一話〔目覚める力〕3
日々乃はロボットの背中を、装甲の隙間や出っ張りに足や指を引っ掻けて登る。ロボットの背中は開いており、日々乃はその中に入る。
内部は空洞であり、レバーが内部の両脇から生えており、、前面に真っ黒なモニターが張っていた。
先ほどから日々乃は唯一つ、あることを考えていた。
(これに乗れば……皆を救えるんじゃないか)
それ以外を考えず、なんの迷いもなく日々乃は内部に入り、ふぅっと一息で覚悟を決め、レバーを握った。
その直後、日々乃の背中、首筋に後ろから起き上がった装置が当てられ、、背面を通じて彼の意識に様々な情報を流し込んだ。
「あああぐぐががががが!!」
大量の情報と共に、蒼白になりそうな日々乃の意識に表示される文章があった。
〈機体識別名──登録願ウ〉
日々乃の意識に表示され続ける文章、それと共に日々乃は幼年期を思い出す。
──日々乃くんは、将来何になるの?──
──おれは……つよいヒーローになって、オーガロイドからみんなを守る!!──
少女からの問いに、チビだった日々乃は立ち上がって答えた。
──そうだ、おれはなってやる!! おれはヒーローだ! なまえは……──
「──……アースセイヴァぁぁぁぁぁぁぁ!!」
日々乃は、かつて自分に名付けたヒーローネームを叫んだ。
〈機体識別名“アースセイヴァ―”、登録完了〉
コクピットのモニターが光り、目にカメラアイを通した光景が投影される。
倉庫のシステムが動き出し、日々乃の意識と繋がる。
「出撃認証確認…出撃開始」
目の前に足場が見える。カメラアイの光景が、足場を写す。
アースセイヴァーは足を踏み出す。よろめきながらも、目の前のリフトに着く。
アースセイヴァーは床を強く殴る。室内が一斉に稼働し、リフトが勢いよく上がった。
全身に重力がかかる。リフトが上昇する中、“アースセイヴァ―”と名付けられた機体の全身が光りだす。
「リアクター、ジェネレーターガントレット充填開始!!」
全身にエネルギーがいきわたり、アースセイヴァーは動き始める。
天井のシャッターが開く。リフトが最上階へ到達した瞬間、アースセイヴァーは高く跳躍した。足場が崩れ、格納庫は山の大地に沈んだ。
跳び上がったアースセイヴァ―は、眼下の煙を見る。
「行くぞ、“アースセイヴァ―“!!」
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
機体のジェネレータが咆哮するがごとく動き出し、上空からアースセイヴァーは山に
着地した。地に着いた拳が周辺の木や土を砂埃と共に吹き飛ばした。
望はその時、たまたま子供たちと会い、遊びに付きあっているところだった。
突如、警報と共にオーガロイドが町を突っ切ってきた。建物を倒して破壊し、浜辺まで駆けてその場で止まった。
「なんで……今日は沈黙日のハズ…なんでよ……」
「おねぇちゃああん!」
恐怖に押し潰され、子供たちはすすり泣き始める。
「皆、大丈夫……大丈夫だから……」
望と子どもたちは港の倉庫内に隠れていた。
外ではオーガロイドが徘徊している。かつて本土を襲った恐怖が望に呼びさまされる。
「お姉ちゃん……おねえちゃあん……う、ひぐっ」
抱きかかえている子供たちがむせび泣く。
「大丈夫、静かにしてれば……」
突然、倉庫の天井が剥がされた。
引き剥がした倉庫を投げ捨て、オーガロイドが望たちを見下ろす。その目に生気はなく、しかし目線の先には望たちを据えていた。
「「「お姉ぇぇちゃぁぁぁん!!」」」
「助けて日々乃!!」
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
ドゴォォォォォォン!
その瞬間、凄まじい咆哮が鳴り、オーガロイドはその場から吹っ飛んだ。
代わりに別の影が地面に映る。望は顔を上げ、そして驚いた。
拳を構えた巨人が、そこにはいた。白と銀の装甲色、全身の至る所にあるスリットが緑色に輝いている。怪物を海岸まで殴り飛ばした拳は特に激しく光り、スラスターと思われる箇所からも放出されていた。
『グルルゥゥゥ……』
咆哮にも似た音をたて、ロボットはオーガロイドに向き直る。オーガロイドはよろめきながらも地面から起き上がった。顔半分は抉れており、かなりのダメージを負ったことがうかがえる。
怪獣の前に構えるロボットを、子供たちと望は足元から眺めていた。ロボットは異様なまでに大柄な上半身から蒸気を発し、太陽に照らされ巨大な背中と剛腕の体躯が威風堂々と佇んでいる。
「拡性兵…なの?」
これほどにでかいロボットは、拡性兵に違いない。
だけど、一体どこの機体なの? 自衛隊の機体? パイロットは? 望の知識に当てはまる拡性兵ではなかった。
「けど……だけど……」
ただ一つ、わかっていることがある。
「私たちを……守ってくれている……?」
「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
残った片目でロボットを見たオーガロイドは怒りの唸り声をあげた。
その様子を、ロボットの中にいる少年――日々乃は目の前のモニターで見つめた。
「お前が町を……」
日々乃は思い出す、かつて暮らした町の日々、それが壊され、大事な人が目の前から消えたその時の光景を。
「この町を破壊したのかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ありったけの慟哭を、日々乃は大きく叫んだ。
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
日々乃の叫びと共に、アースセイヴァ―の両腕が唸り、開いた拳の球状の光が暴れるように高速回転する。
『ウガァァァァァァァァァァァァ!!』
オーガロイドが雄叫びを上げながら突進をしかけてきた。
「標的認証!! うおおおおおおおおおお!!」
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
その瞬間、日々乃とアースセイヴァ―も、オーガロイドに向かって走る。
巨大な歩行音が鳴り響き、あたりを揺らす。
望は、子供たちと一緒に、オーガロイドと謎の拡性兵のバトルファイトを眺めていた。
両者の距離が一瞬で狭まり。
グシャァァァァァァァァァァ!!
互いにその身をぶつけ合う。
「グハッ!」
コクピット内部の日々乃の身体が痛み出す。
「ダメージ軽傷、効かねぇなァァァ!」
一瞬ノックアウトされかけた日々乃。しかしアースセイヴァ―は反撃の拳を向ける。
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
アースセイヴァ―の拳がオーガロイドの顔にめりこむ。
グシャァァァァァァァァ!!
残った顔半分が拳により潰され、ツノが折れた。
『ウガァァァァァァァァァァ!……』
「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『グルルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
アースセイヴァーはオーガロイドの首を掴み、動けなくなったオーガロイドの心臓に拳を叩き込んだ。
オーガロイドはよろめき倒れ、そして自らを突き動かすエネルギーの放出場所を失い、爆発四散した。
望と子どもたちは、漂うその光景をただ眺めていた。
『グルルゥゥゥ……』
「ろぼっとだ~」
「たすけてくれた~!」
巨人の格好良さに興奮する子供たちを背に、アースセイヴァ―は街を見た。
煙と破壊音、まだ街でオーガロイドが暴れている。
アースセイヴァ―は街へと振り向き、一瞬にしてその場を走り去る。
その光景を見て、歓声をあげるこどもたちの近く、望は呟いた。
「拡性兵…街を救って……」
港の近くのビル建築地帯で、オーガロイドは暴れていた。
あたりの建物を踏む潰し砕き潰す。オーガロイドの通った一帯は廃墟でしかなかった。
『ウガァァァァァァァァァァァ!!』
唸り声を上げるその怪獣は、まるで破壊という行為に興奮しているようであった。
ふと、オーガロイドは後ろを振り向いた。
『グルルゥゥゥゥゥ…』
白と銀の装甲の巨人がオーガロイドに向かっていた。両腕が大きく開き、そこからは緑色の光が迸っていた。
その光に、オーガロイドはとてつもない敵意を感じ取ったのだろうか、振り向いた瞬間にアースセイヴァ―に向かって突進していった。
『ウガァァァァァァァァァァァァァァ!』
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
機体と怪獣がぶつかりあい、アースセイヴァ―は後ろの四階建てビルに押し倒された。アースセイヴァ―の背中に、砕けたガラスの破片が降り注ぎ、両腕のリアクターに反射し翠と白に煌めく。
抑えられ動けないアースセイヴァ―に、オーガロイドは爪を振り上げる。
「うぉらぁぁぁぁぁ! 退きやがれぇぇぇぇぇぇ!」
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
大きく咆哮するとともに、アースセイヴァ―の全身から光が放出され、オーガロイドを押し返す。その勢いでオーガロイドは後ろへ吹き飛ばされた。
オーガロイドを吹っ飛ばした直後、日々乃の脳裏に響くものがあった。
「ガントレット、展開!」
『グルルゥゥゥゥゥゥ!』
日々乃の言葉に呼応し、アースセイヴァ―の構えた拳周辺とガントレットが開き、中から粒子が放出される。
『ウガァァァ…』
体勢を立て直し着地したオーガロイドは、目の前のアースセイヴァ―を見据える。 その顔面に、拳が飛んでくる。
『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
放出された粒子をブースターにして、アースセイヴァ―はその拳を、オーガロイドに殴りこませる。拳は直撃し、オーガロイドの顔面を破壊し、首から上を吹き飛ばした。
『ウガァァァァァァァァァァァァァ!』
オーガロイドの体にエネルギーが爆発的に流れ、断末魔をあげ爆発四散した。
『グルルゥゥゥ…』
「ハァ…ハァ…ジェネレーターガントレット充填開始…これで全部倒したか」
息切れを起こす日々乃。その全身に操縦時の負荷が重くのしかかる。
「ハァ…ハァ…ウ……皆…護れた…俺の手で……」
緑色の光を放つアースセイヴァ―は、兵士像めいて威圧感を放ちながら立ち尽くす。
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