第2話 中

 mとsが小学校に入学して一年が経った夏の深夜時計の針は二つとも十二を刺している。ボロアパートの一室。mは料理の支度を終えて母親であるYの帰りを絵を描きながら待っていた。mの家庭は母子家庭であり、Yはいつも朝の六時から深夜の一時辺りまで働き詰めである。mは父の名前を知らず生まれる前から行方不明になっておりYはそのうち帰ってくるよとmに言い聞かせていた。


 すると家の外から階段を上がる音が聞こえmの部屋のドアを開ける。


「ただいまぁm、ごめんね。いつも遅く帰って」


「おかえり。大丈夫だよ、それよりお母さんも無理しないでね」


「うぅ〜mが優しすぎるよぉぉぉ」


 mに抱きつき泣きながら頬をスリスリするこの女性がmの母親であるYだ。mによく似ており。そのままmが大きくなったらこの容姿なのだろうと思うほどだ。とても優しくいつもmに甘えようとする可愛さもあるが仕事の電話がかかるとその面影はなくとても冷たい表情になり。本当に同一人物なのかと疑うレベルだ。


 いつも通り二人で食事をして一緒にお風呂に入り疲れた母の体をmが洗って癒してあげる。そして一緒の布団に入り眠りにつく。


 目覚ましが六時半になりmは目を覚ます。登校の支度をするために。その時には母の姿はなく仕事に出ているのだ。母がどんな仕事をしているのか気になるり幼少期に話を振ったのだがすぐに別の話をするので触れられたくないのが分かりそれ以来聞いていない。


「行ってきます」


mはいつも通り誰もいない部屋に向かってそう言って家を出ていく。




昼休みの事

mとsが机をくっつけて食事をしていた。


「相談って?」


「私のお母さんに誕生日プレゼントの事なんだけど…」


「mちゃんのお母さんの誕生日ってクリスマスだよね。どうしたの?こんなに早くから」


「うん、どうせなら育てた花もそうだけど造花とかもプレゼントしたいなぁって」


「ああ、そう言う事ね。去年花を育てるのと作る授業でmちゃんとっても楽しそうだったもんね」


「それもあるけど、やっぱり綺麗なのをお母さんにプレゼントしたくて」


「そっかぁ〜、じゃあ放課後駅近くに新しく出来たお花屋さん行ってい見ない?とりあえず綺麗なお花見てどのお花の造花作るかと、お店の人にクリスマス近くにプレゼントするお花の種を聞こうよ。」


「そうだね、お花屋さんの方がプレゼントにおすすめのお花に詳しいだろうし」


「よし、決まりそれじゃ放課後行こうか。楽しみだね」


「うん」


放課後 駅前の花屋さん


「うわぁ新しく出来た所もそうだけど綺麗なお花がいっぱい咲いてる」


「きれい…」


そう二人が沢山並ぶ花に見とれていると定員らしきイケメン長身の男が近づいてくる。その男を見てmはsの後ろに隠れる。そこまで人見知りじゃないmをsは不思議に見るも可愛いので気にしないことにした。


「お嬢ちゃん達お使いかい?」


「ううん、プレゼントするためのお花を見に来たの」


「そっかぁ、誰にプレゼントするんだい?」


「お母さんに…」


「プレゼントするならどんなお花がいいですか?」


「そうだなぁ今の季節だとヒマワリにオンシジューム、カトレヤってまぁいっぱいあるかなぁ」


そう男は名前を口にして手の平を花に順に向けて行く。


「えっとクリスマスにプレゼントしたいんですけど」


「クリスマスかい?随分先だね」


「出来たら種が欲しいんですけど。自分で育ててプレゼントしたいので」


「そっかぁクリスマスにプレゼントとするなら定番はバラかポインセチアかなぁ」


男は図鑑のようなものを手に取りペラペラとめくっていく。


「あ、そうだ」


男は様々なお花を紹介していくと、何かを思い出したようにバックヤードに歩いていった。すると何かが入った錠剤サイズの小さな透明のカプセルを持ってくる。


「最近ね面白い種が手に入ってね。多分新種のものなんだけど…どうだい育ててみないかい?」


「え?新種ってそんな物頂いて良いんですか?」


「うんいいよ。まだまだ余ってるし、それにこっちはこっちで結構失敗しちゃってるからね。だからもし咲いたら写真でもいいから持ってきてくれると嬉しいよ」


「分かりました。ありがとうございます、お兄さん。やったねmちゃん」


「う、うん。ありがとうございます」


「いえいえ」


その後少し定員の人と造花の事とかを聞いて店を出て家に帰る。mは早速学校で支給され使い終わった植木鉢に土を入れて種を植える。そして造花の準備をして作っていく。



クリスマス当日 Yの誕生日


Yの帰宅はいつもより遅かった時計の針は既に二時を刺していた。まさか事故にあったんじゃと心配になりmの表情は暗くなっていく。すると階段を上がる音が聞こえ扉を開く。いつも以上に疲れた顔のYが帰ってきた。


「ただいまぁ…あれ、mまだ起きてたのぉ。先寝ててよかったのにぃ ふふふ」


「おかえりお母さん」


Yは疲れてるのかいつもより何だがおかしい


「どうしたの?モジモジしてぇ可愛いなぁ」


「その、お母さん誕生日おめでとう。これプレゼント」


mは後ろに隠していたバラやオンシジュームといった様々なお花の造花の花束を差し出す。


「え?これ…mが?」


「うん…ほんとっ」


「うわぁぁぁん、mちゃんありがどぉぉ」


mが話す前にYが大泣きして抱きつく。と隣から壁ドンされ二人はビクつく。


「あちゃ〜こんな夜中に大声出しちゃった。今度謝らないとなぁ」


「そうだね…」


「そういえばmちゃん何か言いかけなかった?」


「ううん、何でもないよ。お母さん」


「そう?でも本当にありがとうねこんなにも綺麗な花々プレゼントしてくれて」


「うん、お母さん」


「じゃあご飯食べて早く寝よっか」


「うん」


二人はいつもより遅いがいつも通りの一日の最後を共に暮らす。mは自分で育てた花をプレゼント出来なかった。ベランダにその植木鉢を置いている。枯れたのではなくその花はまだ蕾で止まっており咲かなかったからだ。その花は植物なのに真っ黒で風車のように円を描くようにアサガオのような細長い蕾を四つ作っていた。

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