第三話〔サムライ来訪〕1
「着いたぜ、隊長」
彼の背後で白衣の青年は地図を開いて報告した。白衣には勲章が付けられている。
白衣の青年の目の前の彼、金髪の青年が崖の先に立ち、海を眺めていた。
流れるような金色の長髪を纏めて後ろに縛られ、整った顔筋は細くも凛々しい。一目で外国人、衣装から軍人と分かる見た目の青年は呟く。
「そうか、この地が日本の大海原風景……」
涼しさと静かさを感じさせる淡い緑色の山頂を抜けた先、二人の青年は照りつける朝日の暑さの下で、輝く水平線を展望しに、崖沿いの道を歩いていた。
「フッ、とても“MIYABI”な光景だ」
隣に座る白衣の男の怪訝な顔を尻目に、青年は日本の夜明けを好奇心旺盛に眺めていた。
「特殊精鋭部隊だと?」
勝家が電話をかけながら激昂した。本土からの支援部隊を頼んだところ、支援部隊は来るらしいのだが。
「特殊精鋭部隊がアメリカから派遣とはどういうことだ、オイ!?」
『言ったとおりだ、本多隊長。こちらの基地に技術支援として来日した部隊が、次はそちらに応援として派遣される』
電話越しの声は淡々としていた。
国を越えた救援、それは地球防衛連邦が組織され、ULS(Universe Link System)と呼称されるネットワークがもたらした国境なき協力から生まれたものである。
『なんと遠征の支援もしてくれるようだ。駐屯所の守備で手一杯なそちらにとって、いい救いではないか』
「だが、しかし……派遣部隊の目的はそれではないハズ!」
勝家は焦りながら、整備ドッグに座るアースセイヴァーに目を向けた。修復中の一丸と違い、多少ボロついてはいるが、ほぼ全身が正常と言える。修理も何も行っていないのに、機能を停止させているといつの間にか修復している。この現象に、駐屯地にいる全ての整備士が、驚きと怖さを感じていた。
「あの機体……アースセイヴァー、そしてパイロットを向こうに渡すことになり得るんですよ!」
『この件は既に各国の上層部が決定づけたことだ。すまないが納得したまえ』
勝家の憤りに、悪びれのない声が返ってきた。
「くそっ……一体どんな部隊が来るんだ、精鋭ってのは」
勝家は悪態をつきながら聞いた。
『アッシュガル第54部隊』
「アッシュガル……三世代のメジャー機体か……どんな部隊構成だ?」
悪態をつきつつ、勝家はできるだけ情報を集めようとした。
この駐屯地を──アースセイヴァーを──新橋日々乃の為に。
『第54部隊、通称“サムライ愚連隊”だ』
「“サムライ”だな!!……サムライ?」
勝家は思わず二度聞いた。
思い出すのは、機体から降りた時の子供たちの歓声──
──おにーちゃんつよーい!──
──カッコいいー!──
そして望の安堵した泣き顔──
──良かった……無事で……ありがとう──
「僕が……皆を守れたんだ! 俺は強いんだ! ヒーローになれたんだ!!」
海辺の崖で、日々乃は青い水平線に向かって叫んだ。
「──だから、この地は俺が守る! 俺が守らなきゃ平和にならねぇんだ!!」
握った手を見つめ、日々乃は町を守り続けることを決めた。
ここでいったん深呼吸した日々乃は、己の側で何者かが仁王立ちしていることに気がついた。
(うわっ、今の聞かれちゃったか!? さすがに恥ずかしい!……だけどあの人、見た目が……)
その人物は後ろに束ねた金髪、高身長でな外国人であった。
「ハ、ハロー……?」
「海とはいい道だな」
金髪の外国人は突然語る。外国人とは思えない流暢な日本語に日々乃は驚いた。
「この蒼き水平線の果てに、まだ間近見たことのないがあると思うと心が躍る」
金髪の外国人は振り替える。鋭い碧眼、まだ若く力がある瞳とガタイのイケメンであった。
「たとえ何が潜み襲いかかろうと、その土地を見るには十分過ぎる道のりだ」
「えぇと……」
日々乃はどう答えればいいかさっぱりわからず──
「アナタ、お名前はなんですか?」
日々乃は警戒した口調で、目の前の金髪碧眼の青年に質問する。
警戒──何故なら、この場所に外国人がいるとなると、この青年の素性は──
「それと、職業はなんですか?」
日々乃は腕を握る。恐らくアースを調べに来たであろう外国人にとても警戒した。
日々乃でもさっぱり分からない強大な力。それを探られることに日々乃は不安感を抱いていた
「ここで、何をする?」
外国人は目を閉じ、一瞬黙ったあと──
「私の名か…」
金髪碧眼の青年はコートを翻し高らかに名乗る。
「私が名はエドモンド・J・ユースタス! 渾名はエモン!」
腕を構え、力強い姿勢で堂々と名乗りを言い放つ姿に、日々乃はとてつもない勇ましさを感じた。
「職業、サムライと言っておこう!」
エモンと名乗る金髪青年は、全く意味の分からない答えを返した。
「目的といったな……今の目的は──フゥ」
エモンは一息つき唱えたあと。
「見知らぬ土地での、海中水泳よ!」
ドバァーーーンと丘に波がぶつかり、エモンに降りかかる。
エモンはそれをまるで滝修行のごとく浴び、全身を濡らしながらも意にかさなかった。
「ということでだ少年、私は君に、水泳の許可された場所への案内を頼もう!」
ずぬ濡れになっているその目は、Ok以外を与えないとするがごとく真っ直ぐに日々乃を見つめた。
(あ、案内?) 日々乃は困惑した。
「なあガキんちょ、すまねぇがコイツの頼みを聞いてくれねぇか?」
日々乃はエモンの近くに人がいたことにも気がついた。
服装はう汚れて薄暗い色となっている白衣、前髪をセンターで分け、眼鏡をかけたその顔は端整ながらも、固い雰囲気を持っていた。
「俺の名はアシェリー。職業は軍人、怪獣学の博士、整備士、その他諸々。このバカの従者でもある」
「ハハハハハハ! 従者とは照れるなぁアッシュ!」
アシェリーと名乗った教授は、日々乃と軽く握手した。
「もし地元の人なら、いい場所までコイツを連れていってほしい。俺の面倒が省ける」
「近くにあるっちゃありますが……何故に水泳?」
「日本の海で泳ぎたいだけよ。ここに来て満足に回れていないからな」
声高らかに、海の向こうまで響く声でエモンは答えた。
「さぁ、私に日本の案内をしてくれ!」
ずぶ濡れの手をエモンは日々乃に向けた。
「ハ?……僕ですか……?」
日々乃はどうすればいいか分からず、とりあえずその手を握った。後ろではアシェリーが頭をかいて二人に続いて歩く。
勝家はしかめっ面で目の前に着陸した輸送ヘリを凝視した。
輸送ヘリのドアが開き、中から20数人の兵士が降り立った。黒髪に茶髪に赤毛……顔立ちを見ただけでも、この部隊があらゆる諸外国から集められた部隊なのは見てとれた。彼らを乗せていた輸送ヘリの後方上空では、コンテナや拡性兵などをワイヤーで牽引した輸送ヘリが滞空していた。
(予定より一時間も早い……!)
早急に受け入れ体勢を整え、勝家は腕を組み、仏頂面で輸送ヘリより降り立つ部隊を迎え入れた。
「あぁっと……これか」
勝家は耳にかけたイヤホンと、頬にセットしたマイクを確認する。
「俺は本多勝家、煌露日駐屯地の隊長を務めている」
勝家はしっかり自己紹介をした。マイクを通じて勝家の日本語が彼らの耳に翻訳される。
彼ら第54部隊の隊員は整列した。一人の隊員が前に出た。ロングコートを着た身体は細く、他の隊員よりも俊敏さを感じさせるスタイルであった。
隊員は軍帽を外し、しなやかでショートの黒髪、細い顔つきを見せた。その顔立ちからアジア系統の隊員だと分かる。
「副長の”
マイクとイヤホンによって、リアルタイムで中華系の言語を日本語に翻訳してくれる。
「基本は防衛、そして遠征の支援もいたしましょう、よろしく」
口調は礼儀正しく、それでいて慇懃無礼な表情を見せられた。
「あぁ、よろしくな……ところで、隊長はどこなんだ?」
その場で第54部隊の面々は、とたんに全員が困った表情へと変わる。
「えぇと……隊長はどうした?」
整列していた隊員たちが顔を見合わせた。
副長でさえ、どうやら隊長の居場所を知らないらしく表情が
険しくなる。
「くっ……副長、隊長の場所は分かりますか?」
隊員の一人が風副長に尋ねた。
「先程連絡が来た、〔しばし散歩する〕と言ってそれっきりだ」
「ハァッ? 何なんだソイツは!?」
勝家はあまりに自分勝手なその態度に怒る。
「……ごもっとも」
第54隊もやれやれ、またかと言ってるような風に包まれたその時─
ウーーーーーー!!
駐屯地展望台から警報がなった。
「この警報……オーガロイドか!」「おいおい、隊長がいないときに!」「“アッシュガル”到着を急がせろ!」
勝家や各隊員は困惑した。だが戦士の心を持ちながら、各自するべき場に向かった。
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