第四話〔拡醒の技〕3


 「いらっしゃいませ! あ、エドモンドさ──日々乃君!?」

 「うむ、ここで合ってるか」

 和町堂にて。望から渡された地図と日々乃の案内に連れられ、エモンは入店した。

 一階の食堂、六台のテーブルにはそれぞれ八脚づつの椅子が並べられ、奥のカウンターにはエプロン姿の望が顔を赤くして二人を見た。

 「望、エモンさんを知ってるのか?」

 「わ、私が招待したの。皆を助けてくれたから……」 

 望は皿で顔を隠している。何か緊張しているのかと、幼馴染みの日々乃は勘づいた。何に緊張しているかは分からないが。

 「すまない、他の隊員は仕事や訓練で後から来る。人数はざっと20名……この食堂に入りきれるだろうか?」

 「そ、外もあるので大丈夫です! ごっ、ごゆっくり!!」

望はカウンターの奥へと逃げ込むように入る。

 「日々乃君! また助けてくれてありがとう!! 怪我はない!?」

 望は顔だけ出し、日々乃と目を向かい合った。

 「お、俺は大丈夫! 望は?」

 「私は大丈夫! ありがとう! とっても嬉しい!!」

 望はにかんだ笑顔をして、日々乃に礼を言うと引っ込んだ。

 日々乃は俯いた。自分も、助けられた身なのだ。お礼を言われるのは、あのとき皆を守ったのは目の前に座るエモンだから……

 「フム……知り合いか?」

 「え、はい、幼馴染みというか、なんというか」

 「フーム……彼女の言う通りだ。私からも助けられた。遅くなったが、私からも礼を言わせてほしい」

 「えっ!?」

 「君の踏ん張りが、私の出撃準備を切り開いてくれた。君のおかげで、私はこうして鬼化を討伐し、五体満足で君と食事が出来ている」

 それは、世辞も皮肉も一切ない、心からの礼なのが、エモンの快活な笑顔から伝わった。

 「うっ、うぅ……」

 日々乃の目から、再び涙がこぼれ始める。

 「まぁ座りたまえ、直に他のメンバーも来るだろう」

 エモンはカウンターに一番近く、窓から海辺が見える席へと座り、日々乃の為の椅子を引いた。

 「あ、ありがとうございます……」

 日々乃が腰をかけた直後、カウンターから望がお盆を持ってテーブルに近づいてきた。

 「お待たせしました、感謝印の特製ざる蕎麦とイチゴ味のかき氷です!」

 「うむ、こちらこそサンクスだ、日本で食べたいものを早速食べれるのだからな!」

 エモンは目を輝かせ、そして手を合わせて目を閉じ元気に声を轟かせる。

 「いただきます!」

 箸を構え、麺を掬うエモン。

 「えと…日々乃も何か頼む?」

 「あぁ……じゃあ同じので」

 望は日々乃の注文を聞いて頷き、厨房へと戻る。

 「いい港町であるな」

 エモンは掬った麺を汁につけた。

 「だが、私の武士道が警告しておる、第四波はすぐに来ると──守らねばな、この地を」

 「ハイッ!」

 日々乃の力強い返事を聞き、エモンは満足そうに笑顔で麺を口に運ぼうとした。


ドガァァァン!


 「──まさか!?」

 prrrrrrrrr!!

 エモンの腰につけた通信機に着信が入る。

 「こちらエモン。怪獣はどこから来てる?」

 《グハッ! エモン、敵は、ぐっ……基地に直接攻めに来た!!!!》

 「何だと! 今向か──」

 椅子から立ち上がった日々乃はエモンに顔を向け、続いてテーブルへと視線を動かした。

 テーブルの上にはザル蕎麦のみが残っていた。汁もかき氷も、今は床の上であった。

 エモンは顔を俯かせた。俯いた視線の先、ズボンはこぼれ落ちた汁でベトベトになってしまっている。

 「言ってる側から敵襲とな……”口は災いの元”というコトワザがあるが……再度人々を襲い破壊と恐怖を広げるか……!!」

 拳を震わせ、エモンは勢いよく立ち上がり顔を轟音のした方向へと向けた。

「そしてこのようなコトワザも知っておるか鬼化共……」

 涙が軌道を描いて、エモンの目から零れ落ちた。

 「”食べ物の恨みは、恐ろしい”ぞ!!」

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