第6話
ヴィジャス達の集落を抜けてから一時間くらい歩いだろうか。全く変わらない景色の森の中を歩き続けた。
「もう疲れたぁ」
「ふむ」
サクマは困り顎に手をやる。カレハも何の変化のないこの状況に飽きてきたようで歩く速度もかなり落ちてとうとう座り込んでしまった。途中で以前のような木の棒を与えたのだが渋々受け取っていた。子供の飽きはやはり早いな。さて、どうしたものか。この時親ならどうするのだろうと、自身の親を思い出そうとするも記憶が無いので思い出せない。どんなことをしたら子供は喜ぶのだろうか。子供ならと自身を子供に例え考える。が想像が下手くそで被り物を被った二頭身の自分を思い浮かばせ自分でツボる。
「どうしたの?ママ急に笑い出して…変だよ」
カレハの視線が痛い…だが嫌われてはないからいいか。にしても子供が喜びそうなことか。カレハは頭撫でるだけでもそこそこ喜んでくれるし…。そうだ!
「カレハ僕の前に立ってくれるかい?」
「ママの前に?」
カレハは首を傾げながらもゆっくりと歩きサクマの前に立つ。
「立ったよ」
「じゃあそのまま足を肩幅に広げてみて」
「こう?」
「そう。じゃあいくよ」
「ひゃぁ!?」
カレハを肩車する。以前は無我夢中で抱えていたから気づかなかったがこんなにもカレハ軽かったのか…。三十キロもないのではないだろうか。
「たかーい、ママ歩いて歩いて」
「はいはい」
カレハはとてもうれしそうに手のひらでサクマの頭を優しく叩く。嬉しそうで良かった。やはり子供は初めてのことにはテンションが上がるようだ。さてさてこれからもカレハが飽きないように考えていかなくては…。そう歩いていると後ろの方から何かの鳴き声と走ってくる音が聞こえる。
「何だッ」
「ぶうぅぅぅうぅぅうぅ!!!!」
振り向くと同時にその鳴き声を上げて真っ黒な丸い物体がサクマの腰あたりに勢い良く突進して来た。あまりの衝撃に咄嗟に自身に強化魔法をかけてバランスを崩しこけそうになるのを踏みとどまる。危ない危ないこのままこけてたらカレハが怪我していた一体なんなんだと振り向く。
「あ…」
「あ、くろまめ!」
「ぶぅ! ぶぅぅぅう!」
そこにいたのはヴィジャスの所で檻の中に閉じ込められていた得体の知れない生物が怒っているのか鳴き声を上げながら唸っていた。あの時私達の子って言ったのに今の今まで忘れていた。というよりこいつどこにいたんだ。
「まめおいで」
「ぷぅ♪」
カレハの呼びかけにクロマメは怒りが収まったのか嬉しそうに鳴きカレハの胸に飛び込む。初めて見た時もそうだったがカレハ以外には威嚇するんだよなこいつ。一体なんなんだ。クロマメが飛び乗ったことで重くなると思ったのだが重さはあまりの変わらなかった。と思ったのだがそう言えば強化をかけてしたのだった。
—無駄に一回強化を使ってしまった。まあ、使った物は仕方ない一回でどのくらいの時間でどのくらいの効力があるか確かめてみるか。
「じゃあ、カレハ走るぞ」
「うん、ママ。レッツゴー!」
「ぷぅう!」
カレハの掛け声とともに走り出す。体がとても軽い。以前走っていた時より少し早いことがわかる。一歩一歩に勢いがついてだんだん歩幅が広がり少しまた少しと加速していく。その度に全身で受ける風の強さが変わる。
「風がきもちぃい」
「楽しいか?カレハ」
「うんたのしいぃ!」
「それは良かった」
「ぷぎぃぃぃぃぃぃぃぃ~!」
若干一匹が悲鳴を上げているように思うがカレハ優先なので一切緩めず更に加速する。カレハはとても楽しそうにキャッキャッと笑う。
しばらく走りもうすぐ身体強化が切れるのか体に違和感を感じてスピードを緩めていくだんだんとカレハとクロマメの体重を感じ重くなっていく。足を止め立ち止まり深呼吸する。
身体強化は持続性の様で使ったら一定時間の効力があるみたいだ大体三分から五分くらいだろうか
「ママ?」
「すこし休憩していいか」
「うん」
腰を下しゆっくりとカレハを地面に下す。クロマメは降りてから何やら豚のような嗅ぐ音を立ててキョロキョロしている。
「くろまめ?」
「どうしたんだ、腹でも減ったのか」
「ぶぅううううう!」
すると急に唸りながら全力で真っ直ぐに走っていった走っていった方向から木々にぶつかる音と変な鳴き声を上げながらもそれでも走っているのが分かる。
「猪突猛進ってやつか…てか休憩しようとしたのに全く」
「ゆっくりでいいから行こ」
「そうだな」
クロマメの跡を追うようにゆっくりと二人が歩く。しばらく歩くと森が開け見たことのある光景が広がる。それは自身が目覚めたところのようにそこにクレーター見たいなものができていた。そしてあの時通り中央に真っ黒な何かが鼓動をしているようにびくびく動いている。
「おや、お客さんかい?」
不意に聞こえた声の方を向く。と岩の上に赤い月を背景に大きな盃を片手で座っている一人の女とそれの後ろに従者のように小さなひょうたんを携えるローブで顔を隠した人影がいた。二人とも不思議なことに着物を着ていた。こんな世界に着物なんかあるのか…。
「いや、黒くて丸いペットを追いかけてきただけなんだが」
「クロマメだよ。ママ」
取り敢えずであって言葉が通じる者ならば敵意をない事を見せなくては…
「ああ、あれは君たちのペットだったのかい?シィー案内してやれ」
「はい」
そう女はクレーターの中央のものを見ながら盃をグイッと吞む。彼女の背後にいた女は岩を飛び降り手のひらを岩の向こうに向け「こちらです」と清楚そうな声で言う。降りてきてから気づいたがフードが変にバランス悪く右に伸びている。彼女に続くように歩く着物姿で丁寧に歩く後ろ姿だけしか見えないがそれでも凛とした可憐さを感じさせる。と岩を回るに連れ何やらパチパチという音が聞こえる。それになんか香ばしいいい匂いが…とそれを見る。そこに映っていたのはするめなどの海産物の干物のような物と一緒にクロマメが口に布のような物をつけられて生きたまま木に括り付けられゆっくりと回されながらあぶられていた。
「何やってんだお前」
クロマメは何か吠えているようだが布で口を防がれているためもごもごとしか聞こえない。
「これはどういう状況なんだ」
「いや何、急に来てわしの干物を喰らいやがったから代わりに食ってやろうとな。生きたまま焼いてやってる」
「それはすまない。どうぞ食べてくれて構わないぞ」
サクマのその発言にクロマメが起こったのか必死に暴れまくる。こいつ言葉理解できるんだな。新発見だ。
「いや、いらんよ。いつまで炙ってもいい香りが一切しない。たぶん食えないものだろう。シィー飼い主だそうだから放してやれ」
「はい」
ローブ女がクロマメに巻き付けられた縄をほどきクロマメが地面に着地するなり急にぐるぐると回りだし、勢いをつけサクマ飛び込み頭突きをくらわす。
「がはっ」
「きゃはは、何やってんの二人共」
こいつ見た目のわりに凄い力を持っていやがる…。満足したのか自慢げに立つクロマメのその姿が若干腹が立つ。
「ふははは、面白いな解放早々に飼い主に突進とは、躾がなってないなお前。よっと」
岩の上に乗っていた女が笑い降りてくる。先程まで月の光のせいでよく見えなかったのだがそれが無くなり素顔を露にする。ピンク色の髪で高貴そうな着物姿の女性。大人びた顔つきで目は少しきつそうな雰囲気があるがかなり美人な類だろう。カレハには負けるが。身長はそこまで高くなくカレハより五から十センチ高いくらいだろう
「ふむふむ、くんくん」
「な、なんだ」
女は近づくなりサクマの上下に見て匂い始めた。
「やはりこの匂いヴィジャスか、貴様最近ヴィジャスとあったようだな」
「あったも何も先程まで別れたばかりだが」
「そうか、ではこの周囲に新しく拠点を置いているのか」
「そうだがヴィジャスと知り合いなのか?」
「まあ、あいつと別れてえ~と」
「三年です。それと」
「そう三年だ。で、どうした?シィー」
「取り敢えず自己紹介をしてはどうでしょうか」
「そう言えばしていなかったか」
「それなら俺たちから、俺はサクマ」
「カレハだよ~」
女は仁王立ちして男のように自身に親指を向ける。
「私はセキだ。今の見た目じゃ分からないと思うが私は鬼だ」
そう言って右目上の髪の毛を分けて小さなこぶを指差す。
「そしてこっちが」
「シィークリフォレ。シィーとお呼びください」
「フードを取ってもいいんじゃねえかこいつなら気にしないだろう」
「そうですかね。では」
そういってフードを脱ぐ。そこに露にしたのは耳の長く褐色で顔の整ったダークエルフというやつなのだろうということよりも右目を覆うように生えている頭蓋骨、更に後ろから前と横に伸びる二本の悪魔のような角に視線がいってしまう。
「それは?」
「さあな、私にも分からん。わかっていることはこれが出てきてからケガするたびにこの骨のような物が成長するように大きくなっていることだ」
「取り除いたり、治したいできないのか?」
「一度大きくなる前にナイフで取り除いたがすぐに元に戻ってさらに大きくなりやがった。今のところどうしようもないな」
「そうなのか…」
「まあ、今に始まったことじゃないしシィーももう気にしていないこの話は終わりだ。でヴィジャスの話だったな。あいつ、いや皆は元気にしていたか?」
「ああ、元気だったよ。二人とヴィジャスはどういう関係なんだ?」
「私達はそうだな放浪者って感じかな。行く当てもなくただただ歩き回っている感じだよ。まあ、それ以外にも仕事があるんだがな」
「仕事っていうのはっと、すまない時間のようだ」
「時間?」
そう言ってセキはクレーターの方を向く。どうしたのかと思いサクマも同じ方向を向くと。クレーターの中心にある塊から黒紫の液体が流れ始める。それはだんだんと勢いを増して滝のように四方八方に液体が出続ける。
「いったい何が起きてるんだ」
「私達はヴィジャスと同じように神のような存在を崇拝している。その話は軽くヴィジャスから聞いているだろう」
「ああ、過去を捨てる代わりに化け物たちから身を守るだったか?」
「そう、だが彼らと少し違う。いくらでも化物が増えるそんな世界だ。だから崇拝者する者の中から戦える者に仕事が与えられる」
セキが先程まで座っていた岩に手をかけると渦を巻くように風が吹き岩が光、形を変化させていき岩で円形の戦斧となった。
「私達の仕事はあいつらに被害がいかないように化物どもを処理する仕事だ」
クレーターはいつの間にか湖のように黒紫の液体が浸っていた。するとぼこぼこと沸騰しているように泡立ち液体がどんどん減っていきその液体は干上がるように消えてなくなる。すると真っ黒な集団が姿を現していく。人位の大きさで足を生やし尻尾の方から触手を二本伸ばすオタマジャクシのような化物がそこに現れる。うじゃうじゃいるそれは数百体はいるのではないかと思う。
「さあ、始めようか」
そう言ってセキは戦斧を担ぎクレーターの中に飛び込み化物の集団に突っこんでいく。
「俺たちも何か…」
「大丈夫です。ズズッ」
シィーは正座してお茶をすすっていたこの状況で何で落ち着いているんだ。
「流石にあの量を一人で…無謀だろう」
「私達は神を崇拝しており、倒すべきというより倒せる存在の場所に派遣される存在です。ですから私達が倒せる範囲のものしか相手にせず。倒せないと判断した者の場所には派遣されません。まあ、見ていればいいですよ。彼女のお遊びを」
戦いをお遊びとはゴブリン相手に苦戦した思いのある俺からしたらあの化物の大群を相手にそんな考え出来ない。
オタマジャクシの化物どもはセキの存在に気付くなり全体が一斉に彼女に飛び込むように襲い掛かり始める。それに合わせセキが大きく踏み込みありえない速度で回転しながら飛び込む。それは弾丸のような速度で台風のように戦斧を振り回し数体の化物を半分に切り裂いていく。切り裂かれたところから噴水のように化物どもの液体が降る。が彼女はその液体一つ浴びず集団と切り進んで行く。飛び散る液体が地面に付くとそこから紫の煙が漂う。
「あまり深く呼吸しないように毒です」
「それは、分かったがあいつは大丈夫なのか?」
「私がここから解毒の魔法をかけているため大丈夫です。液体さえ浴びなければ」
化物達は液体を水鉄砲のように吐きセキを当てようとするが避け続け当たりそうなものは全て戦斧でガードするのだが戦斧からも煙が漂いみるみる溶けていく。戦斧で切りかかるがもう刃が欠けたのか切ることができずに化物の皮膚をすべるように流れる。
「っち、やはりただの岩ではこんなものか」
「「ぎゅげげげげげぇあがあぁぁ」」
セキは戦斧だった物を集団に放り投げる。何体かが巻き込まれ潰れるも丸腰になった彼女をみて化物どもは怒り狂ったのかチャンスと思ったのか分からないが雄たけびを上げ始める。
「気になったんだがセキのあれは何だ」
「彼女は触れた岩などの鉱石を武器に変える力です」
「いま、丸腰だが大丈夫なのか」
「心配ありません」
セキは懐から真っ黒なクリスタル状の鉱石を取り出しそれを巨大な漆黒の大剣へと変化させる。その巨大な大剣の刃には奇妙なサクマの眼帯を同じような模様があり。柄の長さはセキの足から胸の所くらいの長さで柄の先には二メートル近くの長い鎖が地面に伸びている。
「あれが神から教えてもらい数年かけ私達が見つけたこの世界で生まれた鉱石。【ヴェルゾラ】です」
「この世界の鉱石…」
セキはその大剣を軽々と振り回し一振りで二体をバターのように切り裂きその勢いのまま柄を手放し放り投げる。そして浮かび上がった鎖を持ち横に強く振り体を捻る。大剣は引っ張られ化物どもをスパスパと半分に両断していく。そしてそれを振りかぶり化け物共が固まってる地面に叩きつける。何体もの化け物が空中に放り出される。地面にいる数十体の化け物共が触手を勢いよく伸ばし襲いかかる。セキは鎖を自身の腕に巻き付ける。そして襲いくる触手を避け更には足場にして華麗に舞う。足場にされた触手がバランスを崩す為に緩ませるセキは空中で身動き出来ない状態となる。そこを狙いすまし四方八方また、地面から三本の触手が飛び出し囲い込む。流石にあれは避けられないと思ったのだが、セキは腕に着けた鎖を伸縮させ触手の包囲網を潜り抜けそのまま化け物共に突っ込み切り裂いていく。
「すげぇ」
「すごーい」
セキの無双する光景を見続けもう四分の一くらいまで化け物が減ったその時。
「ぐぎゃっぐぐぎゃぎゃ」
「なんだ?」
一体の化物の鳴き声に化物どもがセキに襲い掛かるのを辞めその一体を注目する。
「どうしたんだ…」
化物は互い見合わせると一斉に色んな方に散らばる。
「逃げるつもりか?させねぇ…」
その光景を見てセキが剣を振り投げようとする手が止まる。化物どもは死体、生きた者同士が共食いを始めたのだ。それによりセキが斬った時と比べ物にならない濃い霧が充満する。
「くそ」
そう言ってセキはその場を離脱しサクマ達の元へ行く。
「一体何が起きているんだ」
「さあな、猛毒を漂わせて無理心中ってとこか?」
「そんなもので済むといいですけど…」
カレハが不安を感じサクマにぎゅっとローブを掴み体を引っ付けて預ける。クロマメは何かを感じ取っているのかずっと唸りをあげる。クレーター内に霧が充満しそれが幾つかの雲のような塊となり周囲を漂ってどんどん空へと昇っていくすると微かに何かの声が聞こえてくる。
「…ぉ」
「何か言ったか」
「いや、何も言ってないが」
「確かに何か聞こえたような」
サクマは耳を澄ます。すると微かにだが声が聞こえた男のような女のような人の声が
「「ポッポッ」」
一体どこからと三人が周囲を見渡す。
「ママあれ」
カレハが指差す物に視線をやる。そこにあるのは空にうかんでいるような雲の塊がゆらゆらとこちらに近づいてくる。それをじっとよく見る。その雲のようなものはただの雲ではなく無数の苦しむ人の顔を浮かびあげた塊だった。そして口が動いておりそこから声が聞こえる。
「近づいてくんじゃねぇ」
セキが持っていた巨大な大剣を巨大な扇に変えて勢い良く空へ風を起こす。が霧は空へいくのではなく膨張し始める。
「伏せろ!」
セキのその叫びと同時に霧が光を放ち巨大な爆音と衝撃が四人と一匹を襲う。感じるのはサウナのどころではない火傷しそうに熱い熱風、鼓膜が破れたのではないかという耳鳴り。辺りは砂ぼこりが舞っており何も見えない。咄嗟にカレハに覆い被ったためカレハがいることは分かる。そしていつの間にか【分析者】が発動しており情報が流れてくる。
浮遊するポポロ
苦しむ無数の人の顔を浮かべた紫の雲の存在。呪いのような歌を歌い無限に飛び続ける。「ポッポッ」は警告の声。霧の中に核のようなものがありそれは高熱で約7000℃の熱を持つ。この霧はあらゆる鉱石や液体が気化したもの。霧の状態では触れなければ何ら問題ないが触れてしまえば高熱または毒に侵される。核は霧によって外界と遮断されているが風など送ると酸素が入り込み膨張し大爆発する。
—くそ、そういうのもっと早く教えろっての
「セキ!シィーいるか!?」
「はい、ここにいます」
シィーの声は聞こえたがセキの応答がない
「セキ、いないのか!?」
「はぁ…ああ…いるよ」
「そうかいるのか、無事か!?」
「無事か…無事じゃないかで言えば、無事では…ないぁ」
徐々に砂煙がやんでいき周囲が見渡せる俺達はセキが咄嗟に作った大盾により守れていた。大盾が守っていないところの地面は大きく砕けておりクレーターが広がったようになっている。そしてセキの姿が徐々に砂煙から出てくる。その姿は悲惨な状態だった。全身の皮膚が火傷かただれており盾を支えていたであろう腕の両肘か骨が突き出ている。踏みとどまるための両足平がつま先から腹の部分まで削れて地面にその削れた骨や肉がこびりついている。なぜ彼女だけこんなにも怪我を。サクマたちは火傷もしていないというのに。
「はぁ…シィー…ちゃんとそいつらは…はぁ…守ったようだな…」
「ええ、ちゃんといつも通り障壁は張っていした」
「お、おいそれより大丈夫なのか」
「はぁ…あ?だいじょ…ぶだよ…。それより…はぁ…まずいことがある…」
「お前のその状態よりまずいことってなんだよ。はやく治療を」
「サクマ、周囲を見渡してください」
「は、周囲?って何を…!?」
シィーに言われ周囲を再び見渡す。サクマが愕然としているのは大爆発による周囲のクレーターのような状況ではなく。その爆発の中で何の影響を受けていなかった同じ爆発を起こせるであろう霧でもなく。共食いしていつの間にか進化でもしたのか十メートルくらいになった化物。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
気味の悪い笑い声を上げる。その姿はオタマジャクシなのだがナメクジのように目玉が飛び出ており巨大な水ぶくれのようなものがいくつもできて飢餓鬼のような巨大口で尾が何本にも触手のようにうねった化物。
でもなく、その後ろに佇む砂ぼこりに隠れた目の前にいる化物の数倍はある山のような影である。その影は最初の集落で見たように左右に風船のように膨らんだり縮んだりしている。そして聞こえる。この聞き覚えのある喉で鳴らす鳴き声。
「ぐぎゃ?」
目の前の化物も後ろの何かに勘づき後ろを振り向くと砂煙の中から巨大な何かが伸びてその化物に巻き付き
引っ張って悲鳴のような叫びのような鳴き声を鳴らしながら煙の闇の中へと消えていった。
地鳴りとその巨大な影の鳴き声と霧の声が鳴り響く中俺達は身動きできなかった。セキは瀕死、シィーも戦えそうな表情でなくクロマメの姿はなくカレハは震え俺自身あんなの相手にできるとは到底思えない。だが、このまま何もしなければセキは死んでしまうかもしれない。もうすぐ砂煙が完全に晴れてバレる。ならできることはなにか。臆すな、何のためにユリとベアから魔法を教わったんだ化け物共に抗うため、カレハを守るためだろう。
「シィー、セキを治療できないのか」
「今使えば魔力の流れで勘づかれます」
「治療や障壁以外に使える魔法は何があるんだ」
「私が使えるのは完全にサポートの魔法、治療、障壁、身体強化補助くらいです」
「同時使用はできるのか」
「残念ですができないです」
「そうか、ならカレハを任せていいか?」
「ママ?」
サクマは立ち上がり邪魔になるローブを脱ぎ腰より下は着たままで上のローブを下のやつが落ちないように締めて巻き付けメイスを片手に持つ。
「分かりましたが一体何を」
「できるか分からないが時間稼ぎをする。だからセキとカレハを連れて少し離れてセキの治療を」
「無謀だと思いますよ…」
「まぁ、そうだろう。だけど何もしなければバレなくてもセキが間に合わなくなるし、バレても終わりだ。何もしないくらいなら俺が囮になってでも何か起こすしかない」
「勇敢ですね。足さえ震えてなければ立派でしたのに」
「そりゃ怖いからな、ちなみに全開のセキならあいつ倒せると思うか?」
「わからないです、この大きさの化け物は初めてですので」
「そうか、とりあえず俺が身体強化して突っ込む。そのうちに自身に身体強化かけて二人を連れて離れろ」
「分かりました。ご武運を」
サクマが巨大な影の方へ走りシィーが二人を抱えて二つの間が離れていく。砂煙が晴れていきその化物の姿が顕になっていき巨大な目玉がギョロっと動き下にいる仁王立ちするサクマを映しだす。獲物に気づき膨らませていた左右の袋を萎ませ口を開き鳴き声という咆哮の衝撃波を放つ。砂埃が完全に晴れていき紫の霧たちは上空で爆発を起こしながら登っていく。それに合わせサクマは自身に身体強化をかけ必死に抵抗し踏みとどまる。そして化け物を挑発するように声を発する。
「さぁ、化け物餌はここいにるぞ」
サクマの眼帯の内側の青い光が炎のようになびく
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