第3話 

 行く当てもない為とりあえず気になった村から見えた。最初に目が覚めた場所の方に山のような影があった所に行くことにした。

 目に前に映ったのは小さな隕石が落ちたのかと思うほどのクレーターというほどではないが大きく大地がえぐれていた。抉れたところに木々の影などなくまっさらな大地中央除いて。中央には真っ黒で心臓の鼓動のように動く臓器のような物が生えていた。近くまで寄り【分析者】で調べたいのだが降りたらとても這い上がれそうになく断念する。


 次に村の中を中途半端にしか見てなかったのでなにか残ってないか戻ってみた。特に何もなく、あったのはネズミのようなものを食べようとしたであろうデグンが見る影もなく血溜まりの肉塊となり落ちており中途半端に溶けた鍾乳石の様な形になった岩々が残されていた。


 とりあえず行き先を決めようと悩んだ末、カレハに木の棒を渡し立てて倒れた方向に進むことにした。倒れた方向は村の入口だったであろう門の反対側だ。


 カレハは木の棒が気に入ったのか楽しそうに振り回して木の枝をはじいて遊んでいた。少し歩くと森を抜けたわけではないのだが左右を森に挟まれた草木生えていない獣道か分からないが一本道の様な所に出る。舗装されているわけではないが、それなりに穴ぼこのない道のりで歩きやすく楽に感じる。


「そう言えばちゃんと聞いてなかったんだが、なんで俺がママなんだ?」


 その問いに口元を人差し指抑え少し考える。


「ママはママだし~ママの匂いがするから?」


「ママの匂いって何なんだ?」


「ママの匂いはママの匂いだよ」


 自身に匂いを嗅いでみるのだが古臭い該当の匂い、自身の体の匂いだからよく分からない。ママの匂いがするからって知らない人について行っちゃだめってそのママに言われなかったのか。


「そのママってどんな人なんだ?」


 カレハはこちらを振り向き指をさす。


「ママはママだよ。さっきから何言ってるの?」


「でも、やっぱり身に覚えがないんだカレハのこと」


「もう、ママわからずや!」


 少しすねたのか頬を膨らましプイッと進行方向を向く。

 俺の記憶はない、もしかしたら記憶が無くなる前はカレハのママとして一緒にいたのかもしれない。カレハにとってママは唯一の存在なのだから。それなのに一方的に記憶をなくし私の方から疑うようなそぶりを表せばカレハ自身も訳が分からないし傷つくき怒りたくもなるだろう。


「カレハ、ほんとごめんな」


「しらない!」


 怒りが収まるのを待とう今下手に謝ってもダメそうだ。何かプレゼントして上げられればいいんだがこんな世界でプレゼントするような物があるのだろうか。


 気まずい雰囲気の中歩き続けると大地が割れたような崖につく。少し前までは架け橋があったのかその痕跡が残っていた。掛橋は中央あたりで切れたのか破片が崖下におちていた。向こう岸まで25mくらいで崖下まで約10m位はある。掛橋の紐を使うにしてもぐらぐらしていて心もとないし飛び降りるのは無理そうだ迂回するしかない。


  と左を向くとゆらゆらと陽炎のような黒い人影あった。その黒影達がのそのそと歩いている。あまりの出来事にびっくりしながらもカレハの手をとりじっとする。この外套の効果通りなら物音立てなければ気づかれないはず。左を見るまでその影達の気配なんて全く感じなかった。


 —こんな距離で気付かれるとまずい。頼む気づかないでくれ…


 そう祈っているとその影達はこちらを気付いてないのかのそのそと崖下に向かって歩いて行くというより落ちていく。

 何が何なのか理解できず目をまん丸にして硬直する。


 一体一体がゆっくりと何も躊躇せず崖下へ歩み落ちていく。肉が潰れるような嫌な音がここまで聞こえる。躊躇せず落ちるのは飢餓鬼と同じで視覚がないのかふらふらと心もとない歩きで落ちていくその姿はまるで寄生された虫が水に飛び込むかのようにも見える。最後の一体が落ちる間際にその一体に触れようとするがそれは空気切るように手がすり抜ける。


 すると手を火であぶったように熱い感覚にすぐに手を引いた。痛みで咄嗟に声を上げそうになったが気付かれる危険性を考えるグッと抑える。手を見てみるが何ら変化はなかった。


『 命名 多種類型 五感を持たず声を発することもない。ただひたすらに真っ直ぐ集団で歩き続ける者。行き止まりにあうと左か右に歩き後ろの者は先頭についていく。正体は多種族生物の呪いの塊。他存在に興味が無い為触れさえしなければ害はない』


 かなり詳しくまとめられているし呪いの存在ということはこれらは生きてはいない存在なのか。崖下を覗き込むとインクを入れた水風船を投げて割れたかのように黒い何かが飛び散り地面を染めていた。肉塊のような物体などはない。その光景を眺めているとその黒い何かが集まり泥のようなものが丸い塊になりそこから黒い靄が湧き出てその塊を包み隠すように元の人型のそれらとなり歩き始める。それらが落ちたところは何事もなかったかのように綺麗に黒い何かは残ることなく消え去っていた。


「黒い他種族の呪いの塊…呪いなんて嫌なってくる」


 黒い何か『黒キ陽炎』として白紙に記し閉じる。

 黒キ陽炎は記されていた通り真っ直ぐに進み向こう岸の壁に当たり左右をキョロキョロとした後左を向き進んでいくそれを目で追うと少し進んだ奥側に斜面になっており渡ることができそうなところを見つける。右側を向いてもそんなものは無く大きな山があり超えなと行けなそうなのが見える。左側の方が近いためそちらを通ることにする。黒キ陽炎も触れなければ害がないようだし大丈夫だろう。それに下手に山に入れば狼の様な化け物がいて遭遇した場合、何もできない。こちらの方がまだ安心だろう。


 黒キ陽炎を追い目に歩いていると斜面の近くまでたどり着くことができた。そこまで急ではないのだが土砂崩れしたような場面で足場がかなり悪い。だけど向こうまではちゃんと渡れそうだ。陽炎が過ぎ去るのを見送りそれに続くように斜面を下る。


「カレハ足場悪いから気を付けろよ」


「…」


 注意するよう忠告をしたがまだ怒ってるようでそっぽを向き歩くカレハだが地面をの穴ぼこが崩れカレハはバランスを崩す。咄嗟に腕を掴みカレハが転げていかないようにする。


「だから気を付けろといったろ」


「…う、うん」


 カレハを身に寄せ片腕で抱き抱える。


「危ないからしっかり捕まってろ」


「うん」


 カレハはサクマのコートにしがみつき一気に斜面を下る。途中こけそうになったがちゃんと降りることができた。カレハは少しうれしかったのか怒っていた顔から少し緩やかな表情になった。一息落ち着かせ呼吸を整え進む。足場が悪いのでこけないように一歩一歩進みやっと崖下までつき斜面を登ろうとする。


 グギャアーそんな感じの鳴き声が聞こえ何かが走ってくるような地鳴りが迫ってくる。音の方向を向くと下った斜面のすぐ隣に洞窟のような穴が開いていた。やばいと思い斜面を登ろうとするも足場が悪くそこまで早く上がることはできない。すると何かが飛んでくる気がしたので振り向くと頭の真横を矢が通り過ぎ斜面をに突き刺さる。


「おいおい勘弁してくれ…」


 そこにいたのは緑色の肌で小人のような背丈の、鼻が大きく長い耳が少しとがっている怪物。ファンタジーでお馴染みのゴブリンだ。洞窟の入口から棍棒と石槍のような物を持ったのが二体ずつ、弓を持ったのがが三体、何の素材でできてるのか分からない剣と皮らしき防具を見に纏ったリーダーらしき者が一体こちらを睨みつけ気味の悪い笑い声を上げていた。他にも三体ほど棍棒を持った者がいたが陽炎の方へ向かって走って行った。


 急いで斜面を駆け上がり森の中に入っていく。ゴブリン達は駆け上がるのが早く気味の悪い笑い声を上げ長い舌をだし唾液を垂らしながら走ってくる。程なくしてすぐ側まで近づいてくる。このまま逃げ続けてもすぐ捕まってしまう。覚悟決めろ俺!


「腹括るしかないな。カレハ頭を隠してしっかり掴まってろ」


「わ、わかった」


 棍棒を持ったゴブリンは木々を避け無我夢中にサクマ達を追いかける。サクマが木に隠れ見えなくなるが気にせずその木を避け進むと。サクマ達の姿がなかった。困惑し走る速度が緩むと急に視線が下にズレる。木の影からの肘打ちがゴブリンの後ろ首元に入ったのだ。上から叩きつけられ地面に強く顎から強打し舌を噛み切り棍棒を手放す。サクマは棍棒を左片手に取り振り上げゴブリンの頭を殴る。だが素人殴りだ、簡単に殴り倒せるわけもなくゴブリンは奇声を上げてこちらを向こうとするがそんな暇を与えず追撃を入れる二発三発…動かなくなるまで殴り続ける。周囲に殴る音とゴブリンの良くなっていく鳴き声が響く。何発殴ったか分からないがようやく潰れ動かなくなった。血が何度も飛び散ったので二人はゴブリンの血を浴びたようになっている。


「はぁ…はぁ…意外と棍棒は軽いな…」


 棍棒の重さとは別に殴り潰した時の重い感触が手に残りそう言って走り出す。周囲にいたゴブリンは立ち止まっていた。狩りごっこをしていたかのように笑いながら追いかけてた奴らだが、逃げてた獲物が反撃してきたのが気に入らなかったのか笑みは消え去り怒り狂ったのか凄い鳴き声を上げ追いかけ始める。ゴブリンが放つ矢は全て右側を通っていく。ゴブリン達はサクマでは無くカレハを狙ってるようだ。後頭部に当たることがあるが骨が硬いのか痛くもないし貫かれる事はなかった。


 最初アタッシュケースで殴ろうかと思ったのだが中に異臭のする液体の入った陶器があるので割れることで匂いを発して飢餓鬼が来ることを恐れ使うことが出来ない。


 ゴブリン達に追いつかれ真横の木の影から挟み込むように槍を持ったゴブリン達が切先が交差する様よう向け飛び出してくる。サクマは身体をひねらせ左側の槍を掠らせ右側からの槍を避ける。そのまま勢いよく棍棒を振り右側のゴブリンを棍棒と木で挟むように殴る。レグゥラの木の穴が大きく開きそのゴブリンを捕まえるかのように挟み込む。


 その行動を狙い済ましたかのように三本の矢が振り向いた方向から飛んでくる。カレハに矢が当たらないようそのまま身体を無理やりひねらせきり左肩甲骨の辺りで矢を受けバランスを崩し転げる。激痛を無理やり抑える。


 矢が綺麗に刺さったおかげか出血は少ない。が少し体が熱くしびれるような感覚がある。毒か?痛みを堪え右から二激目を振りかぶり槍を刺しに来るのを横に転がり避ける。起き上がると同時にアタッシュケースを置き去り。棍棒を振りかぶる。ゴブリンの槍は地面に強く突き刺さり抜くのに手間取ってるところを横から斜めに殴り落とす。動かなくなるまで何度も殴る。


 弓を引き準備するゴブリン。地面に突き刺さった槍を引き抜き大きく振りかぶり投げつける。真ん中のゴブリンが避けられず体に刺さる。うろたえた所を接近し槍の取っ手を持ち突き地面に押し倒す。槍を抜き頭に刺してその上から棍棒を打ち付ける。槍の取っ手は折れたがゴブリンの頭を切先が貫く。


「後棍棒一体と弓二、武装いったー」


 言う暇となく後方から棍棒を持ったゴブリンが飛び込んできて後頭部を殴りつける。


「ママ!」


 飛殴りした後の着地直後の行動を許さず棍棒で頭を殴り潰す。


「大丈夫」


 カレハに優しい声をかけ安心させる。

 頭蓋骨が頑丈で助かり、棍棒の使い方を徐々に体が覚え始めた。


 正面に立つ武装したゴブリンが何かを言う。二体の弓を持つゴブリンは頷き弓をすて後ろに隠してたナイフを取り出し構える。三体は囲むように三角形の配置つきジリジリと滲み寄ってくる。張り詰めた空間、三対一どこから来るか分からずとりあえず全体に警戒し構えて様子を見る。

 武装したゴブリンが雄叫びを上げた合図で斜め後ろの二体が襲いかかる。

 

 だがサクマは後ろの二体が詰めると同時に武装したゴブリンに突っ込む。ゴブリンが迎え撃つように剣を振り下ろすのに合わせ棍棒に刺させ捨てる。そのまま空いた左手で喉元を掴み持ち上げるように押し倒し喉元を流れで踏みつける。声になってないような奇声を上げ喉を抑え転げ回るゴブリン。手放した剣を取りそのまま突っ込んでくる二体の方に振る。ゴブリンの腕を斬ったのだが剣は骨を断つことは出来ず勢いが止まる。

 そのまま二体が持つナイフが横腹や背中を突き刺す。カレハを覆い隠すように腕を組み守る。ゴブリン達は下卑た笑いを上げ抜いては刺し抜いては刺しを繰り返す。血は飛び傷口からどんどん血が流れていく。


「ママ…?」


 カレハを抱き締める腕が緩み崩れ落ちる。ゴブリンは満足そうにナイフを引き抜きサクマ押し蹴る。力なくその体は地面に叩きつけられるように倒れゆく。


「ママ!ママ!しっかりして!やだよ、いやだよぉ」


 カレハが涙を流し必死にサクマを揺するが反応がない。ゴブリンたちは気味の悪い声で大笑いをしながらサクマの体を蹴り続ける。満足したのかカレハに滲み寄り腕をのばしカレハを掴む。


 はずだった。ゴブリン達の手がカレハに触れるギリギリで止められる。サクマが起き上がりゴブリン二体両肩を掴んだからだ。そのまま二体を引っ張り両頭を掴み顔面同士をぶつける。二体は顔面を抑え倒れる。近くにある剣をもち首を目がけて切る。当然この剣じゃ骨を断つことはできず死ぬことができずに苦しむゴブリン。暴れようとするゴブリンを踏んで抑え剣の逆の刃に目掛け棍棒を打ち付ける。首を断つことはできたが剣も使い物にならなくなる。もう勝ち目がないと思ったのか最後のゴブリンは恐怖し震え逃げ出そうと立ち上がろうとするのを阻止するように棍棒で足を横に殴る。ゴブリンの足は折れ足を抑えて絶叫し転げまわる。サクマはゴブリンを馬乗りし棍棒で殴り続ける。


「ママ?」


カレハの声も届いてないのかただひたすらに腕を上げ振り下ろすその行為を繰り返す。既にゴブリンは声も上げておらずピクリとも動いていない。それでもその行為を続けるサクマに恐怖する。


「ママ!終わったよ!」


 カレハは勇気を振り絞り声を上げサクマに抱きつく。サクマは正気を取り戻したのか振り上げた腕は力なく崩れ落ち握っていた棍棒を落とし横たわる。ゴブリンの頭は跡形もなく骨や肉が飛び散り地面がへこんでいた。


「はぁ…はぁ…おわっ…たのか…?」


「終わったよ。ママ」


 泣き崩れ抱きつくカレハを撫でようと思ったが力が入らない血を流しすぎたのか。それともゴブリン達の武器の毒のせいか。それとも限界の体を動かし続けたせいか。早くここを離れて安全なところに行かなければ。血の匂いで飢餓鬼や他の化け物が来る可能性だって有り得る。立ち上がらなければ。そう必死に言い聞かせ動かそうとするが指先一つも動かせない。徐々に体が冷えてくるのを感じる。このまま死ぬのだろうか…


 すると等間隔で大きな足音が近づいて聞こえてくる。


 おいおい…まじかよ…もう無理だぞ…


 視線を動かした先には三体の三メートルくらいはある緑色の巨体が姿を見せる。オーガだ。オーガ達はこちらを向いたと同時に雄叫びを上げた後、無様と言わんばかりに嘲笑うかのような声を上げ歩み寄ってくる。


「か…れは…にげ…ろ」


「いやだ!ママをおいてなんかいやだ」


「い…いから…おれを…おいてにげろ…」


 最後の力を振り絞って言ったがカレハは言うことを聞かずしがみつく事しかしない。オーガが近くに歩み寄り大きな影が二人を覆うよう隠す。オーガは手に持った人間並みの大きさの棍棒を振りかぶる。


 もうダメか…


 カレハを守りきってやることも出来なかった。何かをプレゼントすることも出来なかった。仲直りをすることが出来なかった。ごめんな…

 そう諦め肉がつぶれるような音と同時にサクマの意識は無くなり真っ暗世界へと落ちていく。

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