絶望の最終回

決勝戦が始まった。俺たちは互いに譲らなかった。試合が動いたのは6回表、俺たちの攻撃。1アウト1・3塁からの犠牲フライで1点を得る。その後の2連続ヒットで更に2点を追加。8回裏に1点返されたものの、このまま3-1で試合が進み9回裏になった。油断はできないが勝利は目の前――


だが最終回、流れが変わる。まず先頭打者がライト前ヒットで1塁へ。この選手がやけに大きくリードを取り、盗塁を仕掛けて成功。ノーアウト2塁。これで相手が勢いづく。次の打者は送りバント、1アウト3塁。その後センター前ヒットを許し、3-2、1アウト1塁。逆転されてたまるかと意気込み、後続を三振に抑える。2アウト。点差は縮められたが、これであと1人。


その時、相手応援席からの声援が今までの比ではないほど大きくなる。ここで迎えるのは例の強打者だった。この選手は今日は調子が悪くいいとこ無しなので、このまま俺が続投らしい。しかし、打席からの熱量は俺を圧倒した。


1球目は思わず緊張しストライクゾーンの外側、高めのボールとなる。制球を意識した2球目はインコース低め。だが急速が伸びず大振りのスイングに捉えられる。タイミングが合わずファールとなったが、あわやホームランという打撃は一層不安を煽った。3、4球目はともに力が入り大きく外れてしまい、3ボール1ストライク。圧倒的不利だ。俺は相手に飲まれていた。


ああ、認めるしかない。『主人公』が勝ち、俺は負けるのだ。不安と焦りが身体が支配し、俺はうなだれていた。いったいどうすれば――


その時、周りから音が消えた。体温を上げるセミの声、ベンチからの声援、ここぞとばかりに大きくなる相手側のチャンステーマ、その全部が。まるで時間が止まったかのよう、いや本当に時間が止まったのだろう。


「久しぶり。」


俺の目の前に悪魔がふわふわと舞い降りた。

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