第二話〔オーガロイド襲来〕1
辺りが倒壊し、まるで旧都市の如く崩壊した本土都市。
その中心には、腰を下ろし頭を垂らした巨人――名を“アースセイヴァ―”。ここでは誰も、その名を知らない――がいた。
《コール2、挙動確認なし》
《コール3、右に同じく》
その周りには第二世代拡性兵“一丸”が3機、ライフルを構え取り囲んでいた。
《コール1、機体解析はどうだ?》
コール1、本多隊長はオペレーターに現在の進行状況を確かめる。オペレーターは、アースセイヴァーの近くでパソコンにコードを打ち込んでいる。
《ダメです、アクセスどころか、外部からのあらゆる電波に無反応です》
《そうか……引き続き調査を》
突如、アースセイヴァーの背中が動き出す。
《機体反応確認! 所属名称不明! このエネルギー量、とてつもないで!》
一丸全機がライフルのセーフティを解除し、警戒と共に通信を呼び掛ける。
そしてアースセイヴァーが背中が開き、中からパイロットが現れる。
「少年……だと!?」
コクピット内らしき場所から出たらしい人物は、高校生ぐらいの少年であった。白の混じった髪、目元に傷がある。
「まさか…この少年が…!?」
「ねえ! 日々乃はどこ!?」
望は辺りを見回す。泣き止んだ子供達が困惑しながら、彼女のワンピースの裾を引っ張っている。
「いたか望!」
明が右足を引きずるようにして駆け寄ってきた。全身が汚れているが、怪我はなさそうだ。
望は辺りを見回す。その辺りはまるで足跡の如く、破壊の痕跡が続く廃墟であった。
「コレは一体どういうことなの……」
「いいか、落ち通いて聞け」
明は身を屈め、望の肩に手を置く。左耳には無線イヤホンを着けている。
「偵察任務に行ってすぐ、自衛隊は退却した」
「え……?」
「群れが……オーガロイドの群れが起き上がり、ゲートが開いた瞬間に侵入したんだ」
「そんな……今日は沈黙日のハズ!?」
望は呆然とした。傍らの子供たちも、わけが分からないまま呆然とする。
「幸い入り込んだのは、まだ二体」
明は時々、懐から無線機を取りだし、アンテナを調整し部隊の通信を傍受する。明にだけ渡された、駐屯地支給の物だ。
「二体……」
「オーガロイドならさっきロボットがたおしてくれたよー」
「ロボット……援軍か?……おおう、それならあと一体も既に討伐されただろうな」
子供の一人が応えたことに、明は身を屈んで笑顔を向けた。
「あ! おじさん、ここに、しろーいロボットっていたの?」
「そうだよ! しろーいロボットがたすけてくれたんだよー!」
他の子供も相づちをうち頷く。
「白いロボット? ウチの駐屯地にそんな機体は……」
「ねぇ、日々乃はどこなの!? 一緒にいたんじゃないの!?」
無線が明へと繋がり、彼は自衛隊と連絡する。
「もしもし、こちら和待明……民間人はほとんど避難した……オーガロイドは一体倒されたらしい……おおう、そちらも一体……倒したのは白い拡性兵?……パイロットが出た?……その特徴……」
明は一通り連絡したあと無線を切り、望達に呆然とした顔を向けた。
「日々乃が……見つかったぞ」
──日々乃は──
目の前に少女が立っている
(お前は……待て……)
──ヒーローになれるよ!──
直後、目の前が爆炎に包まれる。
燃える寸前の少女の顔は──
「ハァ……ハァ……」
ベッドの上で、日々乃は目覚めた。天井や周囲を見渡す。真っ白な部屋であり、病室である事が分かった。
外から差しこむ明りはオレンジ色で、夕暮れであることが日々乃に理解できた。
「ここは……?」
「起きたか、少年」
ベッドの隣に立つ人物に日々乃は気づいた。やや年若い顔と鍛えられた肉体、そして階級の着いた衣装から、彼が軍人であることは確実であった。
「私は駐屯地自衛隊隊長、本多勝家だ」
男、勝家は立ったまま自己紹介をする。
「あの、僕は一体……外はどうなって……」
「我々は、山を越えてすぐのところで、偵察任務にあたっていた」
勝家は冷静に語る。その顔は威圧感と責任感に固まっていた。
「だが奴らは……オーガロイドの群れは既に山を登っていたんだ……登れるようになったんだ……町への侵入を防ぐダムゲートも越えてな。我々はそれを確認し町に引き返した」
そう語る勝家の顔は危機感に溢れていた。
「早いところで数時間後、残りの群れも襲ってくるだろう。ゲートの復旧に現在拡性兵を当てているが、またいつ襲いかかってくるか分からない」
「そんな……!」
「奴らが来る前に、君に聞きたいことがある」
やはり何かしら聞かれるのか──わかっていたが、日々乃は緊張した。
「まず君は、我々の監視下であることを認識してもらおう」
それを聞いて、日々乃は自分が何をして、どんな扱いを受けるか、改めて認識した。
「質問が山ほどある、あの機体はなんなんだ? 何故君に動かせる?」勝家は次々に問う。
「何にせよ、君は許可証もなく拡性兵を動かした。立派な違反である。処罰もありえる」
日々乃は困惑してきた。何故、自分がこのようなことになったかと、自分に問いたかった。
「だがもしかしたら、君の機体の力があれば……ん、何だ?」
勝家は、無線機からの連絡を開いた。
「……了解した」
無線機をしまい、勝家は部屋を出た。
(なんなんだよ……何が起こってるんだよ……)
日々乃はぼんやりした。
「あの白いロボット……あれが僕のロボット……」
「それは本当か!?」
日々乃はびくっとして驚いたが、勝家の大きな反応は通信に向けられたものだった。
《はい、連絡によれば、ゲート復旧中に予想外の数のオーガロイドが機体を破壊し侵入。現在この町に向かって近づき、残り数分程度で襲来してきます!》
倉庫内、パイロットや隊員がせわしなく動く。
「先の戦いで1体が損壊、先ほどの襲撃で2機が大破、動かせる10式は3体だけです!」
整備士からの状態報告に、勝家は険しい表情になった。
「群れの総数は?」
「観測によれば、5体とのことです」
「……ギリギリってところか」
パイロットスーツに身を包み、勝家は倉庫内に響き渡る声で指令する。
「動ける隊員は出撃せよ! これから我々は、防衛任務にあたる!」
「お前ら、ここに行くんだ!!」
ボックスカーを走らせ、明と望、子供たち一行は煌露日駐屯地の沿岸格納庫の中へと入った。明のボックスカーを見て、入口で停める者は駐屯地にはいない。
「家族には連絡した! もしかしたら、ここで会えるかもしれない、じっと我慢するんだぞ!」
明に頭を撫でられ、子供たちは「ウン!」と元気に返事した。
「日々乃くんもここに……」
望は握り拳を胸に置き、不安げに駐屯地の施設周りを見わたした。
「……さっきの拡性兵も、日々乃が操縦してたの?」
「らしいな。俺も詳しい経緯は分からねぇ……目を離したばかりにな」
明は顎ひげをさすり、格納庫をじっと見る。
「望ちゃん、あの拡性兵は知らねぇかい?」
「ううん、第二世代にさかのぼっても、知ってる機体には当てはまらない」
望はこめかみを指でおさえ、記憶を探す。
「じゃあアレは、幻の第一世代か……それとも、新世代か」
明は煙草を吸いたくなった。考えることが多すぎて、さすがの明でも疲弊しそうになる。
『ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
──トンネル上のゲート、その鉄製の扉を突き破り……オーガロイドが咆哮をあげて侵入した。ゲートの扉は三重に設置され頑丈だ、しかしオーガロイドはそれを上回るパワーへと進化していた。人類の技術の上を、オーガロイドはパワーアップしていた。
身体中に撃ち込まれた60ミリ銃弾を弾き、引きずった10式の腕を放り投げ、彼らは蹂躙を開始する。
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