第二話〔オーガロイド襲来〕2

 外が騒がしい。取り調べ室に入れられている日々乃はそう感じた。

 (何かが…来た!)

 確証はない。だが何らかの勘らしきものを、日々乃は直感的に感じた。

 「またなのか……またオーガロイドなのか!!」

 そう呟く日々乃の目の前でドアが開き、隊員が中に入る。

 「鬼化が攻めてきた! 事情聴衆はあとに、早く逃げー」

 「俺を、アースセイヴァ―に乗せてください!!」

 日々乃は、隊員の肩を揺さぶった。

 「アースセイヴァ―ってなんだ!? いいからついてこい!! 民間人はシェルターに避難だ!!」

 「いいから乗せてください!! 俺なら怪獣をぶっ倒せる!! 乗せるんだ!!」

 直後、地響きが鳴ったかと思うと、日々乃のいる施設が揺れ動いた。

 その隙をつき、日々乃は隊員の体を突き離し、外へと飛び出した。

 「うおっ!? 待ちなさい!!」

 何かを倒すという感情のみで日々乃を走り出す。

 「あの機体なら…!」

 日々乃の目線は鋭くなり、その動きは目的を求め俊敏になる。


 「あった!」

 格納庫に辿りついた日々乃は、早速アースセイヴァーを見つけた。

 あのときと同じく項垂れたアースセイヴァー。日々乃は近くに置かれた梯子を使い、アースセイヴァーの背中を登る。

 コクピットについた日々乃は、その手をアースセイヴァーに当てる。

 如何なるアクセスでも開けれなかったコクピットハッチが、その動作だけで簡単に開いた。

 「このロボットなら……」

 「日々乃!!」

 名前を叫ばれ、日々乃は振り向き、格納庫の床を見下ろした。

 望と子供達、明が彼を見上げていた。

 「望……明さん……!?」

 「待って日々乃、なんでソレに乗るの!?」

 望がアースセイヴァーに近づく。その表情は、日々乃に悲痛な思いを向けていた。

 「日々乃がソレに乗る必要ないじゃない!? 一緒に避難しよう、何でその拡性兵に乗って戦おうとするの!!」

 望は握り締めた手を頭上に向けた。日々乃の背を掴もうと手を伸ばす。

 「日々乃くん!」

 明も顔を見上げ、日々乃に返事を促す。

 「……望、俺はもう繰り返したくないんだ。を、繰り返したくないんだ!!」

 望を見つめる日々乃は、決意と焦り、これから乗り込むアースセイヴァーの強さへの自信に満ちていた。

 「日々乃!! あっ!!」

 日々乃は望の制止を振り切り、コクピットに乗り込んだ。

 「日々乃……」

 「がんばれー!」

 「アースセイばー、がんばれー!」

 胸に手を添え、様々な想いが込められた瞳をアースセイヴァーに向ける望。

 「望、アイツに任せるしかない。男の決意ならな、むしろ見届けなきゃいけないのかもしれねぇ……」

 明は姪の肩に手を添え、子供達は純粋にアースセイヴァーを応援した。


 ハッチからコクピットへ乗り込み、近くの操縦管に手足を入れる日々乃。

 「アースセイヴァー……!」

 起動音がコクピットに響く。

 「残らず……」

 頭に浮かぶパラメーター。

 「生かさず……」

 アースセイヴァーの全身から緑色の光が流れ出る。

 「軍隊でも倒せない怪獣でも……」

 激しく回りだす両腕のジェネレータ。

 「全て残らず倒せるんだよなぁぁぁ!」

 『グルルウウウウウウウ!』

 呼応するかのように、獣めいたジェネレータ音を鳴り響かせるアースセイヴァー。

 獲物を狩らせろ──まるでそう言ってるかの如く、全身から流れる粒子と目を爛々と光らせていた。

 「行くぞ、アースセイヴァー!」

 高らかに叫ぶ日々乃の顔は、狩の時間の野獣のようであった。


 『グアアアアア!!』

 山から降りてきたオーガロイドの群れが、一機の一丸のコクピットを拳で潰した。

  [コール2大破、生態反応確認不能]

 『クソ!このままでは全滅してしまう!』

 自分含め、もはや全滅を覚悟しなければならなかった…

 『コール3、前方に、あの不明機が接近!』

 勝家は通信と共にレーダーを見た。レーダーには、こちらに向かう高エネルギー反応が映し出されていた。

 オーガロイドと同じ、あるいはそれ以上のエネルギー反応であった。

 「あれは…まさか!」

 こちらに走ってくる機体は白く、両腕を中心として全身から緑色の光を放っていた。

 「まさか…あの少年か!?」

 勝家は少年に「逃げろ」と命じようとした。

 だがそれと同時に、あの機体ならこの危機を打破できるとも勝家は感じた。

 『隊長!! とにかく今のうちに撤退しましょう!』

 「……撤退する!」

一瞬迷いながらも、勝家は負傷した隊員達を連れて撤退を始めた。


 撤退を始めた部隊を見届けるアースセイヴァー。

 『ウガアアアアアア!』

 アースセイヴァーにオーガロイドが一匹襲いかかる。アースセイヴァーは簡単な動作で攻撃を避け、その顔を掴んだ。

 [腕部出力上昇]

 「うおらああああああ!」

 ぐしゃあと握り潰したその顔を、アースセイヴァーは舗装された地面に思いきり叩きつけた。

 『!』

歪んだ地面、叩きつけられたオーガロイド一体目がそこで爆発四散した。

 『ウガアアアアアアア!』

 爆発した場所に吠えるオーガロイド三匹。

 『グルルウウウウウウウウウ!』

 爆炎の煙が揺らいだ瞬間、中からアースセイヴァーが飛び出し、一番近くにいたオーガロイドの心臓を拳で貫く。

 『ウガガガガガガガガ!』

 アースセイヴァーに胸を貫かれたオーガロイド二体目は、その手首を逆に掴んだ。

 『グルルウウウウウウウ!』

 だがアースセイヴァーはそれを、拳を抜くという動作と共に引きちぎった。

 ちぎったオーガロイド二体目の腕を捨てるアースセイヴァーの背後から、三体目のオーガロイが襲いかかる。

 『ウガアアアアアアア!』

 「そこだぁ!!」

 オーガロイド二体目が爆発四散した真横でアースセイヴァ―は、振り向き様に回し蹴りを襲いかかるオーガロイド三体目に喰らわせた。回した足がオーガロイド三体目の首を捉える。

 オーガロイド三体目は回し蹴りを喰らいながらも、その足を掴み耐えきる。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 だがアースセイヴァ―は、足に力を押しこむのをやめない。

 脳裏に浮かぶ[脚部 出力 向上]の単語群。

 「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 『グルルウウウウウウウウウ!』

 ズシャァァァァァァァァァ!

 足がまるで手のように、オーガロイド三体目の首を掴み引き千切った。

 引き千切ったオーガロイド三体目の首を蹴り投げ、アースセイヴァ―は素早く後ろに跳ぶ。

 一瞬の悲鳴のあと、オーガロイド三体目は爆発四散した。

 「あとは…」

 横に首を回す日々乃。同じく首を動かすアースセイヴァー。最後のオーガロイド四体目が、その場から逃走を図った。

 『ウガアアアアア!』

 アースセイヴァーは走りだし、オーガロイド四体目に接近する。

 『グルルウウウウウウウウウウ!』

 一瞬で背後についたアースセイヴァーは、後ろにまわした拳を勢いよくオーガロイド四体目に当て、その胴体を貫いた。

 『ウガガガガガガガガ!』

 爆発四散したオーガロイド四体目。アースセイヴァーは、そのオーガロイドが逃げようとした先を眺める。

 [エネルギー反応あり]

 今までのオーガロイドより高いエネルギー反応がある。

 「…てめえで最後だな」

 アースセイヴァーは勢いよく、最後のオーガロイドの元へ走り出した。

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