第四話〔拡醒の技〕2
駐屯地の道場から音が聞こえる。
足さばきを行う音、拳で空を切る音。
「俺は……俺はっ」
日々乃は道着姿で、道場の真ん中を舞っていた。
たまたま鍵がかかっておらず、場所だけは知っていた日々乃はここに入ってがむしゃらに体を動かした。
回し蹴り、突き、瓦割り……
ただひたすらに武道の稽古を続ける彼の顔は、苦渋で満ちていた。
体は動かせる。だがアースセイヴァーを操縦するときに感じる重みが、日々乃の技のキレを鈍らせていた。
「ハァッ!……ハァッ!……」
正拳突きを行ったところで日々乃は床に大の字に倒れ、目元の傷をかき目を瞑る。
「ハァ……ハァ……」
思い出すのは前回の戦闘。
敵をひたすら殴ったところで止まったあの失態……あそこでサムライが日本刀を振るわなければ、いまごろ駐屯所は……
「新橋少年、あの時の君はまだまだだ」
日々乃は驚いて起き上がり、目を明けた。目の前には長身のエモンが、剣道着姿でパソコンを床に置いていた。
「トレーニングモード、セット。我これより、モーション回収を行う」
パソコンのカメラを起動し、エモンは腰に携えている木刀を構え外に出た。
「新橋日々乃くん、君の機体は強い」
日々乃は立ち上がり、エモンの威風堂々とした立ち姿を目に焼きつける。
「だがどうやら、君の機体はまだ強いだけのようだ」
外には竹藪で作ったカカシ人形を立てていた。その頭には竹藪で角を作られている。
角カカシ人形の前に立ち、エモンは木刀を構えた。
「機体が強ければパイロットは誰でもいい。最悪いらぬ。ならば何故、鍛えたパイロットが必要なのか」
片足を後ろに回し、エモンは木刀を構えて腰を低くする。
「人は鍛えれば鍛えるほど強くなり覚醒する。その強さは、インターフェースによって機体にフィードバックされる。故に──」
スパンと風が切れたような音を立て、エモンの構えた木刀が横一文字に抜かれた。 「パイロット本人の強さが、拡性兵の強さなのだ。ただパワー任せに殴るだけでは、機体の強さを満足に引き出せぬ」
エモンは体勢を直し、木刀を後ろに構え直す。
直後、角カカシ人形の上半身が真横に切れ落ちた。
「角案山子が斬れた!?」
「一見したところ、新橋くんは格闘に技量があるようだね」
ポカンと目を丸くしてる日々乃に向き直り、エモンは自信溢れる戦士の顔を向けた。
「は、はい、島に住んでいる間に師匠から教わって……」
離れ小島に過ごしていた頃を、日々乃は回想する。
~「日々乃、ワシが教えることは、もう何もない」
島から出る数日前、祖父の
「ワシはこの腕を戦闘に二度と使わないと決めていた。そのワシに左腕を使わせた。ワシの心の強さよりも、お前は強くなったのだ。昔のように恐怖に怯え続け、うずくまるお前はもういない」
日々乃は汗を流しながら矜兵衛と目を合わせる。その鼻先には祖父の左手がかすっていた。その左手は、カーボン製の義腕だ。
「鍛えた体と、その経験はお前を強くした。もう怯える事は何もない。『強い』という自信を持て、日々乃」~
「フッ、ならば機体に身をゆだね、己の技をフィードバックせよ」
エモンの言葉に、日々乃は回想から現実に戻り、包帯を巻いた己の拳を見つめた。
「俺の……拳」
「そうだ、君の拳だ」
エモンは絶えず木刀を舞わせながら答える。
「それを介して機体は強くなり、己の中の戦士も強くなる」
華麗な技前を木刀で披露するエモンを、日々乃はただ正座して見るのみであった。
「時に新橋くん、前回の問いへの答えは用意したかね?」
エモンは木刀を舞わせながら、日々乃に問う。
「お、俺は……あのアースセイヴァーに……」
日々乃は膝の上で拳を握る
その顔には、恐怖と迷いが浮かんでいた。
またアースセイヴァーで戦うことは出来るのか、激化する戦いに、自分はついていけるのか……
「そう緊張するな、答えは今出さずともよい……戦場で聞けばよいことだからな」
「戦場!?」
prrrrrr!!
エモンの畳んだコートの中から着信音が鳴った。
「もう時間か……ふむ、この動きではフレームに負担がかかるか」
エモンはパソコンのモニター上に映し出された数値に目を通す。モニターには他に、エモンの動きとCGのフレームモデルがシンクロして動いていた。
「アシェリーには世話を焼かせてしまうな……新橋くん!」
「ハ、ハイ!」
突然エモンに名を呼ばれ、日々乃は上ずった声で応答した。
「ついてくるがよい、迷っても始まらない。今は語らい合おうではないか、互いの内をな!」
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