武器をくれないか」
「なんだ武器なしかほらこれやるよ」
セキは懐から違う鉱石を取り出しシンプルな大剣に変えた。二メートルくらいの長さで両刃、アイアンソードのような装飾なんて一切なくただの大剣…。
「なんだ、お前他人にはあまりかっこよくない武器渡すんだな」
「贅沢言うな。どうせお前の力じゃ剣も上手く扱えないだろ。それならそういうシンプルな振り下ろすだけで斬れるようなので十分なんだよ」
「まぁ、お前の言い分は間違ってないな。俺は一度も剣を振り回したことがないからな」
「そこ今の状況で威張るとこじゃねぇぞ。それに見ろ」
「あ?」
砂煙が晴れていきセキが切ったであろう傷口が姿を現す。傷口は人間の体を縦に切れば両断できる位の深い傷ができており紫と緑が下手に混ざったマーブリングされたような液体が溢れてくる。
「結構力入れて切ったのにこれだけだの傷だ。アイツの反応がないに加えて徐々に再生していってやがる。」
「倒せると思うか?」
「現状は何も思いつかないな」
そう傷口を治っているのを見終わるとカエルの二本の触手がうねうねと動き出し二人を挟み込むように押し潰しに来る。二人は同じ方に避けそのまま走り出し追撃を逃げながら会話を始める。
「カエルの弱点って何か思いつくか?」
「俺が知ってるのは熱と乾燥だけだ」
「熱と乾燥つってもあいつは至近距離であのふわふわした雲のような化物の爆発を耐えてんだぞ。それで熱が弱点って言われても信憑性ゼロだぞ」
「そんなこと俺言うな。俺だってこんなカエルの化け物始めて見たんだよ。お前こそ何か思いつかねぇのか」
「カエルを見て思いつくことなんて童共の残酷な遊びしか知らんよ」
「なんだよそれ」
「カエルを地面に叩きつけてザリガニ釣るやつだよ。貴様の名前サクマって日の国の者だろ、それくらい知っておるだろ…」
「いつの時代の話だよ。今の子供はそんな残酷なことしねぇよ。それに俺の国は日の国じゃねぇよっと…」
二人は何かを思いついたようで口が止まり互いに見合わせる。お互いに思いついたことが同じで更にはそれは最悪な考えだと…。
「おい、お前その顔何か思いついたろ」
「お前もだよ。先に言えよ」
「嫌だよ。どうせ言った方が突っ込む方やんだろ」
「それ答えだろお前やれよ」
「じゃあジャンケンで負けた方がやるぞ」
「「せーの ジャンケン、ポン」」
「はい俺の勝ち、お前やれよ」
「残念だが私の跳躍ではアレまでは届かないぞ」
「俺も届かねぇぞ。嫌だからって言い訳するなよ」
「私の跳躍じゃ無理だが私の力で投げ飛ばすことは出来るぞ」
「お前…はぁわかったよ、やるよ」
「よっし、助かったぁ」
「お前最初っから逃げ道用意してやがったな」
「さぁなんのことやら」
「だが、もう一つ問題あるんだが」
「もう一つ?私は思いつかないぞ」
「アレをどうやって持ってくるかだ」
「そんなもん魔力の層を作って包み込めばいいだろう」
「そんなもんって簡単に言うが俺は身体強化を今日初めて使ったんだそんな技術持ってねぇよ」
「とりあえず作戦は私がシィーと話して整えとくから三分くらい時間稼ぎ頼んだぞ」
「はぁ?」
そう言ってセキは持っていた大剣を細長い武器に変化させつつ迫り来る二本の触手に飛び込む。何してんだと思ったがセキの体からピンク色の妖力のようなオーラが滲み出てきて頭の右のコブが大きく伸びていく。
「四式 流連」
セキは触手に衝突するなりスルスルと流れる川のように抵抗なく触手を切り裂き抜けていく。セキが持っていた武器は変化を終えておりその姿は約二メートルはある大太刀でそれには柄も鍔もなく茎がむき出しになっている。
「お前そんなのできるなら最初っからやっとけよ…無駄な追いかけっこだったじゃん」
と、だんだん足の遅くなっていく事に気づく。
どうやら身体強化の効果を終えたらしい。サクマが身体強化を使えるのはあと一回無駄に使いたくないが時間稼ぎする為に使うしかないのだろうか…いやだが、こいつが攻撃するまでとりあえず待っとけば…。
そう考えてるのも束の間。何かが迫ってきて咄嗟に身体強化を使い避ける。その突っ込んできたものは先程で突っ込んできたように太い触手では無くかなり細くなったものだった。
「なんだ…新手か?」
そう飛んできた方を見るとそれの正体に怒りそうになる。
その正体はセキが切り裂いた触手一本一本が一つの触手として動いていた。つまりセキは無駄に敵の手数を増やしてしまったのだ。更に最悪なのは増えただけではなく、先の触手より圧倒的なスピードを持っている事だ。
「あいつ格好だけつけて結果がこれじゃ格好ついてないっつぅの!」
十二本まで増えた触手の容赦ない連撃がサクマを襲う。正面から来る三本の触手は大剣を振り弾くことができるがそれ以外の九本が四方八方から襲いかかる。七本の攻撃は武器地面に突き刺して捨てることで避けることができたがその他二本の触手が接触し左腕の二箇所の肉を抉り食らった。
「一本一本に口があるとかマジでやめてくれよな…生きたまま食いちぎられるとかクソいてぇんだから」
ぶらーんと垂れ下がるその左腕を動かすための糸が切れたかのように力が一切入ってないように見える。サクマは右手でボロ布を破り口と手を上手く使い左腕を体に固定する。その間カエルは犬の毛繕いのように体を舐めまわしていた。
「ペッ、くそっいちいち余裕ぶっこいて追撃をやめやがって絶対やってやる」
サクマは突き刺した武器を片腕で引き抜き担ぐようにして走り出す。それを見て毛繕いを止めたカエルは再び十二の触手を使いサクマを四方八方から襲い始める。先程まで両腕で持って難なく振るえていたが今は片腕で先より大剣を振るうのがワンテンポほど遅く一本の触手しか捌くことができず残りの触手にもてあそぶように空中でお手玉されるあちこちの肉がつぶれるような音を立て凹み骨が悲鳴をあげるかのように音が体の中で鳴ってなる。最後の触手にバレーボールのように地面に叩きつけられバウンドしながら地面を転がっていく。
—無力だ 何もできない 相手の動きについていけず ただあいつは俺をおもちゃとしていやがる くそ
「ゲーゲロ?」
カエルはぴくぴくと立ち伏せる俺を見てため息をつくような鳴き声をした。触手を後ろに戻し舌をゆっくりと下ろしてくる。
飽きたから喰らうってか…体が全く動かねえ…というより感覚が感じない…
「サクマ!こっちに走ってこい!」
その声と同時にサクマの体に緑のオーラが包み込み痛みがやわらぎ体の感覚が戻ってきた。すぐに体起き上がらせセキの方へ走る。カエルは動き出したサクマを逃がさないよう舌を早く波を立てながら伸ばす。その速度は異様に速く程なくして追いつかれてしまうだろう。
「おら、バトンタッチだ。シィーの元へ行っとけ」
立ち構えるセキの横をサクマが通り過ぎる。迫りくるカエルの舌は二股に分かれていたが交じりドリルのように捻じれ回り始める。セキはそれを見て瞳を閉じ両手で大太刀を振り上げ上段の構えをする。
「一式 断崖」
それは名前があるとは思えない、ただの上から下に振り下ろす剣の振り。だがそのひと振りこそがシンプルで強いのであろう。それは地面とカエルの舌が縦に半分に斬れていくまるで斬撃が飛んでいるかのように剣圧が大地と舌を切り裂いていく。その剣圧がカエルの頭に近づいていくとカエルは欠伸をするように大きく口を開き勢い良く閉じる。それによって衝撃を生み出し剣圧を相殺する。その行動を行ったことにより舌がちぎれて落ちる。
「まずは、一本てか?なぁ化物」
カエルに切っ先を向けてセキが言うもカエルは何も気にしていないようで頭にを下におろしていき地面に向かって掃除機のように吸引のような行動を行う。セキはその吸引に巻き込まれると察知し太刀を地面に突き刺し足に力を入れて相撲のように四股を踏み足を地面に突き刺し吸引を耐える。カエルはその吸引をもって切り落とした舌の先を口に近づけ口に届くと麵をすするように舌を口の中に入れて飲み込む。するとカエルの口から舌がニョロッと顔を出し口を開く。その舌は切り裂かれる前の姿に戻っていた。
「完全再生…こいつは今まで見たなかで本気でやばいな…だが弱気になっている暇はないな」
カエルの十二本の触手を前に出し舌と合わせてセキに襲い掛かりセキはそれに迎え撃つように飛び込んでいく。
「とりあえず、これを飲んでください」
シィーは緑色の液体が入ったガラスの小瓶を差し出した。
「ポーションです。といっても体を瞬時に治すようなものではないです。肉体に刺激を与える自然回復を向上させる。それと軽い鎮痛剤の役割です」
「セキみたいに完全回復は無理か」
「セキは鬼の混血です。普通の者とは違い再生能力が高いだけです。それに完全回復はしていません。外傷を隠しただけで体自体にはその分疲労が溜まっています。あと何分彼女が動けるか…」
「そうなのか…」
どうやら俺は回復魔法というもの勘違いしていたらしい。痛みや傷を治し戦える状態に戻すそう思っていた。だが本来はその者の体力を使い傷に働きかせ治しているのが正しいようだ。その消費した体力が疲労となり積もっていく。魔法というものも万能ではない都合の良いものではないということだ。
「カレハは…どうしたんだ?」
シィーがカレハに回復魔法のようなものをかけていた。カレハは少し苦しそうな表情で汗をかいて眠っている。
「毒を吸ったのか急に苦しみ始めていたので睡眠の魔法をかけて眠らせてます。とりあえずポーションを飲まして痛みを和らげ回復の魔法をかけて先程落ち着いてきたところです」
「そうか、ありがとう」
サクマはカレハの頭をなでなぞるように頬に手を当てる。
「では、サクマさんこれを」
シィーはサクマに透明なビー玉サイズの水晶のような物を差し出した。
「これを使えばアレを水晶の中に閉じ込められると思います」
「そうか、分かった」
「最後にこれで」
シィーはサクマの胸に手を当て何かを流し込む。
「貴方、やった後の事考えていなかったでしょう」
「そうだった…」
「はぁ…障壁の加護を付与したわ」
シィーは反対の手で頭を抑え呆れたような顔でサクマを睨み触れていた手を指すようにして突き立て爪を刺すように力を入れる。
「貴方もセキと似て自分のことは後に考える。私たちのこと…いや、カレハちゃんの為に自分を大切になさい」
「わ、悪かった…」
「ちゃんと反省してこれからは気を付けなさいよ…」
「ああ」
「じゃあ、セキをよろしく…」
「ああ、行ってくる」
「行ってらっしゃい…」
—カレハ すぐ終わらせてくるからな
サクマは最後にカレハの頭をなで立ち上がりカエルの化物に向かって走っていく。それを見送り座っていた段々と呼吸が弱くなっていくシィーは力なく地面に倒れていった。
無数の触手と舌がセキと激しい攻防を行っている元にサクマが走っていく。すると真っ黒な丸い影がサクマに走って直撃する。
「な、お前今までどこにいたんだよ」
「ぷぅ!」
クロマメはサクマの肩に飛び乗るなり怒ったように肩を叩くように足をばしばしする。
「何で怒ってんだよ」
「ぷぅぷぅ」
そう鳴いてそっぽ向く。
相変わらずこいつよくわかんねぇな…
「やっと来たか」
セキは周囲の触手などを一掃しサクマの近くに着地する。切断された触手は地面に落ちるが直ぐにスライムのように溶けて再生するかのように元通りに繋がる。
「こいつ不死身か」
「かもな、さっきから切っては繋がっての繰り返しだ。で、もう準備はできたのか」
「ああ、大丈夫だ。お前も体は大丈夫なのか?」
「問題ない」
「じゃあ、頼むぞ」
「ああ、任せろ」
セキは持っていた大太刀を巨大な木べらのように形を変化させる。それにサクマが足を乗せてる。
「じゃあ行くぞ」
「ああ」
セキは力を込めサクマを乗せた木べらのようなものをゴルフのように振り上げサクマ達を空へ飛ばす。
「くっ」
「ぶぅぅぅぅぅぅぅ」
ゴルフボールのように勢いよく飛んでいく二つの影はカエル頭を超えてなお進んでいきそれの中に突っ込み過ぎ去って勢いが弱まり下に落ちていく。
サクマは手に持つそれを確認する。それは浮遊するポポロの中にある核をシィーから貰った水晶の中に閉じ込めている。外界から遮断された水晶の中のためその核は膨張せず爆発を起こさない。
「よし、後は…」
サクマはまずいと思い汗をかく。それは落下している後の着地の事もそうなのだが、もっと重要なことを考えていなかった。
後はカエルの中にこれを突っ込む…それだけなんだが、どうやってこれをカエルの中に入れるか考えていなかった。
「まずいまずい…」
「サクマ!それを投げる準備をしろ!」
セキが地上から大声でサクマに呼びかける。何か策があるのかとセキを見やる。
セキは深い呼吸を行いあの長い大太刀で居合の構えをしていた。先ほどと太刀が少し変化しており、鞘をしているかのように太刀の刃先から柄の尻まで真っ黒布が細い包帯となってるぐると巻かれて覆っており少し隙間を開け刃にを左手で握り血を流す。
「忘れし記憶、今契りを破る事を許せ」
セキのその発言に円を描き囲むようにように赤黒い深紅の稲妻が起こっている。血が太刀を滴り落ちることは無く、その血が蜘蛛の糸のように線となりそれが集まり鞘のように太刀の刃を包み込み黒い布が溶けるように変化して、その鞘になる隙間を補おうとする。
「我、忌血なる者、二つノ世界に迷て、其ノ忌血を用い、堺を、次元を、開き斬る。 戦鬼、総終ノ式 、次元断開!」
セキのその一振はサクマの呼吸より早く振り終えていた。鞘のようなものは既に無くなっており、振り終えたその大太刀は先程より長く五メートルはあるのではないだろうか。先までの刃とは違い炎のように赤と黒の模様が刃の中で生きているかのように動いている。
空を切ったそれは景色、空間に波紋のように波を起こし打つ。カエルのあらゆる部位が断ち切られ落ちていく。それは四肢であり、触手であり目玉であり舌が落ちゆく。そしてカエルの頭上に真っ黒な亀裂ができて空の波紋がそこに集まりひびが広がり割れ二、三メートルの穴ができる。その穴はカエルの切り離された断面全てにできておりカエル肉体は再生を行わないと言うよりも行えないようだ。それはこの世界の一部を切り別の次元を開く一太刀。
その一太刀を終えセキは力なく地面に倒れる。
「よく分からんが、その穴に落とせばいいんだな」
サクマは空中で体勢を整え水晶を投げる準備をする。
空に空いたその穴は微かに振動しており微かに閉じていくのが分かる。
「一発勝負か…だけどこのままなら真っ直ぐに放れば普通に入か?」
そうサクマが、振りかぶると触手がこちらに迫ってくる。触手どうしが互いに差し合い細くなりながら四本の触手がサクマに迫る。
「くそ」
このまま投げても触手に当たって入らない。それに空中じゃ避けられない。体に強化の壁を…いやもう身体強化は使い果たした。体を思っきり捻るか?それでも全部は避けられない。下手に当たって持ってるこの腕を持ってかれたらここまでのことが水泡と帰す。なにか、なにか無いのか…。
「ぷわぁぁぁぉぁぁぁぁ」
不意に肩に張り付いていたクロマメが鳴きだす。
それは諦めの鳴き声か?もっと可愛らしくかもっと激しく鳴けよ…。そう思って迫り来る触手を反対の手を犠牲にしてでも受け流そうとする。そして触手がサクマに直撃。
することは無く。触手達はサクマを捉えられず外した。それは避けたのではなくすり抜けるように外した。
「な、なんだ?」
とサクマは困惑したが、運が良かったととりあえず整理し、再び穴に狙いを定め水晶を投げる。水晶はしっかりと穴の中に入っていき、徐々に穴が閉じていく。
「さて、着地どうするか」
「ぷぅぅ〜」
「この高さからの落下とか助かるのか…?」
「ぷぅ」
そんな一人と一匹のやり取りをやっているとカエルに開かれた真っ黒な穴が完全に閉じる。するとカエルは再生し始めようとすると体が異様に膨れ上がり内側から破裂するように爆発した。紫と緑の混ざった液体が飛び散り巨大な肉塊が四方八方に飛びゆく地面に倒れていたセキは爆風で飛ばされ。空中のサクマ達も爆風にあおられ飛んでゆく。
サクマはそのまま地面の方まで落ちるよう飛ばされ弾力のある水布団のように柔らかいカエルの肉塊に飛びおち転がる。勢いもあって肉塊に垂れている体液をもろに浴びる。
「た、助かった…が…くせぇ」
下吐のような色んなものが混ざった匂いがたつその肉塊から立ち上がろうとするが身体強化の反動かポーションの鎮痛剤の効果が切れたのか、体が全く動かない。肩に乗っていたはずのクロマメは別の所へ飛ばされたのか姿がなかった。
セキの言った童達の残酷な遊びでカエルの尻にストロー刺して空気を入れるカエル風船を思い出してそれに近いようなことやったが流石に防御力が高いとか関係なく内側からの破壊ならダメージは大きいだろう…。
「はぁ…はぁ…とりあえず…終わったんだ。体の回復を待とう…」
そう重たくなっていく瞼をゆっくり閉じようとする。
すると地鳴りだろうかサクマが乗っている肉塊が振動している。
―な…なんだ!?
収まることなく揺れ続け次第にサクマの視線が落ちていく。どんどん下に肉塊が溶けているように。そして肉塊は溶けきりサクマの体は地面につく。すると目の前を無数の暗い色んな色が混ざった泥がとおって行く。頭を無理やり動かしその泥達が向かっている方を向く。
「う…うそだろ…」
カエルが再生し始めていた…と言うよりも先程より倍くらい大きく巨大な影ができていく。先程の触手のしっぽは完全に消えカエルの頬袋みたいなものは一つになり足などの皮膚はドラゴンのような鱗や棘の角を作っていた。間違いない…このタイミングでカエルが変態して成体となっているのだ。
カエルは大きいためか自身で影を作り巨大な目は赤い閃光のように流れ。まるで暗闇の中で獲物を見る猛獣のようだ。カエルは大きく口を開き雄叫びをあげる。その雄叫びだけで竜巻のような強い暴風を起こし周囲の全てを掃除するように飛ばしていく。サクマも抵抗できず周囲の岩などに空中で叩きつけられながら吹き飛ばされる。
「さ…さくま…さん…大丈夫…ですか…」
力ないシィーの声が後ろから聞こえた。どうやらカエルは餌を一箇所にまとめただけらしい。そしてカエルは足を引きずり亀のようにのそのそと地鳴りを鳴らしながら近づいてくる。サクマは朦朧とした意識の中、口を開く。
「そ…そこにいるのか…シィー」
「は…はい…私だけ…でなくセキも…すぐ側にいます」
「セキは…無事…なのか?」
「はい…怪我は無いのですが…体の疲労…魔力枯渇による…衰弱でかなり…危険な状態…です。こんな…魔素の無い…世界で…無理に…魔剣技使う…から」
「まぁ…こんな状況じゃ…結局怪我にしろ…怪我じゃないに…はぁ…しろやばい奴が…こっちみてるんだけど…な…。もちろん…一時的に体を…動かせる…魔法があって…みんなを避難させる…ような何か…は…」
「残念ながら…私にはそういった…魔法も…無いですし…魔力枯渇…ギリギリです…」
「だよな…そんなものあったら…既にセキに…使って離脱…してるもんな…」
完全に策が尽きた。シィーが動かないということは動くほどの体力がなくポーションといった物も既に使い切ったのだろう。シィーの言っていることだとセキは動けない更には今命が危ない状態…俺ももちろん身体強化を使い切り体は動かない…クロマメは居ないしいたとしても何が出来るのか…詰んだ。
そう必死に何かないかと頭を働かせるが何も思いつかずそれと同時に地鳴りが鳴り止んだ。頭を少し動かし視線をやると、すぐ側にカエルがクレーターの縁に足をくっつけていた。
「く…そ、最悪な…はぁ…タイミング…で…はぁ…変態…しやがって…大人しく…死んでくれよ…」
『ゲ…コ』
カエルの口が遠いいからか小さな鳴き声が遅れて聞こえた。
『ゲッ ゲッ ゲッ』
カエルは笑うような鳴き声をする。
―くそ、くそ、くそ…まただ。結局、何も出来なかった。倒しきれなかった。無力だ…なんでこんなにも俺は無力なんだ。
悔しさで頭の中がそんな文字だらけに埋めつくし真っ黒になっていく。そして―
―結局いつも俺は誰一人守ることが出来ない
そうして、真っ暗な暗闇の中にひとつの雫が落ちてゆく。
いつまで経ってもカエルが襲ってこない…と言うよりカエルの笑うような鳴き声が病んでいた。一体どうしたんだ…。そう重い瞼を開けて目を開く。すると目の前に小さな足と長い髪の毛が通り立ち止まる。真っ白な細い足と髪の毛…。
「はぁ…げろげろ、うるさいなぁ」
ため息をついて気だるけに違和感のある喋り方をする
その声を俺は聞いたことがあり知っている。幼く俺をママと呼ぶカレハの声なのだが…いつもとなんだか様子が違う…?
「ん?おかあさん、まだ意識あるの?もう、大丈夫だから眠ってていいよ」
―おかあさん?
するとカレハだろうと思うその者を囲うように地面が泥となり波打つ。音波を当てられた水のよう上下に柱が立つように揺れる。そして泥が糸のようになり足と髪に絡みつき姿を変えていく。俺はその光景を見ているだけで寒気を感じ恐怖してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます