第2話
その日、世界に二番目の魔女が現れた。
脳内に響いた声。
威厳に満ちた、おそらくは女性の声。それは、娘の父と同じ支配者の声だった。栄華を誇る帝国の帝位継承者などをやっていると、区別がついてくるものだ。
即ち、支配者と被支配者の区別が。
支配者の声には、その権力による圧倒的な自負と被支配者への微かな憐れみがある。そして、被支配者の声には、特有の権力者の機嫌を窺っている響きと、押し殺されている権力者への怒りが感じられるのだ。
脳内に響いた女の声には、圧倒的な自負と、そして、限りない孤独があった。
娘は悟る。
子の声の主は、父などでは足元にも及ばないほどの力を持っているのだろうと。何故なら、その孤独は、同等の力を持つ者がいない、理解者がいない故の寂しさだとおもったから。
そして、自分ではその次元に行くことはないだろう。名も知らない声の主は自分程度の不幸ではないのだろうから。そう。それこそ世界そのものに呪われなければたどり着けないほどの孤独にいるのだろう。それと同等になる程の不幸など、もうこの世界では起こらないのかもしれない。ならば、永劫に声の主は孤独なのだろう。
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思考の海から娘の意識が引き上げられる。
ゆっくりと眼を開くと、霞んだ視界が広がっている。
「‥‥‥っ」
鈍く痛む頭を抱えながら、壁に手をついて娘は体を起こす。
周囲から恐怖のざわめき。
「‥‥‥うっ、嘘よ。巨大魔獣でさえ死ぬはずなのに‥‥‥」
鮮血で深紅に染まったドレスを身に纏い、口の端から僅かな鮮血を垂らした娘は、霞んだ視界ではっきりと見るため、娘は目を凝らす。
「ヒッ‥‥‥!」
娘の姉が、怯えた声をだして転げる。
そして、娘を指差して。
「バ、バケモノッ!!」
甲高い声でそう言った。
人々の視線が娘に集う。それは、恐怖と得体の知れないものへの僅かな好奇心があった。
それは、自分を愛していた父親も同じで。
娘は悟った。
己は既に人ではなく。そして、此処は自分の居場所では無いということを。
「父上、今までありがとうございました」
礼を述べ。
「できれば、
そして、帝位は
これが、第一位帝位継承者である私の最後の願いでございます。
それでは、父上。お身体に気をつけて」
願望を口にする。
これは、姉へのささやかな復讐。
そして、もう会うことのないだろう父親への願い。
そして、娘は呆然と立ち尽くす父親の横を通り宮廷を後にした。
「……リュウナ」
父が私の名を、第一位帝位継承者であった人の名を呼ぶ。
その声を無視して、私は歩き去る。
もう人ではないことを身体に満ちる力が伝えてくる。
歩くのって面倒だな。
そう思うと、虚空より一頭の巨大な龍が現れた。
『GAAAAA!』
誇り高い龍の雄叫びが、帝都中に響き渡る。
私は、その龍の背中に乗り、帝都の深き夜闇を切り裂いっていった。
行くあてなど、あるはずもない。
ただひたすらに自由を謳歌するのだ。
そう。これは、誰の記憶にも残らないけれど、確かにあった一人の魔女の物語。
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