第4話

 狂気に彩られた表情で、暗き洞窟の中、魔女が嗤っていた。

 誰を嗤っているのか、それを知る者はまだいない。

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 五日前。

 帝国、帝城。玉座の間。

 豪華絢爛、あらゆる宝物が並び煌びやかなそこ。

 そして、世界の頂点とも等しきその場所に、とある新興組織の使者がいた。

「皇帝閣下、私は『教会』より「勇者」の称号を戴きましたアルフェバルと申します」

 使者であるその男は、世界の王とも言えよう皇帝にそう名乗った。


「『教会』? 名も聞いたことのない。そのような新興組織の者が、何故此処にいる。

 皇帝閣下の御前だぞ。平民風情がいていい場所ではない」

 貴族の一人が、使者を非難する。

 玉座の前、居並ぶ貴族からも非難の目。

 そして、皇帝は沈黙を保つ。

 常人では逃げ出さざるを得ないほどの威圧。

 しかし、アルフェバルはその中でも、不敵に笑う。

「いえいえ、まだ死ぬつもりはありませんよ

 いえね、閣下に少し耳寄りな情報を。と、思いまして」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま、アルフェバルは、決定的な言葉を皇帝に告げる。

「いなくなった、娘さんの居場所、知りたくないですかぁ?」


 それは、決定的な一言。

 何故なら皇帝は、立ち去った娘を未だに探し続けているのだから。

「‥‥‥なっ!!

 リュウナの居場所を知っているのか!?」

 皇帝が動揺する。

 既に、その瞳は、一国の王ではなく、娘を心配する一人の父親のもの。

「えぇ。もちろんですよ」

 そう答えるアルフェバルの顔には、勇者とは思えないほどの醜悪な笑み。

「もちろん、お教えしますがひとつ条件を」

「ほう。言ってみよ」

 皇帝はこの条件を飲むしかあるまい。

 それほどに娘に会いたいのだから。

 娘と会うためならば、なんでもするだろう。

 だから。

「実は、魔女討伐の助力をお願いしたいのですよ」

 アルフェバルは、そう言い放った。


 『教会』は、魔女討伐の為に造られた組織である。その目的は、世界から魔女を一掃することであり、そこに例外はあり得ない。

 そもそも、『勇者』は聖人ではない。魔女殺しの道を極めた者に贈られる称号だ。

 つまり、アルフェバルは魔女を討つ為に生きている訳である。そして、その『勇者』の目的は‥‥‥。


「魔女討伐か。いいだろう。

 して、その魔女の名は?」

「ああ。

 この度殺す魔女の名は、『天堕としの魔女』リュウナですよ」

「なっ!

 そ、それは‥‥‥」

 困惑する皇帝に、アルフェバルは告げる。

「もちろん、協力して頂けますよね?

 まさか、皇帝閣下ともあろう方が、娘だったから。などという理由で災厄である魔女に情けをかけることなどありませんよねぇ」

 一旦区切り、アルフェバルは皇帝の側に寄って、耳元で囁く。

「貴方の娘さんはこの世界の何処にも、もう居ないのですから」


 そう囁くアルフェバルの顔には、悪魔の如き笑みが張り付いており、皇帝の顔はすっかりと青ざめていた。


 かくして、世界最強と名高い帝国軍が魔女討伐へと動き出したのであった。


 もう帝国軍は止まらない。超大国として、一度決定したことを覆すなど、その誇りに傷をつけること以外の何物でもないからだ。

 そのことは、帝国で姫をやっていたリュウナが誰よりも知っていた。

 だから、己が戦場に出る。

 そう決めたのだ。

 故国との関係を断つのは、己でしたかったから。


 そして、時は経つ。

 総勢五万を超える帝国の軍勢はかつて姫であった魔女を討つため、その住処を目指し山奥を行軍していた。

 その後方には『教会』の魔女討伐部隊六千。

 計、五万六千の大軍。それを率いるのは‥‥‥‥。


 魔女討伐の大軍勢。そのすべてを見下ろしながら、龍の背でリュウナは驚きの色を隠さずに、

「‥‥‥父上!?」

 そう零した《こぼした》。

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