第六話[熱砂の飛竜]5

 ──「離さぬぞ、ドラゴンの鬼化!!」

 上空に飛翔するワイバーン・ボンバー。その背にキルオーガを突き刺したまましがみつくアッシュガル・サムライ。

 『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

ワイバーン・ボンバーは翼を大きく広げ、アッシュガル・サムライを放り払おうとする。

 「くっ! ここで落ちるわけにはっ!!」

 《うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!》

 エモンのコクピットの通信に、日々乃の踏ん張ったような声が入った。

 刹那、ワイバーン・ボンバーの右飛膜が弾け飛んだ。

 『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

 「アースセイヴァーの技か! 否、これは実弾か!」

墜落するワイバーン・ボンバーと共に、アッシュガル・サムライはブースターユニットから推力を噴射し受け身をとった。

 「着地! オーガロイドは!?」

 ワイバーン・ボンバーは、崩れかける右骨を何とか支えにして胴体を起こす。

 正面には、損傷した左腕に長大な戦車砲を構えたアースセイヴァーが、全身から蒸気を吹き出し、正々堂々と仁王立ちしていた。

 「オーガロイドぉっ!!」

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……』

 右腕のジェネレーターが彷徨を上げるように鳴り響き稼働する。

 『グ、グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

 ワイバーン・ボンバーは左骨を正面に出して地面を支え、再び口から光線を発射した。


 ピガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!  


 「ガントレット・ブラストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

アースセイヴァーの右腕のガントレットが変形し、帯状の粒子を後方に放出すると、それを弓矢を射るようにして発射した。帯状の粒子も絶大な威力の光線となって、ワイバーン・ボンバーの光線と激突する。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』 


 光線の激突したエネルギー余波は周囲に広がり、当てられたオーガロイドは断末魔と共に次々と爆発四散し、アッシュガルやT―10式は吹き飛ばされないよう重心を保った。

 《な、何て威力なんだ!?》

《超大型鬼化と互角か!?》

 自衛隊やアッシュガル部隊は、味方のアースセイヴァーに畏怖の声を漏らす。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォ!!」

 日々乃は叫び、アースセイヴァーは背部スラスターからも粒子エネルギーを放出して反動と衝撃を抑える。

 「俺はアースセイヴァー、皆を守るんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アースセイヴァーの姿勢がぐらつく。左腕を損傷し、重心の固定が上手くいかないのだ。

 「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 「「日々乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 エモンと勝家の拡性兵が、それぞれアースセイヴァーの肩を支え、ガントレット・ブラストの反動に機体を軋ませながらも、決して倒れないよう足をしっかり踏ん張らせた。


 「「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! アースセイヴァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

全身全霊、全力をかけたガントレット・ブラストの威力は、遂にワイバーン・ボンバーの光線を押し返し、口から胴にかけて炸裂した。

 「グ、グ、ググググググォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

味方すら焼き払う冷酷非情なドラゴンの鬼化は、地獄に落ちるかのごとき断末魔と共に爆発四散した。


 「はぁ、はぁ……やりました、エモン隊長!!」

《よくやった、日々乃君!!》

  アースセイヴァーは力を抜くように、ゆっくりと膝をついて停止した。その背部から日々乃が這い上がり、戦場跡となった砂漠地帯を見渡す。

 残存したアッシュガルやTー10式が銃火器を構えてうろつき、周囲に残存した怪獣がいないか索敵している。

 足元には討ち倒したオーガロイドの残骸が転がっていた。碧色の体液を流し、身体から光を失っている。

 《怪獣群沈黙、熱源反応なし……討伐完了です、エモン隊長》

 「うむ、確認した」

 2機のアッシュガルに索敵しながら守られているように、仁王立ちでサブマシンガン二挺を構えるアッシュガル。

 彼はモニターに写される地平線の景色の向こうまで、動くものがいないか険しい目つきで見渡した。

 「周囲にオーガロイド反応はもういないか」

 《あぁ、空にだっていない……見てくれ隊長、怪獣共の身体が消滅してきやがったぜ》

 オーガロイドの残骸が、灰のように崩れていく。

 「総員、戦闘は終了した。これより休憩後出発準備を始める。動力、装備を補充し、身体を休めておけ」

 アッシュガルは腰を下ろして降着姿勢を取り、コクピットハッチを開いて隊員を外に出す。

 輸送トレーラーがこちらに向かって走行してくる。アシェリーが操縦する遠距離攻撃仕様のアッシュガルも共にいる。

 「パイロットの交代完了」

 「動力補充完了」

 「装備換装完了」

 「人員の手当完了」

 「飯の準備完了」

 アッシュガルや装甲トレーラーの間を隊員達が忙しなく無駄なく移動している。輸送トレーラーからバッテリーケーブルや予備兵装を取りだし、アッシュガルに取り付けたり、火を起こしてレーションを炊いたりする。

 

──「エドモンド隊長」

 隊員に指示を出し終えたエモンの元に勝家が駆け寄る。

 「勝家隊長殿! この度の救援、誠に感謝申し上げる」

 「フン、俺らは町の期待に応えただけだ。貴方達も、遠い国から俺達を助けてくれている。防衛連邦として、我々もそうせねばならばかっただけだ」

 エモンと勝家は、固い握手を交わした。

 「俺達も、遠征組として急遽参戦させてもらう。損害の穴を、少しは埋められるだろう」

 「いいのか? 町の防衛が手薄になるぞ」

 「必要最低限の防衛力は残してある。何よりも、今ここで日本のオーガロイドの本拠地を叩かなければ、町への侵略が永遠に続く」

 勝家の固い決意が、エモンの腕に伝わった。

 「そうか……共にオーガロイドを討つぞ、勝家隊長殿」


──「防衛連邦の勝利だ!」

 ラジオから流れた報告に、煌露日市の市民は歓喜した。

 「はぁーーーっ、良かったぜ……」

 明は安堵し、その場に座り込んだ。

 「日々乃……」

 望は手を合わせ続けていた。町の平和が守られたことへの安堵と、このあとの日々乃達に降りかかるであろう激戦に不安を混ぜる。

 「望」

 彼女の肩に、巌滋郎がポンと手を置いた。

 「彼らなら大丈夫だ。これだけ心配し合える仲間がいる」

 望は俯いた顔をあげ、日々乃達を思う身持ちを胸に山の向こうを見上げた。


 ──エモンは他の隊員が行動しているところ、一人だけ自機の足元から離れずオーガロイドの消滅を見届ける。

 「おいエモン、さっさと行くぞ、ボサッとするな」

 エモンの元へアシェリーが駆け寄る。彼は装甲トレーラーへ親指を差した。

 「しばしここにいさせてくれ。戦場を見届けるのは、指揮官としての大事であろう」

 「あいあい……事後報告にはお前が必要だ、感慨ふけるのに長居するなよ」

 アシェリーは忙しなく走って輸送トレーラーに向かう。彼とすれ違うように、日々乃がエモンに駆け寄った。

 「エモン隊長!!」

 「日々乃君! 左腕は大丈夫か?」

 「左腕ですか? 何か、ズキズキ痛みますけどね、どうってこともないですよ!」

 エモンは自身の表情が曇りそうになるのに気づき、空を見上げて日々乃から顔を反らした。

 「アースセイヴァーも、まだ動けます! 左腕がどうかは分かりませんが……すみません」

 日々乃は左腕を抑えながら顔を俯かせた。

 エモンはアースセイヴァーに視線を向ける。アースセイヴァーのガントレットは、不可思議な機能で傷が塞がれようとしていた。

 「日々乃くん、この空には何か見えるか?」

 エモンは日々乃の傍らに立ち、顔を上げて青空を眺める。

 「いえ……つい最近まで住んでた場所と、見える景色に違いはないかもしれません」

 青空を見上げる日々乃。端正な趣の表情で、彼は何かを捉えていた。

 「ただ、この地表は違う。何もない地平線、そんな場所があるのを俺は初めて知りました……」

 エモンは地表に目線を落とし、辺りを見渡した。ワイバーン・ボンバーの放った光線の焼き跡が、地面を引き裂いている。

 「これがオーガロイドの影響だ。やつらは自然を食い荒らし、破壊して己らの住む環境に変貌させていく」

 「……島の外は、こんな風しか吹いていない、無の地域があるんですね」

 オーガロイドの残骸は完全に消滅し、あとには出発準備を終えた第54アッシュガル部隊と自衛隊が発信音を響かせるのみだ。

 「エモン隊長、俺は奴らの征服を食い止めます、この拳で」

 日々乃は右腕の拳を握り、日本刀を肩に携え戦場跡から踵を返したエモンについていく。

 エモンはコクリと頷き、陽炎に霞む目的地を見据えた。

 「次は決戦だ。向かうぞ、日々乃!!、アースセイヴァー!!」

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