黒い部屋

KIKP

第1話開幕

 二〇〇五年 七月の夏

 滑り台、その着地点に広がるそこそこ大きな砂場、風に吹かれて小さく音を鳴らすブランコ、四人乗りのタイヤでバウンドするシーソー、よくわからない動物の前後に揺れる遊具が連なるそんな公園には多くの子供たちがサッカーをしたり鬼ごっこをしたり遊んでいた。

 そんな中公園の端っこにある花壇の前に二人の少女が小さいが兎やパンダといった可愛いらしい敷物に座り紫陽花を見て絵を描いていた。一人は少しぼさっとしたショートの黒髪で青みがかった色の瞳、オレンジのTシャツに龍の模様が書かれ裾部分がボロボロの短パンをはいたボーイッシュな少女 もう一人は大きなハット帽を被っておりそこから流れる雪のように真っ白な髪、銀色の瞳。そして純白のワンピース姿の少女がいた。


「かけた!」


 黒髪の少女が描いた絵を高らかに上げる。


「私も」


 後に続き白髪の少女が鉛筆を置く


「じゃ、いっせーので見せあお」


「分かった」


 白髪の少女が頷く


「いっせーので」


 お互いに見せあいボーイッシュの少女は硬直する。黒髪の少女の描いた花は太い線で描かれた丸を中心に楕円を並べてかく子供の絵その物に対して白髪の少女が描いた花は細い線で描かれており細部まで陰影を丁寧に描かれた美術の教科書に載ってそうな子供離れした綺麗な絵だった。黒髪の少女は絵を持ちあげ仰向けに倒れる。


「も~mちゃんいつも上手すぎだよ~」


 mは自分の絵をクリアファイルにしまっていた。


「そんな事ないよ、私は結構早くから描いてたしsちゃんも…その、上手だよ」


 若干笑いをこらえるようにそっぽ向きながら少女が言う。


「変な気遣いの言葉は、その人を傷つけるんだぞ~mちゃん あと笑ってるのわかるから」


 頬を膨らませながら起き上がる。

 二人は母親同士が昔からの付き合いで仲が良く、更には二人が生まれた病院が同じで誕生日も同じという切っても切れないような仲であり家もそこそこ近いので毎日この公園か近くの図書館で遊んでいる。

 二人は敷物や描く為の道具をしまい木陰の出来ているベンチに座り、mは鞄の中から一冊の絵日記のノートを取り出した。


「今日はどんな夢を見たの?」


 sは前のめりに問いかける。


「今日は真っ黒で、団子みたいにまん丸で毛玉の動物に出会ったよ」


 ノートを開いて答える。そこに映っていたのはぬいぐるみのようにふさふさした正に毛玉!と言える様な何かでたぶん頭はここなのだろうとそこから生えた二本の長い兎の耳の様なもの。つぶらな瞳は見られるのだが毛がふさふさ過ぎて体と口が隠れて見えない。


 生まれた時からmは毎日同じ夢を見る。同じといっても見ている物がループされているのではなく物語の様に続くといったものだ。

 赤子のときはぼやけた道をただのひたすらハイハイをして進んで行くそんな曖昧な記憶だけが残っていた。夢の中で歩けるようになったら現実でも歩けるようになっていた。三歳になり物心ついた時には景色がはっきりと見えるようになった。

 そこは深い森の中。ただひたすらに小さな森の出口を表している様な光の穴を目指してmは歩いて行く。終わりを感じさせないそんな夢を、mは日記にまとめることにした。ただ同じ景色を描くのではない。進むにつれて姿を現す道の端に咲く草花、草花から姿を現す動物たちを中心に描くようにした。


「なんかmちゃんの見てる世界って、けっこう独特だよね」


 別の冊子をぺらぺらと捲りsは呟く


「変…かな」


 mのかき消えそうな小さく寂し気な声を聞き慌てて


「変じゃないよ!」


 sが強くmの右手を包むように両手で握る

「夢の世界なのにmちゃんの描いた絵は、どれも現実的な感じで、本当に何処かにあるんじゃないかって、そんな所があるなら一緒に行きたいなって、そんな感じで私は好きだよ。」

 そんな力強い彼女の言葉にmはきょとんと固まっていたが、程なくして今度は分かりやすく顔を背けクスクスと左手で口元を抑え笑う。


「な、なんでここで笑うの!?結構真面目なこと言った気がするんだけど」


 笑う少女と何を笑われてるのか分からず戸惑う少女。


「だ、だってその…」


 彼女は答えようと笑いをこらえる。


「だから、なんでまだ笑うのよ!」


「そ、その両手掴んでさっきの言い方…愛の告白みたいだったから その…フフッ」


「こ、告白ってそんな…」


 sは否定しようとしたが自身のやったことをよくよく考えていると状況がはっきりと理解し恥ずかしくなり顔が赤くなる。


「まあ告白じゃなくても私は嬉しかったよ 。はっきりとしているsちゃんの言葉」


 互いに又顔を合わせるが次はsが恥ずかしいのか顔を逸らす。


「あ、あのさ」


「何?」


「もしも、さっ」


「おーい、sそろそろ稽古の時間だよ~」


 少女達近くまで大人の女性が歩いてきながらsを呼びかける。女性は黒髪でsとは違い綺麗に整ったポニテで白いTシャツ、その上に少し透けた黒い上着の様なものを羽織、青いパンツと地味目な服装なのだがそれでもかっこよく見えてしまう。そんな女性だった。


「久しぶりねmちゃん、いつも仲良くしてくれてありがとうね。」


「おかん、それじゃあ私がmちゃんに遊んでもらってるみたいな言い方じゃんか」


「お久しぶりです。Sさん、こちらこそ、いつも遊べて楽しいです」


「まあmちゃんはしっかりとした子でいいわぁ」


 そして少しムッとしたsが反論するようにSとの小さな言い合いのやり取りが行われる。


「yさんは、その、元気にしてる?」


 Sはsの言葉を流し少し悲しげな表情で聞いてきた。


「いつも忙しくしていますが、たぶん元気だと思います…」


 mは微笑み少し言葉を濁し答える。


「そっか…」


 Sは悲し気な表情で呟く。


「mちゃん一緒に帰る?最近世の中物騒だし」


「いえ、家は逆方向ですし私の家は近いので大丈夫です」


「そ、そう…じゃあ私達は帰るからこれからもsとよろしくね」


「mちゃんまた明日~」


「うん、また明日」


 二人は手を振りそれに答え私も二人が帰り道の方を向くまで降り続ける。

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