第五話[戦士の出陣覚悟]1
4度のオーガロイド襲撃に耐えた港町、しかし徐々に傷跡を増やしていった。
多くの建物が崩れ、行き場所を失った人々は駐屯地の体育館に身を寄せていった。
このまま襲撃する頻度が高まれば、いずれ被害は壊滅的なまでに増大していくだろう…
煌露日自衛隊基地、そこの装備ドッグにて。
(何故、短期間にこれだけの襲撃が、この港町に集まっていく……何が怪獣を惹き付ける……?)
救援として派遣されたアッシュガル部隊の隊長エモンことエドモンド・J・ユースタスことエモンは、寡黙に佇むアースセイヴァーを見上げて、これまでの襲撃に疑問を思う。
「エモン、そろそろ作戦会議が始まるぞ」
二階へと上がる階段から、アッシュガル部隊のアドバイザーにして整備士、アシェリー・イェーガーがエモンを呼ぶ。
「隊長が会議に遅れちゃシマらねぇ。さっさと行くぞ」
「なぁアッシュ。お前はオーガロイドに惹かれるか?」
エモンはアースセイヴァーを見上げながら、アシェリーに問う
「オーガロイドだぁ? あの怪獣共がっ……。研究対象として見れば興味が出るが、俺らの土地を蹂躙するあの野郎らは好きにならん」
アシェリーは苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「そうか。この問い、お前に聞いて良かった。なるほど、確かにそうだな」
エモンは頷きながら、鋭い眼光をアースセイヴァーから離さない。
「では、オーガロイドはどう思考するだろうか。破壊、蹂躙、奴らにはそれしかないのか……であればアースセイヴァー、貴様は奴らにとって何者なんだ?」
エモンの剣の刀身のように真っ直ぐな目線が、アースセイヴァーの全身を見据えた。
「それなら推測込みだが、ある程度の答えは出せたぜ」
アシェリーは手に持ったタブレットPCの画面をエモンに向けた。エモンの目線も、アシェリーに向けられる。
「会議で発表予定だ。どうする、エモン?」
「フッ。アッシュ、お前は俺を中々『隊長』と呼ばないな……公人ではなく、私人として聞くか」
エモンはアースセイヴァーに踵を返し、階段を上がってゆく。
──時刻が過ぎ、会議は狭い室内にて進行する。椅子は足りず、何人かは後方で立って進行を静聴している。
皆の顔は、アシェリーがタブレットPCに接続された映写機を用いて、白い垂れ幕に投影されたデータに向けられていた。
「まぁ統計データとか比べるより、面倒なく一言で纏めるぞ。この町は、近年のオーガロイド被害に比べて、明らかに侵略頻度が多すぎる」
「そいつは何だ、俺らが弱いって言いたいのか?」
自衛隊の一人がアシェリーにガンつける。
「お前たちの練度は関係ない、こう短いスパンで進行されちゃ、どこの部隊でも補給修理は間に合わん。遅かれ早かれ、この町は滅ぼされる」
アシェリーの最後の一言に、自衛隊員達の身が引き締まる。
「ねぇアシェリー先生。だったら原因を叩けばいいってこと? ていうか、どうしてこの町がやたら襲われるの?」
後方で立っているアッシュガル部隊の副長である風(フォン)が、腕を組んでアシェリーに尋ねる。
「黙って聞いてろ副長、今から説明する……この町の森を抜けた、オーガロイド進行の跡地である砂漠地帯、そこを抜けた先の“旧都市”にオーガロイドの巣がある」
風はフンッと鼻を鳴らして映像を見つめる。映写機で投影されたデータが周辺地図へと
切り替わる。
「ULS衛星の情報だ。ここが俺達の今いる日本列島、最近になってオーガロイド反応が活発化してきている」
周辺地図がズームし、オーガロイドが密集した反応をレーダーで示している。
「そこで増えたオーガロイドが、ここを進行区域に加えたんだろう。納得したか?」
「はいはい……納得は、したわ」
風が拗ねたように唇をとがらせ返事をしたとき。
「いや、俺は納得していません」
一同は振り向いた。誰よりも後方で、日々乃が仁王立ちの精悍な表情で周辺地図を睨む。
「何でオーガロイドは大勢でここだけを狙ってくるんですか?」
一同は身を脇へと避け、その間を日々乃は足を一歩踏み出す。
「あの時襲われて、あの時この基地に直接襲撃されて感じた……やつらの狙いは、“アースセイヴァー”だろ」
「そうだとも、日々乃君」
それまで、アシェリーとは反対の方向の垂れ幕の脇で、大股で腕を組んで構えていたエモンが口を開く。
「連中は、君を脅威と見なし、第一目的へと指定している。今のオーガロイドにとって、アースセイヴァーが最も危険である存在だからだ」
日々乃は唇を噛み締めた。予想はしていたが、いざ突きつけられると責任感と罪悪感を抱いてしまう。
こちらがアースセイヴァーという脅威を起動したばかりに、周りにオーガロイドという脅威を町に惹き付けてしまう……
「ならば日々乃君、オーガロイドの群勢に対し、君自身が動かすアースセイヴァーの力、それは何に使うんだ?」
言葉一つ一つが重く力強く、日々乃にのしかかる。
日々乃はそれに、足腰に力を込め、しっかり受け止めた。
「オーガロイドを残らず叩く。今すぐに……俺は奴らの根城を叩きたいっ!!」
日々乃は拳を握り締め、自分の昂る心臓を叩いた。責任感に対する覚悟は、先日の改造オーガロイド戦で決まっていた。
「俺は皆を守るためにアースセイヴァーに乗り込むと決めました……そこが敵の根城であろうと、俺は戦いますっ!!」
フッとエモンが小さく笑った。日々乃の毅然とした覚悟に、胸の昂りが止まらずにいたからだ。
「その意気や良しっ、私も同感だ!! ではこれより、“鬼ヶ城”攻略作戦を立案する!!」
エモンは立ち上がり、傍らに置いていた日本刀の鞘を床に叩きつけ声を張り上げる。
「な、今からかよ!? 首都とかとの協力要請とかは……」
「それなら、俺が手配した」
狼狽するアッシュガル部隊の一人に、最前席で静観していた勝家が答える。
「元々、首都埼玉の方で、近々予定していたらしい。埼玉主体で、今後作戦を展開していくつもりだ」
勝家の言葉に、一同は困惑の色を薄くした。
「エドモンドさん、人員配置はどうする?」
勝家はエモンに顔を向けた。
「遠征は私達に任せてほしい。勝家隊長らは、ここでこの町を引き続き守っていただきたい。地の利であれば、貴殿達がオーガロイドより上であるしな」
エモンと勝家は、互いに顔を見合わせる。互いの表情は同じで、戦闘準備は整っていた。
「……あぁ、遠征はそちらに任せる。町の護衛が、俺らの為すべきことだからな」
エモンは頷き、日々乃へと真摯な眼差しを向けた。
日々乃は自身の役割を既に感じ取っていた。アースセイヴァーの持つ強大な力、それがオーガロイドにとっての脅威となるなら、その力で敵地に直接叩き込む。
「人員配置、これにて決まった! ミーティング後、我々は明日よりこの区域を荒らす鬼の根城……旧都市を叩く!!」
エモンは日本刀の鞘を振り上げ、鞘の先を周辺地図……オーガロイドの根城と予測される“旧都市”に向けた。
日々乃やアシェリー、勝家も真剣な面立ちで、鞘の先に眼光を向けた。
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