第六話[熱砂の飛竜]3
戦場へと、エモン率いるアッシュガル部隊が繋いだ勝機を掴みに、アースセイヴァーは走る。
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
真っ直ぐな芯となった全身を前に進ませ、足を真っ直ぐにして地を蹴り、アースセイヴァーは走る。
豪腕は肘を折って振り回され、、アースセイヴァーに推進力を生む。その風圧は、オーガロイドの生む砂嵐に匹敵する、台風のごとき強烈さだ。
《アースセイヴァーの発進を確認。来たか、日々乃君!!》
エモンは射撃でオーガロイドを牽制しながら、アースセイヴァーの反応を確認した。
《アースセイヴァー、走っ!?》
驚愕しているミシェルの機体に写るアースセイヴァーは、アッシュガルのブースターユニットよりも速いスピードで戦場に走り込む。
《目標っ、確認!》
走り続けるアースセイヴァーの顔は、上空を飛行するワイバーン・ボンバーに視線を向け、睨むように爛々と光を輝かせた。
《おい、日々乃》
日々乃の装着するインカムに、アシェリーから通信が入る。
《走ってるか?》
《はい、全速力で!》
《よし、合図に合わせて攻めろ。エモン、狙撃を開始する》
──輸送トレーラーの付近にて、斜面の影に隠れたアッシュガル1機。戦場から離れた位置にいるその機体は、狙撃ライフルを構え、脚部アウトリガーを下ろして膝立ちしていた。狙撃ライフルはセンサー部を右肩のスコープに接続されており、標的をダイレクトにコクピットのモニターに写す。
アッシュガルはリアスカートに装備した超加速エネルギー弾のカートリッジを、狙撃ライフルに装填する。
《こちらアシェリー、次弾を装填完了》
遠距離攻撃に特化した装備のアッシュガルには、アシェリー自らがパイロットスーツを着て搭乗していた。
「そっちはどうだ、エモン」
《アッシュ、こちらは敵勢力を半減した。といっても、次々に補充されるがな……その隙が今生まれる》
アシェリーはモニターに写る、各部センサーが捉えた敵の位地や移動方向、予測される動きや気象情報、着弾位置と弾速の計算結果全てに目を通し処理する。
「日々乃、チャンスは一度だ。警戒されて次がなくなる」
《はい! アースセイヴァー、おおよその位置につきました!》
「了解した、アースセイヴァー」
アシェリーは全身を落ち着かせ、呼吸を整えて感覚全てを計算結果に注ぎ、撃つべき瞬間を定めた。
「……発射」
心臓の鼓動と機体の外部の環境を重ね合わせ、弾丸はワイバーン・ボンバーの眉間に正確無比に発射された。まるで自然が生み出した落雷のように、一瞬の出来事であった。
弾丸は空を切り、ワイバーン・ボンバーの頭部をそのまま破壊するハズであった。
しかし弾丸は、地表からの砲撃型オーガロイドによる光線狙撃により、またしても宙で破壊されてしまった。
《飛べ、アースセイヴァー!!》
砲撃型から光線が発射された瞬間、アースセイヴァーは助走を止め、走る為のエネルギーを跳躍力へと変えた。
地表周辺に勢い強い風圧が発生し、アースセイヴァーの胴体は地表より遥か上空を飛んでいた。
『グォォォォォォォォォォ!!』
ワイバーン・ボンバー、砲撃型の反応は遅れた。砲撃型の光線発射まで、インターバル2秒。しかしワイバーン・ボンバーに当てることは出来ない為、更に隙は生じる。
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
アースセイヴァーの背部スラスターから粒子エネルギーが更に放出され、アースセイヴァーの滞空時間を一瞬長く延ばす。
その一瞬が、アースセイヴァーとワイバーン・ボンバーが向かい合う局面を作り上げた。
「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
日々乃とアースセイヴァーは彷徨し、豪腕から放たれる拳をワイバーン・ボンバーの顔面に叩き込んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
ワイバーン・ボンバーは彷徨をあげるための口ごと拳に叩きつけられ、地表へアースセイヴァーと共に落下する。
「総員退避、衝撃に備えろ!」
アッシュガル部隊は散開し、ワイバーン・ボンバーの墜落によって生じた風圧に、地面にしっかり立って耐えた。
多数のオーガロイドはワイバーン・ボンバーの下敷きとなって爆発四散し、周辺にいたオーガロイドも吹き飛んだ。砲撃型も衝撃で崩れ、重心の立て直しを行う中、脆弱な腹部が剥き出しになる。その隙を見逃がされず、アッシュガルのライフルでエネルギーコアを一撃で撃ち抜かれ爆発四散。
「くっ、よしっ!! こちらエモン、ワイバーン・ボンバーに突撃する!」
アッシュガル・サムライは左腕にライフル、右腕にキルオーガを構え、ワイバーン・ボンバーに突撃した。
「グォォォォォォォォォォ!!」
ワイバーン・ボンバーはムチのような尻尾を振り回し、先端の鋭い鉤爪のような尾羽でアッシュガル・サムライを切り刻もうとする。
「ふっ、見えるぞ貴様の足掻きよう!!」
アッシュガル・サムライはつむじ風のように舞い、最小限の動作で尾羽をかわす。
更に、舞うと同時にキルオーガを振り払い、ワイバーン・ボンバーの尻尾を一瞬で輪切りにした。
「刺突!!」
アッシュガル・サムライはワイバーン・ボンバーに飛び乗り、キルオーガをワイバーン・ボンバーの背に突き刺した。
『グォ、グォォォォォ!』
ワイバーン・ボンバーは再び飛び立とうとするが、アースセイヴァーとアッシュガル・サムライに掴まれ、重量により飛び上がれない。
「総員、撃て、討てぇ!! 滅べ、オーガロイドぉ!!」
アッシュガル・サムライの構えたライフルから弾丸が連射され、ワイバーン・ボンバーの胴に撃ち込まれ蜂の巣にする。
『グォォォォォォォォォ!!』
「グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
アースセイヴァーに顔を掴まれ、ワイバーン・ボンバーの顔面に何度も拳が降りかかる。
『グォ、グォォォォォォォォ!!』
全身をくまなく攻撃されるワイバーン・ボンバーは、全身にエネルギーをみなぎらせ輝かす。
「……っ!? アースセイヴァー!!」
ワイバーン・ボンバーの顔面を殴り続ける日々乃のインカムに、エモンからの通信が入った。エモンにしては焦っている様子だ。
《ワイバーンから離れろ! 発射される!》
「な、なんだと!?」
アースセイヴァーは咄嗟にワイバーン・ボンバーの頭部をアッパーパンチで上に跳ね上げた。
上に跳ねられたワイバーン・ボンバーの口から、砲撃型と同じ光線が放たれた──
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