第八話[拡性兵達の勝利]2
──「ぐっ……ここで倒れるわけには」
風副長のアッシュガルが、よろめきながら前進する。アズロポッド・マリーンに投げら飛ばされ、墜落する直前に、ブースターを地面に噴射し着地の勢いを相殺した。だが完全には相殺しきれず、地面を転げ回って着地したせいで関節のあちこちを損傷させてしまった。先程までのナイフさばきは、もはやこの機体では行えない。
《そこに……誰か……いるか?》
風副長のアッシュガルは地下鉄口から現れた機体に損傷したカメラアイを向けた。
《俺は半蔵金箙兵衛……第三部一班の隊長だ》
箙兵衛のアッシュガルもまた、全身各部に亀裂と損傷が走り、残存した武装も少ないが、スラスター周りや関節機構は稼働出来る。しかしコクピット部に衝撃を受けたため、パイロットは瀕死であった。
《そこにいる者が戦えるならば……頼む、俺の機体はまだ動ける。このまま倒れさせるわけにはいかない。俺の代わりに、この機体の装備で……皆の仇を取ってくれ……逃げたオーガロイドを、倒してくれ!!》
「……あい分かった」
アッシュガルから降りた風副長は特任のアッシュガルに向かう。
特任のアッシュガルから降りた箙兵衛は左足を潰し、目を負傷していた。彼の手当てを建物の陰で終えた風副長は敬礼をし、位置情報を発信すると特任アッシュガルのコクピットへ通じるロープをたぐる。
乗り込んだコクピット周りは損壊がひどい有り様であったが、プログラムは直したのか機体は稼働し移動することが出来る。
「あなたの意思は伝わった……この機体の装備、借り受けるぞ!!」──
──“アズロポッド・マリーン”は海中を潜航していた。尾の付け根にある両側面の排水口から速力を放ち、18kt=時速22キロの速力で海中を突き進み、それは戦域を離脱しようとしていた。
しかし、後方から迫る気配を察知。時速600キロでこちらに迫る機体3機が海中へバズーカを向けて弾頭を発射する。
海中では弾丸の威力は分散される。しかし爆撃音で位置感覚を狂わせ、追い詰める。
よろめいたアズロポッド・マリーンは腹部から小型のカブトガニ型オーガロイドを射出、それを海上の機体に纏わせようと命令を出した。
「総員回避、来るぞ!」
エモン率いるアッシュガル3機は海上でブースターを展開し飛行していた。15分しか飛行出来ず、更に水中運用を考慮していないアッシュガルでは、水没すなわち破壊である。
アッシュガル3機のパイロットは、その危険性を恐れず飛行し続ける。3機は横に素早く移動し、カブトガニ型のオーガロイドの奇襲を避ける。カブトガニ型オーガロイドは、アッシュガルの背後で爆発した。
《子機か! 爆発四散反応確認!》
「捨て駒というモノか……総員備えろ!」
ラジャー!!
エモンとジャン、フラッグのアッシュガルはライフルを構え、子機を撃ち払う。
敵は海中のみでない、河川やそれに隣接する建物から、砲撃型の奇襲もくる。
《邪魔だぁぁぁ!》
《残りカスのオーガロイドがっ!! スッこんでろ!》
それらは地上のアッシュガル達が担当し、各個撃破される。
別の位置では、河川に陣形を展開したT-10式が援護射撃を開始する。背部に取り付けられた44口径120mm滑腔砲、ミサイルの弾幕や腕部レールガンでの援護射撃による、バズーカよりも強い衝撃がアズロポッド・マリーンにお見舞いされる。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
弾丸の爆風やレールガンでの放電によってダメージを喰らい、熱が溜まったアズロポッド・マリーンは冷却するため急遽浮上する。
アズロポッド・マリーンは蒸気を吐きながら、背部のポッドを開いて砲撃型のオーガロイドを展開した。砲撃型の砲身がアッシュガル3機に狙いを定める。
「貴様、ワイバーンめいてるな!!」
放たれるレーザーを避けながら、アッシュガル3機はミサイルをアズロポッド・マリーンの甲殻に喰らわせる。展開された砲撃型は、T-10式の援護射撃によって破壊される。
河川は港通りへ続き、アッシュガルに追われながらアズロポッド・マリーンは爆風を避けるため潜航し、貿易港の橋を次々と通過した。
アッシュガル達は橋の真下を頭上スレスレで飛行し続ける。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
アズロポッド・マリーンは一本道の海中を高速で抜ける。橋を抜ければ、アッシュガルの追尾は不可能となる。
《今だ、アースセイヴァー!!》
アズロポッド・マリーンの真上の橋。そこにはアースセイヴァーが港に打ち捨てられた船から取ったアンカーを構え待機していた。
「一本釣りだ、行くぞアースセイヴァー!」
日々乃は気合いを込め、腕を振り上げる。
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
アースセイヴァーは豪腕でチェーンに繋がれたアンカーを振り回し、海中に投げた。
遠心力を持って放たれたアンカーは水中に突入し、アズロポッド・マリーンの前方に引っ掛かる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
装甲の薄い腹部にアンカーが引っ掛かり、アズロポッド・マリーンが海上へ勢いよく引き上げられる。
《アースセイヴァーを支援しろ!》
ラジャー!!
橋に上がったアッシュガル3機もチェーンを掴み、残り僅かなエネルギーを腕力に回し引き上げる。
「見えました、オーガロイドの背中が!!」
アースセイヴァーは片腕のガントレットを変形させ、必殺技を準備しアズロポッド・マリーンに狙いを定めた。
「ガントレット──」
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
突然、橋の両側が崩れた。一刀両断となった断面図が、轟音をあげアースセイヴァー達
を海に突き落とす。アースセイヴァーが橋と共に水没する直前見たのは、アズロポッド・マリーンの背部が開かれ出現した、一体のオーガロイドであった。
「なんだ、あのオーガロイドは!?」
アッシュガルの右肩スコープが捉えた映像に、アシェリーは困惑した。
アズロポッド・マリーンから新たに現れたオーガロイドは、完全な“人型”をとっていた。全身各部に甲殻類のような装甲を纏い、両腕のハサミからは放水し生成されたブレードがあり、それが橋を一刀両断したのだ。
「アースセイヴァァァァァァァァァァ!!」
アシェリーは分析結果よりも日々乃に目を向け、そして叫んだ。
“人型”のオーガロイドはアースセイヴァーに向かって吠えた。
アースセイヴァーの感覚に、それが言語化し伝わる。
──ジャマヲ、スルナァァァァァァァァァァァァ!!──
「なん……だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
激昂する日々乃、そしてアースセイヴァーに、人型オーガロイドはアズロポッド・マリーンの尾を伸ばし襲いかかる。
《アースセイヴァーぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》
エモン機がキルオーガを抜き、アズロポッド・マリーンの尾を斬り払った。
「ブースター残存燃料ゼロだと!!」
しかしエモンのアッシュガルは飛ぶことが出来ず、そのまま水底に沈もうとした。
《エモン隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!》
エモンのアッシュガルが抱き抱えられる。ブースター飛行したアッシュガルの新型が、エモン機を抱いて崩落した橋から救出したのだ。
「その声、風か!」
《遅れて申し訳ありません! 陣形を建て直さなければ!》
《日々乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!》
勝家の声が通信機にこだまし、アッシュガルのブースターが何もなくなった海上を波立てた。
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