変えられるもの

「絶望の気分はどうだい?」


「……俺の負けだ。」


「おっ、ようやく分かったか。」


初めての経験だった。これが圧倒、挫折、絶望。


「そう、お前は負ける。例え交代されても、敬遠しても、こいつに脅かされた経験はついて回る。」


「自信に溢れた『天才』は敗北への焦りも自信を失った反動も大きい。きっと野球は続ける、でもこのままではお前は深い傷を負う。傷ついたまま野球をして、そして更に傷つく。」


「でもな、そのために俺がここに来たのさ。」


どういうことだ、お前は人を嘲りたいだけじゃ……


「運命は変えられないけど変えられるものがある、それは受け止め方だ。」


「敗北は変えられない。でもこの負けとどう向き合うか、それがお前の人生の質を決めるんだ。」


「勝ちしか知らないから『天才』は傷つく。傷つきたくないなら、何のために野球をやっているかを見つめ直せ。」


「……!」


前を向いたとき悪魔はもういなくて、マウンドからの眺めが広がっていた。相変わらずこの威圧は恐ろしく、敗北の実感をさらに強くする。俺は今まで一体何のために野球をやってきたのか。最初から勝つためにやってきたのか。いや、そうじゃない。勝利自体に意味はない。それじゃあ俺は、俺は――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る