第六話[熱砂の飛竜]2

──エモンの出した作戦目標に従い、第54アッシュガル部隊の輸送トレーラーは側面に

ある3つのハッチを展開する。ハッチから現れた3機のアッシュガルが水素エンジンを起動、オーガロイドの群れに向かって発進する。輸送トレーラーはアンカーを設置し、指令室となって砂漠の斜面に隠れ待機する。 

 《援軍到着は24分。それまで奴等を足止めする》

 発進したアッシュガルは輸送トレーラーに1機残し、計8機。腰にマウントした大型のブースターユニットから推進力を獲て、砂漠の地平線を滑らかに移動する。

 《敵は25体が2列。まぁ、総数なんて上から補充されるがな》

 輸送トレーラーの近くから、ワイバーン・ボンバーめがけて榴弾が発射される。

 だが弾丸はワイバーン・ボンバーの目の前で、地表のオーガロイドの群れから発射された光の軌跡に破壊された。地表のオーガロイドは、降り注ぐ榴弾の破片をものともせず侵攻を続ける。

 《ちっ、砲台型の存在も確認、位置からして4体はいるだろうぜ》

 《了解した、アッシュ。隊員達、今見た通りだ。地表からの直接攻撃は阻止される。まずは群れを抑える》

 戦闘を走るのは、鎧武者のような風貌のアッシュガル。エモンの搭乗する隊長機、アッシュガル・サムライだ。

 《こちらコード1、エモン。第54アッシュガル部隊、作戦に沿い分散、左右よりオーガロイドを叩く! いざ、我ら参る!》

 エモンの猛々しい声の指事に従い、アッシュガルは3機に分かれて、それぞれエモンと風副長が率いて移動した。


 前方の地平線は砂埃が嵐のように舞っていた。2本の豪腕を地面に振り上げ、突進するように走る獣型のオーガロイドの群れ。

 《ミサイル殲滅! ゴリラ怪獣共、食らいやがれ!!》

 ジャンの搭乗するアッシュガルが砂漠の斜面から飛び出して4連ミサイルを発射し、オーガロイドの群れに威嚇射撃を行う。肩に被弾したオーガロイドが怒りながらラリアットを食らわせに飛びかかる。

「うぉっと危ねぇ!!」

 操縦桿を後ろに引き、アッシュガルを後退させる。オーガロイドが着地し、太く恐ろしい爪が胸を掠めた。

着地し顔を上げたオーガロイドの顔面にコンバットナイフが突き刺さる。

 『ウガァァァァァァァ!!』

「へっ、まずは一体──」

 背後に隙が生じたジャンの背後にオーガロイドが飛びかかる。

 それを蹴り飛ばし、腹と顔面にコンバットナイフを投擲した風副長のアッシュガル。

 《油断するな、ジャン。帰還したら訓練課題を3倍にしよう》

 「へっ、帰ったらな!」

 風副長機のアッシュガルは、懸架したコンバットナイフを両手に構えた。彼女のアッシュガルは軽装であり、近接戦闘に特化している。

 《まず一体! 少しずつ対処するんだ!!》

 斜面の多い砂漠の地形を利用しながら、アッシュガル達は身を潜めながら一体ずつ確実に仕留めていく。

 一体仕留める度、定期的にワイバーン・ボンバーの胴体からポッドが射出され、オーガロイドは補充される。

 砂嵐のごとく終わりの見えない戦い、しかしアッシュガル達の攻撃は鈍りを見せない。

 《必ず! あのドラゴンに届かせるんだ、アースセイヴァーを!!》


──《エモン、アースセイヴァーはいつ発進させる?》 

《今はまだだ。私たちが奴らの攻撃を食い止めることで、アースに余計なエネルギーを使わせず、確実にワイバーン・ボンバーを叩かせる》

 「隊長……皆……」

 日々乃は輸送トレーラーのキャブで待機していた。彼はアースセイヴァーが出撃出来るのを待っている。

 《日々乃、君のアースセイヴァーがワイバーン・ボンバーを殴るには、まだ勝機が掴めていないんだ》

 通信兵のベックが、レーダーに写るアッシュガルとオーガロイドの位置に目を通し、作戦の遂行を随時チェックする。

 《だから焦らないでな。君は今回のMVPになるんだから》

 「わ、分かっています……だけど分かってもいるんです、この作戦がどれほど無謀か……」

 《ぐわぁぁぁぁ!!》

 通信に爆音と呻き声が入り、日々乃はうろたえそうになる。

 「ジャンさん!? そんな、ジャンさん!?」

 《こちらジャン、大丈夫だ……だが片腕持ってかれた》

 《ジャン、ULSに重心バランスを再計算させろ。動けないようだったすぐに戻れ》

 エモンからジャンに対し通信が入る。エモンの声は、戦闘への緊張感を感じさせながら、安定し冷静さがあった。

 《日々乃君、ワイバーン・ボンバーを倒すのが君の任務だ。だが、今の状況では君の拳を届かせるのは難しい》

 喋りながらエモンは操縦桿を細やかに操作する。アッシュガル・サムライは彼の操縦と武

術データを反映し、高周波太刀“キルオーガ”を一閃に振り払い、オーガロイド3体の胴を一刀両断した。

 《私たちの目標は、君の拳をワイバーン・ボンバーに当てることだ。その為に我々は、君ことアースセイヴァーの刃となろう》

 エモンの覚悟に、日々乃は固唾を飲んで、拳を強く握りしめ戦況の経過を見守った。


──戦闘開始から僅か7分、隊員たちはそれ以上に長い時間を体感しながら、弾幕を次々に消費する。斜面の多い土地を抜け、地平線へと戦場は移り変わった。

 《こちらミシェル、ライフルのストックが切れたっ!》

 《ほらよ、俺のを使え!》

 味方からパスされた弾幕カートリッジを受け取り、ミシェル機はオーガロイドの腹部に弾幕を撃ち込む。

 地平線となった砂漠にて、アッシュガル3機は背中合わせとなってお互いの死角を補いながら、四方八方から襲いかかるオーガロイドを次々と討ち倒す。

 《おいおい、あと17分も保てられるか!?》

 《あと3分だ、ミシェル》

 エモンは冷静に、二挺構えたライフルで一度に2体のオーガロイドに対処している。

 《あと3分で、彼が出撃出来る。それまで奴らの注意をそらせ!!》

 群れの真ん中に位置する砲台型。四足歩行の戦車のような外観のオーガロイドは、砲身を下げたまま走るのみ。


 《エモン隊長! アースセイヴァーの発信準備、完了しました!》


 ヘリのローター音と共に、三機のヘリにワイヤー懸架されたアースセイヴァーが地面に降ろされる。アースセイヴァーは地を振るわせ、仁王立ちで着地した。

 輸送トレーラーから走って飛び出した日々乃に反応し、膝をついて日々乃をコクピットまで登らせた。


 「アースセイヴァー、発進準備!」

 両腕のガントレットジェネレーターを駆動させ、アースセイヴァーは起動する。

 アースセイヴァーは地に手をつけ、身を屈める。

 全身にエネルギーをみなぎらせ、余分なエネルギーを生ませない。

 各スラスター部から吹き出す蒸気は、砂漠の日照った地面が生む熱と重なる。

 足をあげ、胴を浮かせ、アースセイヴァーはクラウチングスタートの姿勢で構えた。

 

 「行くぞ、アースセイヴァー!!!」

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』


 地を蹴りあげ、アースセイヴァーはジェネレーターを起動してエネルギーを放出、斜面を飛び越えてスタートダッシュした。

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