第二話〔オーガロイド襲来〕3
海沿いに建てられた煌露日病院。そこでは現在、怪獣が接近したとのことで、避難の為にトラックの用意をしていた。
「落ち着いて、慎重に移動してください!」
白衣を着た壮年の女性が、患者を連れた看護婦に指示を出す。名を和待未音、望の母であり、この病院の院長だ。
「……なっ、マズいのが来た……!!」
未音は窓の外を確認し、冷や汗を流す。
オーガロイドがくる。角は二本、恐怖だけでなく、邪悪な威圧感を醸し出している。今までの生気なきオーガロイドと違い、ソイツは確実に我々人間を目に定めていた。
「クッ、救援はまだか!」
「こわいよ、助けて!!」
「慌てないで! 駐屯地の人達が来るハズよ!!」
未音は病院内のパニックになりそうな状況を抑える。
「あの時かのう……あの日の再来か」
未音に支えられている老人が、ポツリと呟いた。この町の市長を務める和待巌滋郎だ。
「お父さん、そんなこと言わないの! 私達で最後よ、早くここを出ないと……」
「やっと復興が済みそうな時に……この町は、どうなるんじゃ……」
皆が絶望しているその時、病院を飛び越したロボットがオーガロイドの前に立ちはだかる。
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
威嚇するがごとく、ロボットは大きく吠える。
「拡性兵!?」
未音は見たこともない拡性兵の姿に困惑した。
「背部スラスター収納、駆動制御、エネルギー伝達共に良好」
アースセイヴァ―内部にて、日々乃は頭に流れ込むに単語を口に並べる。
「駆動制御良好……この前の戦闘で動きはだいぶ」
アースセイヴァ―は足を前に出し、そして構える。
「わかった!」
『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
そして、アースセイヴァ―は瞬間的に走り出す。
『ウガァァァァァァァァァ!!』
目の前のオーガロイドも走り出す。両者は互いに向かって走る。
「ふんっ!」
走るアースセイヴァ―は、片足を前に出して踏み止まり、片腕を後ろに大きく伸ばす。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして,握り拳をつくった片腕を前に引き出す。
拳はスピードをつけ、オーガロイドの顔面に命中する。
「ガァァァァァァァァァ!!」
命中した瞬間、もう一方の拳で再度オーガロイドに打撃を打ち込む。
二発目を喰らったオーガロイドは後ろに吹っ飛ばされた。その瞬間にアースセイヴァーは全身を休息させる。
「はあ…はあ…やっぱ…」
アースセイヴァーの前には、痛々しい殴り跡のあるオーガロイドが起き上がっていた。先ほどの攻撃を耐えきったのだ。
「やっぱ他のと違うな!」
オーガロイドの拳がこちらに向かってくる。
「効くわけねえだろそんな拳!」
アースセイヴァーは避けようとした。
「「「「「助けて!」」」」」
避けようとした瞬間後ろから聞こえた声を耳にした途端、アースセイヴァーの動きが停止した。
「まだ、人がいる!」
『ガアアアアアアア!』
その隙を狙って、オーガロイドがアースセイヴァーに次々と殴りかかる。
『ガアアアアアアア!』
アースセイヴァーの巨躯がぐらつく。地面を踏んだ振動で周囲が揺れ、悲鳴と困惑の声が大きくなる。
「グハッ! くそっ…避けれねー…グアッ!」
ここを避ければ足元の病院が破壊される。
「まだ皆逃げれてない…守らなきゃ!」
オーガロイドは再度殴りにかかってきた。アースセイヴァーが動けないこと、そして足元に人間が密集していることに気づき、一方的な打撃攻撃を行う。
アースセイヴァ―は両腕をクロスしガードする。ガントレットで守られているものの、内部の間接が軋みだす。
『ウガァァァァァァァァァァ!』
なおも打撃の猛攻は続く。アースセイヴァ―は避けきれない。
「くそっ…避けれねー…グアッ!」
だがこのままでは、こちらが先に倒れてしまう……!
危機に陥るアースセイヴァ―に、オーガロイドの突進が迫ってきた。
『ウガァァァァァァァァァァァァァ!』
オーガロイドの体躯がアースセイヴァーにぶつかり、後ろに倒そうと突き進み続ける。
『ウガァァァァァァァァァ!』
「おらァァァァァァァァァァ!」
このままではアースセイヴァ―が押され、後ろの病院に激突してしまう。突進してきたオーガロイドを、アースセイヴァ―は横綱めいて抑えつけ、病院を守る。
「エネルギージェネレータ出力上昇!」
アースセイヴァ―の両腕が激しく鳴りながら、光を集めた拳でオーガロイドの頭部を殴りつけた。頭突きを続けながらも、オーガロイドは大きくよろめいた。
「おら!おら!おら!おら!おら!うぉらぁぁぁ!」
ダウンしたオーガロイドに、更にアースセイヴァ―の打撃が降り注ぐ。
オーガロイドの踏む舗装された道路が、オーガロイドを殴りつける拳の光が、辺りに散らばる。
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
アースセイヴァ―の掌、そして両腕側面のガントレットめいた装甲が開き、更に激しい光を放出する。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アースセイヴァ―はその拳を、オーガロイドの顔面に直撃させる。まともに喰らったオーガロイドは、はるか先の港まで吹っ飛ばされた。
『ウガガガガガガガガガガ!』
吹き飛んだオーガロイドに、アースセイヴァーは走り出す。
着陸姿勢をとり、体勢を整えようとしたオーガロイドの心臓に、アースの拳が迫る。
「うおおおおおお!」
『グルルウウウウウウウウウウウウ!』
ガントレットが展開し、内部の粒子を大きく吹き出した。吹き出した粒子はブースターとなり、ロケットのような威力の拳はオーガロイドのコアを貫き通した。
『ウガガガガガガガガ!』
ガントレットを閉まい、パワーを落とすアースセイヴァー。振り返った背中の後ろで爆発四散が起きた。
本多隊は撤退の最中にこの戦闘をスコープで眺めた。
「なんなんだ、あの強さ!?」
勝家が驚愕し、肉眼でアースセイヴァーの背中を眺め、立ち尽くす。
その戦闘を、格納庫の外から眺めた望たち。
「日々乃……」
感謝と不安が、胸をきゅっと手で抑える望の中で渦巻いた。
「オーガロイドが倒されたわね……お父さん?」
トラックのエンジンを起動させた未音が、運転席の窓から身を乗り出した。
「救世主じゃ……」
トラックに乗り込もうとした巌滋郎が、アースセイヴァーを見上げ立ち尽くす。
「この町を守る、救世主じゃ……」
戦闘を行った日々乃は感じた。
「はぁ、はぁ……やっぱり強いんだな、アースセイヴァー!」
アースセイヴァーは回りを眺めるように立ち尽くす。
ジェネレータ音も何も感じない。己への畏敬すら感じずに、日々乃はアースセイヴァーの肩で立ち尽くす。
──謎の白い拡性兵の情報は、衛生カメラで撮影され、世界各地の防衛連邦駐屯地にデータが送られた。
「なんなんだ、この拡性兵は……」
とある国の駐屯地にて、白衣を着た長身痩躯の隊員がタブレットを見ていた。
「情報も何もねぇ……一体どこで作られたんだ!?」
彼は驚愕し、メガネをかけ直す。
「これは驚いた……なんて戦士だ、このパイロットは」
白衣の隊員の前に、木箱を椅子にして座る、若い金髪の軍人が同じくタブレットを見ていた。
「行くぞ、誰よりも先に、この機会を掴む」
「行くってまさか……確かにこの基地にいる俺達が最も近い! だが許可や滞在が」
「上が既に我々へ指令を送るだろう。偶然にも、日本に来ている我々にだけな」
金髪の軍人は、日本刀を肩に担ぎ、立ち上がる。
「“アッシュガル第54部隊”、これより謎の白い拡性兵の調査及び、煌露日町の救援に向かおう」
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