閑話 たまにはソシャゲも良くない?

一日遅れましたがエイプリルフール企画的な、本編とは関係の無い短編です。どぞ。


――――――


 放課後の教室、僕は道幸と二人で向かい合っていた。

 外のグラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてくるが、しかし僕ら帰宅部には関係のない話。彼らがスポーツで青春を楽しむ間も、僕と道幸はいつものように下らない会話を繰り広げるのだ。


 そんなだから祈祷さんにも告白を断られるんだろうなぁ、なんて心の底では理解しつつも、やはり面倒なものは面倒なのである。助っ人くらいなら構わないが、ゲームの時間を割いてまで身体を動かしたいとは思えなかった。


 僕は道幸と雑な会話のキャッチボールを交わしながら、携帯で浮かべたホログラムに触れる。


「ねぇ道幸、『ウマ少女』っていうゲーム知ってる?」


「なんだそれ」


 僕の問いかけに、道幸は小さく首を傾げた。


 僕が口にした『ウマ少女』とは、今流行りの育成ゲームである。名前くらいなら大抵の人は知っていると思っていたのだが、残念なことに道幸はその大抵に含まれなかったらしい。

 LoSすらつい最近までプレイしていなかった道幸なので、不思議じゃないと言えばそれまでだが、友人としてもう少し流行に敏感になって欲しいなとは思う。


「リアルの馬を擬人化したキャラが出てくるゲームだよ。簡単に言えば、ウマの女の子を育成しながらレースに挑戦していく感じ」


「馬を、擬人化?……エグイな日本。何食ったらそんな発想に至るんだ」


「言いたいことは凄く分かる」


 とはいえ、既にありとあらゆるものが擬人化されたこの国で、今さら馬の美少女化程度に口出すのもアホらしい。


「……で、それ面白いのか?」


「凄く面白いよ。なんていうか、本気で走ってる女の子にめっちゃ惹かれる。可愛いんだけど、頑張ってる姿がカッコイイんだよね」


「本気で走ってる女の子に惹かれる……?俺には分かんねぇわ。女の子は走ったりしないでお淑やかにしてる方が魅力的だと思うぞ」


「なんでさ。見てもいないのにそうやって決めつけるのは――」


「背後に迫り来る瞳を思い出すんだよ」


「――ごめん、なんでもない」


 そりゃそうだよな。走ってる隠奏さん怖いもんな。傍目に見てるだけでも呆然とさせられるのに、まして当事者ともなればトラウマにもなるよそれは。


「それに最近、瞳の嫉妬の範囲が二次元にまで伸びたんだぜ。お陰でギャルゲーすらも出来ねぇよ」


「うぇぇぇ……。それはもう付き合った方が楽でしょ……」


「別に付き合ったところでギャルゲーが許される訳でもないけどな」


「そりゃそうだけどさぁ……」


 いくら何でも女難が過ぎるだろお前。隠奏さんに失礼だから口にはしないけど。

 

 なんて風に隠奏さんの姿を脳裏に思い浮かべていると、ふと教室の自動ドアの開く音が聞こえてきた。自動ドアが勝手に開くなど有り得ないので、当然そこには誰かが立っている筈だが、はて一体何者だろう。


 僕が振り向くと、そこには――


「あれ、まだ教室に居たんですね二人とも」


「…………お疲れ」


――祈祷さんと隠奏さんの、二人の姿があった。


 つい数瞬前まで隠奏さんの話題が上がっていたためにギクリとするが、どうやら彼女には聞こえてはいなかったようで安心する。


「こんな時間まで何をしていたんです?」


「いや別に何ってこともないんだけどね。二人でゲームの話してた」


「ゲームですか」


「うん。『ウマ少女』ってゲームなんだけど知ってる?」


「あ、それなら私もやってますよ。すっかりハマっちゃって、もう百万以上課k……いえなんでもないです」


 え、なに?今何言おうとしたの?


「まぁいいや。やってるならフレンドになろうよ」


「……え?あ、その。もうフレンド枠がいっぱいでして。ごめんなさい」


「そっか、なら仕方ないね」


 ウマ少女のフレンド枠はあまり多くないのだ。友達の多い祈祷さんのことだから、きっとあっという間に「……廃課金だと星乃さんにバレる訳には」フレンド枠の上限まで使ってしまったに違いない。


「…………星乃。私もやってる」


 ふと横から、隠奏さんの声が聞こえてきた。隠奏さんがウマ少女をプレイしているとは驚きだが、しかし考えてみればVtuberやら何かとサブカルに精通しているのが隠奏瞳という少女。

 彼女の印象とは違うが納得は出来た。


「隠奏さんはフレンド枠空いてる?」


「…………うん。これID」


 そう言うと隠奏さんは、ホログラムの画面を僕に向けてくる。相変わらず言葉足らずではあるが、恐らく登録して良いという意味なのだろう。僕は自分の目の前に浮くウマ少女の画面に、その数字を打ち込んでいった。

 すると現れたのは一つのハイレベルアカウント。数十万円の課金では到底届かないだろう、異次元のアカウントがそこにはあった。


「……この『アイ』っていうアカウントで合ってる?」


「…………合ってる」


「幾らぶち込んだの?」


「…………秘密」


 やはり隠奏さんは、欲しい物の為なら手段を選ばないタイプか。道幸の日常を見ているだけでも分かる事実だが。

 僕は強力過ぎるフレンドを味方にしたことを嬉しく思うと同時、道幸の方を見て話しかける。


「道幸も『ウマ少女』やってみれば?隠奏さんもやってるみたいだし。良いよね?隠奏さん」


「…………うん。道幸とゲームしたい」


「ん。まぁそこまで言うなら」


 そう言うと道幸は、隠奏さんの言葉に大人しく従った。


 たまに忘れそうにはなるが、道幸は隠奏さんのことが好きなのだ。隠奏さんのお願いは大抵聞くし、隠奏さんを傷つけるような行為もしない。

 ただ単純に、檻越しでの結婚生活を受け入れられないだけの話であって。


「うし、インストール終わったぞ。それでどうすりゃ良いんだ?」


「…………教えてあげる」


 道幸と隠奏さんの二人は、仲良さげに一つの画面に手を伸ばす。この光景だけを見ればただのお似合いカップルなのに、なんとも色々勿体ない。

 邪魔するもの申し訳ないと思い、僕と祈祷さんは二人から離れることにした。


「折角ですし、私たちもやります?『ウマ少女』」


「そうだね。……といってもソロゲーだし、一緒にやることなんて無いけど」


「喋りながら同じゲームをするだけでもそれなりに楽しいですよ」


「まぁねー」


 という訳で、僕は祈祷さんと並んで座ることにした。

 チラリと覗いた祈祷さんの画面に、全ての限凸SSRサポートカードが並んでいたのきっと気のせいだろう。


『…………道幸。このキャラ見て』


『ん?おお、確かに瞳と雰囲気が似てるな。可愛いじゃねぇか』


『…………ふふっ。じゃあ推しはこの子で良い?』


『いや、推しはこっちの金髪の子だな。俺は巨乳の方が好きだ』


『…………は?』


『え?』


 で、道幸が地雷を踏み抜いたのも気のせいだよね。


『いや待て瞳ギブだギブ。まずは俺の首に回した腕を離してくれ。二次元と三次元の好みは違うんだよ、お前だって分かるだろ?俺が金髪巨乳ほんわか系お姉さんが好きなのは紛れもない事実だが、リアルと妄想はちゃんと区別してがぼぼぼぼぼぼぼぼぼ』


 あーあー死体が増えちゃった。


「あ、見てください星乃さん。星三ウマ少女が引けました」


 祈祷さんも慣れすぎなんだよな。

 僕は道幸の死体から目を逸らし、笑顔を浮かべる祈祷さんに顔を向ける。


「おめでと。というかなんで早速ガチャ?」


「……あ、つい癖で。ログインの流れでいつの間にか」


「え、いつも癖でガチャ回してんの?」


「い、いえ無料石です間違えました。フレンドガチャと勘違いして引いてしまっただけですホントに」


 なんだよもうビックリしたなぁ。てっきり祈祷さんが廃課金者なのかと思ってしまったじゃないか。


「そ、そんなことより!ほ、星乃さんの推しはどの娘ですか?」


「僕の推し?この銀髪の娘かなぁ」


「へぇ、どの辺が好きなんです?」


「なんとなくイノリちゃんに似てない?」


「ん”ん”……ッ」


「祈祷さん?」


「いえ、別に何も?全く、星乃さんは本当にイノリさんのことが好きなんですね」


「うん大好き」


「ん”ん”……ッ!」


 その後、三人で仲良くプレイするウマ少女はとても楽しかったです。




☆彡 ☆彡 ☆彡




「カナエさん、馬の『ビーストスキン』着てみません?」

「ん?いいよ」(着衣効果音)

「んぐふぅ……(鼻血)」

「イノリちゃん?」




――――――――


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