★読者は一体何を求めているのか?
■質問内容:
読者は一体何を求めているのでしょうか。
目が醒めるような怒涛の展開?
鮮やかな伏線回収?
それとも穏やかな日常の1ページ?
毎度日常シーンを描くと冗長な物語になってしまいそうな、そんな危機感に襲われています。
作者の手腕と言われればそこまででしょうが、理想的な比率というものは存在するのでしょうか。経験則でも構いません。
■解答結論:おそらく、質問者様が考えている通り、読者様によって物語に求めているものは十人十色でしょう。究極を言えば、読者は常にミメーシスとディエゲーシスを求めているといっても過言ではないかと思います。
用語の解説はこちら:https://sakka-no-mikata.jp/2019/12/20/mimesis/
また、「日常シーン」と「冗長ではない物語」というのは両立し得ます。これは異化効果を意識できているか、4コマのようなストーリー構成を連続させることができているかを確認すれば実現は容易かと思われます。
異化効果の解説はこちら:https://sakka-no-mikata.jp/2020/01/23/ostranenie/
■解答の詳細について
問題が複雑なので、これ以降は問題を小さく切り分けて、説明していくことにしたいと思います。
1.日常シーンは、どうすれば冗長化せずに読めるようにできるのか?
たしかに、戦闘シーンや衝撃的な事実が明らかになる場面というのは、ドラスティックな魅力に富んでいますから、要素としては多めに配置しておきたくなるのも理解できます。
しかし、これは長編一本書き向けの考え方でしょう。日常系作品のように短編集の形を取る場合は、この限りではありません。
大前提として、長編というのは「事件(ほとんどが難問)→解決」というストーリーの流れの中で、解決を焦らしたりわかりやすくするために「日常シーン」を使うことが多い傾向にあります。
役割的には、明太子(ドラスティックな場面)を食べている(見ている)ときの「白飯的な箸休めポジション」として日常シーンは取り扱われていると言えば、わかりやすいでしょうか?
シリアスなストーリーほど、読者は読み疲れしてしまいます。特に、張り詰めている戦闘シーンばかりが続く戦記ものなどであれば、なおさら休戦時の「珈琲の描写(日常シーン)」こそ至幸といっても過言ではないとすら思われます。設定の説明も多いですからね。
こういった問題を考えると、たしかに日常シーンばかりが続く小説を書くのは難しいのだろうかと思われるかもしれませんが、日常系作品による「短編集」をみていくとその限りではないことに気づけます。
物にもよりますが、長編と短編を比較すると、クライマックスへの期待感は長編の方が強力です。
読者としては、より沢山の文字を読んで、ようやく辿りつく山の頂上(クライマックスシーン)に「うまい棒」くらいの報酬しか用意されていなければ憤慨ものでしょう。
逆に言えば、短編は「うまい棒」くらいの報酬が山のてっぺんに用意されているだけでも満足されることがあります。これは体力の要る山登りではなく、もはや読者からすれば体力も要らない散歩をしているような感覚だからですね。
端的にまとめてしまえば、4コマ漫画を大量に連続させてあげるような構造にしてあげるのが、一番わかりやすいのではないかと思われます。
4コマの内容って普通に面白いですし買うこともありますが、号泣したり、死ぬまで覚えてるなんてことってそうそう無くないですか?読者層的にも求められているものが長編とは、かなり違うのだろうと思います(4コマ信者の方がいたら、すみません!)
2.「日常パート」と「それ以外」に理想的な比率が存在するか?
基本的に芸術というのは「テンプレ創造」と「テンプレ破壊」の連続でできていますから、テンプレ側の作品を創りたいのであれば、まぁ存在はしているといえるでしょう。
質問者様もおそらく理解されている通り、物語の魅力というのは、ストーリーや構成による魅力と、キャラクター(および語り手)の魅力、文章表現力の魅力の三種類に分類できることが言語学的には知られているようです。
ご参考:https://sakka-no-mikata.jp/2020/03/29/poetics/
小説とて読者に与える魅力は、コース料理のように振る舞わなければ飽きられてしまいます。美味しいからと、前菜からショートケーキ(=ストーリーの魅力)が出続けてくるのであれば、なんとも胃もたれしそうなものではないでしょうか。
日常シーンといった、出来事としてはインパクトの小さい場面を多めに配置したいのであれば、読者が快感を得るまでに少し時間のかかる「ストーリーによる魅力」よりも、「キャラクターの魅力」と「世界観&文章表現による魅力」で勝負することになると思われます。
その中でも「世界観&文章表現による魅力」というのは、最も即効性のある魅力だと思います。飯テロ描写やエロい描写、ノスタルジックな雰囲気などですね。キャラクターも理解してあげるまで、少しは時間がかかりますからね。
小説は物語を伝える媒体としては、読者の負担が大きいと言われがちですが、本当にうまい文章を読むと、その印象は崩れます。
本当に稀ではありますが、とても文章が頭にスッと入ってきて、かつ中毒性を持っているような作者様もいらっしゃいますので、いろんなプロ作家さんの本に振れるのも大事になってくるかもしれませんね。
そんなわけで、日常シーンをたっぷりと書きたいのであれば、それに応じた世界観や文章表現による魅力を詰め込み、ストーリーの魅力を求める読者層には短編集と言い張ることでサクサク読めるものなんですよという理解をしてもらうのが早いかと思われます。
また、短編を数珠つなぎにして長編を創りたい場合は、短編同士のメリハリが重要になってきます。
序破急を用いるラブコメなんかであれば、同じ短編が続いていても後半にいくにつれて、徐々に接近度が上がっていくような短編へ移り変わっていくようにするといった感じですね。
短編小説の書き方についてはこちらからどうぞ:https://sakka-no-mikata.jp/2020/04/07/short-story/
序破急の解説:https://sakka-no-mikata.jp/2020/03/10/paragraph-writing/
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