第四話〔拡醒の技〕4

 日々乃達が駐屯地に駆けつけた時、既に戦闘は起きていた。

 「オーガロイドの大群が!!」

 「ゲート警備への配備は済んだ。それ以上のオーガロイドが突入してきたということか……音の位置から察するに、ゲート入口の際で食い止めてるところか。補給の隙を突かなければいいが……」

 格納庫に辿り着いた二人は周りを見渡した。格納庫には、アースセイヴァーのみが待機していた。

 「総力戦か……日々乃くん!」

 日々乃はエモンに顔を振り向けた。彼は日々乃とエモンを目に捉え、震える彼を見つめた。

 「答えを聞くときだ。市民として平和な暮らしを送るか、戦士として平和を守るために戦うか!」


 オーガロイド数匹は地響きのような足音を立てながらゲートを通過し、駐屯所へと向かっていた。

 それに対抗するのは灰色と紺色の機体である”アッシュガル”。エモン機と違い、スラスターと日本刀が装備されていない。

 《食い止めろ! 一匹も通すな!!》

 オーガロイドが押し合いへし合いでゲートから飛び出そうとする。

 オーガロイドが集まったその瞬間を狙い、アッシュガルの後方から砲撃が飛んできた。砲台形態へと変形した”一丸”の主砲から放たれたものだ。

 《派遣部隊に遅れを取るんじゃねぇ!》

 《掩護射撃助かるぜ!!》

 砲撃はロックオンされたオーガロイドへと次々に放たれる。

 中距離にて的確にオーガロイドの急所へとマシンガンを撃ち込んでいる”アッシュガル”達は、アラートが鳴るとともにその場から素早く退避して砲撃を避ける。

 「──シャッアアアアア!!」

 軽量装甲型の“アッシュガル”が2m長ナイフをオーガロイドの首筋に突き立てる。

 操縦者である風副長が唸りながら次の標的にカメラアイを定める。

 「副長、今日もおっかねぇな……さて、俺は補給へ──]

 アッシュガル部隊の一員であるジャンが後退しようとしたとき、コクピット内で警報が鳴る。敵が近づいている合図だ。

 「さってと、オーガロイドの野郎は何処へ……つーかこの反応大きいが──」

 咄嗟に背部スラスターでその場を離れる”アッシュガル”。

 だが四方八方を向いても、何も襲いかかる気配はない。

 「今の反応……まさか!?」

 アッシュガルが駐屯所へと振り向いた時、駐屯所の建物が倒壊した。 

 建物の瓦礫を突き破るようにして現れたのは、ドリル状の角を生やしたオーガロイドであった。

 『ウガァァァァァァァァァァァ!!』


 「チッ、観測した瞬間に地面からコイツが!」

 室内は惨状となっていた。壊れた椅子や机、運悪くオーガロイドに当たった人員が吹き飛んでいた。

 そして、室内の半分は大きく削り取られており、床は斜めに歪んでいる。

 その橋で、アシェリーは剥き出しの鉄骨に掴まっている。

 Prrrrrr!!

「チッ、エモンか?」

懐から携帯を取りだし、アシェリーは画面に表示される通話相手の名前を確認せずに出た。

《アッシュ、そちらはどうなってるんだ!?》

アシェリーは頭から流れ出る血を抑えながら何とか立ち上がった。

「惨状だ……お前は今何処に──」

《鬼化と睨み合っている》

「──ハァッ!?」

 アシェリーは目をこすり、壁に開いた穴から下の風景を覗いた。

 壁のすぐ横には格納庫があり、こちらも4分の1が削り取られて格納庫内の風景が見えていた。

 そこいたのは、異形のオーガロイドであった。手をバケットに、角をドリルに改造している。

 改造オーガロイドの目線は、自分より遥かに小さな一人の人間に向けられた。


 「地下を掘り進む体力、腕力、強固さ……鬼化共もついに本気を出したか。 だが、しかし、私の機体は修繕中……さて、刀でもあればいけそうか──」

 『ウガァァァァァァァァァァァ!!』

 格納庫内にて、オーガロイドは到着してきた直後のエモンと睨み合い咆哮した。

 「エモンさん!!」

 エモンの後ろにはアースセイヴァーが待機状態に入っていた。その中には日々乃が搭乗している。

 「に、逃げてください! 生身で立ち向かうなんて不可能です!」

 開いたコクピットから、日々乃の悲痛な叫びがエモンを呼んだ。

 「新橋くん、アースセイヴァーは動かせそうかな?」

 「──!!」

 日々乃の脳裏に浮かぶの[リアクター充電中]という項目。アースセイヴァーは微動だにせず沈黙する。

 「動け……動け! 動けよ!」

 「新橋日々乃くん!」

 エモンは振り返り、アースセイヴァー──日々乃と、向かい合う。

 「答えは戦場で聞くと言ったな! 今の我々がいる場所こそ戦場だ!」

 オーガロイドは襲いかかろうとしない。否、襲いかかれないのだ。己より小さく無力なエモンを前にして、彼から放たれる気迫に圧されているのだ。

 「私は軍人だが君は一般人だ! 戦意を持たなければアースセイヴァーから降りて避難所へ走りなさい!」

 「ぼ、僕は──」

 ──戦いたくない。 敵うハズない。 何も持たず、ただ殴れるだけの機体ではオーガロイドに挑み続けることができない──

 日々乃は頭を抱え、心の中で慟哭する。

 「それならエモンさんだって──そもそも貴方の機体が無いじゃないですか!!」

 日々乃の叫びに、エモンは決意を秘めた表情で背を向けた。

 軍用コートの背には日本刀を模したマークが描かれている。

 「フッ、私は軍人である……少しでも武器があり、なおかつ背に守るべき一般人がいる状況で、恐れを成して逃げてしまうのは……我がサムライが砕け散る!」

ドンッ!!

 エモンは軍用コートから拳銃を取り出し、オーガロイドの瞳に銃弾を命中させる。

 『ウガァァァァァァァァァァァ!!』

 右目を抑えながら、オーガロイドは剛腕をエモンに降り下ろそうとする。

 


 ──立ち向かえ、守るべきものが背にいるならば、敵に立ち向かえ──


 「アース……セイヴァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 降り下ろそうとされるオーガロイドの剛腕を、アースセイヴァーの剛腕が受け止めた。

 『──グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 もう片方降り下ろそうとされる剛腕を、アースセイヴァーももう片方の剛腕で受け止める。

 『ウガァァァァァァァァァァァ!!』

 『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 アースセイヴァーは立ち上がり、オーガロイドを振り回して格納庫の外へ投げつけた

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