第八話[拡性兵達の勝利]1
《奴は……水中にいるぞぉぉぉ!!》
箙兵衛からの通信が鬼ヶ城攻略に加わった全部隊に発信された。
《水中だと!?》
《奴ら、泳げないんじゃねぇのか!?》
《逃げただと!? クソッタレがぁぁぁぁぁ!!》
全部隊に動揺と激昂が走る。沿岸を担当していたアッシュガル第54部隊はすぐに都市内を流れる運河へと集結し、河川や橋から水中を監視する。
《レーダー、写るか!?》
《いえ、反応が全く……そもそも、水中まで捕捉は出来ませんよ!?》
第54部隊も困惑していた。地上には残党したオーガロイドもいる。うかうかと水中に目を向けられない。
《アースセイヴァー、何か感じるか?》
エモンはライフルを周囲に向けて警戒しながら、アースセイヴァーへ冷静に通信を入れた。
「……はっ!」
何かに気づいたようにアースセイヴァーは橋の真ん中へ渡り、カメラアイを運河に覗かせた。
「水中に……水中に奴らが逃げている……」
日々乃はアースセイヴァーのカメラアイを通して、運河を睨んだ。
《アースセイヴァー?》
ジャンのアッシュガルが水中へライフルの銃口を向けた。水中に何かいるような感じがして、恐ろしさに戦意が支配されそうになる。
「ジャンさん、離れてください」
アースセイヴァーはガントレットをブラスト形態に変形させ、水中へとエネルギー発射口を向けた。
「何も見えないが……違和感はする」
運河はアースセイヴァーの正面へと静かに向かい流れる。まるで迫るかのように、河の流れは橋の下を通過する。
──「っ!!?」
一瞬、アースセイヴァーは運河に潜む僅かな影をカメラアイで捉えた。
即座にブラストを水中へと放つ。水しぶきが吹き上がり、運河を荒くねさせた。
《ウグゥガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!》
水中より、オーガロイドが舞い上がって現れた。
全身に蟹のような形の甲殻を纏い、長い尾の先端には鉤爪、両腕の巨大なハサミにはヒレのようなブレードを持っている。鋭い大顎が開き、水棲生物のようなオーガロイドは獰猛な鳴き声をあげた。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
《あの姿……crustacean《甲殻類》!?》
エモンは驚愕しながらも、素早くアッシュガルを操縦しキルオーガを構えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
甲殻類型のオーガロイドを逃がさないよう、アースセイヴァーや周辺の拡性兵が集まり射撃や殴打を食らわせようとした。
だが地上に上がった甲殻類型オーガロイドは尾を振るい、それらを全員吹っ飛ばした。
《ぐわぁぁぁぁっ!!》
《ぎゃあああああああああ!!》
《エモン隊長ぉぉぉぉぉ!!》
「ぐっ──!!」
多数のアッシュガルが吹き飛ばされる中、エモンはブースターを展開して飛び上がり、
尾が腹部に当たる寸前のところでかわした。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
アースセイヴァーは甲殻類型オーガロイドの尾を両腕で受け止め、逆にその巨体を投げ飛ばそうとした。
『ウグゥガァァァァァァァ!!!』
しかし、その巨体は持ち上がる気配がしない。逆にジリジリと、アースセイヴァーの方が引っ張られていく。
《アースセイヴァぁぁぁぁぁぁぁ!!》
勝家の部隊からT-10式による援護射撃が入るが、それでも甲殻類型オーガロイドは怯みもしない。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
《日々乃、そいつを離せ!! 水中に引っ張られるぞ!!》
エモンがキルオーガを抜き、尻尾に斬りかかる。
しかしエモンの敢行は間に合わず、甲殻類型オーガロイドの尾の先端にある鉤爪が、アースセイヴァーの頭部に襲いかかる。
《日々乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!》
風副長のアッシュガルがブースターを展開し、ナイフを尾に突撃し突き刺す。
ナイフが尾の鉤爪をアースセイヴァーより反らし、しかし狙いを風副長の腹部に捉えた。
「ふ、副長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
《ぐわっ──────》
風副長のアッシュガルは応答する間もなく、鉤爪に掴まれ、尾の先は持ち上がり激しく振り回される。
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
日々乃は風副長を助けようと腕を離そうとする。
しかし、アッシュガルはコクピット内で失神した風副長を乗せたまま、尻尾に振られ投げ飛ばされた。
「風(フォォォォォォォォォン)!!」
エモンは副長の名を叫びながら、甲殻類型オーガロイドの尾へ斬りかかる。
『ウグゥガァァァァァァァ!!』
甲殻類型オーガロイドはアースセイヴァーとエモン機へ、ハサミ内部からホースのように水流を発射した。
《ぐぅっ!》
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
水流の勢いによって二機は後方に飛ばされる。その隙に甲殻類型オーガロイドは再び運河に潜航し、高速移動で湾岸を離脱した。
「待て、待ちやがれ!!」
《日々乃、お前は行けないっ!》
オーガロイドへの怒りを声に滲ませたエモンが静止しする。水深は深く、アースでは海中戦は行けないのだ。
《私が行く。ブースターを使えば水上を飛べるだろう》
《んな無茶な!! 機体が保たないぞ!!》
廃ビルの屋上にて、アシェリーは驚き、エモンのいる方角へ自身の顔とアッシュガルの頭部を向けた。
日々乃達のいる現場は、重傷者があふれていた。中にはコクピットを潰され安否不明となった仲間もいる。
《俺も行くぜ、エモン隊長》
《お供します、エモン隊長》
ジャンと、第54部隊隊員の一人であるフラッグのアッシュガルがブースターを起動した。
《副長の仇を取りましょう。あのやかましいガキ、アイツは俺が倒す戦士だったんすよ……》
ジャンは悔し涙を滲ませ、操縦悍を握りしめた。
《まだ死んだか分からねぇだろ》
フラッグは、傷の痛みによる呻き声と叫びで溢れた戦場を見渡す。
《ここにいる皆のようにな……そいつらの無念、ここで晴らしましょう》
フラッグの言葉に、エモンは頷きながら海中を睨んだ。
「俺も……クソッ!」
日々乃はアースセイヴァーの中で悔しさに拳を固めた。アースセイヴァーのスラスターでは、数秒の飛翔で精一杯だろう。
「今の装備で奴に肉薄出来るのは我々だけだ。私たちが奴を『引きつけ』る」
《策があるのか、エモン》
「ある。作戦の要は“アースセイヴァー”だ」
日々乃は目を見開き、エモンのアッシュガルに俯いた顔を上げて向けた。
「港町の出身、山育ちの戦士よ、その腕を存分に使わせるぞ」
日々乃はエモン機に信頼の表情を向けた。
その後方では勝家が回線を開き、旧都市各地に陣を展開した遠征連軍へと繋げた。
「連軍の皆、これよりアースセイヴァーに力を集める! 力を貸してくれ! 目標名は……あぁうん、了解したアシェリーさん……“アズロポッド・マリーン”、それを討ち、日本に平和を戻すぞ!」
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