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目標のFHエージェントは、意外なほどあっけなく見つかった。何故かと言えば、街のど真ん中でワーディングが展開されたからだ。
ワーディングで無力化され倒れる人々の中心に立つ、神経質そうな細身の男。間違いない、情報にあった“アンリアル”だ。
“アンリアル”:「さあ、みなさん。夢の世界で幸せを享受するといいですよ。この私が、最高の夢を約束しましょう」
道化師のように両手を広げる“アンリアル”。そんな彼の元へ、久人と彩がいち早く駆けつける。
久人:「お前がFHエージェント“アンリアル”か。今すぐ街の人たちを解放しろ!」
久人が発した警告に、しかし“アンリアル”は薄く笑って応えた。
“アンリアル”:「おかしなことを仰る。御覧下さい、夢を見る皆さんの穏やかな顔を。彼らは今、至上の幸せの中にいるのです。
それを邪魔するなど、私が許しません。私の力があれば、全人類を幸せにできるのですから。
少年、キミにもあるでしょう? 後悔していること、やり直したいと思うこと。こうだったら良かったのにと思うことが」
言葉が、視線が、久人を射抜く。同時、久人の脳裏に去来するのは――三澄天。もう記憶の中でしか会えない、彼女の笑顔だ。
“アンリアル”が持つ記憶探索者の力が、久人に否応なく彼女のことを思い起こさせる。そしてその動揺は、まさしく“アンリアル”が狙った通りのものだった。
“アンリアル”:「お一人様、ご案内」
ワーディングに重ねて偽装する形で、既に“アンリアル”の能力は発動されていたのだ。彼の指が鳴らされると同時、久人はその場に崩れ落ちる。
彩:「ヒサト……! しっかりして、ヒサト!」
倒れ伏した身体を揺り動かす彩の必死の言葉も、久人には届かない。眠るように意識を失った彼の表情は……穏やかな笑顔だった。
“アンリアル”:「おや、私の力が上手く効いていない……あなた、RBですね。私の夢に不安要素は必要ない。残念ですが、あなたには消えてもらいましょう」
再び、“アンリアル”の指が鳴らされる。その直後、ノイズが走ったように彩の輪郭がブレた。
彩:「う、あぁ……っ!?」
“アンリアル”:「あなたを生み出したのは、そこの少年ですね。では、その少年があなたのことを忘れるとしたら……いつまで形を保っていられますかね」
暗転しそうになる意識を必死に繋ぎ止め、彩は倒れる久人に手を伸ばす。
彩:「ヒサト……おねがい、もどってきて……!」
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