第八話[拡性兵達の勝利]3
──「日々乃!!?」
煌露日町で、望は思わずラジオを鷲掴みにし、絶望的な声をあげる。
「落ち着け、望ちゃん!!」
明が望の肩に手をそえ、ラジオから優しく引き離す。
「アイツなら、アイツなら大丈夫さ!! そうだろう!!」
明は声を震わせながら、望を安心させようとした。
望は暗い表情で床に涙目でうつむく。
──アースセイヴァ―は暗い水底の奥にいた。コクピットが赤く点滅し、心臓の鼓動のように激しい危機感を察知した。
「…………」
アースセイヴァ―のコクピット内部で、日々乃は目の前の先、こちらに迫るアズロポッド・マリーンを睨んだ。
「邪魔ってなんだ……お前は、今まで俺達の街を破壊してきて、本多隊長やエモン隊長、皆を邪魔って言うのかよ……皆から逃げてる癖によ!!」
アズロポッド・マリーンのハサミがアースセイヴァ―の銅を掴み、ハサミ内部のキャノン砲をコクピットに向けた。
「戦え……俺らと戦え……これまでの侵略してきた報いを受けやがれぇぇぇ!!」
ハサミに捕らえられても、日々乃の精神に恐怖はなく、オーガロイドへの怒りで満ち溢れていた。
──「アースセイヴァ―の反応を確認!! 弱ってねぇ、あいつはまだ戦ってる!!」
アシェリーのアッシュガルが補足したレーダー反応に、港岸でエモンは膝をついて倒れた搭乗機を奮い立たせる。
エモンのアッシュガルは、波紋を広げる水底にカメラアイを向けた。
「アースセイヴァーは敵を浮上させるだろう。その一瞬に、全てをかける!!」
《エモン隊長……了解です!!》
《エモン隊長!》
風副長は、自身の搭乗機にあるマフラーユニットをマニピュレーターで取り外し、エモン機に手渡した。
《この機体のパイロットの意思です。この機体の装備を、役立てて欲しいと》
《エモン隊長、俺たちのエネルギーを使ってくれ! ブースターに繋げれば、あと数分は飛べるだろ!》
エモンの元に集まったアッシュガル達は燃料ユニットを外し、エモン機に給油を始めた。
《エモン隊長、この装備を!!》
勝家のT-10式から、エモンはランチャーを受け取り両腕に装備した。
「皆、かたじけない……残存したエネルギーを、全て私に繋げてくれ!」
《頼んだぞ、エモン隊長》
勝家は両肩の戦車砲を前方に向け、援護射撃の用意をした。
「アッシュ、お前に謝ることがある」
《んだよ、エモン》
エモンとアシェリーは固有通信で会話する。
「この機体は必ず壊れる、海へと消えるだろう」
アシェリーのアッシュガルは、水底にスナイパーライフルを向けたまま微動だにしない。
《そんなこたぁ分かってる! 派手に壊せ、俺が設計し直す! だから行け、エモン!!》
「おう! 後ろは頼んだぞ、アッシュ!!」
肩にマフラーユニット、両腕にランチャー、そしてブースターに燃料を充填完了したエモンは、
日々乃を信じ仲間達と共に臨戦体制に入った──
──アースセイヴァ―は重い水中の中で、ガントレットを変形させ、アズロポッド・マリーンの背部に銃口を向けた。
(俺はここで沈むかもしれない)
幾度となく、オーガロイド戦で危機に陥った。今回は逃げ場もない。アースセイヴァ―は海の藻屑となるかもしれない。
「その前に、俺は、お前を倒す! お前を倒して、俺達の街を、住んでる皆も、地球を守る!!」
アースセイヴァーは尾を掴み、アズロポッド・マリーンを逃がさず必殺技を叩きこむ──
──水しぶきが激しくあがり、激しく悶えるアズロポッド・マリーンと、それに掴まり獅子奮戦するアースセイヴァ―が浮上した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
ガントレット・ブラストのエネルギー熱がアズロポッド・マリーンの甲羅に直撃した。貫通はしなかったものの内部機構を熱せられ、内側からダメージを受ける。アズロポッド・マリーンは浮上して空気を取り込み、熱を冷まそうとする。
アースセイヴァーは浮上したアズロポッド・マリーンの背に跨がり、殴打を叩き込む。
ガントレットから帯状の粒子が放出され、最大出力でアズロポッド・マリーンに殴りかかる。
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
「──エモン、出撃する!!」
エモンのアッシュガルがブースターを最大出力で噴射する
日々乃の闘志が生んだこのチャンスを無駄にはしない。
仲間達の思いも背負ったサムライ・アッシュガルが海上を駆け抜け、浮上したアズロポッド・マリーンに迫る。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
アズロポッド・マリーンは甲羅を殴り続け潰してくるアースセイヴァーに悲鳴をあげながら、アッシュガルに向けて子機を放つ。
《雑魚は消えろぉ!》
《援護するぞぉぉぉぉぉ!!》
河川よりT-10式、廃ビルの屋上からはアシェリー機が狙撃し子機を撃ち落とす。
地上にいるアッシュガルは周囲を索敵する。砲撃型などが迫れば、再びじり貧な戦況になるからだ。
それら旧都市攻略連隊の援護を背中に任せ、エモンのアッシュガルは海上を高速で突き進む。
『ウグゥガァァァァァァァ』
アズロポッド・マリーンの背部が開いて再び開き、人型のオーガロイドが登場する。ボロボロに損壊し、関節が悲鳴をあげているアースセイヴァーに、腕のハサミから放水し形成したブレードで止めを刺そうとする。
「オーガロイドォォォォォォォォォォォォ!!」
エモンは人型オーガロイドに目を定めた。
オーガロイドの視線も、水上を飛行しこちらに向かうアッシュガルへ向けられた。
「今、私を敵視しているな……貴様が、コアとなるオーガロイドだな!!」
コア・オーガロイドに向けて、エモンの搭乗するサムライ・アッシュガルは両腕のランチャーから弾頭を放つ。コア・オーガロイドはウォーターブレードで弾頭を両断する。
「振りが大きいぞ!」
──ジャマヲ、スルナァァァァァァァァァァァァ!!──
コア・オーガロイドは咆哮と共に、肩より現したもう一対のハサミからも水流を発射する。発射された水流は接近したアッシュガルのマフラーユニットを掠める。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
コア・オーガロイドはウォーターブレードを振り回し、水上を滑るようにアズロポッド・マリーンの周辺を旋回するアッシュガルへ敵意を向けた。
「こい、オーガロイド」
アッシュガルが一瞬停止し、マフラーユニットとブースターを最大出力で噴射しコアオーガロイドに突撃する。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
コア・オーガロイドはウォーターブレードを振り、迫るアッシュガルを斬ろうとする。
「見える程度の太刀筋か」
あらゆるものを一刀両断するウォーターブレードは、しかしマフラーユニットとブースターで姿勢制御するサムライ・アッシュガルの背や肩を掠めただけで、コクピットを斬ることが出来なかった。
「敵前より逃げ、味方を捨て、ただ武器に頼るだけの戦法……例え水中であろうが揺るがぬアースセイヴァーの精神と、我々の戦う意思が繋いだこの装備は、貴様程度に負けぬ」
ウォーターブレードを振り上げた隙をつき、アッシュガルはコア・オーガロイドの間合いに入った。
コア・オーガロイドは、アッシュガルに向け水鉄砲を放とうとするが、ブースターを最大出力で噴射したアッシュガルの加速には間に合わなかった。
「Chastoooooooooooooo!!!」
「ウグゥガァァァァァァァァァァ!!」
コア・オーガロイドの胴体が斬られ、断末魔と共に爆発四散した。
「オーガロイド、一刀両断!!」
アッシュガルは推進剤を使い果たし、コクピットよりエモンを射出し海上をはねて沈んだ。
──爆発四散を両腕から放出された粒子で防ぎ、アースセイヴァーは満身創痍の状態で立ち上がる。
《回収するぞ、アースセイヴァー!!》
アースセイヴァーの頭上でヘリが飛行し、ワイヤーを下ろしてアースセイヴァーに繋げた。
「了解です……」
アズロポッド・マリーンの甲殻が、コア・オーガロイドを無くしたことで制御するものがいなくなる。内部は溶解し、汚染物質となる。
暴れ出すその汚染物質をアースセイヴァ―は最後の力を振り絞り、ワイヤーに喧嘩される前に拳をアズロポッド・マリーンの甲殻内に押し込み必殺技を放った。
「ガントレット・ブラストォォォォォォォォォ!!」
──煌露日市で手を合わせ、様々な思いをアースセイヴァーの背中に託す望達──
──満身創痍で戦いの結末を見届ける地球防衛連邦の日本連隊──
──アースセイヴァーを信じた、アッシュガル第54部隊──
──皆の心にある、平和への気持ちをエネルギーにして放った一撃は、暴走するアズロポッド・マリーンの動きを静め、爆発四散させずに自然消滅させた。
──「敵の大将を倒した! 隊長達と、アースセイヴァーの勝利だぁぁぁぁ!!!」
駐屯地の隊員達の涙ながらの報告に、煌露日市の皆は歓声をあげた。
「アイツら、よくやった、よくやったぞ……」
元部下の勝家達を思い、明は涙で顔をくしゃらせた。
「日々乃……よかった、生きて、勝ってて……!!」
望は安堵して胸に手を置き、青空を見上げ日々乃を思いながら泣き崩れる──
──《こちら第十六部一班隊長の本多勝家。全隊に報告す──オーガロイドの親玉を破壊した!! 地球防衛連邦の勝利だ!! 我々の勝利だぁ!!》
大粒の涙を流しながら満面の笑みを浮かべた勝家の報告に、生き残った遠征連軍は歓喜の声をあげた。
アシェリーはコクピット内でガッツポーズし、崩落より脱出し生き残ったジャンとフラッグは自衛隊と肩を合わせて笑い、風副長は攻略作戦に参加し散った者へ敬礼し、エモンは鬼切丸を掲げ勇ましき雄姿を一同に見せた。
「やった……守ったぞ……皆を守れたんだ……ありがとう、アースセイヴァー」
アースセイヴァー内部で、日々乃は肩の荷を下ろし、そして腰に力を込め、コクピット内で勝利の雄叫びをあげた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
廃墟であった旧都市に、この日は20数年ぶりの賑わいが気持ちよく響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます