第5話 

 不安な一言を残されヴィジャス(神のような存在)との話を終えて集落の人達と食事を共にする事になった。集落の人数は全部で十三人しかおらずかなり少数の集まりだ。食事の準備まで時間があり様々な人たちと会話をして時間を潰した。皆この世界にいつの間にかきており放浪して化け物から逃げていたところをヴィジャスに助けられ次第に人が増え集い集落になり先程の契約のようなものを受け入れ今日まで安全に暮らしていたそうだ。食事の準備ができたようで中央に少し大きめの焚き火を付けて円を描くように皆が座る。


「さて、皆新しい仲間とはならなかったが今宵の出会いも一つの運命だ。彼らとの一緒にいられる時間を大切に一緒に楽しく食事しようではないか。では皆手を合わせて。いただきます」


「「いただきま〜す」」


 ヴィジャスの音頭で皆が復唱し食事や会話を始める。皆、座った時にはフードを脱いでおり皆の顔が露になっている。顔が整った耳が少し長いエルフ、獣の耳を生やした獣人、体は小さいのにあの体格はドワーフだろうか。様々な種族がいるようだ。


 目の前に並ぶ食べ物はじゃがいも、人参お肉のような何かを煮込んだ薄灰色のさらさらとしたスープ。タイ米のようなパラパラとしたものとサンチュのようなものにお肉が挟まれた皿が並ぶ。二皿とも見た目は少しあれだがかなりいい匂いで食欲が高まる。


 スープまず初めに食べてみる。それは不思議な味だった。香りと味はクリーミーなシチューなのだが少しずつスパイスのきいたカレーのような味が出てくる。味同士が喧嘩することはなくいい感じに味変の楽しみもありながら混ざり合い更に美味しく感じる。

 次にタイ米のようなものを口にする。口にする前は何も香りが無かったのだが噛んだと同時にガーリックの香りが広がる。それはくど過ぎず丁度いい匂いだ。

 サンチェを巻いたお肉を口にするとまあ、普通の塩コショウで焼いたお肉なのだが。それと先程のタイ米を一緒に食べることでそのお肉が進化する。どのお皿の組み合わせも美味しくむしろ味と香りの変化がとても良く楽しめる。

 こんな頭で食事ができるか心配だったがちゃんと食べられるようで良かった。


「あっちゅ」


「おっと」


 スプーンを使わずお椀を持って口にするカレハが熱かったようでお椀を手放し落とし咄嗟に手を伸ばすとぎりぎりこぼさずにお椀を取ることができ自身のお水を差し出す。


「ほら、お水。大丈夫か?火傷してないか?」


「んん、たぶん大丈夫だよ。ママ」


「一応、口の中見せてみな」


「わかったぁ。んあ~」


 サクハが口を開き中を見て腫れがないか確認したとろ少し赤みがあったがそこまで酷そうなものでは無く軽度のものだった。にしても子供の口内ってこんなに…いやいやダメだダメだ。自身に無心を言い聞かせ深呼吸する。


「どうしたの?ママ」


「いや、何でもないさ」


 不思議ときょとんとした表情で首を傾げてカレハが問いかけるのを何事もなかったかのようにいつも通り平常心に答える。大丈夫、大丈夫落ち着け。


「火傷するといけないからちゃんとスプーンですくってフーフーしてから食べなさい」


「ん~?フーフーって何?」


 右に傾げていた頭を左に傾げてまた問いかける。フーフーっていうところ唇の形が再びサクマの心を揺るがす。なんてこの子は無意識にこんなにもかわいい事をしてしまうのか。そしてカレハが無知過ぎて私心配です。


「わかんないから食べさせてぇ」


「はあ、わかったよ」


 カレハのスープをスプーンですくい息を吹きかける。ん?これ吹きかけられているのだろうか?よくわからないが冷めているような気はする。湯気もそこまで出てないし。お椀を添えてスプーンをカレハに近づける。カレハは「あー」と開く口の中にスプーンを差し込む。口を閉じたのでスプーンを優しく引き抜く。カレハはむぐむぐと舌で味わうようにして飲み込むととても美味しかったのか頬を両手で抑えてとろける表情になる。食べ終わり余韻に浸っていたカレハが再びこちらを向き口を開く。どうやらもっと食べさせて欲しいという意味らしい。サクマは再びスプーンですくい冷ましてその口に入れる。


 ああ、うちの子かわい過ぎる。


 そう瞳を閉じて悟りを開いているのをよそにカレハはスープがもう冷めているのに気づきサクマからお椀とスプーンを取り一人で食事を楽しみ始める。サクマの後ろからふたつの小さな影が近づいてくる。


「「さくま さくま あなたさくまっていうのよね?」だよね?」


 その呼びかけにサクマは悟りを閉じて現実に戻る。いつの間にか手に持っていたものがカレハの元に行っているのに今気づきながら声の主の方を向く。声の主は耳が程よく長く顔がよく整っている。たぶんエルフだろう。そして双子のようによく似た活発な少女と少年がそこにいた。男と女の子という情報はカレハから聞いていた。


「ああ、そうだが。確か君たちは先までカレハと遊んでくれていた…」


「私はユリ」「私はベア」


「ユリにベア。何かようかい?」


 見て名前を述べ分かったように装ったもののドッペルゲンガーのように髪型も顔も服装も全く同じように見え正直シャッフルされたら間違えそうなほど見分けがつかない。


「さくまのその頭の被り物なに~」「取ってよく見てみたい」


「ああ、別に構わないが」


「やったー!」「ありがとう」


 サクマは自身の頭蓋骨を二人に差し出す。サクマはその頭蓋骨をかぶっていないと何も見えない闇の中になるため周囲のことは音じゃないと分からない。


「へー」「こんな風になってるんだ~」「かたーい」「おもしろーい音」「ここ穴あいてる?」「いや、穴みたいだけど穴じゃないね」「口パカパカ開いておもしろーい」「変な模様」「でも、かっこいい」「いや、かわいいだよ」「そうだね、イヌみたいだし」etc…


 聞こえるのは二人が楽しそうにお話したり骨をコンコンと叩いたりと色々な音が聞こえる。こちらは何も見えないため。よく意味の分からない音が鳴ったりすると。「えっ何その音?」「な、なにしてるの」と言いたくても声が出せない為、どきどきしながら不安になりながらもじっと待っていることしかできない。


「「ありがとうサクマ。はいこれ」」


 満足したようでサクマの手に頭を返す。サクマはそれを被ると同時胡坐かいている両足にズシッと何かが乗るような重さを感じた見てみると二人が両ひざに座っていた。


「頭蓋骨を見せてくれた」「お礼に何か」「私達が」「出来る事なら」「何でも」「一つ」「だけ」「して」「「あげるよ」」


 二人が交互に話す。っというよりこの子達何でもっていった。それは俗に言うあれですかとドキドキし始める。あれ俺って小さい子が好きなロリコンだったのか?いやでも、これが新しい扉が開くというー


「んッ!!」


 そう考え浮かれていると胡坐の中央にカレハが勢い良く体重をかけるように座るも、勢いをつけすぎて痛かったのか変な声を発した。表情を見ようにも自分が向いている方を向いているため見ることができないのだが後ろからでも頬が膨れているのが分かりたぶん怒っている?


「どうしたカレハ?」


「なんでもない!」


 何で怒っているのか分からず頭をかしげてしまうサクマだが、取り敢えずカレハの頭を撫でる。それでもカレハは「むぅー」と唸る。


「あらあら」「おいたを」「私達」「しすぎちゃったね」


 二人は膝から離れサクマ達の前に仁王立ちする。


「ほらほら」「カレハちゃん」「怒らないで」「見てごらん」


 二人は間を開けて互に両手を空に向ける。すると天が真っ暗な夜のようになっていきうっすらとそれは浮かび上がり姿を現す。七色に輝きカーテンのようにゆっくり、ゆっくりとなびき様々な形へと変化させるそれは…


「きれー」


「オーロラか…どうやって」


「企業」「秘密」


 二人は手をおろし片手は腰にあてもう片方の手を口元の前で人差し指を立て言う。

 カレハは立ち上がり少し前に歩んでいく。天に姿を現したそれにカレハだけでなく集落にいる皆がその神秘的な光景に目を奪われていた。


「エルフだから魔法ってやつか?」


「内緒」「だよぉ」


「さっき何でもするって言ったよな」


「ああ…」「言っちゃてたね…」


 二人は困った表情で見合わせてサクマの横に二人が座る。


「で何が」「知りたいの」


「俺に魔法が使えるかどうかを教えてほしいのだが」


「使えないかもしれないよ」「本当にいいの?」「「願いは一つだけだよ」」


「ああ、この願いでいい」


 サクマにとっては魔法が使えるか使えないかは最も重要なことであった。もちろん使えたらかっこいい便利というのもあるのだが使えるならこの先のことで手段が増える。もし使えないのであればそれはそれで諦めがつく。まあ使えたとしてもこんな世界だ慎重に行動をしなければならないのだが。


「「じゃあ、これに手をかざして」」


 二人が片手同士を前に受け皿のような形にして差し出す。すると水晶のような物が形づくられる。水晶の周りには水蒸気のような煙が漂う。


「こうか?」


 恐る恐るその水晶のような物に手を伸ばす。すると水晶のなかで黒い靄が渦を巻き小さな塊のようになった。自分には何なのかさっぱり分からないため、二人を見ると


「「うわわぁ~」」


 二人は引き気味にとても残念そうな顔をしていた。え?なにその表情…。二人は手を下すと同時にその水晶のような物も消えてなくなった。


「ユリこれって…」「ベアこれって…」


「何かおかしかったのか?」


 二人は見合わせてうーうー唸りながら考え後ろを向き小さな声で話し合う。使えるのか使えないのかはっきりしていない為不安がつのる。話がまとまったのか二人はこちらを振り向いた。


「まず結論から言うと」「魔法はつかえるよ」


「え?ああそう」


 あんなに何か話していたのに案外スッと答えをだされ、驚きや嬉しさという感情が置いてけぼりにされる。


「何か俺に問題があったんじゃないのか」


「そうだね」「まず魔法の説明を」「「しようか」」


「ああ、よろしく頼む」


「魔法っていうのは簡単に言うと」「体内の魔力」「外つまり自然界の魔素」「その二つのどちらかを消費して効果を現す」「主に人間が使うのは体内の魔力」「魔素は少し補う程度にしか使用できない」「あらゆる魔法は」「等価交換で成り立つ」「そして魔法には幾つかの分岐があるとされる」「火、水、風、地の四属性」「光、闇の属性」「そこから強化や錬金術、治癒や他」「特にきまりなどなく様々な方向性に」「成長することができる」「「以上!」」


「えっと、それだけ?もっと長々と詳しく話すかと思ったのだが」


「まあ、他にも」「あるけど今は」「「重要じゃないから省く」」


「で、俺はどんなものなんだ。問題ってなんなんだ」


「君は」「強化に特出」「「している」」


「えっと問題は…」


「それは!」「あと!」


「は、はい」


 問題の方が詳しく知りたいのだが取り敢えず今は静かに聞くことにした方が良さそうだ。


「強化は魔力をそれに通し」「このように効果を発揮する」


 ベアはデコピンするようにピンポン玉くらいの小石を空に弾くと粉々に砕け破片が弾丸のように空の彼方へ。ユリはフォークをゆっくりと岩に向けて近づける。フォークの先は岩に当たりまるでバターに刺すかのように抵抗なく突き刺さった。


「だけど物へのコントロールは難しいから」「大きく魔力の流れが揺らげば」


 ユリが持っていたフォークが急に揺らぎ始め限界を迎えたように崩れ落ちていく。


「今は周りに被害を与えないようにしたからこんなものだけど」「ひどいものだと破片が弾き飛ぶ」

「使うのであれば体内に流して体を強化するか」「物の表面に魔力の壁を意識して層を作るといい」


「わかった…」


「で、重要な」「問題なんだけど」


 深刻そうな表情で二人がこちらによって来る。何かやばいことでもあったのかと息を吞む。


「「まあ、そんな説明するよりやった方が早いか」」


「へ?」


 二人は片手をサクマの体に当て何かを流し込む。その瞬間全身に電気が流れ続けるような言葉にならない激痛と体中を大きな何かがうごめきまわるような気持ち悪い不快感が全身を走り回る吐気。頭を地面に強く叩き付け悶絶し両腕を交差し腕を握り丸くうずくまる。痛みにこらえるようにするも全身が力み腕を握る腕は強まり骨からみしみしと聞こえてはならないような音が聞こえてくる。何秒経ったのだろうかと一瞬一瞬が何倍にも感じてしまう。


「い、いったい…何を…」


「閉じ切っていた」「魔力の回路と器を」「「開いただけ」」


 そう言いながらユリが頭に手を向けて緑に光を放つ。すると痛みがやわらいでいき吐き気も徐々に収まってきたがまだ意識が朦朧としている。


「詳しく…分かりやすくお願いできるか?」


「魔力を使いなさ過ぎて体が不要なものとして魔力というものを閉じ切ってしまった」「つまり今貴方が持っている魔力は生命力を維持する分だけ」「いま貴方が魔力を使えば体が麻痺して最悪死に至る」「だから私達が貴方の魔力を使わずに魔力回路と器に魔力を無理やり流して体に魔力を使うものとして認識させた」「今は全くない魔力だけど時間と共に回復し魔力量は増える」「これで今あなたの体が耐えうる魔力の器を大きく広げたから一日に三回程度は問題なく魔力をつかえる」


「つまり…本来あるべき人間の体にしたということ…でいいのか?」


「そういうこと」「使い時はしっかりと」「「見極めるように」」


「ああ、心がけておく…よ」


 意識がもうろうとしサクマはその言葉を最後に電池が切れた機械のように倒れ意識を失い眠りに落ちる。


『眠ったね』『寝たね』『驚いたよ』『確かに』『『普通ならば体に魔力を流した激痛ですぐ気を失うのに、頑丈に作られたものだ。だが、私のお節介はここまで後はこの子次第…』』


 焚き火の光にゆらゆらと揺れながら二人の影が小さくなってサクマのそばを離れていく。


━━━━━━━━━━━━━━━


 真っ暗な暗闇の中うっすらと何かが浮き出てきてそれははっきりとしたものを映し出す。


 薄暗い空間。建物の中か色んな音が激しく鳴り響いている。走る音。爆発したかのような音。銃撃をしてるような音。目を見開くとぼやけた視界の中に映ったのは、二対一の形で三つの人の影があった。二つの影は銃構えてるような姿勢で対面する一つの影に警戒する。すると一つの影の後ろで新しい光を発する。その光は古い蛍光灯のように不定期に点滅し少し色が変わったり戻ったりする。それを見てから二つの影は構えていた腕をゆっくり下ろす。一つの影が何やら楽しげな仕草をして話している。すると二人は話を始める。片方は激怒し大きな荒々しい仕草をして、片方は落ち着いているのか冷静にも見える。話を終えたのか怒っていた人影が落ち着いていた人影に銃を向け落ち着いた人影は無抵抗に立っている。銃を構えている人影が何かを言って発砲し撃たれたであろう人影は撃たれた方に力なく倒れる。銃を撃った影は泣き崩れ膝をつき悔しそうに片腕を何度も地面に叩きつける。一つの影は楽しそうに笑っている。そして満足したのか泣き崩れた影の横と歩きその部屋を去っていきのこされた影は虚しく叫び続けていた。


 これは泉の時に感じたような…一体なんなんだ…何を意味しているんだ。

 そこで視界がぼやけまた真っ暗な暗闇に戻る。


━━━━━━━━━━━━━━━


「夢…記憶…いや、分からんな…」


眠りから覚め目を見開くと見知った天井が映る。ヴィジャスの家だ。上半身を起き上がらせ周囲を見渡すと三つのベットの布団などは折りたたまれており。外は賑やかに少し騒がしい。ベットから出ようとすると何か服が引っかかる。これには既視感があり布団をめくると思っていた通りだった。


「お前は相変わらずだな…」


カレハがギュッとサクマのコートを握って猫のように丸まって寝ている。見てしまった物が何なのかやはり分からず夢見がいい物でもない為いい目覚めとは言えない。そう考えていたがカレハの寝顔を見ているとそんなのがどうでもよく感じた。


―分からないことよりいま目に映るそれを大切にしよう。


カレハを起こさないよう枕を背もたれにしカレハの寝顔を眺め続ける。


「ふあぁ~  ふぅ~」


五分くらいのして両腕をあげて背伸びしてカレハが起き上がる。


「おはよう、カレハ。よく眠れたかい」


「おはよう、ママ。よく眠れたよぉ」


まだ眠たそうに眼をこすりながらもカレハは答えてベットを降りる。


「準備はもういいのかい?」


「うん、大丈夫」


そういって二人は手を繋ぎヴィジャスの家をでる。

外に出ると集落の皆が出迎えてくれていた。やはり外は夕暮れ後のようにうす暗いままだった。ヴィジャスがこちらに何かを持って歩み寄ってくる。


「急に眠っていたから心配だったが何も問題ないようだな」


「ああ、ありがとう大丈夫だよ。それより目が覚めるまでベットで休ましてもらってすまない」


「いやいや、問題ないさ。出立するならば万全な状態が一番さ。そして、これを君に渡しておくよ」


ヴィジャスは手に持っていたそれを差し出す。それは鉄でできたような棍棒だった。先の方は四つに分かれており鋭利なところもある。かなり作りが良さそうで削られたできた文字の装飾には高級感を感じる。


「これは?」


「メイスだよ。君たちの前にもう一人ここに訪れていてね。その者が護身用って置いていった物さ」


「そんな物、私が貰ってもいいのか?」


「私達には使い道がないものだ。襲われる前に逃げるから」


「だが…」


これはその人から集落の皆にお守りとして残した物使い道がないからと言ってそんなものを本当に受け取っていいんだろうかそう考え込んでしまう。


「使える物で」「貰える物は」「「貰っておけばいいんだよ」」


ユリとベアがこちらに来てヴィジャスの真横に立つ。


「魔法が使えると言っても強化なら武器がないと意味がないだろう」「それに君は回数制、魔法を使わない手段も必要なんだ」「「それなら武器は必要だろう」」


「そうだな、有難く受け取るよ。」


「さて、これからどちらに向かうんだ?」


「取り敢えず地図をみてこのまま北に進もうと思う」


「そうか、気を付けるんだぞ」


「ああ」


「カレハちゃんも」「気をつけてね」


「うん、気を付ける」


互に握手を交わし村の裏口からサクマとカレハは歩いていき森の中に入る直前にカレハが「バイバーイ」と集落に皆に大きく手を振り別れを告げ手を繋ぎ森の中に入っていく。姿が見えなくなり集落人たちは会話をしながら次々に荷下ろしの作業に移る。


「「どうしたのヴィジャス?なんか悲しそうだ よ」ね」


 サクマ達の姿が見えなくなっても止まっているヴィジャスを見て不思議に思いユリとベアが声をかける。


「これはね悲しいんじゃないんだよ。こう懐かしいという既視感を感じたんだ」


「もしかして過去に知ってた人?」


「どうだろうね。あちらは気づいてないようだし勘違いかもしれない」


「ん〜よくわかんないや」


「それより、彼の頭蓋骨をなんか調べていたみたいだけど何かわかったのかい?」


「ない」「しょ~」


 二人はくるくると回ったりと落ち着きのない子供のように遊びながらヴィジャスと会話を始める。


「彼らに力をあげたようだね」


「あげてないさ」「私達はあの子の」「朽ちた種に」「栄養を」「あげただけ」「それを回復させ」「開花させるのも」「再び朽ちさせるのも」「「あの子次第」」


 二人はサクマ達と話していた幼げな喋りはそこにはなく大人のような不思議な話し方をし始める。


「幼い見た目であの子か。ふ、としがッ」


 何かを言いかけるヴィジャスの顔すれすれを見えない何かが上から下に振り下ろされた。ヴィジャスの付け髭がパラパラと少し切れて宙を舞い落ちていく。


「それ以上」「余計なコトは」「「言わなくていいよぉ」」


 子供の笑顔なのだがそれ以上に放たれる威圧がヴィジャスを後退りさせる。


「そ、そうだな、よし二人とも皆の手伝いして。さっさと荷降ろし作業して早く終わらすぞ」


「「はーい」」


 ユリとベアは幼い子供の雰囲気に戻り集落に向かって走っていく。再びサクマ達が行った方を一度振り返り満足してヴィジャスもゆっくり二人を追うように歩き始める。


 彼らにこの世界の神の救いが無いことを願う

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